強いて言うなら。
私の出番は無いに等しかった。
とりあえず当たりそうなビームやらを曲げたり死角の敵を潰したりと日陰な存在となって女神を支えたくらいか。
そして、突如として出現した黒い斬撃が上空にいた大量の女神ごとDEMの兵器諸君を消し炭にする。
「あれは、反転十香……そろそろ出ても良いだろうか」
「ダメですわよ」
おや。
「欲しい時は呼びますから、カリオストロさんはまだ出て来ないで下さいまし」
「本体からの伝言、と言うわけだね」
はい、と女神分身体。
仕方あるまい。
傍観といこうか。
「ようやく見つけたぞ、カール」
そんな時だった。
黄金色の君が私の前に降り立ったのは。
ーーラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ=メフィストフェレス。
我が親友であり、自滅因子。
彼はようやく見つけた、といったが、目の前にあるラインハルト・ハイドリヒの魂は彼のものとしてはあり得てはいけないほど淀み、曇っている。
強いて言うならば、黄土色のマーブルだろうか。
「あぁ、黄金の獣ともあろう貴方がなんたる体たらく」
というか、獣殿の皮を被った偽物だろうこれ。
まぁ、私は水銀の皮を被った偽物だが。
「かの美しい魂は天狗道にでも犯されたのですかな。貴方の魂は、淀み、濁り、汚れてしまっている」
「何をいっているか分からんな。私はハイドリヒ。ラインハルト・ハイドリヒだ。黄金の獣以外の何物でも無い」
「……ふむ。姿形だけ真似たところで至高の黄金には届きませんぞ。以前の不愉快な贋作に味を占めた何者かがいると見た」
ラインハルトとしてあれ、と命令された魂と言ったら良いだろうか。
軽い自虐を含んだ言葉を金メッキの獣に放つと、分かりやすく激昂した。
そういうところが金メッキだと言うのだが。
「……私はッ!ラインハルトだァッ!」
「無用な役者には退場頂こう。あぁ、女神よ。我が影にでも隠れるとよろしい。我が友を騙った罪、その消滅を持って贖罪とするとしよう」
「ーー
確かに彼の槍ならば形成位階でも十分に戦えるだろう。
ーーその魂が偽物で無ければ。
「ぐが……!?」
黄金ならばまだしも、金メッキのような偽物が聖槍を手にするなどおこがましい。
そもそも視界に入れるだけでも致命的なダメージとなるそれを、黄金と聖餐杯以外が使えるとどうして思うのだろうか。
聖餐杯ですら渇望となる程思い込みをしなければ槍を借用出来ないというのに。
「あぁ、なんと哀れな。なんと滑稽な。槍の正統後継者たる黄金の獣ならば未だしも、お前の様な芥が槍を目視することなど叶うわけもなかろう。あぁ、なんとも無様か。ただ武器を手に取っただけで勝敗が決してしまうとは」
それだけあの槍が規格外という証左でもある訳だが。
目の前でひび割れ砕ける金メッキに、幾つかの魔術的導線を見つけた。
線を辿ろうと手繰るが、既に切断された切れ端が現れるのみ。
どうやら、ちょっかいを出したがる何者かがここに至って現れたらしい。
正体は転生者か。それとも別次元の神とも言うべきものか。
ともあれ、無用な手出しは控えてもらおう。