魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen 作:ルル・ヨザミ
さらに、お気に入りが少しづつ増えていることがかなりうれしいですありがとうございます!UAも予想より多く読んでくださっている方にはもう感謝しかありません。ありがとう…ありがとう…。
これからもよろしくお願いします。
自分の中に”影”が二つもいる。そう考えただけで高町なのはは発狂しそうなほどの恐怖を感じていた。”隷属の影”一つでもコントロールが難しく暴走の危険が常に付きまとっていたのだ。それが”憤怒の影”まで入り込んでいたとなると身震いが止まらないほど怖くなる。
なぜ”影”の力で倒したはずの”憤怒の影”が自分の中にいるのかはわからない。シャマルもわからないと言っていた。
そんなわからないものが自分の中に生まれてきている。その謎のものを利用しようとしている。自分は肝が据わっているのかそうではないのか…。なのはは再び自分を見失いかけていた。
「…はぁ…はぁ…なんで…まだ何もしていないのに…息が切れてきたの…?」
「だ、大丈夫?なのは」
「なのはちゃん?…何がどうしたんや…?」
「だらしないわねぇ………これから私とやりあおうってのに何その体たらく?」
「ぐっ…!はぁ……はぁ……」
なのはは反論をしようと思ったが口が動かない。先ほど生きると宣言した時とは全く状態が変わってしまった。何が起こっているのか自分でもわからない。練習場で倒れた時と似ているような気がする。もしかして自分の中の”憤怒の影”が悪影響を出しているのだろうか…?そんな不安がなのはを襲う。しかしその自分に何か悪影響を与えているかもしれないものをこれから使おうというのだ。不安は感じるがやらねばならない。
「フェイトちゃん…少しだけ時間稼いでくれる?その間にモードするから…はぁ…」
「………わかった…無理はしないでね…」
「よし、私が支援をするからフェイトちゃん頑張って…」
「うん、お願いはやて」
フェイトたちは話し合いをやめ、”束縛の影”と対峙する。”束縛の影”は笑顔を絶やさずフェイトたちを見ている。不気味に感じるが”影”と戦ってきたフェイトの戦意を削ぐのには足りなかった。
「またフェイトなのね。別にいいわ…余興にはちょうどいいし…”隷属”の仇も取れるし…ね?」
「仇…貴方たちにそんな考えがあるなんて意外ですね」
「当たり前でしょう。行動はバラバラだったけれど皆大切な仲間だったわ…同じ目的を胸に抱いた、大切なね!」
”束縛の影”から仕掛ける。フェイトも飛び出していたが、疑似時間巻き戻しにより一拍遅れてしまう。
バルディッシュのザンバーと”束縛の影”の足がぶつかる。痛みを感じないようだが”束縛の影”のズボンが焼き切れてきている。
”束縛の影”は時間巻き戻しを多用する。それはフェイトのは背後で進むなのはのモードチェンジを妨害するためである。当たり前の話であるが五秒の遅延も積み重なればかなりの遅延となる。なのはが遅れればそれだけフェイトが相手をしなければならない時間が増える。先ほどまでの戦いでの疲労が抜けていないフェイトであれば”隷属の影”の仇を取りやすくなる。”束縛の影”はそう考えていた。
「ありがとう…フェイトちゃん…!もう下がっていてもいいよ…」
フェイトの背後にある黒い球体から聞こえる声。”束縛の影”の予測より早くモードチェンジが完了したのだ。
「なのは…!?は、早かったね…!」
「うん。意外と早くできたよ…。」
なのはの言葉が紡がれるとそれに呼応するように、ボロボロとその球体は崩れていった。その中から出てきたなのはは赤を基調とした黒のラインが入ったバリアジャケットに身を包んでいた。それはモードフォーレンの姿ではない。
「…なの…は…?」
「何よ…それ…」
フェイトと”束縛の影”がなのはに問う。敵同士ではあるがここでは同じ疑問が浮かぶのも無理はない。もしこの状況を理解できる者がいたとしたらシャマルだけである。
「これはモード…ネメシス…」
ネメシス。それは義憤。人の道から外れた己に目の前にいる敵に感じる義憤。その感情がエネルギーとなり、”憤怒の影”の力を纏うことに成功した。
「この…この雰囲気…”憤怒”…!?なんであいつはなのは貴方が倒したはず…!」
”束縛の影”が動揺する。死んだはずの仲間の力を恨んでいる相手が使っているのだから当たり前なのかもしれない。
「私もそう思っていたよ…。でもなぜか私の中にいたんだ。気付かないうちに入られていた…?そんなんじゃない。生まれたんだ。私の中で突然」
「生まれた…!?…ならばやはり…貴様は殺さねばならない…!我々の未来を奪う貴様を!!」
