魔法少女リリカルなのは Goddess Was Fallen 作:ルル・ヨザミ
時間は少し前に遡る。フェイトが”断罪の影”から”影”の情報について聞いている頃。
なのはたちはアリサの猛攻に、グラナードから何とか離れようとするしかできず、一向に無力化することはできていなかった。
しかし、その戦いの最中、なのはは、自らが戦う理由、目的を思い出した。悲しむ人を救うため、悲しむ人の涙を止めるため、自分の魔法が届く距離にいる人たちを救うため。
そんななのはの思いは、”隷属”に仕込まれた種によって歪められていたなのはの思考、感情が解放されたのだ。
今、なのはが思うのは目の前の親友を、大切な友達を救う事。
―NANOHA SIDE―
アリサちゃんを助ける…!そうだ、いつだって私はそうしてきた!目の前で助けを求めている人もそうでない人でも、手を差し伸べて何か手伝えることがあるはずだって言ってきた!だから今回も変わらない。手を差し伸べよう。アリサちゃんに!
「だいぶっ!グラナードから離れたな…っ!」
アリサちゃんの攻撃を受けながらシグナムさんがそう言う。
確かにグラナードからはだいぶ離れた。でもまだアリサちゃんを助けるための方法がわからない。
「結構離れましたけど…!…アリサちゃん!戦闘を止めて…!」
「嫌に決まっていルでしょウ!それにこの天は止まらないのよ!アンタの命を…奪うまで!」
「アリサちゃん…!」
「バニングス!目を覚ませ!いくら恨んでいようと、なのははお前の親友だろう?」
シグナムさんも諭しに入る。
「親友?だからドウしたっていうの!あタしの復讐ノ前にはそんな事些細なことでしかなイわ!」
「バニングス…貴様…!それ以上、怒りに囚われるな!怒りに囚われてしまったら、周りの大切な物が見えなくなるぞ!」
「別にいいじゃない、あたしが今見るべきはなのは!復讐の対象であるなのはだけよ!」
そう言い切ると、両手の剣の炎を竜巻の様にして、シグナムさんを吹き飛ばした。私はシグナムさんの背後に魔法陣をいくつも張り、クッションの様にしてシグナムさんを受け止めた。
「大丈夫ですか!」
「あぁ…!すまない!」
シグナムさんはまた飛び出して、アリサちゃんに斬りかかる。私はアクセルシューターを牽制として放ち、アリサちゃんの気を逸らせ、シグナムさんの攻撃が通りやすいようにアシストをしている。これは、今までの戦闘で疲労した私を回復させようというシグナムさんの作戦だった。恐らくアリサちゃんはこの作戦に気づいているだろう、私が万全の体調になったら一気に攻撃をしてくるはずだ。完璧な私を完膚なきまでに叩き潰す…きっとそれが彼女の復讐なのだ。
「本当に、本当にいいのか!なのはを殺しても!なのはを殺したとて、貴様のそれほどの怒り収まるわけでもあるまい!」
「収まらなければ、その時はその時よ!とりあえずあたしは今、なのはを殺す!それだけよ…」
「そこまで貴様を怒らせるものは何だ?なのはが一体お前に何を…?」
シグナムさんが、その怒りの根本を質問する。私は気になってはいたが何か怖くて、聞くことができなかった。無力化して、お話しできるようになってから聞こうと思っていたことを今、シグナムさんが口にした。
「シグナム、知らないの?じゃあ教えてアゲル。」
アリサちゃんは攻撃の手を緩めず剣をたたきつけるように、レヴァンティンを攻撃している。
「あいつはネ!私の左手を斬った後にアタしのお腹をその手で突き刺したのよ!」
それは、私が”隷属の影”に乗っ取られた時に行った。私の罪だった。
「あの時のなのはは”影”に乗っ取られていたんだぞ!その罪すら高町に背負えと…!」
「いいんです、シグナムさん…」
「なのは…!?」
私は、自分を庇おうとしてくれているシグナムさんを止めた。これはきっと私が向き合わないといけない罪だから。
「アリサちゃんの復讐の理由…それだったんだね…」
「ええ、そうよ!何?そんな事でとか思ッタ?だっタとシたらなお許セないわね!あたしのあの時の絶望感、誰もいない病室で目が覚めた時左の手首から上が存在しないときの悲壮感!アンタにはわからないでしょウ!」
…わからないわけではない。決してそのアリサちゃんが受けた体と心の傷の痛みがわからないわけじゃない。でも、私はそれを与えてしまった。たとえどんな理由があろうと、与えてしまった事実は変わらない…。
「…私には…わかるよ…アリサちゃんの痛み…」
「はぁ!?何言ッてンのよ!アンタにわかるわけないでしょう!適当なことを…!」
「適当なことじゃない。…でも、わかっていたとしても、同情や理解は私がしたことの償いになってならない…」
「わかってるじゃない。じゃあ、シんでくレるかしら?」
そう言っているアリサちゃんの攻撃は止まっていた。
「ううん、死ねない。いや死なない。死んでしまったら、本当に償うことができなっちゃうから。…私の償い、それは生きてその罪を背負う事。決して死ぬことじゃない!」
「なのは…」
「もっともらシイコと言うじゃない…どうやら”隷属”の影響はかなりなくなってきたようね…」
アリサちゃん…。まだ戦おうとしている。剣を構え今にも私に突撃をしようとしてる。
このまま戦っちゃっていいの?まだ、助ける方法すら見つかっていないのに…。
「バニングス。あれを聞いてもまだ殺すつもりなのか?」
