藍染がアジトを離れて数刻たった頃、いつも通りナイトレイドは広間に集まってザンクが持っていた五視万能『スペクテッド』を新入りである3人に試しにつけてみることにした。
「というか俺がつけてもいいのか?」
「帝具は1人1つだ。」
「体力と精神力の消耗がハンパないからね~。」
それを聞き、帝具に強い憧れを持っていたタツミが初めにつけてみることになった。スペクテッドを頭につけ能力の発動を命じる。目を開けて広がる世界には…アカメ、マイン、シェーレの下着姿があった。
「なっ…!」
「どうしたのよ?」
胡坐をかいておどおどしているタツミに前かがみになって訝しげに覗き込む。目のやり場に困りながらも胸元をチラ見してにやけている姿にサヨがデジャヴを感じ取りすぐさまスペクテッドを外す。
「あっ!何しやがるサヨ!」
「あんた…昔風呂覗きに来た時の目してたわよ。どっちにしろ次は私の番だしいいでしょ!」
処刑を待つように冷や汗をかくタツミをよそにサヨがスペクテッドを付け発動させる。透視だけ使えなくなるなんてこともなくサヨにも服が透けて見える。
「へぇ~あんたはマインの下着姿見てニヤニヤしてたわけか~。」
「はぁ!?」
「い、いやニヤニヤなんてしてないし!?つーかまず能力すら発動してないし!?」
必死に言い訳するタツミに聞く耳持たず満面の笑みで拳を振るわせいまにも殴りかかるサヨとつい最近にも下着姿を見られたことのあるマインは顔を赤らめながらもさすがは暗殺者。冷静にパンプキンを持ち照準を合わせる。
騒ぎに紛れ自然な流れで真顔でスペクテッドを付けようとするイエヤスだが幼馴染でよく知っているサヨが許すはずもなく
タツミとイエヤスの霊圧が消えた。
その夜、新たな任務も難なく熟し、アジトへ帰る途中のマインとシェーレに影が差す。
即座にその場から離れ身を翻すと警備隊らしき茶髪のポニーテルをした女と小さなか可愛らしい犬のようなものが立っていた。
「敵…!?」(何こいつ気づかなかったわ…。)
(気配丸出しの警備隊員とは違うようですね。)
「…やはり顔が手配書と一致…ナイトレイドシェーレと断定!所持している帝具から連れの女もナイトレイドと断定!夜ごと身を潜めて待ったかいがあった…。」
獲物を見つけた動物のように女が笑う。
「やっと…やっっっっっと巡り会えたなナイトレイド!!!帝都警備隊セリュー・ユビキタス。絶対正義の名の下に悪をここで断罪する!!!!!」
藍染が帰還したと同時に知らされた報告は―――――シェーレの死だった。
「そんな…シェーレさんが…」
「や…やったやつはどこにいるんだよマイン!」
「待てどうする気だタツミ!」
「決まってるだろうが敵討ちだ!!!」
「俺もやるぜ!シェーレをやったやつをぶっ殺してやる!!!」
「あんたたちね…!」
怒りに身を任せ復讐心に燃えるタツミとイエヤスを宥めようとするサヨ、だが2人は鉄拳によって吹っ飛ばされる。
「見苦しいぞお前ら!取り乱すな!!いつだれが死んでもおかしくないと言っただろうが!お前らもそれを覚悟して入って来たんじゃないのか!?」
「我々は死を傍に感じ、それを受け入れる強さを持たなければならない。」
叱咤し自らも行動せんという気持ちを必死に抑え歯を噛みしめるブラートに気付いてか否か、タツミ達を諭す藍染。
(アンタは任務…これは報い…そんなことは分ってるわ。だけどアンタはシェーレを殺した。そしてこれからも私たちを狙う…それなら!!セリュー・ユビキタス!アンタはアタシが必ず打ち抜く!!!)
マインが復讐を誓う。いずれ会うセリューに対して。
場所は打って変わって帝都中心にある宮殿、謁見の間。玉座には肩まで届くほどの浅緑の髪をもつ年端もいかぬ少年が堂々と座り、幼いながらもカリスマ性を持ち千年栄える帝国を牛耳る皇帝である。だが、国民が真に恐れるのはその背後にいるオネスト大臣。皇帝を裏で操り暴虐の限りを尽くす帝国を腐らせた元凶。彼らに膝をつき頭を垂れる女に皇帝が呼びかける。
「エスデス将軍。」「はっ!」
「北の制圧!見事であった。褒美として黄金一万を用意してあるぞ。」
「ありがとうございます。北に備えとして残してきた兵達に送ります。喜びましょう。」
氷の女、エスデスは嬉しげに微笑するが傍から見たら背筋が凍るほど悍ましい笑顔だろう。
「戻って来たばかりですまないが仕事がある。」
皇帝の話は、帝都周辺に跳梁跋扈するナイトレイドをはじめ凶悪な輩を一掃してほしいとの事であった。その辺の賊風情では彼女に指一本触れることすら叶わぬだろう。だが、帝具使いのナイトレイドといっては話が別だ。いくら彼女でも些か危険が伴う、そこでエスデスは6人の帝具使いを集め治安維持部隊の結成を提案した。皇帝は少し躊躇ったが大臣が勧めると安心して手配させた。
「苦労をかける将軍には黄金だけではなく別の褒美も与えたいな、何か望むものはあるか?爵位とか領地とか。」
「そうですね…あえて言えば…」
「言えば…?」
「恋をしたいと思っております。」
「「…」」
皇帝はなぜエスデスが氷の女と呼ばれているか、少しわかったような気がした。
謁見の間を離れ、宮殿内の廊下を歩くオネスト大臣とエスデス将軍。
「しかし妙なことだ…私が闘争と殺戮以外に興味がわくとは自分でも戸惑っているが何かそんな気持ちになるのだ…」
「あぁ、生物として威勢を欲するのは至極当然でしょう。その気になるのが遅いくらいですよ。」(恋という言葉は全然似あってませんが)
「なるほど…これも獣の本能か。まぁ今は賊狩りを楽しむとしよう。」
「それですが、帝具使い6人要求はドSすぎます。」
「だがギリギリなんとかできる範囲だろう?」
エスデスの返答に対し邪悪な笑みを浮かべ
「揃えるかわり…といってはなんですが私、いなくなって欲しい人達がいるんですよね…」
「フ…悪巧みか」
交渉も成立したところで思い出したかのようにエスデスが話す。
「そういえば大臣、私やブドー並みかそれ以上の人間に心当たりはないか?」
「…さぁどうでしょうねぇ。それほどの人材なら手元に置いてるでしょうし、まさかそれくらいの帝具使いを用意しろってわけじゃないですよね?」
「そこまで無茶はいってないさ…ただ、革命軍にそれくらいのやつがいるかもしれない。」
「ほほぉそれはそれは…。」
「何、一度剣を交えただけだ。杞憂かもしれんが警戒しておけ。」
「ご忠告感謝いたします。」
2人はやるべきことのために各々別の道を行く。