”束縛の影”がフェイトを無視してなのはに突っ込む。巻き戻しなど使わず純粋になのはを倒そうというのだ。
「であぁぁぁあ!!!」
「レイジングハート!」
≪ディバインバスター≫
「シュート!」
なのはのディバインバスターはモードネメシスによって強化されている。モードネメシスが与える力は、怒りに関する感情エネルギーを全て魔力にして威力を底上げするというもの。一見地味ではあるが、使用者の怒りが大きければ大きいほどその威力は増大し魔力は高まる。とどまることがないのだ。ではなのははどうなのか。その怒り、義憤の大きさは途方もなく大きかった。そのほとんどが自分に対しての怒りである。かつて大切な友達を傷つけてしまった自分の弱さ。友達が”影”に乗っ取られていた時気づけなかった自分の鈍さ。死なないと決めていたのに死ぬかもしれない攻撃を実行し罪から逃れようとした自分の卑怯さ。
延々と湧き上がる自分への怒り。そしてそれに付随する”影”への怒り。自分の友達にことごとく憑依し不幸にしていく謎の存在。協力をしてくれている”影”もいる。しかしそれは少数だ。ましてや自分が使うモードの”影”たちは敵対していた”影”だ。そんなものが自分の中にあるというだけで狂いそうになる。そんな理不尽に対する怒り。
様々な怒りがなのはの心を占めていく。それは危ない兆候なのかもしれない。しかしなのはの思考は比較的クリーンであった。
目の前の”影”を倒す。それだけである。
「やっかいな…!力だよ本当に!」
「”憤怒”の力が私に凄まじい力をくれる…これをそのまま行使していいのか少し不安だけど貴方を倒すためなら!」
「倒す?私を?…舐めるんじゃあないわよ!私がお前に倒されるなんて万に一つもあり得ない!!」
ディバインバスターをスレスレのところで避けた”束縛の影”が蹴りを連打する。そのラッシュはなのはが魔法を撃つ暇がなくなるほどである。
しかしなのはも負けてはいない。ラッシュの反動を利用して後ろに下がろうとする。
「ちょこまかと!」
「どっちが!」
レイジングハートと脚で打ち合いながらなのはと"束縛の影"の言い合いが始まる。
「教えてよ!なんで私を殺そうとするの?私が何かをしたの?それとも私に似た誰かが何かをしたの?」
「言う必要は無い!」
「そう頑なになるから!頭で考えてる計画が上手くいかないんだ!」
「言ったところで貴方に何が出来る?何が言える?何も無いでしょう!」
「言ってくれなきゃ分かんないよ!出来ること、あるかもしれない!」
「何も言わないのも、優しさだと思って欲しいわね!」
「どういうこと…!?何でそれが優しさになるの!」
なのはと”束縛の影”の言い合いの隙にフェイトがアリサのもとへ駆け寄る。アリサにまだ意識は戻っていない。はやてが治癒魔法をかけているので傷はなくなってきてはいる。
「はやて、アリサはまだ?」
「うん…全然起きひん…。もしかしたら打ちどころが悪かったのかも」
「そっか…。でも今はなのはが頑張ってくれているから。私も治癒手伝うよ」
「ありがとうフェイトちゃん。……なのはちゃんのあのモード。あれって…」
「”憤怒”の力だって。なんでなのはの中に”憤怒”がいたのかわからないけど…とりあえず今はあれに頼るしかない…」
「そうやね…。無理せんといてな…なのはちゃん…」
はやての願いは空しく、なのはは既に無理する領域に入っていた。モードネメシスのエネルギーの元になる怒りエネルギーの欠点は怒りという感情はそう長く続かないというところだった。特になのはは自分に対しての怒りではあるがこれはモードチェンジする時には十分な怒りとなるのだが、長期戦で使うエネルギーとしてはどうしても足りないのだ。
それによりなのはのネメシスによる強化が薄れてきてしまい、先ほどまでの勢いは無くなってきてしまっていた。魔力もモードの維持のため極度に消費している。なのはの体力も”束縛の影”の蹴りのラッシュによりじわじわとではあるが削られてきている。
「ぐっ…!はぁ…うぅ……!」
「ほらほらほら!何休もうとしてるの!まだ続くよ!!」
「なんて勢い…!このままじゃ…押し切られる…!」
「どうやら怒りが薄れてきているみたいだね…!”憤怒”の力は貴方には相性が悪かったかしら!」
「相性…なんて…!根性でどうにか…なる!」
蹴りを受け続けていたなのはがバランスを崩した時、ちょうど攻撃をいなした形となり二人は交差し位置が入れ替わる。そして互いに距離を取った。