「えぇ、もちろんよ。”隷属”の影響がなくなったっテ、やることは変わらない!しかも殺せばあいつはもっと苦しむとわかってやる気がムシロ増したくらいよ!」
「アリサちゃん!……これ以上戦うのはよそうよ!お互いに傷が増えていくだけだよ…」
「イイじゃない、あたしはアンタを苦しメタいのよ!傷ガ増えてくれればそれに越したことはないわ!」
私だけならまだいい…でも、アリサちゃんにも傷は残るんだよ…?これ以上友達と戦いたくない…喧嘩したままでいたくない私の気持ちをなんでわかってくれないの…なんで…。
「なんで、わかってくれないの!?」
私がそう叫んだ時、空から金色の光が私とアリサちゃんの間を通り過ぎた。
「!?な、なによ!」
「まさか、テスタロッサか!」
上を見上げると、そこにはバルディッシュをハーケンモードにしたフェイトちゃんがいた。
「よかった…なのはもシグナムも無事だったんだね…」
「テスタロッサ、保安局の方はどうなった?」
「局員と局長…全員逮捕したよ。もう時空保安局は実質壊滅した」
フェイトちゃんがそう言った後、アリサちゃんの方を改めてみるとアリサちゃんはフェイトちゃんを睨んでいた。
「フェイト…アンタまデあたしノ邪魔をしに来たノ?」
そう言われたフェイトちゃんは、少し黙っていた。
「何とか言イなさイよ!」
「うるさい。アリサの声で話しかけないでくれる?」
「ふぇ、フェイトちゃん?どうしたの一体…アリサちゃんにそんなことを言うなんて…」
私はフェイトちゃんの言った言葉に動揺してしまった。フェイトちゃんが起こっている?でもフェイトちゃんは怒っていてもそんなこと言うかな…?
「いい、なのは?シグナムも。あそこにいるのはアリサだけどアリサじゃない」
「…!?テスタロッサそれはつまり…!」
「そう、あれは”影”。その名も”憤怒の影”。憑依者の怒りのエネルギーを利用する”影”だよ」
アリサちゃんが…”影”に乗っ取られていた…?じゃ、じゃあ…。
「じゃあさっきまで、アリサちゃんがどれだけ説得しても、戦闘を止めようとしないのは…今もなお戦おうとしているのは…」
「全部、”影”がアリサの人格を乗っ取っているから。つまりなのはの時と同じ、アリサの意思なんてない。あるとしても、奴のエネルギー源となった発端の怒りだけ」
「バニングスの意思がないか…。なのはを何より殺そうとしているのは…」
「それは多分だけど…なのはを殺すことで、アリサ本人はきっと”影”を恨む。その恨みをさらに自分のエネルギーにしようとしていたんじゃないかな?」
フェイトちゃんはこっちがビックリするくらい、”影”について詳しかった。局長から聞いたのかな…?
「スゴイナァ…。褒メテアゲルヨ。大当タリサ…二シテモ、ヨク局長ヲ倒セタネ、彼モマタ、”影”ダッタハズ」
アリサちゃん…いや”憤怒の影”はさっきまで出ていたアリサちゃんの声を止め、隷属に完全に支配された時の私のような、話す言葉全てにノイがかかっているような声で話し始めた。どうやら本当に、今までのは演技だったようだ…。でも、それでも私の償いも、決意も変わらない…。そう思っているとフェイトちゃんが自信に満ちた顔でこう言った。
「”断罪の影”でしたね。確かに苦戦しました。しかし、私はその戦いであなたたち”影”と戦う力を手に入れた!」
「戦う…」
「力?」
私とシグナムさんは顔を見合わせて疑問符を浮かべた。
すると、フェイトちゃんはバルディッシュを三回ロードさせて叫んだ。
「モードチェンジ!」
≪Yes sir MODE RAISING GET SET≫
そして、フェイトちゃんは白い球体にを包まれた。しかし次の瞬間にはその球体は割れ、中から、色の変わったバリアジャケットを着たフェイトちゃんが現れた。
モードチェンジ…私とレイジングハートが考えたものとなんか似てるな…。
「!?…ソノ姿…成程、戦闘向キジャナイ奴ガ敗レルワケダ」
「テスタロッサ、その姿は…」
「これは、私に憑依していた”不屈の影”に力を貸してもらった姿。モードレイジングです!」
「お、お前にも”影”が憑依していたのか!?」
「はい。でもこの子は大丈夫ですよ。私たちに協力的ですから!」
「そうなのか…?」
協力的な”影”なんていたんだ。つまり、あの姿のフェイトちゃんがいればアリサちゃんを救うことができるかもしれない…!でも今のままじゃきっとフェイトちゃんの足手まといになっちゃう…それなら…!
「フェイトちゃん!私も一緒に!」
「え、なのは。”影”は”影”の力が無いと完全に倒せないし、無力化もできないんだよ?」
「大丈夫!」
私にもモードあるから…!
≪MODE FALLEN SET UP≫
私のバリアジャケットが黒くなる。私のモードフォーレンも使えば確実に助けられる…!
「な、なのは!?それは…」
「これは私のモード!モードフォーレンだよ!」
「や、やっぱり…なのはの中にまだ”隷属”が居たんだ…あぁ…何てこと…」
急に、フェイトちゃんが落ち込みだした。どうかしたのかな?
「我ヲ無視スルトハイイ度胸ダナ…!」
”憤怒の影”は強い口調でそう言った。
「おっと、なのはに驚きすぎて忘れていた…。じゃあなのは、一緒にやろう。でも無理はしないでね」
「うん!わかった!」
”憤怒の影”と対峙する。アリサちゃんを救うための戦い…ここからが本番。絶対に取り戻して見せるよ…アリサちゃん!