退き佐久間   作:ヘッツァー

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更新遅れました。申し訳ありません。
歴史変わってます。
そろそろ信勝の出番かな・・・。
気合!入れて!書きます!

『退き佐久間』のくだりの部分を大幅に修正させて頂きました。


第十九話

信晴さんと別れ、俺は急いで馬を走らせたものの、ついに本陣に合流することは出来なかった。ていうか、ニ〜三回迷った。しかしその行軍中に敵部隊に捕捉されることはなかった。元々後方支援部隊なので、持たされていた物資の中には兵糧もあって飢えることは無かった。幸運な事に落ち武者狩りにも会わなかった。俺たちの部隊はほぼどころか完璧無傷で帰還することが出来たのだ。とてもツイてる。普通ならその撤退戦の手腕を大いに買われ、出世頭へ!って展開だったかもしれない。言い過ぎかな。

 

でも、そうはならなかった。なるはずがなかったんだ。

 

何故なら、肝心の本陣がほぼ壊滅状態で帰って来たからだ。

帰還した兵士はわずか十数名。それはつまり。

織田家はこの戦へ動員した兵力をほぼ失い、しばらくは軍の再編成に専念せざるを得ず、土岐氏の美濃守護代復活という大義名分も放棄せざるを得ない。朝倉家との国交も険悪で早急に解決しなければ最悪敵対という事になる。

 

そして、何より重大な損害は。

 

織田家当主、織田信秀の負傷及び現在まで危篤状態だという事である。これは想定外だった。加納口の戦いでは、織田信秀は命からがら撤退に成功するはずだった。どこで間違えたのだろう?

 

戦死者の中には織田信康や佐久間信晴の名前もあった。信晴さん亡き後、佐久間家の次期当主は誰になるのか。俺はどうでもよくなっていた。頭に残るのは、あの時何が何でも残れば良かったという後悔と逃げてしまった罪悪感。

 

やるせない思いが胸を満たしていく。

どうしてそうなったんだろうか。俺だけが悪いのだろうか。

答えは返ってこない。

もう永遠に帰ってくることはないのだから。

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結局、織田信秀さんの怪我は良くなる兆しを見せず、姫様が戻るのを見届ける事なく息を引き取った。姫様が戻られたのはその二日後。

本当に僅かな差だった。神や仏を恨みたくなるほどに。

俺の知っている歴史と変わっている。誰のせいだろうか。いや、誰かは分かりきっている。俺だ。けど、俺はどうすればよかったんだろう?

 

後日、信秀さんも含め戦死者の葬儀が行われた。

俺は先の戦の影響か当初参列を認められなかったが、平手政秀さんと何故か林秀貞さんが頼み込んで何とか末席に加えてもらえた。てっきり林秀貞さんには嫌われていると思っていたのだが、何かあったのだろうか。

そうして、お坊さんが経を読み始めた頃、俺は気付いてしまった。

 

家臣の一部の中には、織田信秀さんの死を悲しんでいない人々がいる。いや、正確に言えば悲しんでいるのだろうが、次に自分はどういう身の振り方をしようか必死に考えているようで、悲しむのは二の次になっていた。おそらく次期織田家当主の事だろう。信秀さんの正室である土田御前さんは織田勘十郎、つまり姫様の弟を後継者にしようとしている。信秀さんという強力な後ろ盾を失った以上、信奈ちゃんが跡目争いに敗れる可能性が出て来ている。それで、どちらに付くべきか考えているのだろう。

 

「・・・・・・ハァ。」

 

俺は溜息をついた。正直、あまり気付きたくはなかった。

 

「信盛、あまり気にしないほうがいいぞ。」

「ん、ああ。大丈夫、大丈夫だよ。」

「なら、その血が滲む程握り締めた拳は何だ?」

「・・・・・・。」

 

見ると、何時の間にか固く握り締めた拳からは血が垂れていた。

 

「・・・いやぁ、気付かなかった。見苦しい所を見せたね。」

「信盛・・・。あ、あのさ・・・何でもない。」

 

信辰ちゃんは何か言いたげだったが、場所も場所だ。すぐにその言葉を引っ込めた。

さて、どうしたものか・・・。俺は無理矢理何かを考える。目を逸らさなければ、また苛立ってしまうだろうから。

 