なのははモードを保つことが辛くなってきていた。しかしここでモードを解除してしまうと相手の攻撃について行ける自信がない。そして魔力が回復しても再び怒りを燃え上がらせるのも難しい。モードフォーレンという選択肢もあるのだが、これはシャマルから絶対に使うなと言われてしまっているため、せめてこの言いつけだけは守りたいと彼女は考えている。
「さっき…言ってた教えない…ことが……優しさってなんなの…?」
息も絶え絶えになのはが”束縛の影”に聞く。ラッシュを受けている間も聞いてはいたのだが何も答えてはくれなかった。なのはに事情を、恨む理由を言わない事が優しさである、目の前の彼女はそう言った。それが意味するのは自分が身近な誰かに恨まれているということだろうか?なのはは攻撃の中でそう言う考えが浮かんだ。だが、もし恨むとしたら誰がいるのか?なのははそれを知りたいのだ。知らなければ謝る事も反省することもできない。だからひたすらに聞くのだ。
「教えてくれなきゃ…わからないよ…私は誰に…謝ればいいの……?」
「謝る…?貴方からそんな言葉が出るなんて…根本的な何かが違うのかしら?」
「根本的…?どういう事…?あなたの言い方まるで…私とは別に『高町なのは』がいるみたいな…」
「……いっか…もう…隠す必要なんて元々なかったのかもしれないし…」
「!教えてくれるの…!私に何も言わないことが優しさってなる理由…!」
「そうね…でも優しさの意味を伝えるということは、貴方がなぜ我々に命を狙われるのかという理由にもつながるのよ」
「だろうね…覚悟はしているよ…!」
なのははレイジングハートの柄をぎゅっと握る。その手は少し震えていた。まだ十歳の少女が自らの命を狙われる理由を聞くことになるのだ。無理もないのかもしれない。
そしてその話を少し離れたところでフェイトたちも聞いている。
「私たちが恨んでいる対象は『高町なのは』という存在よ。別に個体違うから恨まないとかじゃない。『高町なのは』という存在そのものを恨んでいるの」
「個体…存在そのもの……さっきから私が何人もいるみたいに…」
「そのままよ。『高町なのは』は何人もいるわ。パラレルワールドにね」
「パラレル…ワールド…!」
なのははその言葉に聞き覚えがあった。”隷属の影”がどこから来たのか、それが確かめられた際判明した事。”影”はパラレルワールドから来ているということだ。
「じゃあ、あなたたちの恨みを買ったのは…パラレルワールドの私…?」
「そうよ…。パラレルワールドの貴方が私たちを裏切ったのよ!」
「裏切った…パラレルワールドの私が…?」
「そして私たちの復讐はパラレルワールド全てに生きる『高町なのは』を殲滅することで達成される!貴方もそんな復讐のターゲットってわけよ」
「そんな事…させない…!”影”たちの侵攻はここで、この世界で止める!」
「…いい意気込みね…。でもねなのは。我々”影”を作り出したのもまた、『高町なのは』なのよ…」
「…そ……そんな…!?」
「私たちが生まれた世界の高町なのはがその持てる技術の粋を結集し作り上げた…ミッドチルダ式自立型ユニゾンデバイス”影”シリーズ。それが私たち」
「ユニゾンデバイス…!”影”ってデバイスだったの!?」
「元々はね。その初期モデルがこの私”束縛の影”と…”不屈の影”よ」
「”不屈”と”束縛”が……最初に作られた…”影”。だから妙に強いんだ…この二人…」
「正確にはもう一人いるんだけど…まあいいわ。さぁ終わりにするわよ…!復讐を遂げ、勝利を仲間たちの弔いとする!」
「私だって…負けない…!!お願いネメシス!レイジングハート!もう一度…力を貸して!!」
再び両者の戦いが始まる。今度はなのはは相手の間合いに入らないよう、アクセルシューターを撃ちつつ中距離を保っている。アクセルシューターの波状攻撃が”束縛の影”を足止めする形になっていた。疑似時間巻き戻しを使用すれば簡単に対処できるのだが、先ほど会話で少し情報を流しすぎたと焦っているため、その能力を使うのを忘れてしまっていた。
「ええい!こざかしい真似を!早さが一つ一つ違うなんて…!」
「二十個以上のシューターをコントロールできるのもネメシスのおかげだね…ありがとう、ネメシス…。”束縛”!このまま決めに行きますよ!」
「なに…!?」
「ディバイン…!」
なのはは速攻でこの勝負を終わらせる気でいた。自らのネメシスが長く続きそうにないのもあるが、意識を取り戻さない友アリサが心配だったのだ。
さらにここで”束縛の影”を捕まえられることに越したことはない。故にアクセルシューターにネメシスの能力を使い。ディバインバスターはあくまで相手を無力化するための砲撃として使用する選択をした。
「バスター!!!」
