退き佐久間   作:ヘッツァー

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年内の更新はもうあれだけだと言ったな?
あれは嘘だ。
いやー、久々の更新です。
お待たせしましたごめんなさい。
え?待ってない?そんなこと言わんといて!
次は来年から少しずつ更新していきたいです!
それではみなさん、良いお年を!
追記
UA31000突破しました、嬉しい限りであります。
忙しい間、それが励みとなりました。(笑)
改めまして、ありがとうございます!



第三十八話

「うぅ・・・怖えなぁここ。」

「せ、せやろ?」

 

俺たちはびくびくしながら階段を降りてゆく。

いやさ、仕方無いと思うのよ?

雰囲気満点大笑いなんだぜここ。

笑えねえよ。

 

「おっ、でもそろそろ着くじゃん。扉はどこだっ、と。そういや俺鳥目だった、見えないから先行って段蔵。」

「やだ。」

 

ふざけてそう言うと、ボッ、と一人でに壁に取り付けられていたロウソクの様な何かに火が付き、扉の位置がより鮮明に浮かび上がる。

・・・怖ぇ怖えよ。

ちゃんと入る前にレポート書かないと。

しばらく深呼吸した後、俺は扉を少しずつ開ける。

 

「失礼しまーす。大将やってる?」

 

視界に入ってきたのは、マジで数百年生きてんじゃねえかってお婆さんが大きな鍋でグツグツと得体の知れない何かを煮込む、といういかにも魔女やってますって感じの光景。

俺は、次の言葉を紡ぐ前に扉を閉めていた。

そして、落ち着き払った様子で段蔵に向き直る。

 

「なっ、何してんだよあれはマジか⁉︎」

 

訂正、落ち着きなど無かった。

 

「・・・なんか来る事をあらかじめ知っていた様な感じだな。わざとらしいし。」

「えっ、それって、後をつけられてた?」

 

くっ、ゴルゴへの道はまだ遠いか・・・!

てかあのばあさんサービス精神旺盛だな。

 

「いや、まぁこの周りに式神でも遣わせてたんじゃないか?」

「なるほど、陰陽師らしいな。ますます怖いぜ。」

「ヒヒヒ。いつまで扉の前で話しているつもりじゃ?早く入らんかい。」

「「ッ⁉︎」」

 

バッ、と二人揃って振り返れば、そこには先程扉の向こうに居たはずの、居なければならないはずの老婆が居た。

怖えよ人にやられて嫌な事はやっちゃダメって教わらなかったの?

 

「ヒヒヒ。その顔を見るにわざわざ出て来た甲斐があったようじゃのう。ほれほれ、はよう入らんかい。」

 

おまけにイタズラ好きだと来たもんだ。

面倒臭い奴しかいないのかこの時代は。

 

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「で、何の用じゃ、お前。わしを殺しに来たか?ヒヒヒ。」

 

物騒すぎるだろ、どんな時代だよ。

あっ、戦国時代だった。

俺は慌てて首を横に振りつつ答える。

 

「いっ、いやいや滅相も「お主には聞いておらぬ。」

 

・・・・・・そっすか。

こういう風な勘違いって大抵めちゃくちゃ恥ずかしいんだよ。

今体感してるんだけどね!

で、さっき呼ばれた『お前』ってのは、段蔵の事だろうか。

仮にも親代わりだったのに、名前を呼んであげないのだろうか。

すると、さっきまで俯いていた段蔵がぼそりと反論する。

 

「・・・・・・もう『お前』じゃない。私には『加藤段蔵』っていう名前がある。」

「わしにとって『お前』はいつまでたっても『お前』じゃよ。それとも『お前』以外の誰が『お前』じゃと言うんじゃ。」

 

何言ってんだこのばーさん。

段蔵の頭がこんがらがるからやめて差し上げろ。

 

「・・・・・・?信盛、今おばばが言った事って、どゆこと?」

「・・・・・・知るかよ。」

 

ほれみろ、言わんこっちゃない。

 

「ふん、まあええわい。で、用件はなんじゃ、何をしにこんなところまで来た?」

「実はですね、俺に「お主には聞いておらぬ。」

 

ぶった斬ったろかこのババア。

俺を羽交い締めにしながら段蔵が答える。

 

「信盛、抑えて抑えて。おばば、実は折り入って頼みがあるんだ。」

「ほぉ、お前がわしに、か。言うだけ言ってみな。」

「信盛を、人体改造の試験体にしてくれないか?」

 

Wie bitte?

