魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen   作:ルル・ヨザミ

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また、長期にわたって更新できず申し訳ありません…。別にモチベーションがなかったわけじゃないんですけど、終わり方がわからなくなって試行錯誤していたらこうなってしましました…。本当にすみません…。
あ、あと 桜金 の読み方は おうごん にしました。


第53話 桜金が導く未来

 「でやぁぁぁぁ!!」

 「やぁぁあああア!!!」

 

 二人のなのはの拳がぶつかり合う。お互いの気持ちもまた、ぶつかる。

 PWなのはを絶望から救いたいと考えているなのは。なのはを倒し、自らの世界と今いる世界の融合を完遂し自分の望みを叶えるため戦うPWなのは。

 

「本当に忌々しいモードだネ!こっちの攻撃が全く効かないなんてさァ!!」

 

 PWなのはの放った拳は、なのはに捕まれてしまう。そして、そこから背負い投げの様な形で近くにあったビル目がけて投げられてしまう。

 

「これでもまだ続けるつもりなの?」

 

 崩れたビルの外壁からPWなのはが砂煙をたてながら飛び立つ。その表情はまだこの戦いに諦めていない様子が伝わって来た。

 

「…そこまで…世界を恨めるものなの…?確かに家族が居なくなるのは、殺されるのは辛いけれど…。犯人に復讐を果たしてもなお燃え続けているその感情は…いったいどこから来るの?」

「黙れぇぇエ!お前もいずれ出会うだろうさァ!心の底から憎いと思う人間ト!!そして恨むサ!そんな人物と巡り合わせた世界とその運命ヲ!!!」

 

 なのははその鬼の様な形相で叫ぶ自分と同じ顔をした少女の言葉の意味を自らの中で考えた。

 世界を恨むほどの憎しみとの出会いというものを。

 

―NANOHA SIDE―

 

いったい、長い人生の中で世界を…人を一度も憎まず、憎まれず過ごせる人ってどのくらいいるんだろう…あの子の言う通り、今の私には居なくてもきっといつかできるのだろう。誰だってそう…性格が合わなかったり、意見が合わなかったり、きっかけはきっと様々。

だけど、それで世界を恨んで、憎いからって命まで奪って…それで本当に憎しみや恨みって終わったり消えたりするのかな…?私は何か違う気がする。だって、人が生きていく間に出会うのはそんな人たちばかりじゃないと思うから。

お母さん…お父さん…お兄ちゃん…お姉ちゃん…アリサちゃん…すずかちゃん…ユーノ君…フェイトちゃん…はやてちゃん…ヴィータちゃん…シグナムさん…ザフィーラさん…シャマル先生…リィンフォースさん…ツヴァィ…リンディさん…クロノ君…エイミィさん…魔法を手に入れる前も後も変わらず一緒に居てくれる人がいた。その人たちは恨むとかそんなんじゃない、むしろ感謝したい人たちだ。…そっか、私には居たんだ…家族以外で家族の様に私を支えてくれる人が。向こうの私にもいたかもしれない、でもきっと気づかなかったり、見ないふりをしていたのかもしれない…。かく言う私だって、そんな状況をどこかそれを俯瞰する様な目線で見ていた。どこか心に穴が開いているようでもあった。でも今、パラレルワールドの私と出会って、戦って気づいた。恵まれてる故のとかそういう事じゃない、私が感じている心の穴。

家族はどんな危険からも守ってくれた。私が危ないことをしようとしてる時はお兄ちゃんやお父さんが心から心配してくれた。お母さんやお姉ちゃんも心配もしていたけど信頼もしていてくれた。昔、お父さんの命が危なくなった時…家族皆でその危機を越えようとしていた。その時、私は何もできなかった。家で皆の帰りを待つだけ…。だからこそ、私はきっと誰かの支えになろうとしたんだ…すずかちゃんをからかっていたアリサちゃんを止めたのも、ジュエルシードを集めているフェイトちゃんとそのお母さん、プレシアさんを止めようとしたのも…闇の書の闇に囚われたヴィータちゃんたちやはやてちゃんたちを助けたのも…みんなみんな…私が誰かの支えに…力になろうとしてやったことだった…。

そうだ…私は、誰かの力になりたかった!誰かの涙を見たりするのは嫌…!リィンフォースさんの時のように、悲しい出来事をを悲しいまま終わらせたくない…だからもっともっと強くなりたかった。そうあの夜空に誓ったんだ…。

