雪で覆われる北の大地を拠点とし帝国を脅かす北方異民族。それを率いる彼らの王子ヌマ・セイカはある女の靴を舐めていた。女の名はエスデス、瞬く間に北の大地を制圧し40万人を生きうけにした氷の女である。
「北の異民族を瞬く間に討伐。さすがですエスデス将軍!」
「これが北の勇者とはな…つまらん。死ね。」
ヌマ・セイカの顔を蹴り上げ、飛び散った血が兵士達の顔にかかる。それに目もくれることなく気怠そうにぼやく
「どこかに私を満足させてくれる敵はいないものか…。」
ズン、と体を沈めるような重圧がエスデスを含む北方征伐部隊に押しかかる。中には気絶するもの、吐き気を催しその場に崩れ落ちるものもいる。
「―――――力量を量り間違えたかな?潰さないように蟻を踏むのは、力の加減が難しいんだ。」
阿鼻叫喚の兵もいる中、背後からフードを深くかぶった男が姿を現す。
「お前は誰だ?」
「君の監視を承ったものだ。エスデス将軍で間違いないかい?」
「ああそれに関しては問題ないだろう。だが…」
一瞬にして男を優に覆えるほどの氷が生成され彼の動きを止める。
「貴様の言うとおり量り間違えだ。仮にも帝国最強と謳われる私を甘く見過ぎだ。兵士に手を出したからには見逃すわけにはいかんなぁ…。」
いますぐ拷問にでもかけそうなどす黒い笑みを浮かべるが、何かを感じ取り顔を引き締める。すると、軽く拘束する程度とはいえ常人なら身動きすらとれない程の氷を男は片手ではらうだけで粉々にする。
「いや君は思った通りの実力だ、私は君が率いる部隊に対して言ったんだよ。」
「私の兵を蟻などと侮辱されて生きて帰れると思っているのか?」
「無論。」「なら死ね。」
互いに剣を抜き、雪の大地に金属音が鳴り響く。鍔迫り合いの中まだまだ余裕がある2人が話し始める。
「そういえば名を聞いていなかったな?」
「顔を隠しておいて名乗るわけないだろう?」
「それもそうだな。」
聞いておいて興味なさげに言葉を返し距離をとり、男の頭上に氷柱を無数に作り彼を襲う。問題ない。と言わんばかりに最低限の氷柱を薙ぎ払い他を避ける。
エスデスがその隙を逃すはずもなく兵に紛れ死角から切りかかるが、余っている左手でエスデスの剣は止められる。不味い。と思い自らの剣を置き去りにし離れると、先ほど自分がいた場所には亀裂が走っていた。
「さすがは将軍…といったところかな?」
「貴様に褒められても何とも思わんな。」
悠然と答えながらも内心舌打ちする。剣をとられた今自分に残るのは帝具による能力しかない、だが兵士達も近くにいるのであまり大きな氷塊も作ることはできない。さらに言えば相手が帝具使いかも分らず持っているとしてもどんなものかわからない。不利なのは明らかにこっちだろうと顔に出さずに思うが、それを見透かしたように男が喋る。
「心配しなくてもいい。私がここにいるのはあくまで視察のためだ、こちらから手を出すつもりはないよ。君の帝具についてもわかっているし実力もある程度わかったつもりだ。見たところ北方異民族も殲滅されたようだしここらへんで踵を返すとしよう。」
「随分余裕だな。先ほどもいったが生きて帰れると思っているのか?」
見下すように男が笑う。
「…あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ。」
瞬時に氷の剣を作り首を斬り落とす。が、そこには男に奪われた剣だけがあり地面に落ち、地面には足跡のような窪みができていた。
「…チッ」
軽く舌打ちしてから納刀し、混乱気味の部隊に怒鳴る。
「いつまでもぼさっとしてるな!帝国に帰還する!」
(あの男…少なくとも北方異民族ではないだろうな。だとしたら他の異民族か?それとも革命軍か?まあ何にせよ次合ったら殺せばいいか。)
悪魔的な笑みを浮かべる残忍な氷の女が帝都へと歩みを進めた。
一方、藍染は北の大地を離れある孤島へとはしを伸ばしていた。その島では危険種同士が共食いをして己の力を高め合う弱肉強食の世界と化している。
島を歩いていた藍染の前に地面から危険種が現れる、一級危険種『土竜』。目の前にいる男を襲おうとするが
「縛道の六十三“鎖条鎖縛”」
空間から光の鎖が現れ蛇のようにまとわりつき、土竜の動きを封じる。
「拘束はこれで十分かな。さて…」
―――――崩玉が光りはじめる。