でも、話数を増やしていくに連れて面白くなっているかといえばそうでもない現状。
が、頑張ります。
姫様を探して三千里。いや、俺城の周り何周してんだよ。
三千里も探し回ってりゃ流石に見つからないとおかしいわ。
でも、結構歩いたぜ、俺。伊能忠敬に比べたら負けるけどな。
ええい、『里』で考えるからこんがらがるんだ。
そういや『里』って単位は日本と中国じゃあ長さが違うんだよな。
中国で一里は約500mとか、その時代によっては100mない時もあるらしいしな。日本の一里=約4㎞で三千里って考えると途方も無いけど、中国の一里で考えるとそうでもないんだよな。まぁ、長い事に変わりは無いけど。おっと、話が脱線してるよ。
閑話休題。
さて、あと探してないのは遺品整理とかで忙しそうな天守だけど、うーん。もうそこしか無いんだが、気まずいしなぁ。
あれ?でも父親亡くしたばかりの姫様に会うのも気まずくない?
おっとこれはやっちまったか?絶賛やらかしなうか俺?
「あら、信盛殿。どうかされましたか?」
天守に立ち入るか悩んでいると、丹羽長秀に声をかけられた。
信盛はどうする!
たたかう
どうぐ
なかま
→にげる
よし逃げるか。
おっと、デフォルトで逃げの一手だったぜ。逃げるが勝ちってね。
そうだ、こいつ確か姫様の堺旅行に付いて行ってたよな、まぁ小性だから普通かもしれんが。ここは一つ、情報収集と行こうかな。
「なぁ、長秀様。」
「その『様』付け、やめてもらえませんか?気持ち悪くて零点です。で、なんでしょう?」
「ねぇ、絶対『なんでしょう?』の前の俺への否定そんなに要らなかったよね?」
なんで俺の心に傷付けてくるの?てかそんなにキモかったんか、マジか、ええ〜。
「気持ち悪いと言いますか、年上の人に敬称を使われるのはどうもすっきりしなくて零点です。」
「じゃあ今まで通り長秀ちゃんで。」
「あまりとやかく言うつもりはありませんが、なぜ『ちゃん』付けなのですか?」
「いや、名前で呼び捨てとか恥ずかしいだろ?」
「・・・それなら苗字で呼んでみては?」
「いや、それだとなんか距離感じちゃうだろ?」
「・・・・・・。」
長秀ちゃんが一気に『こいつメンドクセェ』って顔になった。
そんな顔しなくても・・・。
「冗談だって。ところでさ、姫様は今回堺へ何しに行ってたの?」
「それは・・・、そうですね、前回居ましたし、あなたにはお話ししましょう。宣教師のザビエル殿は覚えていますか?」
「は?いや、誰?」
「・・・・・・。」
「へい、長秀ちゃん、その刀の柄に伸ばした手を下ろすんだ。はい、冗談です冗談、フランシスコ・ザビエルさんね、覚えていますとも、はい。」
「・・・そのザビエル殿が大明にてお亡くなりになられたとのお便りが今井宗久殿の元へ届いたのです。」
「・・・・・・は?」
あのザビエルさんが?そんな、よりによって今?
