退き佐久間   作:ヘッツァー

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お久しぶりです、bear中尉です。
忙しくて更新のタイミングを見失い、これもう誰も見てねーんじゃねーの?とか思ってましたが、たとえ誰も見てなくてもボチボチ続けていこうかなと思い直し投稿です。
楽しんでいただければ幸いです。


第四十八話

「あぁ⁉︎姫様を見失っただぁ⁉︎さっさと探してこいこの馬鹿野郎が!姫様が戦になると熱くなって先頭を行くのは分かってたろうが急げ!」

「や、野郎じゃないぞ!」

「急げってんだよ馬鹿が!佐久間隊前進!前線を支えるぞ!段蔵、長秀と可成の隊にも声掛けて本隊を下げさせろ!」

「了解。」

「信辰、盛長、信栄、行くぞ!」

「「「応!」」」

 

前略、お元気ですか、佐久間信盛です。

私は今、濃尾平野にて今川軍と交戦しています。

先鋒の柴田馬鹿家が姫様を見失うとかいう意味の分からない失態を犯したお陰で絶賛突撃中です。

俺は『岩通』を抜刀し、自らを鼓舞するように叫ぶ。

 

「行くぜ『岩通』、たっぷり飲ませたらぁ!」

『愉しみにしておるぞ〜。』

「やる気無さすぎじゃねぇのかぁオラァ!」

 

そう叫びながら今川の足軽の一人に『岩通』を突き出す。

『岩通』は足軽の胴を容易く貫き、足軽は声もなく絶命した。

足軽の体から突き出た刀身は、血に濡れる事なく日光に照らされ輝いていた。

血や肉が全く付いていないのだ。

しかし、この乱戦の最中、その異常に気付く者は居なかった。

そしてそれが、命取りとなる。

 

「あらよっとおっ!」

 

信盛はまるでなんの抵抗も無いかのように刀を横薙ぎに払う。

それだけで、刀の範囲にいた足軽たちは手を、足を、胴を、腹を、首をあたかも障子紙のように斬り裂かれて行く。

 

「やるじゃん信盛!負けてらんないね!」

「あんま無理すんなよ、信辰。」

「はっ、そりゃ要らない心配だよ!」

 

喋りながら二人は今川の足軽を斬り刻み続ける。

信辰は信盛の『岩通』のように妖刀を持っているわけではない。

しかし、それでも信辰の戦果は信盛のそれに劣らない。

なぜならば。

 

「・・・良くやるぜ、妖刀も無しにさ。全く、すげぇなあ『明鏡止水』。まだ会得できないのが悲しいぜ。」

「そりゃもう、お前は雑念が多すぎるんだろうさ。」

「仕方ないだろ、『記憶辿り』もあるんだから。木刀握ると義父(オヤジ)が出てきてそれどころじゃねえんだよ。」

 

いやもう『記憶巡り』はこういう時キツイな。

最初見た時は涙腺が崩壊いたしたぜ。

例えそれが幻でもな。

いや、幻だからこそか。

 

「信盛、そろそろ無駄口を叩く暇もなくなりそうだよ。」

「はっ、上等だ、それならこっちが目立って敵を引き付けられてるってことだからね!」

 

二人は、争うように今川軍へと深く斬り込んでいく。

味方の制止を振り切って。

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「いやー、我ながら良く生きてるよなぁ。なぁ信辰?」

「全くだな、ははははは!」

「いや、笑い事じゃないんだけど・・・。流石に私も仕えた直後に主が討死とか勘弁願いたいんだが。」

「あいててててて痛い痛い痛い切り傷なんだからもう少し優しく巻いてくれよ段蔵!」

「全く、なってないなぁ信盛は。その痛い程度の痛い傷で喚くなんて痛い痛い痛いごめんもっとふんわりと巻いてくれ盛長に信栄。」

「「「怪我人は黙ってろ。」」」

 

いつもの通り漫才を繰り広げながら傷の手当をしてもらう。

盛長と信栄は立ち回りが上手いのだろう、あまり傷を負ってない。

段蔵に至っては実戦経験は俺より上なので心配するのもおこがましいというものだ。

俺と信辰?

ボロッボロですよええ。

先頭二騎先駆けとかやるもんじゃねえな。

つーか下手したら死んでるわ、下手しなくても死んでるわ。

我ながらよく生きてたもんだ。

 

「で?我らが姫様はどうしたんだよ、何の為に俺らは今川軍と戦わされてんだ?なんかどっか行ったみてえだが。なんか知ってる信辰?」

「なんでもこの近辺の村にある迷信を変えるんだとさ。『おじゃが池』だっけか、それに龍神が住んでるとか、そんな感じのとこだ。」

「はえー、そりゃけったいなこって。じゃあ俺らは骨折り損のくたびれ儲けってとこか、そういう風習ってのはそうそう変わらねえからな。それこそその池の水全部無くすとかな。」

「はははっ、それが出来たら苦労は無いな。よし、ではそろそろ撤収しよう、信盛。」

 

信秀様が亡くなってからというもの、姫様はそういう行動を予告なしに起こすようになってきた。

そういうとこが謀反を起こされやすい原因の一つだと思うのだがなぁ・・・。

 

「あいよ。佐久間隊!よく頑張ってくれた、引き上げるぞ!」

 

ざくざくと、兵たちが撤退準備を始めた。

あぁ、疲れた。

ていうか、当主と筆頭家老が居なくなって大丈夫だったのかな?

いやまぁ、それくらい今川勢が強敵というのもあるんだけどね。

 

しばらくして、清洲城。

 

「はーっはっはっはっ!清洲城はこのぼく、織田信勝が占拠したぁ!おとなしく投降しろぉ!」

 

その時、俺は初めて自分の額に青筋が浮いたのを自覚した。

仕事増やしやがって・・・。

 

「・・・盛長、信栄。兵を撤退させて。清洲城は俺と信辰と段蔵で取り返して来るから。」

「だ、大丈夫なんですか?」

「そうだぜオヤジ。無理すんなって。」

「気にすんな、勝家のいない信勝親衛隊とか戦力にすらならんよ。ったくもぉ、ほら行くよぉ。」

「「おぉー。」」

 

結局、この時の信勝の反乱は信盛の手によって隠蔽され、信奈の耳に届くことはなかった。


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