あと女神出なすぎてすぐ、追いつく……
「……ねぇ、カリオストロさん」
「何かね女神」
夜空に舞うは黒き精霊--鳶一折紙。
「わたくしがした事は……」
折紙に自身を重ね、過去に飛ばした。
そこで折紙が得た現実は、それは残酷なものだった。
「罪を感じる事はないよ、我が女神」
「感じてなんかいませんわ」
そうだろうか。
否、女神がそういうのであればそうなのだろう。
時折飛来する流れ弾を受け流しながら私たちは会話する。
「歴史を変えるなんて……」
「神が許すのか、かね?」
安心したまえ、如何あっても女神は無罪だ。
異論は認めん。私が法だ。
「む?」
折紙が燃え上がった。
「なんと--乖離してしまったか」
灼熱の精霊〈イフリート〉五河琴理の登場だ。
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「おにーちゃん!」
居ても立ってもいられなかった。
愛しい兄がそこで戦っている。
傷だらけになりつつも精霊を封印しようと肉薄していく。
右肩から血が滴り、頭を何処かで切ったのか、顔まで血だらけだ。
回復するはずのそれらの治りは遅い。
何故か。
分かっている。私が、私の封印が緩んでいるからだ。
私に封印された力が戻るのを感じる。
悪夢だ。このままでは兄が死んでしまう。
「おにーちゃんに……触るなぁ--ッ!!」
天使を呼び出し、全力で打ち払う。
折紙は炎に包まれ、動きを止めた。
しかし、次の瞬間に炎は払われた。
中身は無傷だ。
それでも動きは止めた。
ついに兄が折紙まで辿り着き--力を封印するために唇を合わせた。
……しかし、それは無意味だった。
何の変化もない。
そうして、兄は吹き飛ばされた。
「--あぁ、やれやれ。どうやら舞台は定められたレールを外れてしまったようだ」
あわや建築物にぶつかる寸前。
兄は誰かに受け止められた。
「カール先生……!?」
「こんばんは、もしくは久しぶりだと挨拶するべきかね五河士道」
〈メルクリウス〉が何かを呟くと、瞬く間に兄の傷が癒えていく。
いつの間にか傍に立っていた時崎狂三に兄を渡すと、追撃で放たれた翼を片手で打ち払う。
「これより舞台の修正を始める」
〈メルクリウス〉を視界に認めた折紙は全ての攻撃を〈メルクリウス〉に集中させた。
「恨んでいるのかね、強く、怒りを抱いているのかね。あの時に私が伝えた言葉が真実だと知って、苛立っているのかね」
直撃しても尚、〈メルクリウス〉に傷一つない。
片手で払うのも飽きたのか、もはやされるがままだ。
その硬さを知らない八舞姉妹や美九が死んだと勘違いしたのか目を反らす。
「あぁ--君の全てを否定されたと、自身の存在意義すら勘違いの筋違いだと、そう理解したからこその醜態か」
苛烈さを増した攻撃の合間に見える〈メルクリウス〉には、やはり傷一つない。
なんて硬さだ。
あれが〈メルクリウス〉の天使が司る能力なのだろうか。
「あ、あれが〈メルクリウス〉……」
「愕然。なんて硬さでしょうか」
噂程度には聞いていたのだろうか。八舞姉妹が愕然と
〈メルクリウス〉を見つめる。
「カリオストロさん!士道さんを送りましたわ!」
「ご苦労、女神よ。では士道が戻るまでこの世界を存続させるとしようか」
流星。
まさにそれだった。
突如として召喚されたそれは折紙ごと建築物の諸々を吹き飛ばして地面にクレーターを作る。
「やり過ぎですわよ!」
傷だらけになりつつも折紙は再び浮遊。
精彩を欠き始めた攻撃を〈メルクリウス〉に集中させる。
その隙に八舞姉妹が折紙にドロップキック。
十香が斬撃を飛ばし、四糸乃が凍り付かせて地面に縫い付ける。
私が攻撃しては折紙が解放されてしまうのでフラクシナスに連携をとらせる。
「フルボッコ、もしくはリンチと言うのだろうね」
「平然と言わないでくださる……?」
緊張感のない会話が聞こえるが、今は目の前のことに集中しなければ。