きっと…目の前にいるパラレルワールドの私もきっと…そうだったはずなんだ。私と同じだったはずなんだ…。だけど魔法を手に入れる前も後も家族の様に寄り添ってくれる人が居なくて…帰りを待ってくれる人も居なくなって…そんな彼女を動かしたのは純粋な憎しみ…。全うな恨み。

全く同じ状況に私が置かれたとして、彼女の様にならないで済むだろうか…自信はない。

でも、それでも…それが他の世界に迷惑をかけていい理由にはならない。自分の大切な人を蘇らすために誰かを殺していいなんてはずはない。

 そっか…この状況、プレシアさんの時とそっくりなんだ。この場に立っているのがクロノ君じゃないだけで…家族を蘇らせようとしている魔導師の事件…。あの時、私には力がなくて何もできなかった…プレシアさんとフェイトちゃんの両方を救うことができなかった…だったら、今私がすべきことはたった一つだ。もう一人の私とその世界の両方を救う。できる、私ならできる!

 彼女の言う憎しみを抱く人と出会うとしても、いつか世界を恨むことになったとしても、私は全力でぶつかってみるよ。もちろん、もう一人の私とは違う方法でね…。

 

「やああああぁあぁぁあア!!」

 「無駄だよ」

 

 私は飛んできた拳を正面から、掴む。

 

 「…貴方何で泣いているノ…!?」

「…だって…貴方に私は何もできてない…いや、できなかった…!もっと早く出会えていれば…!…貴女をもっと早く救えていたっ…!」

「ふざけないデ!何が何もできないだヨ!いつ出会っていていてモ…何も変わらなイ!私はきっと同じ道を歩ム…!あの魔導師を殺シ、貴方と戦っていタ!!」

「…そうだね。そして、私も貴方を止めていただろうね…」

「そうヨ、そして、涙を流される覚えなんてものもなイ。同情なんていらなイ…!貴女に理解される事なんてなイ!」

「理解できるよ!私と貴方は同じ人!歩む歴史が少しだけ違っただけの…同じ人だもの!」

「違ウ!何も同じじゃなイ…!どんな歴史を歩もうと、幸せに包まれている貴方が私と同じなんテ!」

「貴方は私には過去を懐かしんでいるわけじゃないって言っていたけれど…本当に過去を懐かしんでいない人が、家族を生き返らそうとするの?きっと、貴方は未来を創ろうとなんてしていない、過去に囚われたんだ…!」

「戯れ言ヲ…!」

「戯れ言でもいいから聞いて欲しいの…私の話…!」

「私は家族ヲ…未来を取り戻ス!もう…止められなイ!」

「止めるよ…!貴女も、貴女の涙も…!」

「涙…?…ッ!?な、何で私は涙を…!」

「心のどこかで救って欲しいって願っているんだ…だから涙が流れる…心が傷ついて痛いんだ!」

「わかったような事を!」

 

もう一人の私が殴りかかってくる。その拳には魔力がこもっている。私もその拳に当てるよう魔力のこもった拳を突きだす。

ぶつかり合った時爆発を起こす。そしてその時私の中にどうしようもない悲しみが流れ込んできた。これきっと彼女の悲しみ。

 

「貴方の悲しみが…拳を通じて伝わってくる…!どうしようもない…やるせない悲しみが…やっぱり過去に囚われてしまった自分を救ってほしいって、心の底では思っているんだよ!」

「うるさぁイ!!黙れェ!!黙レェェェ!!!」

 

涙を流しながらもう一人の私は拳を振るう。私も涙を流しながらそれを払う。そしてカウンターを入れる。

 

「ぐッ…!」

「悲しいんだ…貴方とぶつかり合う度…私の中に貴方の悲しみが…絶望が流れ込んでくる…!」

「それなラ!そこまで私に同情できるなラ!本当にそうならわかっているはずだヨ!私が何でこうまで必死にこの計画を続けようとするのカ!私の家族を失ってからの日々の辛さガ!」

 

 もう一人の私が何度も拳を叩きつけてくる。それは冷静なものではない。ただ感情のままに振るわれている、とても乱暴な攻撃…。きっと彼女はそれだけ追い詰められているという事なんだろう…。

 

