藍染が立つ!   作:うんこまん

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第9話

帝具使い同士が戦えば、どちらかが死ぬ。わかっていたことだ。そう自分に言い聞かせいつも通り食器洗いを終え、タツミはアカメに修行の相手を頼んだ。

 

「だりゃあああああああああああああああああ」

 

猪突猛進に突っ込み、木刀で攻撃を畳み掛ける。だがそれを一歩も動かずに受けきり腰に一発くらい後ろにたじろぐ。

 

「もう一回だアカメ!」

「少し休んだ方がいいんじゃないのか?」

「じゃあタツミは休憩な、俺の番だぜ!」

 

威勢よくアカメに切り込み力で圧倒しようとするイエヤス。しかし受け流され勢い余って木刀を地面に落としてしまう。その隙に乗じて切りかかり白刃取りしようとするイエヤスの頭にゴンと鈍い音が鳴る。

 

「いってぇ~!!やっぱアイゼンみたいに手で止めるなんて芸当は無理か…。」

「馬鹿じゃないの?あんなの余裕あるからできるんであって緊急用に使うようなものじゃないし何より下手すぎ。じゃあアカメ次私ね。」

 

何か不平を言いたげだが概ね事実なので睨みつけることで抵抗するイエヤスをよそに現状アイゼンを除いた3人の中で一番の実力者であるサヨが前に出る。その挑戦を首肯し、互いに木刀を構える。

先ほどの2人と違い自分からは攻めずにカウンターを狙う、その誘いに乗りアカメが踏み込む。頭上に振り下ろされる木刀をぎりぎりまで避けずに待ってから横にずれて躱し、アカメの腰に入れようとするがしゃがんで空振りし足を崩される。切り上げを間一髪避けきり間合いをとってからもう一度攻め込むサヨの木刀をアカメがイエヤス同様受け流し、肩に木刀をポンと乗せて勝敗がついた。

 

「はぁ~だめだったか~。」

「そんなことはない。前の二人に比べればまともな勝負になっていた。距離をとってから焦って私の懐に飛び込んだことが敗因だろうな。」

「あそこかー、実戦だともっと緊張感あるのに練習で焦って突っ込んじゃだめだなぁ。」

「それに関しては場数がものを言うだろう。慣れれば同じようなものだ。」

 

談笑する殺し屋系女子2人を見て自らの未熟を胸に刻みさらに修行の時間を増やした。

 

 

 

 

「集まったな皆、3つ悪いニュースがある…心して聞いてくれ。」

 

ボスの召集に応じ、修行を終えたタツミ達含めナイトレイドは広間に集まりボスが口を開く。

 

「1つ、地方のチームと連絡が取れなくなった。」

「!?」

 

広大な帝国ゆえにナイトレイドだけでの活動は無理がある、なので地方は地方で別のチームが動いている。

 

「今調査中だが全滅の可能性もある。そう覚悟してくれ…。」

「とりあえずアジトの警戒をより強める必要があるね。」

「ああ、結界の範囲を広げてくれ。」

 

りょーかい、とラバックはウインクをして承諾した。それを見てボスがさらに続ける。

 

「そして2つめ、エスデスが北を制圧し帝都へ戻ってきた。これはアイゼンの情報からわかってはいたが思ってたよりも早かったな。」

「そして最後の1つ、帝都で文官の連続殺人事件が起きている。被害者は文官4名とその敬語の61名。問題は殺害現場に『ナイトレイド』と書かれたこの紙が残っていること。」

「わかりやすい偽物だな、俺達に罪を押し付ける気か。」

「でもさ、ふつうばれるだろ。いきなり犯行声明なんてわざとらしい。」

 

タツミの言うとおり初めのうちはそう思われていたが、事件が起きる毎に警備が厳重になるがそれでも殺されてしまうので、そんなことできるのはナイトレイドしかいないという見解に今はなっている。

 

「犯人はこちらと同等の力を持ったもの…つまり帝具使いだな。」

 

アカメが結論を導き出し顔を顰め、ボスが煙草に火をつける。

 

「なんでこんなことを…」

「誘いだろ?本物をおびき出して殺る気だぜ。」

「…これが罠だとわかった上でみんなに言っておきたい。今殺されている文官たちは能力も高く大臣にも抗う、かつ反乱軍のスカウトにも応じない国を憂う人間達だ。そんな文官たちこそ新しい国になった時に必要不可欠なんだ、後の貴重な人材をこれ以上失うわけにはいかない。私は偽物を潰しに行くべきだと思う!お前たちの意見を聞こう!」

 

暫しの沈黙の後、タツミが拳を握り話し出す。

 

「俺は…政治の派閥とかはよく分からねえけど…ナイトレイドの名前を外道に利用されてるってだけで腹が立つ!」

「そうだな…その通りだタツミ!」

 

ブラートが続き、ほかのメンバーも頷く。

 

「決まりだな、勝手に名前を使ったらどうなるか殺し屋の掟を教えてやれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「で、でけえええええええええええええ!!!」

 

