退き佐久間   作:ヘッツァー

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コメント欄に「すぐ書き終わる」と書き込んでから早二週間。
本当にすみません、難産でした。
やー、強敵でしたね(白目)



第四十六話

「・・・まずいなこれ、相当深く刺されてるぞ。」

「そりゃそうだ、忍びに刺されたんだからな。」

 

段蔵は息こそ荒いが、冷静さを失ってはいなかった。

そのお陰で俺もある程度落ち着いて段蔵を手当てしていた。

だが、段蔵の次の言葉が俺を再び混乱させた。

 

「こうなったら仕方無いな。信盛、私の腕を斬り落とせ。」

「・・・・・・あ?」

「だから、腕を斬り落とせ。あ、肩は斬るなよ?」

「・・・良いのか?」

「良いのかも何も、これだけ深く刺されていたらどのみち動かん。腐るだけ、邪魔なだけだ。それに、何も右腕を失う訳じゃない。」

 

ん?何言ってんだこいつ?

右腕を斬り落とすのに失わない?

頭イカれたんじゃないの?

 

「まぁ見せた方が早いな、だから早く斬り落とせ。あ、斬った後止血も忘れずにな。血が足りなくなっては死んでしまう。」

 

そう言うと段蔵は服の袖を噛み締める。

 

「注文多いな・・・じゃ、行くぞ、良いか?本当に良いのか?腕斬れちゃうぞ?血いっぱい出るよ?マジで大丈夫?」

「良いから早くしろ。」

「あっはい、行くぞ、一、二の三!」

 

俺は段蔵の腕目掛けて『岩通』を振り下ろす。

今しがた血を吸ったばかりの『岩通』は、まるで豆腐を斬るように段蔵の腕を斬り落とした。

 

「ッ〜〜!はっ、綺麗に斬ったな。ありがたい、これなら直ぐにくっ付く(・・・・・・・)・・・!」

「そのまま袖噛んでじっとしてろ、じきに痛み出すぞ。」

 

俺は手早く段蔵の腕を止血する。

その間段蔵は大人しく止血しているのを眺めていた。

まるで慣れているかのように。

 

「じゃあ次は、そこで死んでる忍びの右腕を私の右腕と同じ位置で斬ってくれ。」

「お、おう。お前、気は確かか?」

「右腕を斬り落とされて倒れそうだよ、早く。」

「分かったよ。」

 

ごめんな、お前に恨みは特に何も無いんだけれど。

終わったら必ず弔うから許してくれ。

そう念じてから転がっていた忍びの死体から右腕を斬り取る。

 

「ほれ、右腕だ。」

「ああ、すまないな。では、有り難く頂戴しよう、『忍法・命結び』」

 

段蔵は、自らの腕の断面に死んだ忍びの腕をぴたりとくっ付ける。

その行為をしばらくじっと見ていると、ある事に気付いた。

死んだ忍びの腕が、小刻みに震えだしたのだ。

まるで、中で何か蠢いているかのように。

そして、びくんと一度大きく跳ねたかと思えば、土気色だった肌が徐々に段蔵の肌の色に近付いていき、そして。

まるで段蔵の腕のように動き出した。

 

「・・・ふう、後は『骨肉細工』で形を整えれば完成だが、今は少し体力が足りんな、断面の大きさだけ揃えよう。」

「・・・・・・お前、そんな事出来たんだな。」

 

開いた口が塞がらないとはまさにこの事だった。

まぁこいつなら再生能力とか持っていても不思議ではないけど。

しかし、想定するのと実際にこの目で見るのは大きく違うものだ。

 

「気持ち悪いだろ?これではまるで物の怪だ。こんな・・・」

「便利な能力だな。」

 

顔を伏せ、自虐的になる段蔵に構う事なく俺はその腕に布を巻く。

体力が回復するまでは完全にくっ付く保証は無さそうだし。

さて、あの忍びを簡単に弔ってから撤退しますか。

段蔵は忍びを弔う俺をじとっと睨んでいたが、はぁ、とため息をつくと笑いかけてきた。

 

「全くお前は人の話を聞かん奴だな。まぁしかし、ありがとう。」

「・・・おう。」

 

あー可愛いなぁこいつ。

やっベートキメキかけたわ。

いやもう認めるわデレたわ、俺が。

・・・ん?

 

「おぉ、終わったみてえだな。」

 

辺りに誰かが「勝ったぞ」と叫ぶ声が響き渡る。

てか、戦場からはかなり離れてるはずだが、ここまで届くとはどんな声量してやがんだ。

アナウンサーとかになった方がいいんでない?

 

「さて、お前はこれからどうする?」

 

ぐったりとした段蔵をおんぶしながら俺らは戦場から離れる。

夜戦だからこそ見つかったら戦闘は避けられんだろうし、何より怖いしな。

あと、何気にここ敵しかいないし。

イエーイ四面楚歌イエーイ☆

はぁ・・・。

 

「・・・しばらく寝たい。」

「まぁ良いけどさ、俺はそろそろ休暇の超過がエライ事になってるから早めに帰りたい所なんだよ。」

 

あーヤバいなー、それ考えると帰りたくねえなぁ。

仕事かー、仕事せんといかんかー。

仕事って働き続けてるうちは良いけど、一旦休むとすっごいやる気削がれるよね。

あれ?俺だけ?そう・・・。

信辰と可成が仕事を全て終わらせている事を願おう。

 

「んー、じゃあお前に雇って貰うか。」

「・・・んー?」

 

え?佐久間信盛が加藤段蔵を雇う?

そんな事をしたら歴史とかが狂っちまうよなぁ?

でも、もう既に北条に雇われてるし、良いのか?

味方にチート一人引き込む様なもんだろこれ。

 

「段蔵、本当に俺で良いのか?」

「逆に聞くけど、お前以外に頼れる様な奴がいると思うか?」

「悲しいこと言うなよ、泣きそうになるだろ。」

 

交友関係狭すぎワロタ。

てか元殺害対象が一番信頼できる奴とかもう分かんねえな。

でもまぁいいかな、面白そうだし。

何よりほっとくワケにもいかんしなぁ。

 

「じゃ、そういう事でよろしく頼むよ、私は寝る。」

「おいそれ主に対する態度じゃなくね?」

 

はぁ、と溜息を吐きつつ疲れ切った体に鞭を打つ。

早い所帰らないと信辰に怒られそうだ。

あー、ご機嫌取りになんかお土産でも買うかな。

 

「私達、完全に蚊帳の外だね。」

「・・・そうみてぇだな。」

 

信盛に追従する二人の忍びのぼやきは、鬨の声にかき消されていった。


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