退き佐久間   作:ヘッツァー

21 / 49
今回、難産の割にはちょっと意味分かんないかもです。
まあ、今に始まった事ではないですが。
それはそうと、祝・お気に入り80突破ですよ!
ありがとうございます!
まさか70すっ飛ばして80突破の報告だとは。
世の中何が起こるか分からないものですね。
そして、小説の評価になんか色が付きました!
とても嬉しいです!これからも頑張ります!


第二十一話

「はぁ〜、行きたくねぇなぁ〜・・・。」

 

出勤途中にて。

そう俺は呟く。そう、独り言です。

なんか毎回この始まり方な気がする。

俺の頭の悪さが如実に現れてるぜ。

そろそろバリエーションを考えなくてはなぁ。

どうも、織田家『重臣』の佐久間信盛でござる。

前に出世出来なかったと言ったな?あれは嘘だ。

別に手柄が認められた訳では無いが、加納口の戦において予想外に戦死者が多く、繰り上がり的に皆出世している。

例えば丹羽長秀、前田犬千代は姫様付きの小性から直属の家臣に。

柴田勝家は勘十郎様お付きの家臣へ。

俺も重臣へ繰り上がり、同期は皆家臣に仲間入りした。

その中で俺は戦死した人達の仕事の一部を引き継ぎ、仕事量が一気に増えた。

いや、こんなぽっと出の若造に任せんなよ。

とにかく早く部下を登用しないと、処理しきれないよ!

しかしそんな時間はない。仕事は待ってくれない。

なにこのスパイラル。悪循環から抜けられねぇ。

え?信辰?仕事させたら知恵熱で倒れてるなうwww

なにあの脳筋使えねえ。でも可愛いから許す!

ほんの少しお仕事しただけなのにね。

はぁ、なんで戦国時代でブラック企業のサラリーマンみたいな気分を味わう羽目になるんだ・・・。

時代を越えても仕事・仕事・仕事。

恐らく俺を含め日本人は天性の社畜なのだろう。

自分の意思を持たず周りの空気に流されて行くのさ。

そういえば、最近の織田家はあまり空気が良くないな。

なんだか、仲間割れしてるというか、一枚岩ではないというか。

まさかとは思うが、俺がいるからとかではないよな?

そ、そんな馬鹿な。そうなったら俺行かない!

あ、待て。

そしたら仕事も休めるし一石n「信盛、何してるの?」

 

誰だよ!まだモノローグの途中!あと10行くらいはあったのに!

そう心の中で悪態をつきつつ俺が恨めしげに振り返ると、

そこには知恵熱で倒れてるはずの信辰ちゃんの姿があった。

 

「な、なんでここにいるんですか?」

「え?いやだって、仕事でしょう?仕事。」

「は?」

 

どうしたんだ一体?

まさか、知恵熱で脳やられたのか?

おお、信辰よ、死んでしまうとは情けない。

まあ、あの歳で知恵熱ってのも相当情けないけどな。

 

「それはそうだが、熱は大丈夫なの?」

「熱?ああ、すっかり良くなったわ。心配してくれてありがとう。世話を掛けたわね。」

「ん、ああ、本当に心配したぜ。というか、本当に大丈夫か?」

 

何だこれ、照れ臭い。

まるで別人の様な言葉使いになってるけど。

普段ならもっと男らしい。あと5割増し、いや8割増しくらい。

まぁ、これを面と向かって言ったら殴り殺されるがな。

それこそ男らしく。いや、もはや漢だな。

しかし、本当に別人みたいだな。

もしかして、誰かが化けてるとか?

いやいや、そんな訳・・・・・・あ。

それあるわ。むしろそれしかない。

 

「ねぇ、信辰ちゃん。いや・・・」

「何でしょう?急がなければ、遅刻してしまいますが。」

「・・・段蔵。何してんの?」

「・・・・・・あちゃ〜、いつから気付いていたんだ?」

 

そう、信辰ちゃんが急激にイメチェンした訳では無くて、単に加藤段蔵が『骨肉細工』でなりすましていただけだったのだ。

焦ったー、あの信辰ちゃんがおしとやかになる訳ないもんな。

 

「いや、信辰ちゃんと口調が変わり過ぎてたからな。」

「まぁ、寝てる時に参考にさせてもらったから、当たり前か。」

「寝てる間って、お前俺達の城来たのか⁉︎」

「そうだな、その証拠がこの顔だろう。」

 

何てこった、全然気付かなかった。

いくら加藤段蔵が相手とはいえ、情けねぇなぁ、俺。

 

「変装、いや、変身も見破られてしまったし、長居は無用だね。用件を済ませるよ。」

「そうだよ、何しに来たんだお前?」

「まずは、そうだね。」

 

言って信辰もとい段蔵は頭を下げる。

 

