退き佐久間   作:ヘッツァー

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更新のペースが元に戻るのは年が明けてからになりそうです。重ねてお詫び申し上げます。



第十一話

数日間の間、俺達一行はザビエルさんたちと行動を共にしていたが、ザビエルさんたちは京に向かい姫巫女様に謁見したいとのことで別れる事となった。京に向かうのはザビエルさん、弥次郎さん、それに護衛で小西さん。小西さんは自ら護衛を買って出てくれたんだ。(おそらく京での薬屋の旗揚げが目的。)

そうしてザビエルさん達が旅立つまでの間、信奈ちゃんは実に色々な事を聞いていた。諸外国の気候・風土・生活風景・身分制度・政治体制。

中でも心に残っているのがザビエルさんが去り際に言った、この命懸けの航海に出た理由だった。

どうして故郷を離れ、命をかけてまでこんな旅に出たのか、どうしてそこまで神の教えとやらを信じることが出来るのか、それにそこまでの価値があるのか。聞かずにはいられなかったようだ。

俺はどうせ神を信じれば救われるだとかありきたりな事を答えると思っていた。しかし、ザビエルさんの答えは違っていた。

 

「確かに、私達イエズス会の行いは他人から見れば命知らずの愚か者と映るかもしれません。しかしそれでも私達は動かない訳にはいきませんでした。人を救いたかったのです。そしてそれは神の教えではなく、私達の人としての思いです。私は、神の教えとは人を救う為の手段に過ぎないと考えています。」

 

それは、宣教師としては異端の考えだろうとは容易に想像できた。それはどうしようもなく本音で、そしてそれだからこそ異国の人々の心に染み入るのだろうと分かった。神の教えを広める為に人を助けるのではなく、人を助ける為に神の教えを説く。そんな当たり前の事を当たり前にやるからこそ広まっていくんだと。そんなことを言っていた。

 

「あなたはやはりすごい人ね、ザビエル。私はあなたを尊敬する。私が尊敬する人は数える程しかいないわ。良かったわね、ザビエル!」

 

どれだけ上からやねん。おっと、思わず関西弁が。こんなエセ関西弁、関西の人に聞かれたらぶっ飛ばされちゃう。まだ俺の出身が関西ではないと決まったわけではないけどね。

 

「フフッ、ありがたき幸せです、信奈様。」

 

良かった、笑って済ませてくれた。

なんて心の広い人なんだ。

それにひきかえ、なんて、なんて・・・

 

「クソガキ・・・。」

「聞こえてるわよ、信盛?」

 

マジかよ、地獄耳か!

 

「なんでもありません。はい。」

「まぁいいけど。それよりザビエル、京に行った後日ノ本で布教を続けるの?」

「はい、救いを求める人がいる限りは日ノ本に留まるつもりですが、日ノ本での布教は困難を極めています。そこで、一度日ノ本に多大な影響を与えている大明へ渡り、そこから布教して行こうとも考えています。」

「えっ・・・。」

「将を射んとすれば先ずは馬を射よ、ですよ。大丈夫です、大明への布教が終わればまた日ノ本へ戻ってきます。その時にまたお会いしましょう。」

「ええ、その時は必ず私の所へ顔を出しなさい、絶対よ。いい?」

「分かりました、信奈様。」

「その時を楽しみにしているわ、では、お互い頑張りましょう!」

「はい。では、また会う日まで!」

 

こうして、織田信奈とフランシスコ・ザビエルという二人の人間の人生が交わり、また別れることとなった。

この時は、これが今生の別れになるとは、この場の俺以外の誰もが知る由もなかった。

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さて、ザビエルさん達と会った事で目的は達成していたと思っていたけど、ここ堺へ来た理由はもう一つあったらしい。それは、南蛮から伝わり、近頃ようやく生産が軌道に乗り始めた武器、火縄銃だった。なんでも、それまで日ノ本で生産されてた火縄銃は暴発が多くとても実戦には使えなかったらしい。そこで、ザビエルさん達と一緒に来ていた技術者に話を聞いたところ、ようやく暴発の理由が分かり(ネジか悪かったとかなんとか)、なんとか実戦に耐えうるようになったとか。

今回はそれを買い付けに来たのだった。だけど・・・

 

「姫様。」

「どうしたの佐久間?」

「火縄銃って、初めてのお使いにしては幾ら何でも高過ぎませんか?聞けば、島津家の家臣種子島時尭がポルトガルの人から買った時は二挺で二千両(約二億円)もしたらしいじゃないですか。本当に買えるんですか?」

「あんた、どうでも良い事は調べていたのね・・・。」

 

そんなジト目をしないで頂きたい。

 

「心配は無用よ。こう見えて織田家はそこそこ金持ちなのよ。それに、いざとなれば今井宗久を通して値切るわ。」

 

マジか。いざとならないことを願うばかりだな。

そんな思いとは裏腹に、今井さんに頼み込んで五百両くらいで五挺買入れるのがやっとだった。今井さんには悪い事をした気もするけど、商人がやすやすと自分の身を切るとは思えないから、これでも利益はあるのだろう。

 

「ふぅ、五挺とはいえ重いですね、誰が持つんです?」

「ん?決まってるじゃない佐久間。あなたよ?」

 

ですよねー。あ、そういえば・・・

 

「ところでこれ、弾はどうするんですか?買ってなかったみたいですけど。」

「大丈夫大丈夫、なんとでもなるわよ!」

 

それで大丈夫なのかな、弾がなかったら正直刀の方が役に立つけど・・・。

そんな雑談をしつつ、俺らは帰路へ着いた。


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