魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen   作:ルル・ヨザミ

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対”憤怒の影”後編です。


第32話 "なのは"の償い

 なのはの作戦。それはモードフォーレン時にできたことを思い出した時に思いついた作戦だった。『スターライトザンバーブレイカー』、なのはがとっさに思いついた魔法。想像していたのはフェイトの『プラズマザンバーブレイカー』。想像したとおりの魔法ができたのだ。かつて、射撃魔法を想像し使った時、フェイトのバインドを見て真似した時とも違う。理論も計算も無いところから生まれた魔法。放つ姿を想像しただけで撃った。もう一度できるかと聞かれればその答えは、否。つまり、その場限りの技である。ただ、一度きりとはいえその場で最高の技を撃てるのだ。その最高の技を今度はアリサを助けるために、なのはは使おうというのだ。

 「ナノハ、オ前ガ我二、ダメージヲ与エルニハ、モードフォーレンヲ使ワナケレバナラナイノダロウ?早クナッタラドウダ」

 「今はまだいいの。使うタイミングを決めるのは貴方じゃない」

 「ドンナ作戦ガアルカ知ラナイガ、我ハ負ケヌ!」

 ”憤怒の影”は剣を前に突き出し、突進してくる。突きをしようとしているのだ。背中の天のバーニアによって上げられた凄まじいスピードで迫ってくる剣を、なのはは上に避ける。

 上に飛んだところで、”憤怒の影”にバインドをかける。

 「チッ!マタコノ手カ!」

 なのはのバインドが破られそうになると、支援にまわっていたフェイトがバインドをかけることで、延々とバインドをかけつづけられる。その隙になのはが、モードフォーレンのための準備、カードリッジロードを行う。

 「レイジングハート、準備はいい?」

 ≪Yes My Master≫

 ≪MODE FALLEN Set Up≫

 なのはを黒い球体が包み込む。ここまでの稼動限界時間はおよそ10分。それまでに、決着をつけなければならない。

 なのはの考える魔法は決まっていた。アリサを助け出す、この場限りの魔法。使えばモードは強制解除となるがそれでいい。

 球体が割れていく。モードチェンジが終わったのだ。

 「上手くいく…うん…私の想像通りにすれば…大丈夫…大丈夫…」

 球体が完全に割れると同時に、”憤怒の影”に突撃する。レイジングハートは杖の状態だ。

 その杖の攻撃を”憤怒の影”は左の剣のみで受け止めた。

 「ナンダ?ザンバーハ使ワナイノカ?」

 「使わないよ、今必要なのは剣じゃない。助けたいって気持ちだけ!」

 なのはは杖を持った手をより一層強く握りしめた。すると後ろから、フェイトのフォトンランサーが飛んで来る。”憤怒の影”はあえてそれを避けず受けた。なのはもまた避けず、攻撃の余波を受けた。

 「なのは!?どうしたの!」

 フェイトは慌ててなのはに声をかける。しかし、なのはは返事を返さない。

 「捨テ身ノ突進カ?無謀ダナ…。モードノ時ハ”影”ノ性格ガ反映サレヤスイカラナ!”隷属”ノ様二、戦イヲ楽シンデイルノカ?」

 「そう見えるの…?別にいいよ…。私の作戦はここからだから!」

 「何?」

 レイジングハートと剣が接しているところにピンク色の魔方陣が展開する。なのはの魔方陣だ。

 「はぁぁぁああ!!」

 なのはは魔方陣に片腕を添え、魔方陣を無理やり”憤怒の影”の腹部に押し付けた。

 「ナニヲ…!」

 「クリティカルスリップアウト!」

 なのはの思いついた魔法。それは、アリサと”憤怒の影”を分離させ、アリサの肉体を自らの魔力と分離した時に内部から出る魔力で再構築させるというもの。この魔法はアリサが”憤怒の影”に人格を乗っ取られ、半分以上”影”と融合している場合にのみ効果を発揮する魔法。