「わかる…わかるよ…。でも、それでも!誰かを殺していい理由になんてならない!貴女が殺そうとしてる誰かもまた!誰かの大切な家族なんだから!」

「だからどうしたっていうノ!!私だけが何で…!家族を失い、未来に絶望しなきゃいけないの…!この絶望は復讐を遂げたとしても消えなかった…ずっとずっと、心を蝕んでいった…!じゃあ、恨むしかないじゃない!世界を!こんな運命を私に押し付けた世界を!」

「なら…そこまで傷ついていた貴女なら…一番理解できたはずじゃない…!大切な人を…家族を失う辛さや…悲しみを…!」

「じゃあ…じゃあなんで私の家族は…私の家族だけガ!死ななければならなかったノ!不公平だ…皆ばかり…何も失わず生きて行こうだなんテ!」

「違う!人は生きる限り、何も失わないなんてことは無い!いつも何かを選び捨てていく。…確かに、生きていく事は不公平や理不尽の連続だと思うよ…でも、どんなことがあっても私たちは生きていかなきゃならないんだ…。だとしても…だとしても!!と心を鼓舞して!!!そして、決して誰かを犠牲にして死んだ人を蘇らすことが死んでいった人たちへの報いになるわけじゃない!辛いことがあっても前を向いて、何が何でも生きていかなきゃいけないんだ!」

 「辛すぎるじゃなイ…そんなノ…!」

 「挑むことだけが生きるという事ならそうかもしれない…。でも生きるという事は逃げてもいいんだ。貴女が大切に思っている家族との思い出を懐かしむ様に。挑み、逃げる、それが人生なんじゃないかな…?それに、貴女が家族といた、その時間は確かにあったんでしょ!それを忘れろなんて言わない、言うはずがない。でもそんな時間を貴女はこれから、家族以外の人と築いていくんだ!」

 「家族といた時の様な時間を…別の人と…?無理だよ…そんなノ…」

 「逃げることも人生だって言ったけど、最初から逃げてしまったら何にも始まらないよ!今は貴女が止めた歩みをもう一歩前に進めるだけで、始まるんだ!何もかもが!」

 「そんな綺麗事…!何とでも言えるじゃなイ!」

 「綺麗事だとしても…いやだからこそ、本当の事にしていくんだよ!」

 「…ぐっ…私は…私はッ…!」

 

 あれ、段々あの子の言葉からノイズが消えてきている。…もしかして、それが彼女の心の変化によるものだとするなら…!

 

 「もう…絶望することを恐れる必要なんてないんだ!貴女が迷った時、私は手を差し伸べるよ。私だけじゃない。この世界の人、貴女の世界の人、皆が手を差し伸べてくれる」

 「……いつか裏切られるかもしれなイ…私がやって来たように…」

 「じゃあ、その時は貴女がその人に手を差し伸べるんだ」

 「裏切った人に…?」

 「うん!だってどんな事情があったかもわからないのに責められないでしょ?」

 「どんな事情があっても…裏切られたら手を差し伸べられる自信はないよ…」

 「じゃあ、お話を聞くだけでもいいと思うよ。こうやって今私がしているみたいにね…」

 「ははっ……やっぱり私と貴方は違う…」

 

 そう笑う彼女の表情は今までの憎しみに染まった顔じゃなかった。なにか気づいたような、前向きになった様な顔をしている。

 

 「えっ…?」

 「こうやって話しているだけで分かる…。貴方は私と違って優しく、強い…」

 「本当の強さってなんだと思う…?」

 「本当の強さ…?」

 「私はね…貴女みたいに誰かのためだけじゃなく、自分のためにも動けることだと思うんだ」

 「よく聞くのは、自分のためじゃなくて人のためだけド…逆なんだね…」

 「だって、人のため人のためって言って、自分の事が疎かになってしまうなら、きっとその人は他人の前に自分に気を配るべきだって思うから。でも他人にも自分にも気を配って何かできる人は本当の意味で強く素晴らしい人だって…そう思うんだ」

 「じゃあ、貴方の事だね」

 「いや、私はまだだよ…。きっと近い将来そうなれると信じて努力はしているけどね」

 「…私もそうなれたら…どんなに良かったか…。…ねえ、最後にいい?」

 「最後?」

 「うん、最後にお願いしていい?」

 「う、うん…。いいけど…。何?」

 「全力…全開。手加減なしの砲撃対決をやって欲しいの。勿論影も使わない。純粋な砲撃対決」

 「…わかった。それで貴女が満足するなら…」

 「少しだけ、貴方の言葉を信じてみるよ。一歩前に進むためニ…私なりの区切りが欲しいんだ…」

 