そういえば、平手政秀さんと姫様の姿がないな。遅れているのだろうか。織田信長のイベントに葬儀に関するものがあったなぁ。えっと、うーん。うまく思い出せない。頭が回ってないのか、苛立ちの所為なのか。

 

物思いにふけって苛立ちを誤魔化そうとしていると、遠くからドタドタと誰かが歩いてくる音が聞こえた。おい、葬儀やってんの知らんのかい。無礼過ぎるやろ。

 

前の方では織田勘十郎信勝様が焼香を間違わずに行い土田御前様と御付きの家臣達に褒められていた。はっ、さぞ嬉しいだろうぜ。

 

バタンと、突然扉が開け放たれる。皆意表を突かれ振り返るとそこには、この時代においては(注・現代でも頭おかしい)奇抜過ぎるファッションである普段着の姫様、つまり、織田信奈が仁王立ちしていた。

男前過ぎる。てか普段着て。あ、でもマナーにおいてはギリギリセーフっても聞いたことあるし・・・いやでもあれはちょっと違うよなぁ・・・。

 

ざわめく会場。それを気にせず姫様はゆっくりと位牌へ近づいて行く。それを狼狽えながら心配そうに見守る平手さん。あ、思い出した。確かこの後・・・平手さん、ご愁傷様です。

 

姫様は家臣団に注目されている事も気にせず前の方まで行くと、焼香を鷲掴み、そのまま位牌にぶちまけた。

 

これは家臣団も意表を突かれ、ざわめきが大きくなる。それを気にせず会場を後にする姫様。その間、おれは姫様と目を合わせる事が出来なかった。会場に入って来た時、その瞳にはうっすらと涙が溜まっていたからだ。教育係になってから関わる機会が増えたからなのか、すぐに気付いてしまった。そして俺はもう一つ、今回の戦でしくじった事に気付いてしまった。それは、姫様に『織田信長』の道を歩ませてしまった事だ。

 

第六天魔王・織田信長。姫様と瓜二つの人生を歩んだ戦国武将。その男の道を姫様に歩ませてしまっている。無論、結末はまだ先だが、ここで俺が。もしも俺が。信秀さんを死なせていなければ、織田信長ではなく。織田信奈自身の人生を歩ませる事が出来たんじゃないか。

 

いや、分かっている。先の戦で俺にそんな力も兵力も無かった事は。そもそも、今でも姫様は織田信長ではなく織田信奈として生きている事は。それにこんな事は俺が織田信長の事を知っているから思うだけであって、全く意味のないことだということは。

 

でも。それでも。もしかすると。俺は、戦いたくなかっただけじゃないか?俺は、逃げただけだったんじゃないか?俺は、見捨てただけではないのか?俺は、命が惜しかっただけではないのか?俺は、加藤段蔵の時の様に、覚悟が出来てなかっただけじゃないのか?

 

そんなことを考えると、キリがない。失った物は、亡くした者は、もう戻ってこない。分かっているけど、そう直ぐには割り切れないよ・・・。

 

葬儀は姫様の乱入によってかき乱され、遂にそのまま解散となった。

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「全く、教育係として頭が痛いよ・・・。」

「ふふ、本来なら笑い事ではないだろうが、まぁ、頑張れよ信盛。」

「はぁ。でも、アレで根はただの女の子だからなぁ。心配になって来た。少し探してくる。」

「・・・浮気か?浮気なのか?」

「は?イヤイヤそんなわけ・・・」

「なら本気なのか⁉︎」

 

一旦落ち着こうぜ。危ないから。(俺の命が)

 

「とにかく、浮気じゃないから。俺は君以外の人は愛さないって結婚した時決めたんだ。」

「信盛・・・、そういう事言う時は場所と時間を弁えろよ。・・・嬉しいけどさ。」

「どの口が言ってんだよ・・・。じゃあ、行ってくる。」

「おう。頑張れよ。」

 

・・・良かった。信辰ちゃんは落ち着いて来てるみたいだな。なんかキャラ少し変わってる気がしてるけど。無理も無い。実の父親を失ってんだから。・・・二度とそんな思いはさせない。させてたまるか。

 

そう誓いながら、俺は信奈ちゃんを探しに行った。


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