魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen   作:ルル・ヨザミ

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第44話 星が強く輝くとき、そこに影はいる

 アリサとPWなのはの戦いは動かない。アリサはクロノとの約束を守るため逃げ出すタイミングを窺っているのだが、PWなのはは相手の出方を狙っているのか。それとも知らず知らずの内に罠の中に引き込んでいるのか。

 

 「戦うなんて言っておいて、全然攻めてこないのね」

 『挑発のつもりなの?私は中遠距離型の魔導師だから、これでいいんだよ』

 「なにそれ、どういう…」

 

 アリサがフレイムアイズを構えながら一歩前進した時、足元からピンク色の魔力弾が三発飛んできたのだ。

 間一髪アリサはフレイムアイズで切り払うことに成功し、すずかにも危険が及ぶことはなかった。

 

 「な、何今の…?足元かアクセルシューターみたいのが飛んできた…?」

 『あ、こっちの私もアクセルシューター使うんだ。やっぱり私だねぇ…』

 「今の何よ!」

 『敵の攻撃の正体を敵に聞く。新しすぎる戦法だよアリサちゃん』

 「わかんないんだもん!しょうがないでしょ!」

 『じゃあ、足元見なよ。すぐわかるよ』

 

 アリサが足元を見るとPWなのはの足元から影が一筋アリサの足元まで伸びていた。よく周りを見ると、PWなのはの足元から放射状に影が伸びて、まるでアリサとすずかを囲うように張り巡らされていた。

 

 「なにこれ…結界みたいになってる…」

 『上空にも張ってあるよ。アリサちゃんは私が”影”たちの製作者って忘れてない?私の基本戦術は影を使うの。今やってるこの影の結界は影を踏むと踏んだところとその近くの影からアクセルシューターが飛び出すようになってるから』

 「なっ…!そんなの逃げれないじゃない…!」

 「アリサちゃん、その間を通るようにすれば…」

 「そんなの本体からの攻撃で落とされるわよ…」

 『おや、中々鋭い』

 「私がこの技使うならそうするからね…」

 『いいね、いい目だ。その闘志、焦り、まだ持ち続ける希望…。いいねいいねいいね!その心が純度を高める!素晴らしい器になるための純度が…!』

 

 PWなのはが恍惚な表情になる。手でアリサの頬をさする様なジェスチャーをして、名残惜しそうに手を下ろしすずかに視線を移す。

 表情は変わらず恍惚なままで「いい…」と小さな声で呟き、下ろしている手を上げ、自分の右手で左手をさすり始めた。その行為は一体何を意味するのか。わからないアリサたちはただ恐怖した。

 

 『楽しみだなぁ…楽しみ…。うん、早くやろう。もう待ちきれなくなったからさっさと終わらせるね、アリサちゃん』

 「早く終わらせる?じゃあさっさと投降して、お縄になりなさい!そうすればもっと早く終わるわよ!」

 『貴方のその熱さが!私の心を刺激する!!』

 

 PWなのはが飛び出す、そしてアリサの間近で止まりその顔を殴り飛ばした。

 アリサはその攻撃に咄嗟に反応できず、殴り飛ばされてしまう。さらに影の結界は解かれていないため、アリサが飛ばされ移動したところまでの影から一斉にアクセルシューターが飛び出す。PWなのはのさっさと終わらすという言葉通り、この一撃でアリサは戦闘不能まで追い込まれてしまった。

 

 「ぐっ…ぁぁ…」

 『あっさりと終わっちゃったね。私はその方が助かるからいいけど。』

 「まだ…まだよ…。終わってなんか…!」

 「アリサちゃん…」

 『やっぱりこのアリサちゃんは一番いいアリサちゃんだ!素晴らしい…。そしてすずかちゃんも、綺麗…とても綺麗…』

 

 PWなのはがそう言いながらすずかに近づこうとするとアリサがPWなのはの足を掴む。すずかの方へ行かせまいとする小さな抵抗だった。

 

 『…意外と精神力高いんだね。でもこんな力じゃ私を止められやしないよ?』

 「いいの…よ…。この位置にいて欲しかったの…」

 『位置?』

 「フレイム…アイズ!」

 ≪おうよ!!≫

 

 アリサの掛け声と共にフレイムアイズの宝石部分が輝きだす。フレイムアイズがどこにいたのか?それはPWなのはの右足の下…である。

 PWなのはの右足の下から火柱が上がる。天をも焦がさんとするその炎はPWなのはをたやすく飲み込んだ。

 

 「ど…う…?」

 