 —NANOHA SIDE OUT—

 

 PWなのはの言葉になのはは頷く。

そして、二人は今一度距離を取る。この距離は一人の少女が、復讐と過去に囚われていた自分との決別し、もう一度本当の意味で、未来に生きる歩み始めるための距離である。

 なのはが両手を前に突き出し、収束を始める。PWなのはもまた同じように始める。金色に縁どられたピンク色の光がなのはに集まっていく。黒に縁どられたピンク色の光がPWなのはに集まっていく。両者に同じように集まっていく魔力。

それを各管理次元世界の人々やフェイトたち、パラレルワールドのフェイトたちが見守っていた。この時、誰もがなのはに希望を託していた。しかし、PWアリサの時の通信がつながっていたままになっていた事で思わず、PWなのはの心の叫びを聞いた世界中の人々がなんと、PWなのはのにも自分たちの希望を託したのだ。恨みではなく、希望を。本当に、なのはの言った通り、色々な人々が手を差し伸べてくれたのだった。

 

 「さぁ…!行くよ!」

 「うん……。これで私はもう一度歩むんだ…。それくらいの贅沢…いいよね…?」

 

 二人が突き出していた手を左手だけ引き、思い切り左手を前に出しながら魔法の名前を叫ぶ。明日へと進むための道標となる星の光。

 

 「「スターライト!ブレイカァァ―!!!」」

 

二つの閃光は、ぶつかり互いに混ざり合うように中心部に渦巻きながら球体を作っていき、キラキラとした粒子になり散った。

 爆発は起こらなかったのだ。まるで、PWなのはの新たな人生の門出を祝うかのように、スターライトブレイカーは夜空に煌めく光となった。

 

 「こんな事になるなんて…。本当だ、人生何が起きるかわからないもんだなぁ…」

 

 PWなのははしみじみとその散り行く光を見つめていた。なのははその姿を見て微笑んでいた。それは短いがとてもやさしい時間であった。

 その後、PWなのはとなのはは地上へ戻り、フェイトたちと合流した。

 この時、一連の事件はひとまずの終結を迎えたのである。

 

 「全く…どの世界のなのはは無理をするんだね。こっちの気も知らないで」

 

 フェイトがため息交じりにぼやく。それにはやても同調し、微笑んでいた。

 

 「談笑しているところ済まないんだが、パラレルワールドの方のなのはは、このまま取り調べに協力してもらうぞ」

 「クロノ君…それってやっぱりもう一人の私は罪に問われるのかな…?」

 

 クロノは少し考え口を開いた。

 

 「魔導師殺しに関してはこちらの世界の事じゃないから関係ないだろうけど、“影”の一連の事件や、今回の世界を融合の件はこちらの世界で行っているからなぁ…無罪は難しいだろうな…」

 

 クロノの言葉に、その場に居たなのはやはやて、フェイトの表情は暗くなる。そして、通信しているままのPWアリサもまた、寂しそうな表情をする。

 

 『なのは…帰ってこれないんですか…?』

 

 PWアリサがクロノに聞く。

 

 「帰れないことは無いだろうけど…かなり長い時間拘束はされてしまうだろうね」

 『そんな…』

 「…バニングスさん、心配してくれてありがとうね。でも私なら大丈夫だから。ちゃんと償ってから帰るよ」

 

 PWなのはがPWアリサに声をかける。戦闘中に交わした会話とは違う互いを思いやっている会話。それを聞いていたフェイトはPWなのはに一つだけ提案をした。

 

 「あの時の返事をしてあげなよ。友達になりたいって言われたんでしょ?」

 

 しかし、PWなのはは、少し寂しそうに、「私、友達の作り方とか知らないから…どうやったら友達になれるのかわからない…」と答えた。

 その答えに、フェイトは一度なのはの方を向き、笑顔で友達の作り方を教えた。

 

 「ふふっ。友達になるのはね、とても簡単なんだ。名前を呼んであげて、それだけでいいの」

 「名前で…?…あ、アリサさん…!」

 『ひゃ、あああはい!』

 「私と…友達になってくれますか…?貴方を殺そうとした私と…」

 『うん…!もちろんよ!!それに、私今死んでないし、全然気にする事無いわ!』

 

 そうして、PWの二人は、迎えの転移魔法の準備ができるまでの間、ずっと話し込んでいた。ようやく、二人は友達になれたのだ。

 

