退き佐久間   作:ヘッツァー

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第三話

朝起きると、早速信晴さんに道場に呼び出された。

寝ぼけ眼を擦りながら向かうと、そこには道着姿の信晴さんがいた。

 

「よし、信盛よ。今日から武芸の稽古に入るぞ。」

「うん、あのさ、今何時だと思ってんの?」

 

まだ太陽もちょっとしか出てねぇし。

ほんのり明るいくらいだし。

 

「何を言うか。お主はこの位の時間から稽古を始めんと、信辰を抜いて当主にはなれんぞ?」

 

する気だったんかい。

 

「いや、信晴さん、それはいくらなんでも・・・。」

「ふむ、では言い方を変えよう。お主はこの世を憂う気持ちは無いのか?」

「は?」

 

唐突に何を言ってるんですかこのジイサン。

 

「この日ノ本という国は腐っておる。戦乱にもはや終わりは見えず、民衆、更には女子供まで戦場へ出る始末。こんな事は間違っておる。お主はそうは思わんのか?」

「それは・・・。」

 

何て先進的な考えを持つ人だ。この人は憂いているんだ。本気で、この戦国乱世の世を。仕方ない。本気の意見には、本気の答えで返すしか無いじゃないか。

 

「思うさ。思わない訳がないじゃないか。でも、怖いんだよ。俺は戦が怖いんだ。確かに、誰かが断ち切らなきゃこの戦乱の世が終わらないっては分かってるんだ。けどさ、怖いものは怖いんだよ。」

「だから鍛えるのじゃよ。自分の意見を通すために。自らの目的を達成するために。何より、大切な者を守るためには、兎にも角にも強くあるしかないのじゃよ。」

「でも、俺が」

 

強くなれるだろうか、そう聞こうとした所で信晴さんの言葉に遮られた。

 

「やってみないことには何も分からないじゃろう?ほれ、そこにある木刀を取れ。始めるぞ。」

 

元気だなぁ。負けてられない。物は試しだ。

 

「よろしくお願いします!」

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それから、朝一と昼間は稽古に打ち込んだ。

朝の稽古は信晴さんと一対一で教えてもらえるんだが、朝は自主トレを行っている信辰ちゃんが昼間から参加するのでおのずと手合わせになってしまうのだ。

これがどういうことか分かる?

自分より年下の女の子にあろうことか腕っぷしでボコボコにされるんだよ!

それも毎日な!心が折れそうだよ!

信辰ちゃん曰く、「あんた、防御に徹し過ぎて攻撃の好機の見極めがついてないのよねー。」とのこと。

むむ、一筋縄ではいかないか。

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そんな日々が三ヶ月続き、コツも掴んで来てやっと信辰ちゃんと手合わせでたまに勝てる様になってから、俺は初めて信晴さんと共に古渡城に行った。用件は俺の紹介だそうだ。

つーか俺、朝の走り込みと馬に乗る訓練以外じゃあ初めて敷地の外に出るかもしれない。朝は誰もいないもんなー。この時代って朝早い筈なのに。乗馬の訓練の時はわざと人いないとこでやってるし。

 

「着いたぞ、ここが古渡城じゃ。」

 

先頭を行く信晴さんの馬が止まる。

 

「うわぁ〜、緊張する〜、俺服装おかしくないよな?」

 

超不安だよ。

いきなり無礼かまして斬られるとか嫌だよ。

 

「硬くなり過ぎじゃよ。落ち着かんか、うっとおしい。」

「だってよ〜、初めてだからさ。信秀殿に会うのは。」

 

それと、もしかしたら信長に会えるかも知れないと思うと、夜も眠れねえよ!

昨日なんか楽しみ過ぎて寝付けなかったもん!

遠足前の小学生か俺は!

そうしてワクワクしていると、前から以下にも武人という感じのおじさんと十二歳位の女の子がやって来た。歳の割には胸の成長が著しいな。

 

「おや、柴田殿、おはようございます。隣の者は?」

「これはこれは、佐久間殿、おはようございます。これはこの度元服する儂の娘です。本日は殿へ娘の紹介に来た次第で。佐久間殿は何用で?」

「儂も似た様なものだ。此度この者を養子にしたので、その紹介に伺った次第だ。」

「なんと、そうでしたか。ならば、丹羽殿の娘も合わせて三人の武将候補が揃う事になりますな!」

「なんと、丹羽殿の所もか!おや、噂をすれば・・・」

「おや、お二人とも、おはようございます。どうやら目的は皆似た様な事の様ですね。」

 

丹羽殿、と呼ばれた線の細いおじさんもまた、十二歳位の女の子を連れていた。髪につけているリボンがこの時代には珍しさを感じさせる。

 

「ふふ、柴田殿の御息女に佐久間殿が見込んだ男ですか。これは出世争いが白熱しそうですね。」

「全くその通りですな。しかし、勝つのはわたしの娘でしょうが。」

 

始まったな。親ばかりが競い合って子供が置いて行かれる奴が。張り合っても意味無いんだよなー。こういうのは。

などと考えて暇を持て余していると、柴田さんの娘が話しかけて来た。

 

「やぁ、佐久間殿。あたしは柴田勝義の娘、六だ。よろしくな!」

「お、おう。よろしく。」

 

なんか照れ臭いよね、こういうの。

すると六ちゃんは次に丹羽さんの娘に挨拶した。

 

「あたし、六って言うんだ。よろしくな!」

「私は丹羽長政の娘、万千代と申します。こちらこそ、よろしくお願いしますわ。」

 

同年代ということもあってか、すぐに二人は打ち解けていった。うーん、これは将来良いコンビになるかもね。

そして俺はまた暇になった。友達が欲しいよ・・・。

その後、ちゃんと信秀殿に皆で挨拶に行ったよ。

俺や六ちゃん、万千代ちゃんはそう遠くないうちに織田家へ士官出来そうだ。とりあえず一安心だね。

やはりと言うか、吉ちゃんには会えなかった。

まぁ、今は遊びざかりだし、仕方ない。

柴田さんや丹羽さん達と別れた後、俺達は帰路へ着いた。

帰る途中、信晴さんがこう尋ねて来た。

 

「ところで、どっちが好みじゃった?」

 

エロジジィめ!

 


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