藍染が立つ!   作:うんこまん

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お久しぶりです。もう少し落ち着いたらまた書き始めようかなと思ってます。書き直しは延期で…


第24話

 今、波乱の幕開けとなるか否かという運命を迎えようとしている帝国は海に面しながらも三つの国と国境を隔てながらも依然として陸続きである。

 中でも南の異民族は帝国同様に海と接しているため、魚介類などに恵まれ人々が飢えることも少なかった。この国は元々帝国から見て南の異民族と南西の異民族が合わさって新たに建国した多民族国家である。といっても、二国間での輸出入が盛んだったり、未来永劫語られるだろうと言われていた帝国全盛期の侵攻勢力への抗いを理由に手を取り合ったに過ぎず、文化の違いは数百年経てど交わる事はほとんどなかった。

 そんな中、数年前に南西のバン族が帝国に牙をむくという暴挙に出た。時代の流れと共に近代化が進み、もはや帝国に抗おうと奮い立たせるような輩はどうしても周囲から浮いてしまった。それでもそう思う者は後を絶たずに増えていき、やがて掃き溜めのように一か所に纏まり新たな民族を作り上げた。それがバン族である。彼らは武具の収集には南西の異民族や東の異民族から間諜を使い取り寄せ、ただひたすらに研鑚を積みやがて個々の能力はもちろん、集団での戦闘においては数こそ少ないが粒ぞろいだと彼らも自負していたし途中までは順調だった。だがそれも帝国最強と謳われるエスデスの前では全く歯が立たなかった。

 これ幸いと目を付けたのが今なお世界一憎しみを大人買いしている他ならぬ大臣であった。バン族の責任を南西の異民族に擦り付け国ごと乗っ取ろうとした。大臣の頭の中では責任逃れに南の異民族は独立するが、大した戦力もないだろうと思い、南西をわが物にした暁には南も攻めてしまおうと考えていた。

 しかし、思い通りにいかないのが世の常なり。南の異民族の王女は独立どころか、完全な連盟を南西の異民族に求めた。もちろん相手方も快く受け入れ、近隣の異民族も取り入れ南の異民族を主権とした南方連邦として一つの大きな国を築き上げた。これにはさすがの大臣も舌を巻いたが、それからたった一週間でストレスのため五キロも太ったという。だが彼も肉を貪りほくそ笑むだけの能無しではなくナイトレイドとの一悶着が済んだらエスデスを南に向かわせようと企んでいた。

 然れどまたしても彼の計画は狂わされてしまう。エスデスの報告を聞いていた大臣の顔は皇帝には見せないが嘸かし歪んでいただろう。藍染の存在が天秤を大きく傾かせたのは紛れもない事実であり、帝国に忍ばせていた間諜をつてにそれを知った異民族の王女ラーファは国民の前に立ってこう告げた。

 

「待て、しかして希望せよ!」

 

 彼女の言葉に含まれた意味をその場にいた誰しもが理解し、驕らず、臆せず、ただひたすらにその時を待ち望んでいた。

 

 

 

 

 

 帝国の南西部はカルスト地形となっており、中でもヅラリン村にあるタワーカルストは圧巻である。降水量が極めて多いこの地域では雨水が石灰岩を溶かし、褶曲を繰り返し残った部位が乱立してとても神秘的である。帝国の名所の一つでもある。だがこれは数百年前は南西の異民族の土地であり侵略して奪ったものだ。そこから少し北に行き国境付近から一望できるジュサイコには、底が覗けるほど透き通った水で満たされた池や、帝都三大瀑布の一つともされる大きな滝がある。だがこれも元は帝国ではなく西の異民族の土地であったがいまではジュサイコのほとんどが帝国の手の内にある。彼らが帝国に牙をむく理由の一つがこれだといえるだろう。

 互いにナイトレイドとイェーガーズから離れた藍染惣右介とDr.スタイリッシュはジュサイコ付近に瞬間移動で現れた。すでに息絶えたセリュー・ユビキタスを連れて。

 

