退き佐久間   作:ヘッツァー

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第四話

さて、織田信秀殿にも会って晴れて織田家の武将になることが決まった訳ですが、実は今回古渡城に向かった目的はそれだけじゃなかったんだ。

いや、別に隠してた訳じゃ無いんだけどさ。

俺、結婚するかもしんない。

その相手というのも、何を隠そう佐久間信辰ちゃんなのだった!

いやー、養子にするにはこれが一番手っ取り早いし婿も見つかるしで信晴さんは最初から結婚させるつもりだったらしいけど、信辰ちゃんがせめて自分に一騎打ちで勝てる程強くないと嫌だって言ったらしいのよ。

だから初日から信晴さんは俺を鍛えてたって訳。

ちなみに俺がこれを知ったのはほんの一週間前だった。

初めて全力の手合わせで信辰ちゃんに勝てた時からなんとなく雰囲気変わったなーと思って信晴さんを問い詰めたらあっさり白状しやがった。

聞いてませんけどー!初耳ですけどー!

古渡城に着いたら着いたで後の柴田勝家、丹羽長秀に会ってすっかり忘れてたけど、家が近付いて来るに従って思い出して来ちゃった。

 

「はぁ〜、これがマリッジブルーって奴か〜・・・。」

 

あれ?マタニティブルーだっけ?どっちでもいいか。

 

「む?何か言ったか?」

「いや・・・。」

 

心なしか信晴さんがちょっと嬉しそうに見える。

ああ、着いちゃった・・・。

仕方無い、覚悟を決めて・・・

そう思って部屋の襖に手を掛けた途端、急に俺の第六感が騒ぎ出した。

まるで、開けたらもう後戻りは出来ないぞ、と訴える様に。

 

 

「よし、信晴さん、今日は野宿にしよう。たまには野宿もオツなもんだよ。」

「何を言っとるんじゃ・・・。」

 

流石に呆れたのか、やれやれと言った風に信晴さんがため息をつく。

 

「まったく、これから嫁ぐと決めた男が情けないのぅ。」

 

いや、男が嫁いでる時点で情けないと思うんだが・・・。偏見かな。

 

「はぁ〜・・・ええい、ままよ!」

 

許せ、俺の第六感。

俺は勢い良く襖を開けた。すると・・・。

 

「おっ、おかえり!」

ピシャッ

 

俺は無言で襖を閉めた。

恐らく人生で一番ビックリしたかもしんない。

だって、だってあのボーイッシュを通り越してガサツな信辰ちゃんだよ⁉︎

あの娘がまさかの白無垢姿でお出迎えとは・・・。

心臓止まるかと思った。

もしかしてこれが、ギャップ萌えか!

 

「何をしておるのか・・・。ほれ、さっさと入れ。」

「ちょっ、まっ、いやん!」

 

信晴さんに押し込まれて改めて城へ入るとそこには・・・

 

「あれ⁉︎何で家臣団の皆さんが⁉︎」

 

そこには何と信辰ちゃんと共に織田家の家臣がほぼ勢ぞろいしていた。

 

「やっと主役の登場か!」

「こっちはもう宴を始めてるぜ!」

「ほれ、早くこっちへ来いよ!」

 

俺が戸惑っていると、後ろから信晴さんじゃない声がかけられた。ん?この声は・・・。

 

「おや、やっとるねぇ。」

「って、殿⁉︎」

 

何と、織田信秀その人だった。

 

「な、何で殿が?」

「ん?何でって、そりゃあ・・・。」

 

信秀さんはさも当たり前の様にこう言った。

 

「家臣団は皆己の家族だからな。家族の祝言はやはり盛大に祝わなければな!」

 

俺はビックリして声も出なかった。

なんて暖かい人だ、と思った。

そう言うと信秀さんは皆の輪の中に入って行った。

まるで、本当の家族の様に。

それを俺が眺めていると、信辰ちゃんが話しかけて来た。

 

「殿は相変わらずね、まぁそこが面白いのだけど。」

「いつもああなんだ・・・。」

「それはそうと、さっきのは何よ?」

「え?さっきの?」

「ほら、扉をいきなり閉めたじゃない。もしかして、そんなに似合ってないの・・・?」

「え⁉︎違う違う、いつもと違う格好で驚いただけだよ。

その、すごい可愛いよ。」

 

何これ⁉︎すっごい恥ずかしい!

すると、顔を赤らめつつ嬉しそうに、

 

「あ、そ、そう、ありがとう。」

 

と言った。

何これ⁉︎すっごい可愛い!

 

「さぁ、皆待ち兼ねてるわよ!」

 

そして俺の手を取って皆の元へ向う。

 

「おっ、早速熱いねぇ!」

「次は接吻かぁオイ!」

「酒はねぇのか!まだ飲み足りねぇや!」

 

最後の奴何の目的で来てるのか知ってるのか?

そんなオッサン共の助平?トークを適当に返しつつ、

隣の信辰ちゃんに小声で聞いてみた。

 

「ねぇ、信辰ちゃん。」

「ん?」

「君は旦那が俺で本当に良かったのかい?」

「なんだ?全く、本当に女々しい奴だなぁ。私は自分の旦那は自分より強い奴が良い。確かにお前は最初は目も当てられなかったが、今では私にも勝っている。旦那として不服は無い。なにより、お前の事は好いているよ。」

「そうか・・・。」

「まぁそう心配するな、本当に嫌になったらお前をぶっ倒して自力で離縁するさ。」

「はは、信辰ちゃんらしいな。」

 

是非平和的な行動を取ってほしい。

 

そうして二人が仲睦まじく喋る背中を、佐久間信晴は微笑ましそうに眺めていた。

 

「全く、婿候補を全員ぶっ倒した時はどうなるかと思ったが、いらぬ心配だった様じゃな。まさか自ら見つけてくるとはのぅ。我が娘はやりおるわ。」

 

突然、信晴は咳き込む。口を押さえた袖には少しばかりの血が付いていた。

 

(こうしていつまでも我が娘の幸せな姿を眺めていたいが、どうやらそれは叶わぬ様じゃな。せめて・・・)

 

そこで、視線は信盛に移る。

 

(せめて、信盛を鍛えられる所まで鍛えてからくたばりたい。信盛なら・・・)

 

そして信晴は、微笑みながらこう思った。

 

(信盛なら、信辰を任せられる。)

 

それは、まるで己の死期を悟った様な、哀しい微笑みだった。

 

 

 


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