藍染が立つ!   作:うんこまん

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第17話

 先陣を切ったのは自らをバルログと名乗る男、それに続くようにサヨとイエヤスが趣く。3人が至るよりも早く新型危険種がこちらに気付いて拳を握りしめ、掻き払わんとする。

 しかし、2人に差をつける様に大地を踏みしめ、標的目掛けて流れ星のように飛び込んだバルログの膝蹴りが頬を貫き、それだけに及ばず頭蓋骨が砕けるような音と共に巨体ごと水平飛行し、10mほど先の岩壁にぶつかりその衝撃で崩れた岩塊が落ちてきてトドメを刺す。

 僅かながら知性を有する彼らにとってそれは恐怖にしかならず、我先にとその場を離れる。逃げることに必死で隙だらけな背中に、一足遅れて辿り着いたサヨとイエヤスは躊躇うことなく一閃。亜人が一人、また一人と崩れ落ちていく。

 

「二人ともなかなかやるなぁー。俺も負けてらんねぇか」

 

 抑揚なく呟くと、紐をつけて腰にぶら下げていた鞘に手を添える。鋒鋩に近づくにつれて滑らかに湾曲する所謂カットラスと呼ばれるものである。船乗り、海賊などが愛用するこの刀は舶刀とも言われ、混み合った船上での戦いに長けている。切っ先が両刃になっているため刺突に使うのも悪くない。

 だが、バルログにとってそんなことはどうでもよかった。要は如何に楽して絶命させるかである。使い方など知ったことではない。

 そこで彼が選んだのは頭を両断することだった。いままであってきた生物は大抵頭を潰せば脳も潰れ、息絶えるものだった。新型危険種だろうが例外ではない、人型を保っているなら尚更だ。

 

 果然、と言うべきだろう。顎まですっぱりと文字通り、一刀両断され頸椎が曝される。地の噴出を切っ掛けに前のめりに倒れていく。勢いはとどまることを知らず地面に体がつくまで重力に逆らわず加速し続け、轟音と共にそれっきりぴくりとも身動きしなくなった。

 

 次々と薙ぎ倒されていく仲間を嘆き悲しむはずもなく、数十頭といた危険種も一分とせずにわずか3頭だけになっていた。

 

「「「これで終わりだ!」」」

 

 一斉に各々の敵に斬りかかり、明暗が分ける。

 

 

 

 

「ここら一帯は大方片付いたか?」

「みたいね。それじゃ引き上げるとしますか!」

「だな。昼間寝たのにまだねむてー…」

 

 口に手をあてながら欠伸をするイエヤスの手を引き、サヨが振り向く。

 

「じゃ、私達帰るからまた機会があったら会いましょ。それじゃあね」

 

 そう告げると、トントンと崖を下りていき夜陰に溶け込む。

 

「また機会があったら、ね…」

 

 意味深に反芻し自らも踵を返す。その機会が未来永劫起こらぬことを願いながら―――

 

 

 

 

 サヨとイエヤスがアジトに戻るとすでにほぼ全員が帰ってきており、ただ一人タツミだけがその場にいなかった。

 

「タツミは?」

 

 重い沈黙を遮って問いだすが、返答は帰ってこない。

 

「わからねぇ…高台を覗いて行ったきり帰ってこないんだ。遠くから見張ってみたが数体の危険種の死体があるだけで人影は見えなかった」

「…まさかまた連れ去られたとか…?」

「強ち否定できねぇ。いやむしろ、それが一番可能性は高そうだ。タツミとは別の気配が高台に向かって途轍もない勢いでやってきてたしな。ただそうなると逃げる時の手段が謎だ。知っての通り、この辺は俺のクローステールが張り巡らしてある。だが逃げる時の足跡がからっきしない。となると移動手段は限られてくる」

「空を飛んで逃げたとか…?」

 

 サヨがありがちな答えを口にするがラバックは首を振る。

 

「いんや、それはないぜサヨちゃん。いくら夜だとしても今日は幸運にも雲はひとつもねえ、ってことは地上からでもエアマンタを視認することなんざ俺には朝飯前ってわけよ!」

 

