本当は第十五話にまとめてやる予定でしたが、長いと思ったので二話に分けました。
あと、タグに刀語を追加しようか迷ってます。どうしよ。
「あ、死ぬと言っても加藤段蔵は死ぬ、つまり名を変えて生きるって意味だよ?」
「・・・なんだ、そういう事かよ。でも、顔とかでバレるんじゃないの?」
「そこは心配ないよ。よく見ておいて。」
そうして加藤段蔵は覆われていた顔を露わにする。すると出てきた顔は整った顔立ちで長い黒髪に黒い瞳と、綺麗ではあるがよく言えば普通な、悪く言えば平凡な日本人といった感じの顔だった。
こう言っちゃ悪いが、俺は拍子抜けしてしまった。
「ん?その顔はなんだい?まさか私の顔が普通だったからガッカリしてしまったかな?大きなお世話だよ。」
そう言って加藤段蔵は両手で顔を覆う。正確に数えていないから分からないけど、恐らく5秒くらい覆っていたかと思うと手を戻した。
そうしてもう一度加藤段蔵の顔を見て、俺は面食らってしまった。顔だけに。あ、最後の一言いらなかったかも。
とにかく、俺はこれでもかってくらいにビックリさせられてしまった。なぜなら、加藤段蔵の顔が先程とは全く変わってしまっていたからだ。雰囲気がどうこうとかそういうレベルではなく、それこそ全ての顔のパーツが変わっていた。顔の大きさも額の広さも眉の太さも鼻の高さも目の形も瞳の色も口の大きさも全てがガラリと変わってしまっていた。
「どうした?そんなに惚けて。私の顔に何か付いているのかい?」
俺が理解できずにいるのを察したのか、加藤段蔵がドヤ顔でそんな常套句を言ってくる。クッソ腹立つ。しかし何をしたんだ?これも芦屋道海から習った幻術なのか?
「ふふん、大方芦屋道海から習ったのかとおもっているだろうけど、違うよ。これはあのババアの薬の実験体にされた時に獲得したものでね。故に現時点で使えるのは私しかいない。とりあえず、忍法・骨肉細工と呼んでいる。」
忍法・骨肉細工、か。成る程、厨二さんですか。・・・まさか現実に発言してしまう人がいるとはね。真庭◯軍の忍法を。
「でもそうすれば、君が今縄で縛られている理由も納得できるんじゃない?」
「は?何言って・・・、あ。」
そうだ、ここは森の中だ。縄なんてそうそう落ちてるもんじゃない。
「でも、あらかじめ持ってきたんじゃないの?」
「この服の中のどこにそんな隙間があると思う?」
「えっと、自分の体をあらかじめ縛っておく、とか?」
「馬鹿か君は。それは最早変人を通り越して変態だぞ?」
いいえ、立派な変態です。
「それじゃあどこにあったんだよ?まさか体の中とか言うんじゃないよな?」
「・・・・・・。」
・・・え?もしかして正解なの?てか合ってんならそんな膨れっ面しないで反応しようや!
「・・・まさか正解?」
「・・・そうだけど。なにか?」
「・・・なんかごめん。」
なんでそんなに不機嫌になってるんだよぉ。ていうかそんなに当てられたくなかったのなら最初から聞くなよぉ。
「はぁ、全く。当ててくるとは思ってなかったよ。はい、じゃあこの話は終わり。縄を解いてあげるよ。」
「待って!いや、縄は解いて欲しいけどちょっと待って!」
「・・・何?」
「縄を体のどこに隠してたか気になるんだけど・・・。」
「・・・この助平。」
「なんで⁉︎ん、ああ、そんなところに隠すなんて、もしかしてお前痴ゴファ!」
セリフの途中で殴られた。ボクゼンゼンワルクナイノニ。オモッタコトクチニシタダケナノニ。あ、それがダメなのね。
「ご、誤解されたままだと恥ずかしいからやってみせるよ。」
そう言って加藤段蔵は自分の肘から先を自分の口の中へ入れた。
そうだ、現代の言い方だと肩から肘を二の腕って言うけど、本当は肘から先なんだってね。
うん、知ってる。自分が現実から目を背けてることは。
そうして俺が現実逃避している間に、加藤段蔵は口から自身の身長と同程度かそれより少しばかり短い鍔無し忍者刀、つまり直刀を引き出していた。
「・・・ふぅ。まあ、こんな感じだ。」
「・・・・・・。」
絶句。いや、なんというか、圧巻だった。
「じゃ、じゃあ縄を回収するよ?」
「あ、おう。お、お願いいたします。」
そして加藤段蔵はスルスルと縄を解いていく。そして小さくまとめ、風呂敷(それは持ってたんだ。最初からそれでよくね?)に包み、それを何でもないように飲み込んだ。ああ、せめてなんか言ってくれないかなぁ。がっつり見ちゃったよ。
「じゃあ、私達は相模に向けて旅立つよ。改めて言うが、情報をありがとう。」
「いやいや、お互い様だよ。こっちは命も救われてるしな。」
まぁ、狙ってたのは貴女ですけどね。
「じゃあ、またどこかで会おう。」
「あー、うん。そうだな。」
できれば会いたくねぇなぁ・・・。
そして加藤段蔵たちは去っていった。続く。
ってあれ?戻ってきてますけど?何?
「言い忘れてたが、もし北条にも仕官できなかった場合、3日以内にお前の命を貰う。」
「あ、うん・・・。」
なにそのアフターサービス!キャンセルしたいんですけど!
加藤段蔵の去り際の一言に怯えながら来た道を戻ると、木に紙が小柄(日本刀に付属する小刀の一種)で打ち付けられており、一言
『アンタ遅いから先に帰るわ。』
そりゃ、遅かったけど。少しくらい心配してくれてもいいじゃねぇかよぉ・・・。
そう思いながら俺は一人曖昧な記憶を頼りに帰路に着いた。
俺が尾張に帰り着いたのは信奈ちゃん一行が着いてから三日後で、軽く死んだ事にされていた。その間心配してくれていた信辰ちゃんが感極まったのか泣いて俺の帰還を喜んでくれた。以後気をつけます。