 

「あっちょっと待ってそれなんか怖い!もう少し言い方あったんじゃねえかなそれ!」

「よっしばっちこいじゃ!ほれお主こちらへ来い!」

「ばっちこいって何だばっちこいって!ってうおお!ババア力強え!負けるかよぉオラァ!」

「抵抗するだけ無駄だぞー、行ってこーい。」

「待て段蔵お前自分が試験体じゃねえからって安心してやがるな助けろいや助けてぇ!アッー!」

 

大の男がヨボヨボの婆さんに抵抗虚しく引きずられて行くことに、俺はかなり傷付いた。

 

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「さて、では始めるとするかな。」

「オイちょっと待てなんで俺縛られてるんだ?なぁ、知ってるか?最近の医療現場にはインフォームドコンセントっていうのがあってだな・・・。」

「さて、どれから試すかえ?」

「聞けよ。そしてなんで複数やられる前提なんだよ。」

 

もう生きて帰れたらそれで良いかもしれん。

まぁ、そうしたら有給取った意味も段蔵に貸しを作った意味も無くなるから御免だが。

俺の話もどこ吹く風で、婆さんは薬品棚を漁り続ける。

 

「えー、『爪が異様に伸び、鋼鉄並みの硬さになる』薬とかどうじゃ。」

「カッコいいけど不便そう。却下で。」

「『頭が刀のように変形する』薬。」

「それにどんな利点があんだよ、却下。」

「『右腕が刀のように変形する』薬。」

「なんで右腕なら良いと思ったんだよ。却下。」

「『左腕が刀のように変形する』薬。」

「もういいよ!なんだよその刀に変形するシリーズ!」

 

刀大好きクラブかよ。

そんな奴いたら間違いなく名誉会長になれるぜ。

 

「『土の中に飲まず食わずで一週間くらい潜っていられるようになる』薬。」

「凄いけどさ、忍びの段蔵ならともかく、俺は要らないかな。」

「ええい、注文が多いねぇ。後もうこれくらいじゃな。」

 

とぷんっ、と瓶の中の薬が流動する。

どうしよう、色が物凄く怪しい。

 

「そ、それは、どんな能力なんですか?」

「これは、『物の記憶を読み解けるようになる』薬、いわゆる探魂法じゃな。」

「ん!それ便利そうだな、それにしてくれ!」

「ふん、手のひらを返したように、全くどうして不躾なやつじゃな。じゃが、英傑とは案外そんなものかもしれんのぅ。ヒヒヒ。ほれ、口を開けい、あーんじゃ、あーん。」

 

なんだこれは、地獄か。

超絶開けたくねえ。

 

「ほーれ、一気に行くぞい、それ。」

「ゴポッガボッがっぁぁぁ・・・!」

 

非情にも薬品が俺の口の中へ押し込まれる。

そして訪れる、未知の刺激。

この薬品・・・死ぬほど不味い!

なんか薬草ぶち込み過ぎたのか独特すぎる香りが鼻を突き抜ける。

 

「ゲホッゴホッガハッ、こっ、殺す気かこの野郎、ぐっ⁉︎」

 

頭が痛い、それも猛烈に。

次第にその痛みは広がっていく。

まるで麻酔無しで全身を切り刻まれているようだ。

 

「あっぐぁぁぁぁぐっぎぃぃ、あうおいひおうあああ⁉︎」

「・・・縛っていなかったら暴れまわって大変だったねぇ。おや、お前、入ってきたのか。」

「そりゃ叫び声が聞こえりゃあな!のっ、信盛⁉︎大丈夫なのかおばば⁉︎信盛っ、信盛!」

 

痛みで薄れゆく意識の中で、俺の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。

次第に視界が暗転して、俺は意識を手放した。


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