 「…転移魔法の準備ができた。さあ、行こう」

 

 クロノが、PWなのはを連れて魔方陣まで行く。

 

 「そうだ。多分世界の融合はゆっくり元に戻っていく筈だから、今はそこまで気にしなくていいと思うよ」

 「うん…わかった。…またね!もう一人の私…いや、ナノハちゃん!!」

 「いつか、また会おうね…ナノハ!」

 『私も、待ってるから!なのは!』

 

 なのは、フェイトPWアリサに続いて、はやてやヴォルケンリッター、こちらの世界のアリサとすずか、向こうの世界のすずかとフェイトなどから、完全に転移されるまで別れの挨拶と、再開の誓いをされ、一時の別れとなった。

 

―ANOTHER NANOHA SIDE―

 

 今私は時空管理局航行艦アースラの中に居る。自分の世界の時は片手で数えるくらいしか来てなかったけど、内装が変わらないという事はわかる。パラレルワールドと言っても、大きくは変わらないんだなという事がありありと実感できた。

 …今になってこんな事を思うとは思っていなかったけど、この世界を壊さなくてよかった…。私は今そう思っている。

 私はこの世界の私の言っていた通り、過去に執着していたのかもしれない。それは悪い事ではないんだろうけど、あまりにも執着しすぎると今回の私みたいなことになってしまう。そうなってしまったら何も言い逃れできない、悪い事だ。

 家族は今だって大切だし、あの魔導師も今だって憎い。でも、それでも、どうにか前に進まなきゃいけない。辛い事ばかりだったけど、きっとこれからも辛い事は絶えないと思うけど、今の私にはアリサさんや、こっちの世界の人達という友達ができた。それだけで何かとても心強く思える。

 ずっと友達のふりをして、私の世界のフェイトさんや、はやてさんを利用していたけれど、もっと早くに本当の友達になれていたのかな…?

 …あの二人にも悪い事しちゃったな…。もし帰れたら、ちゃんと謝らなきゃね。そして、本当の友達にしてもらうんだ。…許してくれるだろうか、こんな私を…。

 …今こんな事考えている暇じゃない。償う事を考えなきゃ!

 

 「大丈夫か?何か考えこんでしまっているが」

 

 クロノ執務官が話しかける。私は「すいません。大丈夫です」と答え、取り調べ室…ではなく食堂の椅子に座った。

 

 「何で食堂…?」

 「君も僕も、食事が済んでいないだろう?」

 

 執務官は優しい人なんだなぁ…。

 

 「あ、ありがとうございます…」

 「…食べるものとって来るよ。少し待っててくれ」

 

そう言うと執務官は、部屋の奥にあるカウンターまで走っていった。

 今なら逃げれるのだろうかとも思ったが、両手に手錠、出入り口には武装局員。満身創痍の私にはとても突破できないだろう。ここは素直に、食事を待つ。元々逃げるつもりなんてないのだけれど。

 

 「お待たせ、食事は一種類しかないから、我慢してくれ」

 

 そう言って差し出された食事は、普通にお腹がいっぱいになりそうな料理たちだった。ここに不満など出るはずもない。

 ありがたく食べさせていただこう。

 

 「我慢だなんて、こんな立派なものをいただけるんですから、不満なんてありません。いただきます」

 

 手を合わせ、食事を始める。思った通り美味しいご飯だ。

 食べている時に気づく、私は今逮捕という形なのだろうか?個人的にはそうではないかと思っていたが、執務官からは逮捕という言葉は聞いていない。…今の自分の境遇は何なのだろうか…?

 

 「すいません…。食事中に質問なんて行儀が悪いんですが、私は今逮捕されているという事でよろしいのでしょうか?」

 「うん?あー、確かに逮捕するとは言ってなかったな…。一応そうしておいたほうがいいのは確かなんだが…“影”たちと君との関係性がはっきりしていないからな、今は参考人という形で拘束させていただいている」

 

 なるほど。確かに私は自分で“影”の制作者だとは言ったけどあれは魔力反応がない物質で、管理局も詳しくわからないんだ。

 

 「理解しました。“影”の事など、しっかり、説明させていただきます」

 「ああ、そうしてくれると助かる」

 

 また、食事に戻る。しばらくすると、一人の局員が、執務官に話しかけてきた。

 どうやら、外から私と執務官宛てに通信が来たらしい。…執務官はわかるけれど、私にも…?何とも不思議な話だ。

 