 「ナ、ナンダ…!?コレハ…!?」

 ”憤怒の影”の腹部に付けられた魔方陣からなのはのピンクの魔力とアリサの肉体の情報が入っている赤い魔力が収束していき、段々と人の肉体を形作っていく。

 「マサカッ…!コンナ手二出ルトハナ…ッ!」

 ”憤怒の影”は空いている右手を使い妨害しようとするが、背後からのフェイトのバインドにより、阻止されてしまう。

 「流石二、三対一ハキツカッタカ…?シカシ、我ハマダ終ワッテイナイ…オ前ガココカラダト言ッタ様二、我ノ作戦モココカラダ…!」

 「私の作戦もまだ終わってない!」

 魔方陣で再構築された肉体は、完璧にアリサの姿であった。融合していた”憤怒の影”の身体は左手を除き、ボロボロと穴が開いたようになってしまった。なのはは、魔法を創造する力を使ったことによりモードフォーレンの制限時間が早まり、強制解除。白いバリアジャケットに戻ってしまった。

 「アリサちゃん!」

 「アリサ!」

 「バニングス!」

 なのははアリサを抱え、後方に戻った。そして、三人はアリサが生きているか確かめるため呼び掛けた。何度も何度も。その間、”憤怒の影”に変化がないか確認もしながら呼び掛けた。しばらくすると、シグナムが呼んだ、シャマル率いる医療部隊が到着し、アリサをグラナードへ運んで行った。

 「…私はシャマルたちの護衛に行こう…ここからはお前たち”影”をもつ者だけの領域だろうからな…」

 「そうですね…アリサをお願いします。シグナム」

 「あぁ、しかし、私はあまり役に立たなかったかもしれないな…この戦いでは」

 「そんなことないです!私がアリサちゃんを実体化させている時も、フェイトちゃんが右手を防いでいる間、背中の天の相手をしてくれたのはシグナムさんじゃないですか!あれだけじゃない…今回私のことをいつも心配してくれて、危ない時いつも助けてくれたじゃないですか!だから役に立たなかったなんて言わないでください…」

 「そうか…お前がそう言ってくれたなら、そう思えるよ。…じゃあ、行ってくる。」

 そう言ってシグナムは医療部隊と共に、グラナードへ向かった。

 その場に残った、なのはとフェイト。フェイトは先ほどのなのはの無謀とも取れる作戦に苦言を呈していた。

 「無茶はしないって約束したのにあんな作戦…確かにアリサは戻ってきたけど、言ってくれれば、私があの時フォトンランサー撃ったりとかしないで、最初からバインドで支援とかできてたのに…。」

 「ご、ごめんね?だってあの時頭に思い浮かんだ魔法を忘れないようにするために必死だったんだもん…。一度でも忘れたらその魔法は使えなくなる同じ効果の魔法は二度と作れないの…モードフォーレンはね」

