魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen   作:ルル・ヨザミ

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”欲望の影”編
第34話 門出


 段々と涼しくなってきたころ、私は再び訪れた平穏を謳歌していた。私こと、フェイト・T・ハラオウンです。一応”隷属の影”事件では私が報告書を担当していましたが、時空保安局事件ではリンディ・ハラオウン提督が責任者であったことから報告書を書きました。この報告書は、”影”が直接起こした事件では最後になった事件。前二つと合わせせて、”欲望の影”事件とも言われる事件の報告書です。

 

 時空保安局の事件から二週間後の事。私、なのは、はやて、アリサは”影”の検査とモードの試運転を行っていた。

 なぜ、”影”の検査が行われたかというと、当初なのはだけとされていた”影”の憑依者が私、アリサ、そして時空保安局局長と複数人見つかったからであり、二週間かけて管理局員全員を検査した。そして見つかった憑依者は八神はやて一人だけでしたが、もう一人モードを使用できる人間が増えただけでも、残り一つの”影”との戦いに優位に立てる可能性が上がるため、喜ばしいことでもあった。

 「モードトロイエ、安定に入ったな」

 さらに、”不屈の影”からの情報で、はやての中にいる”影”、その名も”忠誠の影”は”不屈の影”と同じ、協力的な”影”であるということもあり、さっそくモードチェンジを行っていたのだ。

 「バリアジャケットの色はあんまり変わらなかったね、白かったところが黒に、黒かったところが白になっただけ、フェイトちゃんが一番変わってたって感じかな」

 「いや、なのはだと思うよ…だって、バリアジャケットの色だけじゃなくてデバイスのモードまで増やすんだから」

 私となのはは、はやてのモードのバリアジャケットの話で盛り上がっていた。当のはやては”忠誠の影”と話をしていた。

 「”忠誠”さんはどんな能力があるんや?フェイトちゃんの所は特殊能力ない代わりに、なんや身体能力やら強くするらしいし、”忠誠”さんも何かあるんやろ?」

 (そうですねー。私は”不屈”以外の特殊能力やその効力を打ち消すことができますー。私が司るのは守護欲なもので―。守るために他の鎖から仲間を解き放つのが役目ですー)

 「へぇー…司る欲って何?」

 (おや?もしかして、”不屈”や”断罪”は話しませんでしたかー?我々”影”は製作者が持つ欲の力を元に作られているのですー。つまり、私は誰か大切な人を守りたいという感情が元となっているわけですねー)

 「結構な重要情報やね…じゃあ、”断罪”や”憤怒”、”不屈”さんは何の欲を司っているんや?」

 (”断罪”は支配欲。”憤怒”は破壊欲を司っていますー。”不屈”に関しては私も知りませんー、かなり新しい”影”なので分からない事もありますー)

 「そうなんか…まあ、それだけ知れたら儲けものや。ありがとうなー」

 (いーえー)