 火柱が落ち着き辺りを煙が立ち込める。アリサはその間にうつ伏せになっている自らの身体を引きずりながらすずかの元へ行こうとする。

 

 「すず…か…。大丈夫…?」

 「無理しないで、そこにいて!」 

 

 アリサがすずかに手を伸ばした時アリサの背中が誰かに勢いよく踏まれる。

 

 「ぐああああ!!」

 「アリサちゃん!?」

 

 踏んでいたのはPWなのは。その姿、聖祥大付属の制服は全く汚れておらず。肌も艶やか。つまり無傷なのだ。

 PWなのははグリグリとアリサの背中に乗せた足を力強く動かす。それに連動するようにアリサが呻き声を上げる。

 

 『詰めが甘いなぁ…。甘すぎるよ…まるでマカロンみたいだ』

 「あああ…!ぐうう…!すずかっ!逃げ…」

 『人の話聞いてる?えい』

 「ぐああぁぁぁああ!!!」

 「もうやめてよ!なのはちゃん!!アリサちゃんが…アリサちゃんが…」

 

 すずかがPWなのはに訴えかける。先ほどの二度目の踏み付けで大声を上げたアリサの姿にもう我慢ができなくなったのだ。せめて自分だけを、アリサだけは助けて欲しいと。

 

 『それはできない相談かなぁ。元々二人とも持っていくつもりだったしね』

 「そんなっ!?」

 『散々”影”で考察して、魔導師同士の戦いに身を投じている友達の役に立てて、すっごく幸せって…さっきまで使用人に話してたじゃない。もう十分幸せになったでしょ?はい、幸せしゅーりょー。ここからは不幸せと理不尽でーす』

 「こんな…こんな事って…」

 

 すずかの目には絶望しか宿っていなかった。涙すら出ない極限の絶望。それがすずかを、そしてアリサを包んでいた。

 自分たちはここで死ぬのだ。そう思っていた…。まさにその時。

 

 「ディバイーン…バスターァァァ!!!」

 

 ピンク色の砲撃がPWなのはに向けて放たれる。

 

 『これは!しまった…意外と粘られて時間をかなり使っていたみたいだ…。彼女が来るなんて…』

 

 PWなのははディバインバスターを片手のプロテクションで防ぐ一分間の砲撃を全て片手で受け止めたのだ。

 そしてPWなのはの目線はアリサたちから上空に飛んでいる魔導師へ。

 

 「なのはちゃん!」

 「なの…は…?来て…くれたのね…」

 『厄介な…。でも私なんだから何してくるかは予測つくよね』

 「そこまでだよ、もう一人の私…!」

 『あっそう。で、貴方は何しに来たの?』

 「勿論、アリサちゃんとすずかちゃんを助けに来たんだよ」

 『助ける?この二人を?貴方が?』

 「何?何かおかしいことあった?」

 『全部おかしいよ。この二人を助ける理由って何?』

 「そんなの友達だからに決まってる!」

 『…友達…そうかあのすずかちゃんの話にはこの世界の私も入っていたんだ…。つまり、この世界の私はこの二人と友達だったんだね…』

 「どういう事?貴女はアリサちゃんたちと友達じゃなかったの?」

 『私に友達なんていないよ。アリサちゃんやすずかちゃんは一年生の時少しいざこざがあったくらい。ていうかそのいざこざの所為で話さなくなったんだよ』

 「いざこざって…アリサちゃんがすずかちゃんのカチューシャ取った…あの事?」

 『へぇ、こっちでもその出来事は同じなんだ。…そうだよ、その出来事』

 

 そういうPWなのはの目は辛そうな目をしていた。なのはもまたその話を聞き悲しい目をする。なのは、アリサ、すずかの三人はどんな世界でもどんな出会い方でも絶対に変わらない友情だと信じていた。しかし友情が存在しない世界があった事を知ってしまった。

 しかしなのはの心はさらに堅い助けるという決意を固める。

 

 「友情が生まれない世界があったのなら…ならなおさら助けたい!この出会った偶然を、仲良くなれた奇跡を、私は守りたいから…!」

 『……綺麗事ばかりじゃ私には勝てない。貴方に絶望をあげる!』

 

 PWなのはは右手の人差し指でなのはを指さし、その先からアクセルシューターを放った。

 なのはもレイジングハートを構え、アクセルシューターを放つ。

 アクセルシューターは次々と放たれ、その全てが相殺されていく。

 

 「中々…ダメージを与えられない…!」

 『それは貴方が弱いから…だよ?』

 