 「ならなおさら…言えるタイミングなかった?」

 「念話しようにも、フェイトちゃんはその時前で戦ってて中々言えなかったよ…」

 「うーん…それもそうか…でもなぁ…」

 そう簡単にフェイトが納得してくれるはずもなく、話し合いに五分を使ったあたりでなのはは説得を半分諦めつつあった。

 すると、地面に広がって正しく影になっていた”憤怒の影”が 立体的になってきた。その形は”隷属の影”の最期の時の姿そっくりである。

 「黒くて蠢く何と言って表現したらいいかわからない不気味な姿。あれが”影”たちの本当の姿なの…?」

 となのはが疑問をフェイトに聞くと、”不屈の影”がフェイトの口を使い答えた。

 「そうであるとも言えるしそうでないとも言える。元々概念みたいな存在だったし。実態を持ったのは貴方たちの世界に来る数ヶ月前くらいよ」

 「そうなんだ……」

 「…はぁ突然出てくるからビックリした…」

 「にゃはは、ごめんね。協力関係にあるなら私の疑問にも答えてくれるのかなって思っちゃってさ」

 「大丈夫。なのはのさっきのに比べたら驚きは少ないよ」

 「ま、まだ引きずるの…?」

 ”憤怒の影”の口と思しき場所が動き言葉を紡いだ。

 「ガググアtwfs…アァア…ヨシ、話セルヨウニナッタゾ…」

 「さあ!どうする?あなたの背中の天も、両手の剣も無くなっているよ。どうやらあれはアリサが中にいる時に使えた技だったみたいですね」

 「マア、ソウダナ。否定シナイサ。シカシ!我ハココカラデモ勝テル!」

 「凄い自信…!なにかあるよフェイトちゃん!」

 「そうだね…!」

 身体をウネウネと動かし、なのはの方へ飛んでくる”憤怒の影”。なのははそれを横に緊急回避した。

 「危な…いな…!もう!」

 「どうやら、なのはの中に入ろうとしたみたいだね…」

 「”隷属”ヲ宿セタナラ、我モ宿セルトイウ事ナンダヨ。我ト、”隷属”ハ魔力構成ガ似テイルノダ」

 「魔力構成の問題で私に入ろうとしたの?」

 「なのはは”隷属”と相性がいいってこと…?」

 「相性ナド関係ナイ。憑依デキルトイウコトハ、ソレダケデ、ドンナ”影”デモ身体二入レラレルト言ウ事ダ。フェイト・テスタロッサハ”不屈”二防ガレソウダッタカラナ」

 「”影”ってそんなに限られた人にしか入れないんだ…」

 ”憤怒の影”がまたなのはをユラユラと揺れながら狙って飛んで来る。

 「まだ…っ!モードの時に使った魔力の回復もできてないのに…!」

 なのははプロテクションで、”憤怒の影”の突撃を防ぐ。その防いでいる間に、フェイトが”影”の後ろに回り込み、ザンバーで斬りかかる。モードレイジングの状態のため、”影”に対して攻撃を与えられる。そして、斬られた”憤怒の影”は飛ばされ、近くの岩に叩きつけられた。

 「グオォ!コレハ…流石二退却シタ方ガ良サソウダナ…」

 「逃がすかぁ!撃ち抜け、雷神!!」

 ≪Jet Zamber≫

 「ジェットザンバー!!」

 ジェットザンバーは、影の両足を切り落とした。切り落とされた足は地面に落ち、溶ける様に消えた。

 「ギリギリセーフダッタナ!コノママ、サヨナラダ!」

 ”憤怒の影”は足がなくなったことを気にすることもなくそのまま、空へ逃げていく。別の世界へ逃げようとしていた。

 「くっ!待て!」

 「フェイトちゃん!とりあえずバインドを!」

 「わかった!」

 フェイトは”影”を追いかけながら、”影”の身体にバインドをかける。しかしここでアクシデントが起こる。

 ≪MODE RAISING 稼動限界時間です。 強制解除します≫

 「な…なんだって!?どうして!”不屈”!なんで!」

 (ごめん…これ以上は貴女の身体に負担が大きすぎる…)

 「こんな時に…!」

 フェイトのモードレイジングの強制解除により、”影”に対する効力を失ったバインドは、”憤怒の影”を縛ることない輪になってしまった。

 「コレハキテイル!運ガ我二キテイルゾ!!」

 ”憤怒の影”はバインドから抜け出し、さらに上空へ逃げていく。フェイトは今からモードレイジングになるための魔力と肉体の回復が始まるため、”憤怒の影”を捕まえることができない状態になってしまっていた。

 フェイトの隣にいたなのはは、フェイトの隣から一気に加速し、”憤怒の影”に追いつこうとする。

 「なのは何を!」

 「私が倒すよ!もう一度モードフォーレン使えば倒せる!」

 「そんな…!?なのははまだ回復できてないんじゃ!」

 「それでもフェイトちゃんよりは回復してる!今この場で倒せるのは!私だけ!」

 ”憤怒の影”の隣まで追いついたなのははモードフォーレンにチェンジする。しかし、高速の移動により、魔力消費が激しかったのと、完全に回復できていない事が影響し、バリアジャケットとレイジングハートからバチバチと火花が散る。

