退き佐久間   作:ヘッツァー

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度々申し訳ありません。
この度主人公及び佐久間氏の居城を謎の館から山崎城へ変更させていただきます。
ではどーぞ。


第十七話

加藤段蔵と交戦してからしばらく経ったある日。

織田家家臣達はとても切羽詰まったような、慌ただしく準備している様子だった。

それもそうだ。

なぜなら、織田信秀殿が斎藤道三の居城、稲葉山城を攻めると言ったのだから。

そして、切羽詰まっているとか、慌ただしいと表現される人々の中には、俺や信辰ちゃんも例外ではなかった。

なんせ信辰ちゃんの父で俺の義父の信晴さんが出陣すると言って聞かないからだ。

この戦いは知っている。俗に言う、加納口の戦いだ。

そう、織田信秀はこの戦いには負ける。しかも歴史的な大敗を喫する事になる。無論、信秀殿にも出陣を取りやめて頂きたいのだが、こちらもこちらで取りやめる気配は無い。

かと言って、はいそうですかと手をこまねいて負けさせる訳にはいかない。

そう、史実なら負けるのであって、何も絶対に変えることの出来ない事柄って訳ではないんだ。

そして、信晴さんの出陣を許す代わりに俺達も出陣するって事で納得してもらった。本当は信辰ちゃんにも出て欲しくはないのだが、連れてかないと殴り飛ばしてでも付いて行くオーラ(ナニソレコワイ)が漂っていたので交渉すらしてない。

だって怖いし。なんてったって俺、入り婿なんだ・・・。

ちなみにこの戦の事は信奈ちゃん、姫様には伝えていない。

伝えたら絶対に付いてくるだろう。殿はそれを見越してわざと姫様が再び堺へ旅立つ時を見計らっていた。

俺のいない分は勝家がしてくれるらしい。姫様は大幅な戦力増強だと喜んでいた。解せぬ。

そして姫様が旅立たれたその翌日、俺たちは美濃へ向け出撃した。

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「うーん、徹底的に蹂躙しているなぁ・・・。戦とはいえ、あの温厚な殿が、なぁ。」

 

俺こと佐久間信盛は後詰めの部隊の一つを率いて本隊の後に続いていた。俺の装備している武器は槍に太刀に脇差と来てまさかの背中には『岩通』だ。(信辰ちゃんや信晴さんから止めろと食い気味に言われたが押し通した。だってカッコイイじゃん。)

ちなみに今の所戦闘はしていない。しかし、行く先々で戦の痕跡を見る度に精神的に疲れが溜まっていく。焼かれた家々。焦げた匂い。もはや物言わぬ死人達。その中には無残に焼け焦げ、敵味方どころか性別すら分からないものもあった。逃げ遅れたのだろうか。はたまた焼き討ちされる我が家と運命を共にしたかったのか。もしくは既に殺されていたのか。

初陣こそすませたが、この光景はあまりにもショックが強すぎた。

 

「気になるか?」

「ん、あ、あぁ。」

 

俺が押し黙っていたからか、心配して信辰ちゃんが声をかけてくれたが、そんな返事しかできない。

 

「なら、あまり見ない方がいい。矛盾した事を言う様だけどな。それより今は、この部隊の指揮のことを最優先に考えて。」

「でも、信辰ちゃん、俺は」

「でもじゃない。ならお前に何が出来るんだ。加害者のであるお前に。」

「・・・・・・。」

「勿論此処に居る皆が皆、等しく平等に加害者さ。その罪は変わらない。ならば今は奪われた命に対して謝るのではなく、その命が奪われた意味を保つために行動すべきだよ。私達がこの戦の目的を達成してから初めて、奪われた命を弔うといい。」

「・・・あぁ、そうだね、信辰ちゃん。全く、君は強いな。」

「そんな事無いさ。慣れただけだ。褒められた事ではないよ。」

 

俺は自分の妻のメンタルの、自分なりの覚悟の強さに驚きつつも、なんとかそう言葉を紡いだ。

俺は佐久間信盛として生きると決めた。織田家の家臣として、織田信奈の天下取りを手助けすると決めた。しかし、こうして戦場に立つとその決意ですらも揺らいでしまう。俺はこの先、信辰ちゃんの様な、自分なりの覚悟を見つける事が出来るのだろうか。何より覚悟も定まらぬままに出てきてしまった戦で、俺は大切な人を守ることが出来るのだろうか。そうして俺の思考はどんどん暗く、沈んでゆく。

 

「の、信盛?」

「・・・・・・。」

「元気を出せ、とは言わないよ。寧ろこんな所で元気になっては人間としてはどうかしている。だが、戦況を正常に判断できるくらいには落ち着いていろよ。私も指揮官はした事は無いから、補佐しかできないよ。君が頼りなんだ。」

「あぁ、分かってる。」

 

流石に新入りにあまり兵は渡せないので俺の指示で動かせる兵は二百程度だ。いや、寧ろ新入りにこれは多いのかもしれない。

この二百名の命を預かっているのは、他でもない、この俺なんだ。

その事が俺の思考に波紋を生じていく。

落ち着け。落ち着け。落ち着け・・・。

 

「信盛。本当にキツイのなら・・・」

「信辰ちゃん。大丈夫だから。」

 

信辰ちゃんが心配してかけてくれた声を遮り、稲葉山城へ向かう行軍を中断し、俺は部隊の皆に決意を告げる。

 

「俺は、もしかすると敵を目の前にして怖気付くかもしれない。腰を抜かして命乞いをかますかもしれない。でも、今俺は皆で生きて帰りたいと思ってるんだ。それは本当だよ。本当なんだ。けど俺だけじゃ力不足なんだ。だから、俺に力を貸してくれないか?未熟な俺を、どうか助けてくれ。」

 

言い切って部隊の面々を見ると、皆目を点にしている。

あ、あれ?そんなおかしな事言ったかな⁉︎

やがて、何人かが口を開いた。

 

「・・・信盛殿、何を今更。もとより我らは貴方の補佐、その為にこの部隊にいるんだぜ?」

「大丈夫だぜ隊長!俺らを誰だと思ってんだ!負けねぇさ!」

「べ、別に貴方のためにこの部隊へ志願した訳では無いんだからねっ!」

 

誰だ最後のツンデレ。この部隊には約一名を除き(そいつも心はほぼ男。ていうか我が妻。)野郎しかいないはずだったのだが・・・。

ともあれ、皆の返答を聞くたびに、落ち着いていく自分がいた。やっぱり、誰も死なせるわけにはいかない。今回の肝は撤退戦だ。昼間のうちは斉藤軍はろくに反撃してこないだろう。備えるべきは撤退時の奇襲。なんとか本陣の撤退が始まる前になんとか合流しなくては。

 

「よし、全員引き止めてすまなかった!もうすぐ本陣は稲葉山城に着く頃だろう!全員戦闘準備を整え本陣へ合流する!急げよ!」

「「「応ッ!」」」

「信盛、立派になって・・・。親父にも見せてやりたいよ・・・。」

「あの、その突然始まったお袋キャラは何?」

「まだ私はそんな年じゃないぞ!」

 

じゃあやらなきゃいいのに・・・。

しかもそれ信晴さん死んでない?大丈夫?

幸先悪いな。本当に大丈夫だよ、な?


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