 その声は背後から聞こえた。

 

 「後ろっ!?」

 『遅い!』

 

 なのはが振り向く直前、背中の中心を蹴り飛ばされてしまった。なのはは地面に落ち、落ちた所に小さなクレーターができるほどの威力であった。

 

 『貴方の純度は…意外といいね…アリサちゃんほどではないけど。悪くない。でもね…貴方はいらない!』

 「また…じゅ…純…度…」

 「アリサちゃん、どうしたの?」

 「すずかも聞いたで…しょ…?あの…なのはが何度…も純度って…い言ってる…の…」

 『あれ?アリサちゃんに教えてなかったっけ、純度の意味?』

 

 クレーターからなのはが飛び出す。そしてなのはもまた純度についての質問をする。

 

 『私には教えないよ。だって関係ない話だもん』

 「え、そんなっ…!」

 『ここで関係あるのはすずかちゃんとアリサちゃんくらいかな?どちらにしろこの世界の私には何もいう事はないよ。敢えて言うならば邪魔しないでってだけかな?』

 「なんでそんなに私を邪険にするの…?同じ人間、同一人物なら分かり合えるはずだよ!」

 『同一…人物?私と貴方が?馬鹿にしないで。全然違うよ。貴方みたいな暖かい空間にいる甘ちゃんと同じにしないで』

 「甘ちゃんって…私は確かに、暖かい人たちに囲まれて幸せに暮らしているけど…自分が甘ちゃんだなんて、認めるわけにはいかないよ!暖かい場所にいたからこそ強くなったんだ!」

 『それの強さに虫唾が走るんだよ!何も失ったことのないその強さが!!』

 

 PWなのはがディバインバスターのチャージを始める。急速に溜まっていく魔力。なのはも急いでディバインバスターのチャージを始める。

 

 「失わないために…私は強くなったんだ…!ただ人の命を脅かす貴女に負けやしない!」

 『私のこと何も知らないくせに!!』

 

 二人のディバインバスターのチャージが同時に完了する。後は放つのみだ。

 

 『「ここで…決める!」』

 

 同時に放たれたディバインバスター。その威力は互角。どちらも引かずぶつかり合う。

 少しPWなのはが進むかと思ったらなのはが盛り返し、なのはが進むかと思ったらPWなのが盛り返す。そのような状態になっていた。

 

 「ぐっ!やっぱり互角か…!」

 『互角…ちぃ…魔力量はこっちが上のはずなのに…!』

 

 互いにどう決着をつけるか考える。このまま爆発させてその隙を突くか、別の方法を取るか。

 なのはが取ったのは「そのまま前へ進む」だった。そしてゼロ距離からのアクセルシューターを当てるという作戦だ。

 

 『私の勝ちだね』

 

 進もうとしたなのはの動きは急に止まった。その理由はなのはの腹部から伸びる影であった。なのはの腹部に影が突き刺さっているのだ。なのは自身が”隷属の影”に乗っ取られていた時にシグナムとヴィータに行った攻撃と全く同じであった。

 

 「あああぁ…あぁ…」

 『アリサちゃんもそうだけど私が”影”を作ったんだからさ…影を使った攻撃くらい予想しておきなよ』

 「しまった…ぁ…!」

 

 背中から刺さった影がスルりと抜け、膝から崩れ落ちるなのは。彼女の意識はもう無い。うつ伏せに倒れ身体の下から血液が地面に染み込みながら広がっていく。

 高町なのはは敗北したのだ。その光景はすずかとアリサに深い絶望を与えることになり、すずかは受け止めきれず気絶してしまう。アリサはキッとPWなのはを睨みつけている。

 

 「よく…も…!よくも…なの…はを…!」

 『さ、行こうか。アリサちゃん。あとすずかちゃん…は気絶してるのか。まぁ抱えられるでしょ』

 

 PWなのははアリサとすずかを抱え、空へ飛び立っていった。その時アリサには影で目と耳を隠して連れ去っていった。

 地上には静寂が返ってきた。あれだけの戦闘を行った月村邸には気絶した月村家の関係者と意識だ戻らないままのなのはだけが残った。




 アリサは「なのは、フェイト、はやて、ヴォルケンズ、クロノたち>>>>>>アリサ」くらいの強さレベルです。魔法戦闘の才能は有りますがまだ経験が足りない的な立ち位置です。
 一番最初の章以来の敗北でした。この展開好きなんですが前の章だと戦っている場所の都合であまりそういうのはできなかったので、できてうれしいです。
 次の話もよろしくお願いします。

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