 「ぐう…!でもなれた!これなら!」

 「何ィ!ダガココカラサラニ、速度ヲ上ゲレバ!」

 スピードが上がる”憤怒の影”。しかしなのはも負けじとスピードを上げる。

 「貴方を倒すまで…私は止まらない!」

 なのははレイジングハートをザンバーにして、”影”に斬りかかる。しかし、互いにかなりのスピードを出し飛んでいるため、剣を振り降ろそうにも狙いが中々定まらない。

 「どうする…どうする…」

 「時間ガカカレバ、カカルホド、我ノ勝チガ見エテクル!フハハハ!」

 悩むなのはを見て、”憤怒の影”は大笑い始める。ほとんど勝ちを確信しているようだ。なのはのモードフォーレンは時間制限付きで今はさらに短い時間での運用しかできない。”憤怒の影”にとってはもう勝ちしか見えない勝負だった。だが、ここで”憤怒の影”は侮っていた。なのはの想像力とモードフォーレンの魔法創造の力を。

 「思い…ついた!!こんな時に使える魔法!」

 ≪Standby Ready≫

 「コノ局面デ魔法ヲ…!?」

 「スターライト・エクスプロージョン!!」

 なのははザンバーの先をを影に向ける。

 「斬ラナイ…ダト?」

 そして、先から小さなピンク色の球体が出てくる。それは魔力を感知することが苦手な”影”でもわかるほど高密度の魔力が凝縮されたものだった。

 「コレヲ、オ、オ前モ死ヌゾ!コノッ…距離デソンナモノヲ放ッタラ!」

 「でも!ここで貴方を逃がすよりはよっぽどいい!!」

 「ク、狂ッテイル…!」

 「シュート!!!」

 なのは合図の後数秒の間もなく、高密度の魔力球は爆発した。その爆破は地上にあるグラナードと遠くから見守っていたフェイトの両方が目にするほど大きく、爆風で地上の一部の地形が変わってしまうほど凄まじいものだった。

 

ーFATE SIDEー

 

 …気づいたら、周りにクレーターができていた。

 私は、とっさにプロテクションを張って何とか堪え切れた。でもダメージを完全に防ぐことはできず、バリアジャケットはボロボロだ。

 私のことはどうでもいい。今はなのはを探そう。あの爆発はきっとなのはが起こしたものだ。ということはなのはは”憤怒の影”と一緒に爆発を至近距離で食らっていることになる。

 つまり、今なのははどこかに倒れているかもしれないのだ。

 私が、クレーターの中で探していると、シグナムから通信が入った。

 『テスタロッサ、無事だったか』

 「はい、シグナムとグラナードも無事みたいですね」

 シグナムの背後に移るグラナードを見て私はそう言った。

 『ああ、だがあの爆発は何だったんだ?一体何が起きた』

 シグナムは先ほどの爆発について質問した。私も詳しくはわかっていないけどとりあえずわかることを話した。

 「あの爆発は恐らくなのはが起こしたものです。別世界に逃げようとした、”憤怒の影”を倒すために…なのはがまたモードフォーレンになって創った魔法を放ったものだと」

 『そうか…で、そのなのははどこにいる』

 「…わかりません」

 『何?』

 「なのはは”憤怒の影”のすぐ隣でこの魔法を放ったんです。なので今ここになのははいません。今私が捜索しているところです」

 『わかった。私もそちらへ行こう。一人で探すのは時間がかかりすぎるだろう』

 「で、でも艦の護衛は…」

 『医療部隊と一緒に主が率いる支援部隊も来ていたようでな、それは主に任せられる』

 「はやてが…わかりました。では私は捜索に戻ります」

 『ああ、私もすぐ向かう』

 通信は切れた。そっか、はやてたちが来ていたんだ。…急がないと!

 「でも、落ちたって確証はない…つまり…宇宙?いやまさかそんな…」

 私はクレーターから出て、その周辺を捜索し始めた。

 

ーSIDE OUTー

 

 なのははプカプカと浮いていた。うつろな目で上を見つめている。その身体は動かない。あの魔法を使った影響だ。バリアジャケットは白い。モードフォーレンはちゃんと解除されているようだ。

 なのはは、自分に対し憤りを感じていた。スターライト・エクスプロージョンを発動する時、”憤怒の影”から死ぬぞ!と言われたのに対し、なのはは、それでも構わない。と取れる返事をしたからだ。

 なのはは”憤怒の影”との会話の中で、自らの償いは死んでしまっては果たせないと言っていた自分の矛盾に憤っていた。

 結局、心のどこかでは自分は死んだ方がいいのではないかと思っていたのではないか。死ねば色々と楽になると考えていたのではないか。と自分を責める言葉が頭の中を占めていく。

