退き佐久間   作:ヘッツァー

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6話あたりに信晴さんとお勉強してましたっていう描写を付け足しました。
追記
これから少し忙しくなる為、投稿が遅れるかと思われます。
面目次第もございません。



第二十六話

「はぁ、なんとか負けはしなかったか、な?」

 

俺はそう呟く。無論、キメ顔で。

言うまでも無く、織田信勝の謀反の事である。

今回は信晴さんとの兵法の勉強が活かせた事と、勝家が単細胞生物だったから助かったけど、もし林さんの軍とかも撤退せずに向かってきていたらどうなっていたか分からない。

いや、きっと負けていただろうな。

気になるのは、織田信勝軍が何故ああもすぐに撤退したのか、という点だ。

林さんはどちらかと言えば外交官寄りの人だし、単なる采配ミスだと良いけど。

何か考えでもあったのだろうか。

 

ちなみに敗将の一人である勝家は平手さんに監視してもらってます。

無論、拘束してます。念のため。

結構潔い性格だから切腹とかもさせないようにね。

こんなところで死なれても困る。

ちなみに勝家の兵士達は殆ど姫様の凛々しい姿に心を奪われ、戦意を喪失、症状が酷い奴はこちらに寝返ったりもしている。

大丈夫かこの軍。色んな意味で。

そうじゃない奴は勝家と共に監視してもらっているが、今の所暴動を起こす気配は無い。

潔く負けを認めたのだろう。敵ながら天晴れな根性である。

元は味方なんだけどね。

 

そう考えながら今俺は、医者の所へ向かっている。

理由は二つある。

一つ目は、森可成の容体を見るため。

二つ目は、合流した時姫様に俺の怪我を心配された為だ。

 

あいつ何なん?俺のこと嫌いじゃなかったの?

俺が迎えるなり「あんた大丈夫なの⁉︎」って言われても。

まぁ、勝家との戦闘であいつ無傷なのに俺血まみれだもんな。

お陰で信勝追撃戦はお留守番だし。

俺の代わりに信辰が出撃しているが、心配だ。

怪我とかしなければいいが・・・。

いや、傷はものすごく浅いけどね。

ほら、なんか地面に叩きつけたやつもあったじゃん?

そう、その土とかが当たってたし。地味に痛いし。

傷が浅いのは甲冑のおかげだな。

甲冑自体傷だらけになったけど。

これは修理した方が安いのか、買った方が安いのか。

これは悩むな。

 

・・・マズイな、余計な事ばかり考えてるな。

いや、一箇所訂正。

信辰の事は全くもって余計じゃない。

しかし、それは今置いておこう。

俺は先程から森可成を探していたが、同時に見つからなければいいのにとも思っていた。

一体何がしたいのか、というと謝罪である。

俺の所為で怪我させてしまったようなものだから。しかし。

今から可成に会うのになんて言えば良いのか分からない。

謝りたい。でもそれをうまく表現出来ない。

もう腹括って面と向かって謝るとしよう。

うんそれだ。それしかない。

 

「お、信盛じゃねーか、奇遇だなって、お前怪我大丈夫か⁉︎」

 

重ねて言うが、俺の立てた作戦で怪我させちまってるんだ。

ここは頭下げるのが筋ってもんでしょう。

潔く、キッパリと。漢らしく。

そう、俺は、漢なのだからァ!

いやでも漢じゃないから謝らないってのは違うと思います。

そう、悪いと思ったら即謝らなくては。

かのソクラテスも言っていたじゃないか。

単に生きるのでは無く、良く生きることが大切だと。

でもさぁ、そんなすぐには実行できな

「・・・シカトしてんなよコラァ!」

「痛いッ!・・・お前、怪我大丈夫なのか?」

 

ねぇ、腰はやめよう?腰蹴るの良くない。

後ろを振り返れば、森可成その人がいた。

なんでこんな所にいるんだろう。

まだ心の準備できてないのに。

ふと、可成の右手に視線が移る。

その右手には、痛々しく包帯が巻かれている。

それを見た時に俺は動き出していた。

 

「あ、あのさ、信盛・・・そのぉ」

「可成、すまなかった。」

「・・・・・・えっ?」

 

俺は少しの躊躇いも無くその場へ跪き、可成に向かって額を地面へ押し付けていた。

そう、俗に言う所の土下座である。

 

「本当に済まなかった。許して貰えるとは思っていないが、償えるのなら償いたい。」

「・・・顔を上げろよ。」

「・・・ああ。」

 

俺は言われるがまま、顔を上げた。

 

可成は俺に視線を合わせるかのようにしゃがみ込んでいた。

そして、少し微笑んだかと思うと。

 

俺の顔面を、あろうことか右手で殴った。

ゴスッ、と鈍い音が響きわたる。

 

「「ぐあぁぁ・・・!」」

 

一人は顔面を、一人は右手を押さえながら痛みでのたうち回る男女二人組。

他人から見たら変人の集まりだった。

いや、もうそれは本人達からしても十分変だった。

 

「・・・なぁ、信盛。」

「・・・なんだ?」

「俺は別に、お前を責めている訳では無いんだ。むしろ、命の恩人だと感謝しているんだ。」

「・・・だったら何故殴ったんだよ。」

「そりゃ、散々探し回った恩人が辛気臭いツラで歩いてたら、何でだよって思うだろう。ありがとうとも言いそびれたし。」

「それでも、殴る事無いだろ・・・。」

 

鼻っ柱へし折れたかと思ったわ。

鼻血止まらないし。

 

「あはは、悪い。でも、俺もこんなんなったし痛み分け、って事で頼むよ。」

 

言って、右手をヒラヒラさせる可成。

その手に巻かれた包帯が少しずつ赤く染まってくる。

本人は笑えてるつもりなのだろうか、口元に引きつった笑みを浮かべている。

無理をしているのがバレバレだった。

 

「馬鹿野郎!傷口が開いてるじゃねぇか!」

「俺は馬鹿じゃないし、野郎でもないぞ!」

「ならその『俺』っていう一人称をどうにかしろこの馬鹿!」

「なっ、こ、これは俺の個性なんだよ!これがないと他の奴と区別つかないだろ!」

 

メタ過ぎる。自重しなさい。

てか余裕そうだな。

汗だくになってるくせに。

原因は言わずもがな痛い所為だろう。

早めに連れて行かなくては。

 

「それに関しては心配するな。ちゃんとそれ以外も個性はいっぱいあるだろう。気にし過ぎだ。」

「そ、そうか?例えば?」

「・・・・・・お前、右手がそろそろ危ないな。よし、お前を医者の所まで連れて行ってやろう。」

「何だよー、勿体振らずに教えろよー。」

 

いや、さっきまで負い目感じてた相手に言うのもなんだけど。

・・・・・・うざっ。

俺はその問いをのらりくらりとかわしつつ、無事医者の所までたどり着いた。

なんか物凄く疲れた。

でも、可成が俺の事を恨んでないと知って、少しだけ肩の荷が下りた感じがしていた。


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