あ、いや、別にお気に入り10毎に更新してる訳ではありません。
念のため。ほ、本当だよ?
俺の率いる部隊が本隊と合流できたのは、殿が稲葉山城から一時撤退しようと決めた時だった。
俺は撤退中の本陣に着くと直ぐに殿がの元へ向かい、必死に声を張り上げる。
「殿!殿、お待ち下さい!」
「なんだ、信盛。何か意見でもあるのか?」
「直ちに撤退の中止、いや、諸将に撤退時くれぐれも気を抜く事の無いよう連絡して下さい!このままでは斉藤軍に攻められた時、対応が遅れてしまいます!」
「そんな馬鹿な・・・。初めての出陣で恐れておるのでしょう。」
「臆病風に吹かれて撤退の時を見失うと本末転倒ですぞ、信盛殿。」
「はは、全くだ。」
家臣達は俺の意見を笑い飛ばす。臆病者の戯言だと。
しかし、殿は一理あると思ったのか、
少し考えてそうか、と殿が頷くと同時に。
ワッと、一斉に鬨の声が上がる。
「む⁉︎何事だ!」
「申し上げます!斉藤軍が撤退中の我が軍に奇襲をかけてきた模様!今一部隊が交戦中です!」
「誰の部隊だ⁉︎交戦戦力は⁉︎」
「敵の詳細な数は不明!味方の交戦中の部隊はおおよそ三千、旗印は織田瓜と丸の内に三引両、織田信康殿と佐久間信晴殿の部隊です!」
「織田信康殿より伝令!本陣は速やかに撤退なされよとのこと!繰り返します、本陣は速やかに撤退なされよとのこと!」
「そ、そんな馬鹿な、斉藤軍が奇襲だと⁉︎これではまるで信盛殿の言った通りではないか!」
「もしや佐久間信盛は内通しておったのか⁉︎」
「今はそんな事よりも撤退じゃ!はようせんか!」
本陣は突然の斉藤軍の奇襲に大いに混乱した。これでは誰も殿の命令を聞かない。元々、この戦は越前に逃げていた土岐氏を美濃の守護代にする為という名分の元起こっているらしく、越前の朝倉孝景と共闘して斎藤道三を討つ予定だった。その為、土岐氏の家臣も多くおり、決して一枚岩とは言えなかった。そんな中に斉藤軍の奇襲だ。連携も何もあったものでは無かった。
「むう、蝮にしてやられたわ。戦闘を続行したいが、信康や信晴の思いを無にする事は出来ぬ。仕方無い、全軍撤退せよ!」
殿はそう下知を下すが、土岐氏の家臣達は既に撤退を始めており、織田家の家臣の中にもつられて撤退し始めるものが出始めていた。そんな中俺は部隊に戦闘準備を始めさせていた。
「くっ、本来ならここで本陣と共に撤退すべきだろうけど、信晴さんを置いて行けないよな、なぁ、信辰ちゃん?て、あれ?」
「信辰様なら既に殿部隊に合流されましたが・・・。」
「なっ、マジかあのバカ!信盛隊、出るぞ!急げよ!」
「「「応ッ!」」」
てか、部隊の副将で妻が単騎特攻してるのに気付いてなかった俺って実はかなり残念な奴なのか?
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死ぬ気で急いだら何とか信辰ちゃんに追い付けて、全員揃って殿部隊へ合流する事が出来た。その中で信晴さんの姿を見つけ、安堵のあまり思わず大きな声で名前を呼んだ。
「信晴さんッ!無事で良かった、早く撤退を!もう本陣も撤退を始めたからさ!」
信晴さんの注意がこちらへ向く。
「ッ!信盛!それに信辰!何故ここに居る!さっさと撤退」
グサッ!グサグサッ!
「ぐっ⁉︎」
「えっ・・・!」
「そ、そんな!親父ィ!」
言い終わらないうちに、信晴さんの背にに矢が立て続けに三本突き刺さる。
「の、信晴さん!」
「お、親父!」
信辰ちゃんと共に信晴さんに駆け寄ろうとすると、信晴さんはそれを手で制した。
「ぐふっ、どうやらここまでの、ようじゃのう・・・。信盛、よく聞け・・・。」
「そ、そんな、俺が声をかけたばっかりに、信晴さんが、」
「よく聞けィ!」
「‼︎」
「良いか、信盛。儂がこうなった以上、名実共に佐久間家当主はお前になる。良き将になれ、期待しておる。信辰も、信盛をよく補佐してやれ。」
「親父・・・。」
「最期に二人の、将として完成した姿を一目見ておきたかったが、叶わぬようじゃのう。」
「最期とか、そんな事言うなよ、なあ!絶対助ける!そのために俺は強く」
「ならぬ!ならぬぞ、信盛。儂は儂を助けるために、お主を鍛えたのではない、信辰を守る為、我が夢を叶える為、そして何より、お前の為じゃ。」
「でも、俺は貴方に、受けた恩の何も返せなかった!」
「信辰を幸せにしてくれれば、それ以上の恩返しは無い。老兵はただ去るのみ、後は子供達の時代、じゃ。そろそろ殿部隊も崩れ始めて来る頃じゃろう、早く撤退せい。」
「くっ・・・、行こう、信辰ちゃん。」
「・・・すまない、親父。」
「達者でな、二人共。」
俺と信辰ちゃんは信晴さんに背を向け、撤退した。クソッ、俺は救えなかった、俺は何の為に出てきたんだ、俺は何の為に強くなった?俺は、もう分からない。
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「ふっ、行ったか。やれやれ、全く困った娘夫婦だわい。ぐふっ!」
佐久間信晴は口から血を吐き、傷だらけになってフラつきながらもも、まだ立っていた。斎藤家の足軽はそんな信晴を見て、今が好機と畳み掛ける。
「殿部隊の大将級の手柄!逃してたまるか!」
「どけ!俺がやる!」
「いや、俺だ!一太刀で楽にしてやるよ!」
足軽達は次々に出てきては信晴を前にしてそんな言い争いをする。
ふぅ、と信晴は溜息をついた。
足軽達はそれを見て、遂に観念したのか、と思っていた。
しかし、次に出てきた台詞は、足軽達の想像を超えていた。
目の光が消え、呼吸の乱れが無くなっていく。
信辰が、信盛相手に一度だけ発動した奥義。
『明鏡止水』
「お主ら如きに、儂の首はやれんわ。」
「あぁ?死に損ないがぁ、大人しく」
「儂が死に損ないで大人しくしないといけないのなら、既に死んでおるお主らはどうするのかのぅ?眠りこけるか?」
「何言ってん・・・」
足軽達三人が言葉を発しようとした時、首、胴体、腹。悲鳴を上げる間も無く、それらをことごとく両断されていた。
「全く、儂の首はそこまで安くはないぞ?平常心を持って一切の事をこなす人。これを名人というなり。佐久間信晴、参る。」