今年もどうぞよろしくです!
「はぁ〜、やっと帰れるのかぁ〜。」
堺からの帰り道の途中、俺はそう呟いた。
「あんた、そんなに帰りたかったの?」
むむぅ、独り言のつもりだったのに信奈ちゃんに反応されてしまった。ここは一つ冗談で返すか。
「それはもう、家に帰って何もせずにゴロゴロしていたいじゃないですか!」
「あんたの思考最低じゃない⁉︎」
結構ドン引きされてしまった。解せぬ。
「じょ、冗談ですよ。早く家内に会いたいだけですって。」
あぁ、早く会いたいぜ信辰ちゃん。
まぁ、そんなラブラブな描写とかなかったから正直結婚してるって実感沸かねーけどな。一緒に住んでる実感はあるけど。
そんなことを考えていると、長秀ちゃんも会話に混ざってきた。
「そういえば、信盛殿は帰り際に何かご購入なされたようですが、一体何を買ったんです?」
「信盛が背負ってるその長い布袋よね、何なのそれ?」
「ん?あー、これは・・・。」
そう、俺はたこ焼きの件で稼いだなけなしの金で買い物をしていたのだった。
「これはかの英雄武蔵坊弁慶の佩刀、銘を『岩とおs」
「偽物ね。」
「偽物ですね。零点。」
注目の鑑定結果はすぐに出た。食い気味に来た。
おいぃ、最後まで聞こうよぉ。悲しいじゃねぇかよぉ。
「・・・何を根拠に。」
「まず根拠を尋ねる時点で五点だと思うのですが・・・。」
「それに、そんな昔のものがそうそう残ってるわけないじゃない。」
俺が不機嫌そうに尋ねると、さも当たり前のようにこう返された。
五点はあるんだ・・・。いかん、何も言えん。
「いやでも、その時代の物が残ってないとも限らないじゃないか、近い時代で言えば、ほら、そう、勝家ちゃんの持ってた『ニッカリ青江』とかさ!」
「・・・何で知ってるんですか?零点。」
「・・・何で知っているのよ?」
いかん、マジトーンで引かれている。
なんとかしないと俺が社会的に死ぬ。
運が悪ければ肉体的にも死ぬ。
なぜか味方しかいないはずのこの場で俺は詰んでいた。
「いや、その、ほら!『ニッカリ青江』って有名だから!」
「まぁ、そうですけど・・・。」
「何?欲しいわけ?」
長秀ちゃんは回避したが信奈ちゃんはもっと深く切り込んできた。
ここは誠意を持って答えるしかないか。
「欲しくないと言えば嘘になります!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
出た。ついに無言。
俺のコミュ力どうなってんだ。敵作る天才か。
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あの後かなり無言の時間が続いた。
気まずい。いと気まずし。気まずいって昔の言い方でなんて言うんだろう。どうでもいいか。
そんなことを考えるくらいに暇だった。
そして、ふと考えるのを止めた時、感じた事があった。
『誰かに見られている』
そう感じた。いや別に、さっきの会話引きずって信奈ちゃんと長秀ちゃんと気まずいとかそう言うんじゃなくて。
いやマジだから。さっきから哀れみの目とか向けられてないから。本当だから。それか厨二病発病したとかでもないから。まぁこんなこと感じること自体厨二病かも知れんがそうじゃあない。なんかすごい動揺してる。
この視線の主が忍者とかならどうするか、もし俺が忍者で要人(この場合信奈ちゃん)を暗殺するとしたら。
うん、任務とか忘れて逃げる。超逃げる。
そうじゃなくて。
そう、俺なら孤立した奴を殺してそいつに成り代わって全員殺す。ありがちだよねー、超ありがち。
でも、ありがちだからこそ確かめてみる価値もあるか。
なら俺が孤立してみて反応を見てみよう。
「すまん、少し用を足してくるわ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
マジか。この反応はないわー。
うんともすんとも言わんとか。
「まぁ、その、なんだ、さ、先行っといてくれ。」
「分かったわ。」
「了解です。」
「わかった。」
そこは分かっちゃダメじゃないかな・・・。
自分で言ったんですけどね。ええ。
そうして信奈ちゃん御一行と別れた俺は来た道を少し戻り、絶好のポイントを探すフリをする。
いや本当来た道覚えといて良かった。
まさか単独になるとは。ついぞ思いもしなんだぜ!
もし今信奈ちゃん御一行(俺除く)が襲われても、一人二人ならなんとかなるかもしれない。
だってあの丹羽長秀に前田利家だもんな。
だけど、それじゃダメだ。信奈ちゃんに暗殺者が雇われた事をあの子に知られてはいけない。
なぜなら、言っちゃ悪いが、世間一般では今の信奈ちゃんに暗殺する程の価値は無い。なんせうつけだからな。
敵国にとっては、信奈ちゃんが跡取りというのはむしろ好都合と思われているだろう。
つまり、この視線の正体が暗殺者なら、味方からの裏切りという事になる。
同志であり、内輪であり、身内であり、家族の。
元来暗殺なんてそんなもんかもしれないけど、それを知られては困る。
余計な気回しかもしれないけどね。
だから。どうか俺に。人殺しをさせて下さい。
俺はそう、ひっそりと覚悟を決めた。