「さて…念のため人気の少ないところに着いたが目的地と離れてしまったね。少し、歩こうか」

「そうね~」

 

 ドクターがそう軽く返すとセリューの服の襟を掴み、引きずりながら藍染の後を追った。

 

 

 

 

 

 それから五分とせずに辿り着いたゴヨウ海は、海といってもこじんまりとした池だった。いくつもの大木が池の中に沈み、ただひたすらに佇んで客人を招いている。一方で、四季折々に彩る木々は藍染達を忌避するかの如く葉っぱを風に靡かせ葉擦れを起こす。耳を澄ませば近くの滝が落ちる音と合わさってハーモニーを奏でているようにも聞こえる。慄然と立ち尽くすしかできない彼らの思いが一つとなって楯突くが、その思いは届かない。

 

「ここでいいのかい?」

「ええ。こっちが入口よ」

 

 ドクターがそう言うと、今度は彼が先立って藍染を導き数十歩進むと直径三メートルほどの大岩に掌を合わせて呟いた。

 

「開けゴマ!」

 

 シンプルな開錠の言葉によって、岩を模した扉が地響きを鳴らしながら開かれ、中からは地下から吹いてきているであろう風がドクターの隣を通り過ぎる。

 

「驚いたな。こんな観光所に隠し通路があるとは」

「観光所だからよ。誰もこんなところに手を付けないだろうから何かを隠すには打って付けでしょ?昔知人と一緒に秘密基地代わりに作ったのよ」

 

 ドクターはそう言い、せっせと通路を歩いて行った。彼にそんな友人がいたことに少し驚いたが、特に興味もなく藍染も隙間に入り外からその姿が暗闇に溶け込むあたりで扉は閉じた。

 

 

 

 

 

               ◆               ◆

 

 

 

 

 

 タツミは鍛錬に明け暮れていた。来る日も来る日も肉体改造を繰り返し槍術に励む。ブラートが亡くなった時は悔しさをバネに汗を流し、足手まといにならないように必死だった。だが今の彼は仲間と肩を並べて戦える、と胸を張って言える程にまで成長を遂げているので、慢心しているわけではないがそういった感情には到らなかった。彼を動かす感情があるとするならば…

 

「これはこれは精が出るのう、近頃の若いもんは元気があって大変よろしいのうばーさん」

「そうじゃのうじーさん。こりゃ飯も食わなくても大丈夫そうじゃのう」

 

 手を使わない木登りをしていたタツミを見上げる様にサヨとイエヤスが目を細め同調し合う。幼馴染だからといういい加減な理由でタツミを呼びに行かされた腹いせにからかうという、なんとも子供染みた嫌がらせだった。

 

「ちょ、ちょ!食べる食べるって!すぐ降りるから!」

 

 そういうと登るのに使った枝を数本ずつ飛ばして何事もなく地表に足を付ける。

 一部始終を目の当たりにしたサヨが思ったことを口に出す。

 

「まるで猿ね」

「ひ、ひでぇ・・・」

「ウッホッ!ウホホホッホ!」

「俺は普通に喋れるわ!あとそれはゴリラだからな!」

 

 ドラミングをするイエヤスに思わず声を張り上げる。何気ない会話にサヨはくすくすと笑い声を漏らし、2人は驚いたようにそちらに視線を移す。

 

「あ~やっぱタツミはそうでなくちゃね。馬鹿みたいに体鍛えて追い込み過ぎなのよ」

「そうだな、昔みたいに馬鹿やってるほうがおまえらしいぜ」

「そんなに無理してるつもりはないんだけどなー…というかそれどっちにしろ馬鹿じゃねえか?」

 

 タツミの言葉に対し二人は目を合わせ、そのまま背中を向けて笑いながらアジトへと走っていく。不平を鳴らす間もなく、タツミも追いかける様に二人を追った。

 

 

 

 

 

「ふぅ~食った食った。やっぱスーさんの作るハンバーグは絶品だな~」

「そう言ってもらえると作った甲斐があるものだな」

 