 「んー…。よし分かった。繋いでくれ」

 

 執務官が指示すると、すぐに目の前に通信用のウィンドウが表示される。

 通信先の名前を見てみると、拘置所から来ているようだ。この世界の拘置所に私の知り合いなんていないと思うのだが…。

 

 『やあ、初めまして。そちらのお嬢さんは久しぶりだね』

 

 画面に出てきたのは、特に見た事の無い男性だった。久しぶり、というとこの世界の私の知り合いなのだろうか…?しかし、私もこの男にどこか懐かしさを感じている。

 私の世界で似た人と会ったことがあったのだろうか…?

 

 「君は…時空保安局の局長だった…」

 『そう!正式には“断罪の影”さ!クロノ執務官は初めましてだが、そこの高町なのは君は私を知っているだろう?ねぇ、マスター』

 

 “断罪の影”!?そ、そうか。だからこの男に懐かしさを感じていたのか。

 

 「すべての“影”は私が吸収したと思っていたのに…何で貴方がそこに居るの?」

 「次元が遠すぎてね。貴方の蒐集の範囲から外れてしまったのですよ」

 

 そう言うことだったのか。それにしても、何で通信なんか…?

 

 「それで?君はボク達に何の用なんだ?それを言うためだけに通信をしてきたわけじゃないんだろう?」

 『もちろん。…話は単純さ。私の中から“影”の反応が消えて、マスターがそこに居るという事は、全ての事件が終了したという事だ。そして、ここまでの一連の事件の首謀者を明かそうと思っていたんだが…』

 

 …?それは私だろう。首謀者という仰々しい言い方をしなくても、それは間違いなく私の事だ。自分でもそう思っている。

 

 『私なんだ。私こそが、この一連の事件の黒幕!というわけなんだ。マスターは、私の意のままに動いていただけで彼女に罪の全面があるわけじゃない』

 「なんだと!?それはどういうことだ…!?そもそも君たちは、彼女が魔術師を殺すために作られたユニゾンデバイスなんだろ?それが何で…!まさか…“断罪の影”…君はこの子をかばおうとしているのか…?」

 『そんなんじゃあない。そもそも私はマスターを殺してるんだ。かばう義理は無い。しかし、事件の黒幕というのは本当さ。まあ、マスターも気づいていなかったと思うけどねぇ』

 

 “断罪の影”が黒幕…!?私が知らない間に奴に操られていたというの…?一体いつから…?

 

 『ふふふ。その様子じゃ本当に気づいていなかったようだね。そもそも“影”で最初に作られたのは三体。不屈、束縛、そしてこの私断罪だ。そして、自我というのを持ち始めたのは私が一番最初だった。タイミングとしては彼女が復讐を完遂しようというところだった。そこで私は自分の存在がなんなのか気になった。まあ生きる者なら一度は考えるであろうアイデンティティの存在を探したのだ。ここで私の名前をもう一度考えて欲しい。“断罪”だ。そう、罪を裁く事を指す言葉だ。私の能力は前にカリスマみたいなことを言ったかもしれないが、それは端的に説明しただけだ。正確には私が裁く裁判官の様な立場となる事でことで対象に私の言葉がすべて正しい様に聞こえる様にさせるというわけだ。つまり私の能力の正しい認識は、洗脳に近いのかもしれないな。そして、私はこの能力を自覚した時気づいたのだよ。これはきっと、自分の復讐心をマスターが忘れないようにするために作った能力だと。…まあ、あくまで自分勝手な解釈だけどね。そして私はマスターに言ったわけさ《貴方の復讐はまだ終わっていない》ってね。それからさ、マスターが他の“影”を作って、家族の蘇生を計画し始めたのは』

 

 そんな…。言われてみれば、“断罪の影”にそんな事を言われた記憶はある。しかし、そこからの私の行動が、思考が…全て自らが作った“影”の能力下だったなんて…。

 じゃあ、あの世界への憎しみや運命への恨みは…全て…偽りだったの…?復讐を終わらせないための、対象として私が勝手に作り上げただけだったっていうの…?