ピンク色の砲撃が一直線に”束縛の影”へと向かう。これも時間巻き戻しを使えば回避できた技なのだが。やはり焦りからか、使うのを忘れてしまっていた。
そしてディバインバスターは一直線に駆け抜けていき爆風を起こしその攻撃の終わりを告げた。
「…っはぁ…はぁ……ど、どうだったかな…?」
なのはの体力は既に限界を迎えていた。モードの使用と理由のわからない謎の疲労がなのはを蝕んでいたのだ。
「これをここで見せるなんて…私少し、パニックになっていたのかしら…」
すると、ディバインバスターの射線上から右にあったビルの影から”束縛の影”が出てくる。ディバインバスターは当たらなかったのだ。
「…そ、そんな…!?なんで…巻き戻しも使われていないのに…!」
「だからよ…。あぁ…これも話すハメになっちゃったわ…自分が嫌になるわね…」
「巻き戻しを使わなかったから…?……!まさか別の能力を使ったって事ですか!?」
「……そうよ。私の三個目の力、時間の加速を使ったのよ」
「時間の…加速…?」
なのはは困惑していた。時間の加速と言っても今までの能力から考えて疑似的なモノだろうと予測がつく。しかし時間を早くされた感覚は全くなかった。しかも早くしたのならディバインバスターも当たっているはずだと、なのははそう思っていた。
「時間の加速は今までのと違って本当に加速させているのよ、時間を。加速させているのは私の身体だけだけどね」
「自分の身体の時間を早める…その加速した分だけ移動が速くできるってことですか…?」
「……ええそういう事よ。だからあんなビルの後ろから出てきたのよ。早すぎてコントロールが難しいのよ」
「なるほど…?」
なのははなんとなくではあるが理解していた。だが本当に時間を加速させているというのがどうにもわからなかった。今までのとは違うとは言っていたがどういうことなのか。
「実際に加速させているってどういうことなの…?」
「言うと思う?」
「……うん……」
「…なんで敵にそんなに信用を寄せているのよ…」
「見た目が…すずかちゃんだから…」
「言わないわよ」
「…そっか…」
「こんなに能力教えちゃったんだから、ここからさらに激しくいくわよ!」
”束縛の影”は加速を使い距離を一気に詰める。
「うわっ…!」
「驚いている暇なんてないわよ!」
その勢いを保ったまま回し蹴りが飛んでくる。なのはにレースカーほどのスピードで襲ってくる蹴りを回避できるはずもなく、レイジングハートが自動で発動したプロテクションで直撃は避けられたもののそのまま蹴り飛ばされフェイトたちがいる歩道橋とは逆方向にあるビルの一階の壁に激突する。蹴りの強さを証明するようにビルの窓が一階から最上階の十階まで全て割れてしまった。
「ああぁ…!ぐぅぅ…」
なのはは声にならない声を上げている。それに”束縛の影”が静かに歩いて近づいていく。
フェイトは近づこうとするが、なのはが手でそれを制止する。アリサがはやてたちに行ったように。
「なのは!なんで!」
「私…まだやれる…やれるから…!」
そう言うなのはのモードは蹴りのダメージにより魔力制御が乱れ解除されていた。つまり通常のバリアジャケットとなっているのである。
今のなのはに残された”束縛の影”に対抗する策は、シャマルから絶対に使うなとくぎを刺されたモードフォーレンのみ。今のなのはではモードネメシスになるほどの怒りが無いのだ。
「…はぁ…はぁ…ごめんなさい…シャマルさん…!」
ボロボロになりながらも何とかレイジングハートを支えにして立ち上がるなのは。
「まだそんな力が残っていたのね…。まあいいわもう、終わりに…」
≪MODE FALLEN SET UP≫
”束縛の影”の加速と同時に、なのはの身体を黒い球体が包み込む。モードチェンジまでの速度は最速で”束縛の影”の蹴りが到達する時にはすでに全身が球体に包まれていた。
そして”束縛の影”の蹴りの勢いを利用し、球体を割らせる。
「これで…!このモードで!あなたを倒す!!」
”束縛の影”が言っていた本当に時を加速させているという能力は高速で自分だけタイム風呂敷に入っているような状態なので、中に人がいる状態で使うと一気に年寄りになります。すずかの身体から出たのはこの能力を使うかもしれないからというわけですね。
こういうのを本編で書け、っていつも思います…。
能力の原理は自分の身体の細胞の入れ替わり、心臓の動き、肺の動き等人体のあらゆる動きを高速化し、移動速度を上げ光速を越え自分だけ時間を加速させるというものです。何を言っているかわからないと思いますが、私も自分で何を言っているのかさっぱりです。
つまりこの作者は何も考えていなかったというわけですね。…アホやん…。