 食事を済ませたタツミと食器を洗っているスサノオが話し合う。他の顔ぶれは休日ということもあって各々好きなように過ごすようだ。

 サヨとイエヤスは夕飯の買い出し含め町をぶらぶらしてくると先程出て行った。はっきりいって余所から見れば、嬶殿下の夫婦に見えなくもないくらいには仲睦まじい間柄である。タツミもサヨを恋い慕うといっては大げさだが、同年齢の子が少なく閉鎖的な村ではサヨは男子の間ではそれなりに人気だったため、子供といっても思春期に差し掛かるタツミも立派な男故に気にはなっていた。しかし、生死を彷徨う死闘を繰り広げるうちに情事とは無縁になり、いつしか悶々とする蟠りも修行していると消えて行った。

 その一方でイエヤスとサヨは、村にいた頃から二人一緒にいてナイトレイドに入ってからもコンビネーションがいいため組まされる可能性が高く、死線をくぐる度に信頼は深まっていった。ラバックなんかは二人が付き合うのだけは何としてでも阻止するといい、色々と企んでいるようだ。タツミとしては恋愛事にあまり興味を示さなくなった自身に対して気に掛けているが、二人の仲に関しては陰ながら応援している。というよりラバック以外は皆それくらいは思っているだろう。

 話は少し遡り、マインは浪漫砲台パンプキンの手入れ。千年前の代物なのでこまめに掃除しないとどうも調子がよくないらしい。ちなみに精神エネルギーを打ち出す主砲はナジェンダが持っていた頃から一度も手を付けたことがないらしく、元々そういう仕組みらしいが相変わらず原理は不明だ。

 ラバック、チェルシー、レオーネは早朝からショベルを背負い弁当片手に出て行ったままだ。行先も告げないところを見ると良からぬ事を企んでいるのだろう。

 アカメは板に付いた剣技を今一度見直すらしく、山に入っては獲物を持ち帰り、を繰り返しているが実際に刀を振るうのを目の当りにしてる者はいないので、はっきりいっていつものように腹を満たすための危険種狩りと何ら変わらなくも見える。

 ナジェンダはスサノオが食器を洗い終えてから、彼を連れてラバックが働いている書店を寄るつもりらしい。元将軍でありながら帝国屈指の軍略家であった彼女が革命軍に齎した貢献は数知れず、今なお彼女が革命軍において重宝され、トップ足り得る所以はその知謀にこそある。同時に読書家でもあり、泉のように湧き出る策略がその夥しい知識の量を語っている。ちなみに書店に向かうときの変装したナジェンダは自慢の髪を活かして老婆の振りをしており、ラバック曰く「老いてもまた美しい」とのことだ。

 ふと思い立ったのか、独り言のようにタツミがスサノオに話を切り出す。

 

「俺もどっか出かけようかなー…アカメとばったり会っちゃっても気まずいし川の方でも行くか」

「…また危険種狩りか。無理をするなとは言わんが気を付けろよ。あの辺は下級危険種がわんさか湧いてたがここ数週間は表立って襲ってくるやつは減ってきている」

「ああ、統率者が現れたかもしれないわけか。そうなると厄介だな…」

 

 元来、危険種は群れで行動することが少なくそういう種であるか、生息地界隈に別の上位種がいないかぎり個々または家族でしか共に居ず、一度あいまみえては互いに物々しい空気を醸し出すだろう。一級危険種マーグドンなどが司令塔を持つ例が一般的だが、川淀にもそれらしき種はいるので別におかしくはない。

 しかし、アジトから一番近い川に生息するのは何処も彼処も単一危険種だらけで群れなんて一つもなかった。色んな可能性が考えられるが、考えても仕方ないのでタツミは決心して席を立つ。

 

「座っててもしゃあねーし、ちょっと行ってみるよ」

「そうか。何かあったらアジトにはマインがいるし相談すればいい」

「あいつに相談ってのもアレな気がするけど…」

 

 陰口のような捨て台詞を吐いてからタツミはアジトを後にした。

 


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