 

 「つまり、一連の事件の発端を作ったのは自分という意味で、君が黒幕という事なのか?」

 『そういうことだ。私が何も言わなくても似たようなことを行っていたかもしれない。しかし、実際は私がマスターを洗脳したことで起きてしまった事件だ。…まさか、私の能力が破られる時が来るとは思っていなかったがね。この世界の高町なのはは化け物か何かかい?』

 「どの世界のなのはも、ただの一人の女の子だ!ふざけたことを言うんじゃない!」

 『ああ、気に障ったのならすまなかった。そんなつもりではなかったのだ。』

 「じゃあ、私の罪は…」

 『マスターが自らの意思で行ったのは魔術師殺しだけさ。後は私の洗脳下で行った。それが全てさ、マスター』

 「そんな…」

 「…それが本当なら、彼女はこの世界で裁けないぞ…!」

 『しいて言うなら、私を生み出したことくらいですかね?よかったですね、罪軽くなって』

 

 …それでいいのだろうか?確かにそれを受けいれたら多少罪は軽くなるのかもしれない…でも…本当にそれでいいのだろうか…?

 

 「そうだったとしても、それが全てだとしても…私はちゃんと償いたい…。自分がこの世界で行った事を…」

 『それだと、もう貴方は自分の世界に帰れませんけど。それでもいいのですか?』

 「えっ…それは本当なの…?」

 『そりゃあねぇ…。“影”を使っての民間人への暴行、無断次元渡航、武装職員の殺害など…罪状は沢山ありますから』

 「もう…会えないの…?」

 「まて!“断罪の影”、君はもう話すな!!これ以上ナノハの心をかき乱すのはやめてもらう!!」

 「執務官…」

 「確かに、君がここまでの事件の責任を取るというのはかなり重い罪なるだろう。…しかし、君が洗脳下に居たというのはかなり重要な事なんだ。君が罪を償いたいと考えていても、君が感じるべき責任じゃないかもしれないのだから。だから、君と“断罪の影”の話をしっかり聞いて、君が償う罪だけを整理しよう…?」

 

 執務官は私の肩を掴み、必死に語りかけてくれた。…さっきまでの強い絶望感は無くなった。そうか、私が償わなきゃいけない罪とそうじゃないものがあるのか…。無理して全てを背負わなくてもいいんだ…。

 

 「すいません…。取り乱してしまって…」

 「いや、こっちもちゃんとフォローできなくて申し訳ない…。“断罪の影”!君はまた、取り調べが始まるが、構わないな!」

 『ええ、もちろん。…マスター、私は本当にあなたを追い詰めたかったわけじゃない。せめて、本当のことを言って一緒に背負おうと思ったんですよ…罪を。だって、私と貴方は、親子の様な関係…まさしく、家族じゃ…ありませんか…』

 

 そう言うと通信は切れた。面会時間が終わったのだ。

 そうか…私と“影”たちが家族…。考えてもみなかった。そうか、既に居たんだ…私の新しい家族…。何で…気づかなかったんだろう…。

 

―SIDE OUT―

 

 そうして、PWなのはは、“断罪の影”は地球で起きた事件と、保安局の事件の罪の取り調べを行うこととなった。罪の割合としては“断罪の影”が7割、PWなのはが3割というもので、裁判が行われることとなった。

 その裁判は事件終結から一年後、“断罪の影”は終身刑。PWなのはは保護観察処分という形で判決が下された。判決の翌日に“断罪の影”はPWによって、寿命のシステムを組み込まれ、あと百五十年の寿命となった。彼はその後、第九無人世界グリューエンの軌道拘置所に収監されることになった。

 PWなのはは、流石にすぐに自らの世界に帰れるということは無く、嘱託魔導師という道もあったが、それも断念。故に彼女が行ったのは自らの魔術知識や技術の提供であった。理論上できるが、個人で作れるコストではないため諦めたりした電磁式カードリッジシステムなどの技術が一年かけて、管理局の技術部に伝えられた。

 世界融合の影響は二年経っても確認されてはいないが、未だに空に異世界が見えている現状は変わっておらず、一応少しづつ離れていっているのは確かであることが、PWなのはによって証明されている。

 そして、さらに時間が経ち半年後、PWなのはは自らの世界に変えることが許可された。

 帰る日には、なのは、フェイト、はやて、ヴォルケンリッター、クロノ、アリサ、すずかなどが見送りに訪れ晴れやかな別れの日となった。

 




最後まで読んで下さりありがとうございます。多分次回が最終回です。
感想やお気に入りくれるとありがたいです。
お気に入りしてくださっている方、チラッと見に来てくださった方、ありがとうございます。次回も読んで下さるとうれしいです。

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