「あの後無事に北条家に登用してもらい、つい先日には五代目風魔小太郎を襲名した。これも、お前の情報のお陰だ。ありがとう。」

「・・・いや、お前の努力と才能だろう。気にするなよ。・・・って、え?風魔小太郎って、え?あの風魔衆頭領の?」

「そう、その風魔小太郎だ。それ故に、私の襲名には反対意見もあった、というより家臣団や風魔衆は猛反対だったよ。」

「だろうな。ぽっと出だし、顔や姿形だけ見ればどこにでもいる可愛い町娘だもんな。」

「ま、まあ、大体そんな感じだったよ。けれど・・・。」

「おい、顔真っ赤だぞ?大丈夫か?」

「う、うるさい!ゴホン、けれど、幻術や『骨肉細工』を見せたら私の襲名に異を唱えていた者たちも認めざるを得なかったようだな。いやあ、愉快愉快。」

 

うわぁ、ゲスい笑顔。北条家家臣団の皆さんの心中お察しします。

あれだけのもん見せられてしまえば認めるしかないだろうな。

 

「お前、いい性格してるな。」

「い、いやぁ〜、褒めるなよぉ〜、何も出ないぞぉ〜?」

「いやぁ、褒めてねぇから。」

 

全く、しかし、これはいい報告だ。

加藤段蔵と言えば、上杉謙信と武田信玄の両名から命を狙われて死んでしまうという末路が待っていたからな。

こいつが『加藤段蔵』ではなく『風魔小太郎』になったのなら、その心配も無いだろう。

まぁ、段蔵で反応するあたり、完全に捨て去った訳ではなさそうだけどな。

 

「何はともあれ、元気そうで何よりだぜ、段蔵。いや、小太郎。」

「ふっ、小太郎か、まだ慣れないな。」

「いや、慣れとけよ・・・。じゃあそろそろ俺仕事あるんで行くわ。またな。」

「その前にもう一ついいか?」

「ん?」

「これは私が金目のも・・・ゴホン、もとい、お前の為に集めた情報だかな・・・。」

「おい、今金目の物って言いかけたよな?てか言ったよな?まさかお前その姿で盗賊まがいの事とかやってねぇよな?」

「や、やってる訳がないじゃないか嫌だなぁ〜。」

 

もの凄く怪しい。まあ今は良しとしよう。

 

「で、その集めた情報って?」

「それが実は、な・・・。」

 

段蔵、いや小太郎がいきなり真剣な表情になってその情報を伝えてきた。

 

「お前の主の弟君、織田勘十郎信勝を担ぎ上げて家臣の一部が挙兵の動きを見せている。」

「・・・なんだと?」

「さらに、それに呼応して山口教継が今川家へ寝返ろうとしている。状況としては最悪だな。」

「・・・それはまずいな。それはいつ頃か分かるか?」

「流石にそこまで精密な特定は出来なかったが、早くて今日の夜、遅くて明日だろうな。」

「分かった。クソッ、今すぐ動かせる兵力の確認をいそがなければ・・・。」

「・・・なぁ、信盛。」

「なんだ?俺はこれから反乱軍を迎え撃つ準備をしなくちゃあならんのだが。」

「お前、北条家に来ないか?こんな所にいて死ぬようなら、いっそ私と一緒に来ないか?」

 

小太郎がそう告げる。

それは突然ではあるが、とても魅力的ではあった。

北条家の領国である相模はかなりの強国だ。

領主である北条氏康はかの武田信玄、上杉謙信両名に負けた事がなく、領地に善政を敷き、民からの信頼も厚い。

正直、文句は無い。少し前なら俺はその誘いに乗っているだろう。

しかし、今の俺には姫様を守りたいという想いがある。

それを俺は親父や殿など死んでしまった者達から託されている。

そして何より、この地には信辰ちゃんがいる。

絶対に彼女は守りきる。他の誰でも無い、俺自身が決めた事だった。

だからそれを、裏切る訳にはいかない。

 

「済まない。気持ちは嬉しいが、その誘いには乗れない。」

「・・・そうか。いや、そうでなくてはな。ふっ、流石は私が見込んだ男だ。」

「はっ、いつ見込んでたんだよ。」

「ふっ、では、せいぜい死なぬようにな。」

「何だよ、無視かよ・・・。」

 

小太郎はそれにも答えず立ち去っていく。

その姿を見るうちに思い出したのは、姫様とザビエルの事だった。

もしかするともう会えないかもしれない。

むしろその確率の方が多い。

なら、伝えたい事は今のうちに伝えるべきだろう。

後悔はしたくないから。

 

「小太郎!いや、段蔵!」

「どちらでも構わん。好きな方で呼べ。で、何だ?」

「ありがとな、助かった。恩にきるよ。」

「い、いや、別に私がやりたくてやった事だから・・・。だから、頭を上げて欲しい。だけど、その代わり・・・。」

「その代わり?」

「そ、その・・・もし追われる身とかになったら、私を頼って欲しい。お願いだ。」

「・・・分かった。約束しよう。じゃあ、帰り道気をつけて、な。」

「うん、お前こそ、死ぬなよ。絶対に、な。」

 

「いや、頼るっつってもここから相模って遠くね?」

って言う感情は胸にしまっておく事にしました。まる。

こうして俺たちは別れた。

果たされるかも分からない約束を交わして。

また会える事を願って。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。