 ”忠誠の影”との会話を終えたはやては、なのはたちの元へ戻る。

 「なのはちゃーん、フェイトちゃーん。いい情報手に入ったでー」

 はやては先ほど聞いた内容を私となのは、そしてさっき来たアリサに伝える。

 「司る欲…あれ、はやてちゃん、”隷属の影”の欲ってなに…?」

 「あ、聞き忘れてたわ」

 「ちょっとー!気になるから早く聞いてよー!」

 「わかったわかった!ちょお待っててな」

 二人が話している間、アリサとフェイトも会話をしていた。

 「私の中にいたのは破壊欲を司っていたのね…だから、なのはを殺すのに執着していたわけね」

 「破壊は物理的なモノだけじゃなく、精神的な破壊も含まれているなら、アリサの心も壊そうとしていたんだね。…私のはわからない…か」

 「直接聞いてみたら?」

 「それが自分でもわからないらしくて。司る欲があるのも今知ったんだって」

 「なんか、”影”によって知識に偏りがあるのね…私の中には種すら残ってないし聞きようもないけど」

 「そう言えば、アリサには残ってなかったんだっけ”影”埋め込む種」

 アリサはなのはの”影”の力によって分離されたため、”憤怒の影”が種は消えてしまったのだ。

 「でも、なのはにはまだ残っているんでしょ?」

 「うん…でも取り除けるようなモノでもないし…そのまま」

 「フェイトちゃーん!”隷属の影”は戦闘欲を司るんだってー!」

 「へー、戦闘欲なんだ。だから戦いたがっていたんだ」

 戦いたい…楽しく戦いたいから、私やはやてという、なのはの記憶の中にあった身近な相手と戦おうとしていたのかもしれない。

 それから、私たちは管理局本局のデバイス研究の部署へ向かった。アリサの臨時デバイスを作ってもらっていたからだ。

 「アリサちゃんもこれから管理局のお手伝いしていくのかぁ、私みたいに管理局に就職しようって考えてたりする?」

 となのはがアリサに聞く。

 「いやぁ、流石にそこまでは考えていないわ。民間協力者?みたいな感じで」

 「あ、なるほどね」

 アリサとなのはが話しているのをなんとなく聞いているとはやてが話しかけてきた。

 「なあ、フェイトちゃん。これから行くとこに確かシグナムとヴィータ来てる?」

 どうしたんだろう突然。少し待ってと言った後、端末からクロノのメールを見る。そこにはシグナム、ヴィータが出迎えると書いてあった。

 「ああ、うん来てるみたいだよ。それがどうかした?」

 「来てるならよかった。実はさっき思ったんやけどな、私のモードで、二人に残っている”隷属の影”の力を解除できるんとちゃうかなって思ってな」

 「そういうことね。確かにできるかも…っていうか”不屈の影”以外に効くって能力ならほぼ確実に聞くんじゃない?」

 「そうなんやけど…なんか心配でなぁ…」

 まあ、わからないでもない。今のシグナムとヴィータははやての言う事は勿論聞くが、なのはの命令も実行してしまうという。それは、未だに残っている”隷属の影”の特殊能力。はやてが隷属の紋章を破壊した時”影”の力を使っていなかったため未だに残っているのではないか、というのはクロノの推論。

 おおよそ、クロノの言う通りなんだと思う。しかし、こうやって”忠誠の影”というのがあると考えると、本来の解除の方法が”忠誠の影”なのではないかとも思えてくる。つまり、”影”の反乱、暴走に対し、”忠誠の影”で無力化、”不屈の影”で殲滅。といったところだ。これが”影”の製作者の意図なのかもしれない。

 じゃあなんで”影”は”影”でしか倒せないなんて面倒なことにしたんだろう。なにかそうせざるを得ない理由があったのだろうか?

 「ふぇ、フェイトちゃん!危ない!」

 「えっ…」

 私が返事をした瞬間、見事に顔を壁にぶつけた。

 「いったぁぁぁい!!」

 「おお、おでこ押さえてゴロゴロ転がっとる」

 「こんな古典的なの初めて見たわ…フェイト恐ろしい子…!」

 「アリサちゃん、それもちょっと古いよ」

 私が痛がっているのをよそに、三人は盛り上がっていた。も、もう少し心配してくれてもいいんじゃないかな?

 「大丈夫か、テスタロッサ。考え事は構わないが、歩いている時はもっと注意しろ?」

 「シ、シグナム…そうですね、これから注意します…」

 「はやてー!待ってたぞー!」

 「おお、ヴィータ。元気いっぱいやなー」

 ヴィータがはやてに抱き着く。いつ見てもほほえましい光景だ。私はこの時、なのはがこの光景を見てほんの少しだけ、悲しそうな表情をしたのを覚えている。

 「早速、だがバニングス。お前のデバイスは既にできているぞ」

 「え!もう!?」

 「マリエルが頑張ってくれていたのもあるが、開発中止になったデバイスを利用して作ったからかなり早くできたらしいぞ」

 皆でマリエルさんの元に行く。簡易デバイスが並べられている部屋の奥に、一つレイジングハートのような宝石型のデバイスが机に置かれている。

 そして、マリエルさんが出てきてアリサにこう言った。

 「これが貴方のデバイス。アリサちゃんにはどうやら魔力の炎熱変換資質があるみたいだから、それにも対応したデバイスにしてあるよ!」

 アリサが炎熱変換資質を持っているのは白騎士として戦っていた時の炎魔法を使用していることからもわかる。

 アリサがデバイスを持ち、マスター認証を始める。

 「マスター認証…アリサ・バニングス。術式はミッドチルダ。デバイス名を登録、フレイムアイズ」

 どんな形の武器にするんだろう…なんか気になる。

 「フレイムアイズ!セットアップ!」

 ≪おっしゃぁ!≫

 フレイムアイズって、元気がいいデバイスなんだなぁ…。あんな返事するデバイス初めて見た。

 そして、アリサはバリアジャケットに身を包んだ。フレイムアイズは、カードリッジシステムを組み込んだ、刀の形となった。

 「アリサらしいっちゃアリサらしい形だね」

 「へっへーん!そうでしょー」

 ヴィータがさっそく練習してみようと話している。アリサとヴィータは仲がいい。ここ最近アリサに魔力運用の技術を教えていたのは主にヴィータだ。そのおかげで、アリサは魔法を使い始めて二週間も経っていないのにも関わらず、その腕前は既に一級品だ。

 「アリサちゃんとフレイムアイズ、私のモードトロイエ、お互いに今日がデビューや。これから頑張っていこうな!」

 「もちろんよ!」

 はやてとアリサが決意表明をしている。私はその間に、フレイムアイズの練習や試し切りとモードトロイエの能力をシグナムたちに使うための場所を取ることにした。

 さっき使っていたところでいいかな。…あ、まだ空いてる。じゃあ予約しておこう。

 「練習できるところ、予約しといたよ。さっきの場所だけどいいよね」

 「フェイトちゃん仕事早いねー」

 「ありがと、フェイト!じゃあいきましょ!…と、言い忘れると事だった。マリエルさん、ありがとうございました!」

 「いえいえー」

 シグナムとヴィータも連れて、私たちは練習場へ向かった。…次の事件はこの裏で既に始まっていたのをこの時の私たちは誰も知らない。


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