 「…死んでしまったら終わりってわかってたのに…」

 死んでしまったら、償えるものも償えなくなる。なのはにはわかっていた、理解していたことだった。にも拘らず安易に自らの命を捨てるような行為をした自分に憤っていた。

 「結局私は…逃げたかったんだ…自分のやったことから…色んな人を傷つけて、心配させて、私はそんな罪の重圧から一刻も早く逃げたかったんだ…」

 正直、自分のことをそこまで心の弱い人間だと思っていなかったなのははそんな自分に呆れる思いだった。

 しかし、ここであることに気づく。

 「この気持ち…”隷属の影”が私を乗っ取る直前の時の気持ちによく似ている…この気持ち忘れないようにしよう…もう二度と罪から逃げないように…」

 なのはは先ほどまで動かなかった身体が動くようになっていることに気づく。

 「私のするべき償い。それの第一歩は、生きること。この罪の重圧を背負いながら生きて、生きて、生き抜くこと。それが私にできる最初の償い。そして私が迷惑をかけてまだ謝れていない、アリサちゃんには、帰ったらちゃんと謝ろう…そして、またみんなで…遊んだりしよう…アリサちゃんが辛かったこと忘れられるくらい…」

 なのはは態勢を整えて、地上に戻る。ゆっくりと、戻っていく。

 

ーFATE SIDEー

 

 シグナムと合流した私は、グラナードからもっと離れた場所で捜索していた。

 「なのはー!なのはー!いたら合図!なんでもいいから合図してー!」

 大声で叫びながら辺りを見渡す。…反応はない。この辺りにもいないのか…!

 「なあ、テスタロッサ」

 「なんです?」

 「そこそこ探して、未だに見つからないということは…」

 「シグナム…まさか!」

 「成層圏の当たりで浮いているとかは考えられないか?あの爆発だ、上に吹き飛ばされてもおかしくはないだろう」

 「えっ…ああそうですね。確かにあるかもしれませんね」

 「一度グラナードに連絡してみよう、レーダーで何かわかるかもしれない」

 「そうですね」

 さっきからシグナムに提案されてばかりだな…私…。

 『シグナムさん?ちょうどよかった!今貴方たちに通信しようとしてたのよ!』

 「艦長、何かあったのですか?」

 母さんの表情は別に深刻という雰囲気ではないことから、非常事態というわけではないんだろう。

 『フェイトさんが最初に探していたクレーターのちょうど上空になのはさんと思しき魔力反応が観測されたの。なのはさんならきっとボロボロになっちゃっているだろうし、急いで伝えなきゃって思ったの』

 「クレーターの上空だね、母さん!ありがとう!」

 「おい!待て、テスタロッサ!!」

 『シグナムさんも行ってらっしゃい。フェイトさんをお願いね』

 「了解しました、艦長」

 

ーSIDE OUTー

 

 フェイトは猛スピードでクレーターのところまで来た。そして、空を見上げる。目を凝らすと、小さな人影が見える。

 「テスタロッサ!なのはは!」

 「多分、あれだと思います!」

 人影を指さすフェイト。シグナムもその指の先に見える人影を確認する。

 「私、迎えに行きます!」

 興奮気味にシグナムに言う。

 「わかった、わかった。そんなに興奮するな。なのはかは近づかないとわからんのだろ?」

 そう言って、シグナムがフェイトを見た時既に目の前には居ず、空へ飛び立っていった。

 「やれやれ…」

 フェイトはみるみるうちに人影に迫っていく。その人影が近づくと共に自分の知っているシルエッになっていくのがたまらなく嬉しかった。

 「なのは!!」

 嬉しすぎて、遂に叫んだ。

 「あ、フェイトちゃん…!」

 人影…なのはもフェイトに気づき、返事をする。

 母の言う通りボロボロになった親友をフェイトは受け止め、抱きしめた。ようやく見つけたなのはを離さないように、遠くへ行かないように、消えてしまわないように、強く強く抱きしめた。

 その頬には大粒の涙も伝っていた。


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