いや、故人だって死にたくて死んだわけではないだろうが、いくらなんでも今はタイミング最悪だ。
つまり、姫様は大切な人を二人同時に失った、ということか。
これはまずい。非常にまずい。
「なぁ、その手紙の信憑性は?」
「弥次郎殿が直接届けに来ていたらしいので、確かかと。」
「・・・そうか。」
それだけ確かめると、俺は踵を返して清洲城の天守へ駆け出した。
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天守へ着くと、やはりそこには姫様がいた。
普段の傲慢さは鳴りを潜め、たった一人で静かに涙を流す、どうしようもなく弱り切った少女の姿がそこにはあった。
あの傲慢が服着て歩いてる様な姫様がここまで弱るとは・・・。
「姫様・・・。」
「ッ!の、信盛、何しに来たのよ・・・。」
俺より小さな少女はそれでも気丈に、平静を装う。
辛いはずなのに。悲しいはずなのに。逃げ出したいはずなのに。
今の今まで泣きじゃくっていたはずなのに。
それでも他人の前では凛とあり続ける。
でも。
それじゃダメだろ。
「姫様、あまりご無理はなさらない方が、よろしいかと・・・。」
「ッ!だっ、誰が、無理してなんか、うっ、ひっぐ、うわぁぁぁ・・・!」
次第に表情が崩れていく。ドサリとその場で泣き崩れる。
「なんで⁉︎なんで私は父上とザビエルを失わなければならなかったのよ!なんで神様は私の大切な人ばかり連れて行くの⁉︎私が何をしたっていうのよ⁉︎」
姫様は嗚咽に混ざってそんな言葉を誰に言うでもなく吐き捨てる。
俺はそれを黙って聞いていた。
俺には同情はできても、心の傷を癒す事は出来ないから。
「うぅ、ぐすっ、こんなに辛いのなら、こんなに悲しいのなら、私は、あの二人に、出会いたくなんか」
出会いたくなんか無かった。
姫様がそう言い終える前に俺は姫様の頬を張り飛ばしていた。
バチンと、乾いた音が鳴り響く。
「うっ、なっ、何するのよ!」
「そんな事を言うんじゃない!」
姫様の抗議の声を無視して俺は姫様を怒鳴りつける。これ以上無いくらいの無礼だって事は百も承知だ。今は心の整理がついてないって事も分かってる。でも。それでも。
「出会わなければ良かったなんて、言うなよ!」
「でも!失って傷付くくらいなら最初から・・・」
「違うだろ!そうじゃないだろ!失って悲しくなるって事は!亡くしてから嘆くって事は!何よりそれを!その人を大切に思ってたって事だろうが!」
「・・・分かってるわよそんなことは!」
「なら!尚更そんなこと言うんじゃねぇよ!」
気付くといつの間にか俺も涙を流していた。
姫様に向けた言葉は、同時に俺自身にもにも向けられていた。
なんだ。俺も信晴さんを、失った事を清算出来てなかったんじゃないか。その悲しみから逃げてただけじゃないか。
「その人との思い出を、過ごした時間を、裏切るような事だけは、絶対に言わないであげてください・・・。」
「うぅ、うわぁぁぁぁぁ!」
姫様は泣きながら俺に抱きついてきて、俺は泣きながら子どもをあやすように頭を撫でていた。
愛娘を叩いてしまって申し訳ありません、信秀様。
でも、ここで姫様を見捨てていれば、それこそ草葉の陰で笑い者ですよね。
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ようやく俺と姫様が落ち着いてから、しばらくして。
俺は姫様から説教を頂いておりました。
あの時はついカッとなって引っ叩いてしまったが、落ち着いて考えてみると打ち首でもおかしくない、むしろ打ち首じゃない方がおかしいので、説教で済むのはとてつもなく幸運だった。
ちなみに俺は土下座なう。
なんかさ、俺女子に対して助命嘆願しすぎじゃないかい?
「自分の主人の、しかもこんな可愛い女の子の頬を張り飛ばすなんて、最低ね、最低!」
「面目次第もございません。」
「全く、どんな神経してたらそんな事が出来るのよ、いっぺん死んでみたいのかしら?」
「滅相もございません。」
「あーあ、頬が痛いなぁ?なんでかなぁ?」
「真に申し訳ありませんでした。」
「もう良いわよ。頭を上げて下がりなさい。全くもう・・・。」
「ありがとうございます。それでは、俺はこれで・・・。」
そそくさと退散しようとすると、姫様に声をかけられた。
「信盛、アンタなんか大っ嫌い!」
「はぁ、そうですか・・・。」
物凄く良い笑顔で言うなよ。ギャップ萌えってレベルじゃねぇぞ。
純粋に傷付くわ。
でもまあ、あれだけの事をしてるしなぁ、しょうがない。
むしろ生きてるだけめっけもんじゃあ。
姫様の気が変わらねえうちに帰ろう。うん。
そうして俺は逃げる様に天守を後にした。