 ドヤ顔でサムズアップして悄悄たる空気を払拭しようと試みるが、その努力も空しく誰も反応せずにレオーネだけが、ポンと肩に手を置いて労わる。

 

「だとしたら地中だな。俺が旧アジトで敵対したやつも地面を潜り逃げて行った。奴の戦闘能力で今のタツミを捕らえられるとは到底思えんが、奴同様に地中を得意とするならタツミを捕縛できる奴がいてもおかしくはない。奴を頼りにしていたスタイリッシュ及びイェーガーズはこの件とは関わっていないとも推測できる」

 

 スサノオの推測は概ね理にかなっており、思わずイエヤスが驚嘆の声を漏らす。

 

「そして一番ありえなさそうでありえそうなのが…空間移動だな」

 

 ボスの発言に全員の表情が引き締まる。

 空間移動。普通ならそんな人智を超えた術など人間は持ち合わせていない。だが千年も前に作られた帝具は我々の常識を超えており、ナイトレイドも持っておりその異常性は己が一番理解しているだろう。帝具が関わってくると嫌に現実味を帯びてくる。オカルトじみた話でも帝具だからと片づけられるとあっさり納得してしまうほどである。

 一同の思案顔を一瞥するとボスが話し出す。

 

「まあ、タツミが捕まってない可能性だってあるんだ。ラバックの言う気配も気にはなるが、これ以上仲間が減るのはナイトレイドとしても正直きつい。なんとしてでもタツミを見つける。先ほど同様二人一組で周囲一帯を探れ。ラバックはここに残って状況を報告してくれ」

 

了解。とボス以外全員の声が重なり、再び闇に紛れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都近郊地下。薄暗く不気味な雰囲気を醸し出す洞窟、その奥地に幾重もの厳重な扉によってまるで世界から剥離されているような研究所がある。

 

「やっぱり失敗ね。あれじゃもどきにすらなってないわ」

「そうか…まあ、焦る必要はない。時間は幾らでもあるんだ」

 

 照明が途切れ途切れに点滅する中、藍染とDr.スタイリッシュはとある実験を行っていた。

 彼らの間にある診察台には若い女が一人仰向けに横になっている。と言えば聞こえはいいが、実際には手足を封じられ、口にも猿轡をはめられ声もまともに出せない状況だ。彼女は一生懸命もがいて手錠、足錠を外そうとするがガチャガチャと金属音がこの密室に響き渡るだけだ。

 

「ほ~ら、いたくないでちゅよ~」

 

 Dr.は赤ちゃん言葉で彼女の腕に注射器を差し込む。プスリと若々しい肌に針が刺さり、液体が注ぎ込まれる。止血もせずに藍染とDr.はじっと静観を続ける。

 

―――――ビクン。

 

 彼女の体が跳ね上がり、痙攣する。リミッターが外れたその力は鉄製の手錠も無闇矢鱈に手足をばたつかせるだけで外れようとしていた。

 やがて彼女はそれだけに留まらずさらなる変貌と遂げる。髪は著しく伸び、爪は急激に鋭利となり、体毛も濃くなりつつある。

 その姿を見て2人はどこか落胆したように顔を顰める。

 

「失敗…か」

 

 藍染の一言でこの実験結果は明暗を分け、Dr.はあらかじめ用意していた刀で脳を一刺しする。

 

「成分が濃すぎたのかしら?」

「だろうね。肉体が力を御しきれずに形を変えざるをえないのだろう」

「肉体は男、精神は女の方が保たれやすい…と。こっちはまだまだ時間がかかりそうね。そっちは?」

「すでに5体」

「あらまあ」

 

 藍染の含みを帯びた微笑とDr.の薄気味悪い忍び笑いが顔に浮かぶ。藍染が指を鳴らすとどこからともなく5人の黒衣を纏った人間が姿を現す。

 

「私もそろそろ動こうと思うよ。この件に関しては君に一任する」

「言われなくてもそのつもりよ」

「フ…何かあったらドリューにでも言えばいいさ。ではまた」

「ええ…また」

 

 そういうと、藍染は黒衣の集団を引き連れ研究所を後にした。

 

 

 

 

 ナイトレイドとイェーガーズの決戦は近い。


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