帝都近郊、全長2500kmにも及ぶ大運河の出発点に停泊する巨大豪華客船“竜船”。名前の由来でもある竜の頭が船首にあり馬鹿でかい船体に加え、威圧感を感じさせるには十分だった。これを完成させる為に帝国は100万人の民衆を動員し、わずか7年という短い期間で工事を終わらせた。民への負担は大きく帝国への不満はさらに高まったが、長い目で見れば運河は流通の動脈として間違いなく機能する。ゆえに帝国の良識派はその発展に力を注いでいた。皇帝が巡幸で使用する“竜船”完成セレモニーもその一環である。

タツミ、イエヤス、ブラートの3人はこの船に乗り、ナイトレイドの偽物の襲撃に備え監視の目を光らせていた。

 

「おい見ろタツミ!この料理めちゃくちゃうめぇぞ!こんなの村じゃ食ったこともねえよ!」

「はぁ…。」

 

貴族たちに紛れ監視の目を怠り料理を貪り食う同郷人の姿にタツミは飽きれていた。

 

「ま、あれも潜伏の1つの手だろう…自覚してないだろうが。」

 

タツミの横で必死にフォローするブラート。南部異民族との戦線を戦い抜いた相棒であるインクルシオの能力、透明化を使って身を隠している。イエヤスが食った食った、と腹を撫で満足げに2人に近づいてくるのを横目にブラートは船の内部を調べに行った。

突如、ピピルピルピルピピルピーと笛の音が聞こえ始めた。

 

「笛の音…?」

「なんだこれ?演奏かなにかか?にしてもうるせえな。」

「そうか?結構いい音色だと思うが。」

 

そう辟易して耳を塞ぐイエヤスに対し美的センスを疑うタツミ。音が聞こえ始めてから数十秒が経つと、貴族の1人が手に持っているグラスを落としワインが甲板に染み渡る。それをきっかけに1人、また1人と貴族たちがどんどん倒れていく。

 

「なんでみんな倒れてるんだ!?」

「さっきから流れ続ける笛の音…これのせいなのか?」

「…やはりそうだったか!」

「イエヤスてめえわかってなかっただろ。」

 

千鳥足のようにフラフラながらもツッコミを入れる。

 

「あー隠れるのだるかったーおっ?」

 

船内から一人の黒服を着た大男が現れる。獅子にも似た乱れた金髪を潮風に靡かせ、肩を回す。

 

「この状況でまだ頑張ってるやつがいるじゃねーか。催眠にかかってりゃ記憶は曖昧、生かしておいてやったものを…。」

「…って事はてめぇが偽物のナイトレイドか?」

「! そっちは本物さんかい!こりゃあいい、呉越同舟ってわけかい。舟だけに。ガハハハ!!」

 

大声で笑う男にうぜぇ、と顔を顰めるタツミと頭の上に疑問符を乗せるイエヤスに男が剣を2本投げる。

 

「なんのつもりだ?」

「俺はさ…戦って経験値がほしいんだよ、最強になるために。かかってこいよ!この位置なら人も倒れてないしやりやすいだろ?」

「あ…そ…じゃあいい経験させてやるよ。地獄巡りだ!!!」

 

タツミが鞘を投げ捨て、跳躍して男に向かって切り落とすが、待ち構えてたように担いでた戦斧を船上に叩きつける。それをイエヤスが鞘付きの剣で受け止める。予想以上にかかる負担に木でできた甲板は半壊し、イエヤスも歯を食いしばる。

 

「1人で前に出過ぎるなよ、タツミ。」

「サンキューイエヤス助かったぜ。」

「2対1じゃちょっときついがこれもハンデだ。だったらこれはどうだオラァ!」

 

斧が真っ二つに割れ、片方を力いっぱい投げる。そのまま回転してタツミの方に向かい身をかがめ避けきり、放物線を描くようにUターンして今度はイエヤスを襲う。真正面から強引に止めようとするが力負けして船橋に叩きつけられる。

 

「がはっ…。」

「イエヤス!」

「おいおいよそ見してる場合か?」

 

タツミが振り向くと斧を振り落さんとする大男の影に覆われ…

 

「馬鹿かてめえはあああああ!!」

 

ブラートの蹴りによって吹っ飛ばされた。

 

「目の前に敵がいるっていうのによそ見してんじゃねえ!味方の安否の前にてめえが死んでどうすんだ!」

「あ…兄貴…」

「…てめぇやけに元気だな。無気力化の演奏は船全体に響いてたはずだが…。」

「そういう演奏だったのか…だったら効かないはずだぜ。俺の体に流れる熱い血はよ…他人に鎮められるもんじゃねーんだよ!」

「フン、面白いやつだ。体えぐって痛みで洗脳に対抗しやがったか…。」

 

両者が向き合い、構える。

 

「ナイトレイドのブラートだ、ハンサムって呼んでいいぜ。」

「エスデス様の僕、三獣士ダイダラだ。」

 

 

 

 

「タツミ、お前は俺の戦い方をしっかり目に焼き付けとけ。」

 

そういったブラートの背中は逞しく、頼もしく、儚げだった。

 

 

 

 

「インクルシオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」




次回 
 ブラート 死す
デュエルスタンバイ!

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