退き佐久間   作:ヘッツァー

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更新遅くなりました。
なかなか時間が取れずにこうなってしまいました。
まぁ殆ど艦これのSSをグダグダ消さずに書いてるからですね、はい。
書いてはいるのですが、主人公の名前が決まらない・・・。
この名前どうですかってご意見があれば是非教えて下さい(ゲス顔)
追記
UA25000突破しました、ありがとうございます!


第三十五話

「はぁ、はぁ、も、もうだめ、だめです。」

「情けないなぁ、まだ少ししか走ってないぞ?」

「少しって、意味を、よく考えてから、口にしてくれ。それにしても、よく走れるな、お前。俺の荷物も持っているのにさ。おまけに速いし。」

「お前がひ弱なだけだよ。」

 

絶対違うと断言できるぞ。

結構走ったし。

 

「はぁ、仕方無いなぁ。どれ、口を開けてみろ。」

「なんだよ、同情するなら銭をくれ!」

「銭貰ったら走れるのか?」

 

ふっ、愚問だな、段蔵よ。

 

「無理。」

「だと思ったよ。ほれ、これを食え。」

 

段蔵が何かの粒のようなものを俺に渡してくる。

異様に真っ黒な、小さな球状のそれは、形容しがたい独特の香りを醸し出している。

 

「段蔵、これ何?」

「私特製の兵糧丸だ。腹も減らなくなるし、ある程度なら疲労を無視できる。」

「おぉ、いや、凄いけど絶対これ副作用辛いやつだろ?」

「そんな物を移動に使って、目的地に着いた時動けなかったら意味が無いだろう?」

「それもそうだな。」

 

ごもっともです。

 

「それとも、そんなやつがいいか?なら・・・。」

「いやいや段蔵さん。意味無いって言ったばかりやん?その兵糧丸を下さい。」

 

俺が兵糧丸を受け取ろうと手を伸ばすと、ヒョイと段蔵がそれを躱す。

そして、ニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「これをやる代わりにお前は何をしてくれるの?」

 

・・・ほう、そうきましたか。

しかし、こんな時の為に用意していた物があるのだよ段蔵くん。

 

「じゃあ、これをやろう。」

 

段蔵に細長い紙切れを手渡す。

 

「何だこれは?」

「それは、肩叩き券と言ってだな・・・。」

「何となく察したよ。取り敢えず殴って良い?」

「あっ、ごめんなさい、調子に乗りました。」

「これは一応貰っておくが、他には無いのか?」

 

一応と言いながらしっかり懐に入れるあたり、喜んでもらえたようだな。

他に、ねぇ。

 

「じゃあ、貸し一つ、って事で。」

「よし来た。それで行こう。」

 

ピンッ、と段蔵が兵糧丸を指で弾いてくる。

飛んでくる黒い粒。

俺は慌てつつも何とかそれを掴む。

危うく掴みそこねて落とすところだった。

 

「おまっ、落としたらどうすんだ!見つからないぞこんな小さい粒!」

「そしたら貸しが二つになるだけさ。」

「てめぇ・・・。まぁ良いさ、ありがとよ。」

 

礼を言いながら俺は例の兵糧丸を飲み込む。

すると、みるみる元気が湧いてくるのが実感できた。

 

「おおっ!これすげえ、すげえぞ段蔵!」

「せやろ?しかも弱いが麻酔効果もあるから痛みとかも感じなくなるよ。」

「すっごいなそれ!じゃあ行こうぜ、播磨が俺たちを待ってるぜ!」

「あ、ああ。そうだな、急ごうか。(それにしてもこんなに効いたかなぁ・・・?)」

 

信盛が走り出したのを見て、段蔵も後を追う。

しかし、この日の内に播磨に着く事はなかった。

 

その日の夕方にて。

 

「・・・段蔵、ごめん。」

「・・・いや、こちらこそ、ごめん。」

 

俺達は互いに謝りあっていた。

というのも、走っていた最中にいきなり俺がぶっ倒れたからである。

その後は身体の至る所が極度の筋肉痛に襲われた様に痛く、足などは力を込めると込めた所から攣っていく始末。

 

原因は、段蔵が渡す兵糧丸を間違えたの所為で必要以上に痛覚が麻痺し、限界を超えて肉体を酷使した為であった。

それに加え、今までに無い身体の調子の良さに信盛が無理をしてしまっていた。

その為、信盛は少し休んだ後、段蔵の肩を借りて何とか歩いている感じだった。

 

「それにしても、ふふっ。あんなに面白く倒れなくても、くく

く・・・。」

「段蔵さん?なんで笑ってんの?てか、半分くらいはお前の所為なんだぜ?額とかいろんなところ擦りむいて痛いしさぁ。」

「だ、だって実害ないし・・・、ぷぷっ。顔面から行くか普通、ぷっ、あはは!」

 

遂に笑いを堪える事すらしなくなったな。

こいつゲスい。

ゲロ以下のにおいがプンプンするぜぇー!

いや、実際こいつの匂い嗅いだ事は無いけどな。

でもまぁこれだけ走ったんだ、汗の匂いくらいだろ。

よし、仕返しだ。

 

そっと段蔵の首筋に鼻を近付ける。

そして。

 

「うひゃあ!ちょ、ちょっと、何してるの!」

「何って、匂いを嗅いでみた。」

「死ねッ!」

「ちょっとまっ、ぐはぁ!」

 

メンコの様に思いっきり地面に叩きつけられる。

 

「うあぁ、ひ、酷いぞ段蔵・・・。」

「う、うるさい!こんな時に匂いを嗅ぐ奴が悪いだろう!汗かいて臭いかもしれないに・・・!」

 

地面にうつ伏せになりながら、感想を述べる。

 

「あぁ、その事だけど、お前全然汗かいてないのな。何で?めっちゃいい匂いだったわ。」

「・・・・・・。」

「ちょっ、無言で背中蹴るのやめてそこはぎゃあ!」

 

照れ隠しなのだろうか。

筋肉痛の所だから痛気持ちいい。

そして新たな性癖に目覚めそう。

マゾ的なやつに。

 

「そんな事を言う奴の背中はこれか?」

「いや、そうだけど背中に当たる奴初めてだぁぁぁ・・・!あ、もうちょい左。そうそうそこそこ。」

「んっ、ここか。確かにここは他に比べて固いなっておい!なに自然に凝りをほぐさせてるんだお前は⁉︎」

「でも踏む時草履脱いでた辺りお前やっぱ優しいわ。」

「そ、そうか?ありがと・・・。」

 

そしてすぐ機嫌が直る。

これはかなり長所だと思うんだよね。

段蔵が慌てて話を逸らしにかかる。

これ以上いじってボロ雑巾にされるのも本意ではないので、黙って従う事にした。

 

「こ、これじゃあ今日中には間に合わないなぁ。んー、行けると思ったんだけど。」

「段蔵、それは最初から無理って分かりきっていた事じゃないか。取り敢えず、どうする?」

「旅籠に泊まるか野宿かどっちかだな。どっちが良い?」

「お布団を強く希望するであります隊長殿!」

「甘ったれるな!と仲間になら言っているところだが、今日はゆっくり休んだ方が良いな。旅籠にしよう。」

「やった!ところで、銭はどっちが出す?」

 

すると段蔵は意外そうに、こう返してきた。

 

「・・・お前は、女に出させるのか?」

「・・・・・・それは、卑怯だぜ段蔵。」


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