コズミック変態と哀れな最悪の精霊さん。   作:冬月雪乃

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肉食系ヤンデレと校舎と八つ当たり

空間震が最近頻繁に訪れるらしい。

井戸端会議をやってる女性の集まりからそんな声を聞いた。

世界が滅びる予兆--やれやれ、まったくナンセンスだ。

 

「……おや」

「〈メルクリウス〉……なぜここに」

 

少し暗がりの裏路地から私に向けて殺気というか。

かゆくなる視線を浴びたのでそちらを見ると、鳶一折紙が私を見ていた。

目が合うと彼女は今にも切りかからんばかりの表情で私を睨みつけて質問を飛ばしてくる。

 

「なぜも何も。これより喜劇が始まるのだよ」

「何をーー」

 

折紙は問いかけて、ハッとした表情になるとさらなる殺意を顔面に漲らせて私を睨んだ。

 

「ユーラシア大空災、EUでの特大空間震、アメリカ大陸の大破壊。その全てに貴方はいた……」

「肯定しよう」

「今度は日本を破壊する気……?」

 

……なぜそんな結論に達したのだろうか。

EUもアメリカも女神にちょっかいを出し過ぎたからちょっとグレートアトラクっただけだし、ユーラシアに至っては見学してただけだ。

グレートアトラクったのは少し反省している。

もうちょっと被害の少ないのを作ったから対策バッチリだ。

 

「しかも貴方はしかるべき装置もなく魔法を使っている」

「ふむ」

「つまり貴方は精霊……!」

 

どうしてそうなった。

 

「精霊は女性だけではないのかね?」

「……貴方は、女性……!」

 

彼女は錯乱しているようだ。

 

「少し落ち着いてみるといい。私は男だよ」

「信用ならない」

「よろしい。ならば脱衣だ」

「それはいい」

 

なんでだ。

 

「………………そういえば。君は精霊を目の敵にしているそうだね」

「精霊は私の両親を奪った。当然の帰結」

「ならば、君は向ける殺意を間違えているよ」

 

どうにかして話を逸らしてこの場から離脱せねば。

 

「……どういう意味」

「そのままの意味だよ鳶一折紙。君の殺意は向けられるべき方向に向いていない」

「〈メルクリウス〉--戯言を言っているなら--」

「疑うならば五年前に戻ると良い。そこで、全てが分かるだろう」

 

今だ!

 

「〈メルクリウス〉--ッ!」

 

全力で逃げた。

怖いよあの肉食系ヤンデレ。

めんどくさい事この上ない。

 

「さて。すこし歌劇を進めるとしよう」

 

見上げる先には校舎。

先ほど空間震警報が喧しく騒ぎ立てていたのでプリンセスと士道が色々やらかす頃合いだろう。

 

「--止まれ」

 

転移してこっそりとロッカー内に現れると、凛とした声色が出迎えた。

さぁ出ようと扉に手をかけた瞬間だったので思わず硬直した。

しばらくの硬直があった後、今度は男の声がする。

 

「--人に名を訊ねるときは自分から名乗れ。……って、な、なに言わせてんだよ……っ」

 

ほとんど同時に破砕音。

 

「これが最後だ。答える気がないのなら、敵と判断する」

「お、俺は五河士道!ここの生徒だ!敵対する意思はない!」

「--そのままでいろ。おまえは今、私の攻撃可能範囲内にいる」

 

しばらくの乳繰り合いが始まった。

あぁ、青い。些か青すぎる嫌いはあるが、しかしそこが良い。

青いという事はつまり、まだ伸び代を残しているということなのだから。

校舎を凄まじい爆音と震動が襲う。

 

「--あ」

 

ロッカーを貫通した弾丸が私ごと女神の写真を撃ち抜く。

連射されたそれは、教室などを破壊しているだろう。

 

Ducunt volentem fata(運命は従う者を導き)

nolentem trahunt.(従わぬ者を引きずって行く)

 

外で盛大な爆発音がする。

今放ったのは要は、メテオだ。

 

「--至高の女神を写した我が聖遺物を破壊した罪、身を持って償え」

「〈メルクリウス〉……」

 

外に転移すると、折紙と愉快な仲間たちがいっぱいいた。

折紙はしばらく教室を見ると、忌々しげに私を睨み、高速で教室内に突っ込んで行った。

 

「ふむ。数はおよそ百や二百といった具合か」

「〈メルクリウス〉……今日こそ貴様を……ぐあぁ!」

「--いつしか我が友にも言ったが、数が質を超えるなどと説いた覚えはない。もしもそれで私を倒せる気でいるのなら」

 

思いっきり振りかぶって木の棒を投げつける。

フォームは我が友、黄金の獣を真似たものだ。

 

「--可愛いな。抱きしめたくなるほど可愛いぞ貴様ら」

 

ここに、一方的な暴虐が始まった。


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