退き佐久間   作:ヘッツァー

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お気に入り230件越えたってよ、びっくりだよね!
本当にありがとうございます。
そして、前にも書いたかも知れませんが、河越夜戦の史実をズタズタに引き裂いていくスタイルで書いてしまっています。
申し訳ありませんがご了承下さい。



第四十話

武蔵国・河越城。

後北条氏の所領であるこの城は現在、空前絶後の危機に陥っていた。

この城を包囲する山内・扇谷上杉氏及び足利氏連合軍総勢およそ八万。

対して、城内は北条綱成率いるおよそ三千。

勝敗は、火を見るよりも明らかであった。

それに、今川氏も出陣の動きを見せている。

まさに絶体絶命、まさに四面楚歌を体現したような状況。

その籠城戦の真っ只中、河越城城主の姫武将にして北条家当主の北条氏康の義妹である北条綱成はというと。

 

「面倒だ。」

 

ぽつりと、そう呟いていた。

その時、一人の忍びが北条綱成の前に現れる。

 

「・・・綱成様。毎度申しておりますが、その口癖は止めた方がよろしいかと。」

「嫌だね面倒くさい。で、何の用だ猪助。」

「・・・もうじき、援軍がご到着なされます。予定では、本日の夜にでも到着なさるかと。ですからそれまで、ヤケを起こさぬようにと姫様から伝令でございます。」

「成る程成る程、姉様の命なら仕方ないね。それにしても、流石は姉様だ、丁度そろそろ突撃しようかと思っていたところだったんだよ。」

 

貴方がものすごく分かりやすいからですよ、と思いながら風魔衆・二曲輪猪助はやれやれと溜め息をつく。

 

「・・・やはり伝令を部下に任せず正解でした。もし間に合っておらず貴方が戦死するような事があれば北条家は滅亡していたでしょうから。」

「確かに、姉様と私は相思相愛だからな。よし、猪助。気分が高揚してきた全軍に出撃を通達しろ、姉様には指一本触れさせん。」

「・・・貴方馬鹿なんですか?」

 

思わず本音を口にしてしまった事を猪助は後悔するが、綱成はそれを気にするどころかますますヒートアップしていた。

 

「うんうん、姉様馬鹿か、悪くない響きだ。この北条綱成、姉様の為に散れるのなら本望だよ、いざ、参ろうか。」

「・・・はぁ。」

 

もうやだこの脳筋気狂同性愛者。

今だけ毒で身動き取れなくしておこうか、そう猪助が決心しかけた時、もう一人の忍びが現れる。

 

「・・・頭領、お疲れ様です。間に合われたのですね、流石です。」

「・・・・・・師匠?なっ、なんでここに?」

 

そう、風魔衆現頭領、加藤段蔵改め風魔小太郎がそこにいた。

先程まで目を輝かせていた綱成はガタガタと震えながら怯える。

 

「いや、こんな時に留守にしたんだ、間に合ってないよ。まぁそれだから全力で戻ってきたんだけどね。こいつが。」

 

良く見れば、段蔵は白目をむいた男を背負っていた。

私の友人だ、と段蔵は言いながらその男を下ろす。

 

「・・・・・・なぜそのご友人は白目をむいているのですか?」

 

先程までの威勢はどこへやら、恐る恐るといった風に綱成が問いかける。

猪助はなんとなく察しているようでその男に向かって手を合わせていた。

 

「これから戦だというのに、徒らに体力を消耗するのは馬鹿のする事だ。そんな訳で、こいつにおんぶに抱っこで運んでもらっていたのさ。まぁ流石に包囲網を気付かれないよう突破してここまで来たのは私がやったけどね。」

「・・・哀れな友人ですね。ところで頭領、現在の状況は把握しておられますか?」

「ここに来る前に風魔衆の一人に聞いた。中々に難儀な戦じゃないか。しかし、家臣団が一丸となれば勝てん戦じゃない。なのに、綱成、お前は何先走って死のうとしてんだ?あ?」

「ひぃ⁉︎い、いえ、決してそのような事は!」

「さて、次の稽古は何時にしようか、綱成♪」

「ひぃぃぃ!」

 

段蔵の方がはるかに新参者のはずなのだが、何故かしっかりと尻に敷かれてしまっている綱成であった。

その光景に少なからずスカッとした猪助であったが、表情には出さず淡々と話を進めていく。

 

「・・・しかし、この包囲網を打ち崩さなければ、その次の稽古もありませんよ。奴らは北条家をこの戦いで潰す気なのですから。和平交渉も行いましたが、全て拒まれています。」

「そうだね。こうなれば全力で少しでも多くの敵を討ち滅ぼすしかない。全ては北条家の、いや、姫様の為にって事だ。」

「師匠が姉様への愛に目覚めた⁉︎し、師匠といえど姉様は渡さないよ!」

 

二人の忍びは、綱成を無視して話を続ける。

 

「余り使いたくないんだけど、アレを使うしかないな。猪助、すまないが後始末を頼めないか?」

「・・・貴方に刃を向けなくてはならないのは気が進みませんね。」

「すまないな、猪助。そして、綱成、そういう事だから私が先陣を切る。私がアレを使っている間は、絶対に打って出るな。分かったな?」

「・・・承知いたしました。」

「ア、アレって何ですか師匠⁉︎」

 

一人話について行けない綱成が問いかけると、段蔵はいたずらっぽく笑いながら答える。

 

「アレっていうのはそうだな、私の忍法の中でも切り札として数えているうちのひとつだ。能力は、まぁ、見てのお楽しみだ。くれぐれも発動中は近寄るな。この術は加減出来ないからな。」

「・・・死ぬのは怖くありませんが、あの術で殺されるのだけは勘弁願いたいですね。」

「どんな術なんだよそれ〜、気になるじゃないか〜。」

「その術を使った後の私は使い物にならないから、その時に綱成、お前が皆を率いて斬り込め。お前には切り札の一つを授けたんだ、期待しているぞ。」

 

まぁまさか血を打ち込んで少し鍛えただけで本当に発現するとは思ってなかったけどね。

と、段蔵は心の中でそう愚痴る。

 

「分っかりました!つい五日前に八幡大菩薩様へ戦勝祈願も済ませましたし、大活躍間違い無いですよ!」

「・・・声が大きいですね、敵に聞かれてなければ良いんですけど。」

「姫様はそろそろご到着なされるのだろう?ならば早めに片をつけよう、援軍と足並みをそろえて出撃だ。」

 

ここに、天下に名高い『河越夜戦』が始まろうとしていた。

気絶している主人公を残して。




こいつ気絶すんの多くね。

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