退き佐久間   作:ヘッツァー

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今回で会議まで終わらせるつもりでした。
どうしてこうなった・・・。
この小説絶対テンポ遅いよな・・・。


第三十話

「ああ、首痛え、寝違えた。いてて・・・。」

昨日あの後、信辰と抱き合ったまま寝てしまったらしい。

しかも最悪な事にほぼ同時に。

お陰で寝違えて首を動かせない。

無理すれば動かせなくもないが、やっぱ痛い。

くっそ、寝違いってどうやって治すんだろ?

逆向きに寝るとか?

今は右に寝違えているから、左か。

よし、二度寝してこよう。

 

のそのそと俺は動き出す。

俺たちの戦いはこれからだ・・・。

 

「よう、おはよう信盛!いい朝だな!」

「・・・・・・何でお前そんなに元気なんだよ?」

 

そこにはいかにも元気はつらつといった感じの信辰が立っていた。

昨日あれだけ酔ってたのに、ケロリとしてやがる。

ウ◯ンの力でも飲んでいたのだろうか。

え、でもこの時のターメリックって高くない?

確か、香辛料の一種だった様な希ガス。

ちなみに俺は飲んでません。

信辰の持ってた酒が強すぎて匂いだけでダメでした。

あんな酒を飲んで平気とかどうかしてる。

 

「どうした?なんで右を向いてるの?」

「寝違えてるんだよ。てか、お前はあんな不自然な格好だったのになんともないのか?」

「まぁね〜。伊達に寝違わない様に鍛錬を積んじゃいないよ!」

「・・・何の鍛錬だよ、それ。恐らく人生でそこまで必要じゃないぜ。」

 

でもあったらあったで便利そう。

その鍛錬にかける時間は間違いなく無駄だけどな。

 

「寝違いの事なら、この私にお任せあれ!」

 

言うが早いか、信辰は俺の頭に両手を添えてきた。

両頬のあたり、つまり俺の頭を掴んだ感じだ。

あ、これあかんやつや。

 

「・・・待て。話せばわかる、まずは落ち着け、な?」

「よーし、行くぞー。」

「ねぇ⁉︎絶対それ痛いやつだろ!待って待って心の準備がまだ」

「えい。」

 

クイッ、とあまり抵抗なく頭が正面を向く様に捻られる。

あ、なんだ、痛くねぇじゃん。

案外まともに治せるんだ。

 

そう思った時には、もう手遅れだった。

その日、山崎城には断末魔の叫びが響き渡った。

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「うああ、首痛え・・・。」

「でも、治ってるじゃないか。良かったな!」

「やかましいわ、あんな事は二度と御免だ。」

「ふっ、夫が困っていたら助けるのは、妻の務め!」

「お前それ言えば何でも許されると思ってるのかよ・・・・・・。」

 

かなり危ない思考の持ち主だ。

早くなんとかしないと・・・。

 

「ほら、お前がぶつくさ文句を垂れている間に清洲城へ着いたぞ!」

「説明乙。それじゃあとっとと向かおうか。仕事も溜まってるし。」

「・・・会議が終わらなければ良いのに。」

「それは困る。仕事が溜まっていくからな。」

「そんなに仕事仕事って!私と仕事どっちが好きなの⁉︎」

 

なんか逆ギレされた。解せぬ。

 

「それは・・・。」

「仕事が好きなの⁉︎」

「いや、仕事はやらなきゃ困る人がいるからな。どんな仕事も需要があるから発生しているんだし。それと好きは違うぞ。俺が好きなのはお前だけだ。」

「・・・・・・。」

 

信辰はいきなり顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

首痛めても知らんぞ?

それきり、ずっと俯いてしまった。

ふふ、面白いな、これ。

たまにこうして不意打ちしていこう。

 

「・・・・・・痴話喧嘩は他所でやってください。零点。」

「・・・全く、うっとおしい。」

「むぅ、なんか腹立つな。」

「あ、どーも。だいたい集まってるね。」

 

丹羽長秀、前田犬千代、森可成が苦情を言ってきた。

俺はそれを無視して集まっている人を確認する。

 

「そうですね、今いないのは姫様と謀反の首謀者達位ですね。」

「・・・姫様は、もうすぐ来る。」

「早く終わらねえかな、鍛錬したいんだが。」

「可成、お前は怪我人だろうが。大人しくしてろ。長秀ちゃん、信勝様とかは?」

 

「・・・まぁ、流石に警戒しないわけにはいきませんからね、護送されてきますよ。零点です。」

 

なんだかムスッとした表情で長秀ちゃんが答えてくれた。

 

「何怒ってんの?ははぁ、さては、同期の中で最早君だけが『ちゃん』付けから抜け出せてないから距離を置かれてるみたいで嫌だとか?」

「(・・・なんかこんな時だけ勘が良いからムカつくんですよね、零点です。)」

 

と、いっても俺が恥ずかしいからあまり気は乗らないんだけどね。

 

「全くもう、そ、そんな事ある訳無いじゃないですか。零点です。」

「そうかぁ、なぁ、信辰に犬千代、それじゃ何でいきなり不機嫌になったと思う?」

「そうだなぁ・・・、うーん。」

「・・・どさくさに紛れて私の『ちゃん』が取れた。でも、嬉しい。また少し、仲良くなれたみたいで。」

「俺はやっぱ『ちゃん』だと思うぜ!」

「あ、可成には聞いてないわ。」

「なんだとコラァ!なんで俺だけ聞かねえんだよ!おかしいだろうが!」

 

言うが早いか、可成は鋭い下段蹴りを放つ。

しかし、そこは俺も跳んで躱す。

 

「おっと馬鹿め!怪我人の蹴りが当たるか!」

「ふっ、甘いのはお前の方だな!」

「がはぁ!な、何ぃ⁉︎」

 

なっ、蹴りは距離を詰めるための陽動で、本命は肘、だと⁉︎

その場で可成が蹴りの力を殺さずに回転する。

そのまま突き出された肘が俺の鳩尾にクリーンヒットする。

これ下手したら死ぬやつじゃねぇか。

 

「ぐふっ、う、腕を上げたな、可成。」

「あ、あああ肘にビリって来た・・・。」

 

ドサリ、と二人とも崩れ落ちる。

くっそ、どうやって仕返ししてやろうか。

そう思っていた時、不意に可成の頭が後ろから何者かによって鷲掴みにされる。

 

見上げれば、これまで見たことが無い程冷たい笑みを浮かべる信辰が、いや。

雪女もしくは修羅が、そこには立っていた。

恐らく背後には「ゴゴゴゴゴ・・・」という効果音が鳴り響いているに違いない。

怖くて目線を合わせられないよぅ・・・。

 

「さて、可成。人の夫に手を出したんだ。・・・・・・覚悟は良いな?」

「あっ、ちょっ、痛っ、あ、あれは毎回やってるツッコミみたいなもんで・・・。」

「ほほう、毎回やってるのか。・・・・・・生きて帰れると思うなよ。」

「ひっ・・・!の、信盛、助けっ」

 

俺はひたすら無関係を装う為、死んだフリをしていた。

ズルズルと何かを引きずる音と可成の必死に助けを求める声が聞こえるが、俺にはどうする事もできない。

やがて、「は、薄情者〜ッ!」っと聞こえたと思うと、襖か何かががピシャリと閉じる音が聞こえた。

そっと目を開けると、長秀と犬千代までがたがた震えていた。

姫様と信勝様、林さんが来るまでついに一言も喋る事はなかった。

 

それ以来、森可成の姿を見た者はいない。


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