藍染が立つ!   作:うんこまん

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第14話

「やっちゃいなさ~い!ドリューちゃーん!」

 

スタイリッシュの指令に一瞥し、頷きもせず視線をスサノオへと戻すドリューと呼ばれた男。

それを見据え、先に手を出したのはスサノオ。一気に距離を詰め、己の狼牙棒を前に突出し刺突する。先端にある刃は剥き出しになっており回転することであらゆるものを散り散りにする。当然、人体に触れればどこであろうと放散させる代物にわざわざ突っ込むはずもなく、右に避けて躱し、それだけに留まらず籠手で受け止める。並みの装甲では一網打尽に粉砕する特殊な狼牙棒を傷を幾分かつけた程度で払い除けてしまった。スサノオにとってこれは予想外のことだった。

しかし、それはドリューとしても同じ。たかが傷、されど傷。いままで弱者を捕食するだけの存在であった彼にとって自分に傷をつけるなどという同等、またはそれ以上の敵と遭遇するのは初めてだった。だからといって逃げるわけにはいかない、その先に待っているのは間違いなく死であろう。彼の任務はスタイリッシュを逃がすことだけ。それさえ済めば再び地中に潜るなり、闇に潜めるなりすればいいだけだ。

とりあえず敵の注意を引く、ドリューはそれ一心にのみ身を捧げた。

 

 

ズンッ、とスサノオの足もとが軽く揺れる。目の前にいたドリューはおらず、空を飛ぶエアマンタへと一直線に進んでいた。

 

「んなっ…!」

 

声に出す暇もなく、進行方向を変えられずエアマンタのお腹に値する場所へと握り拳を突き出す。くの字に曲がったエアマンタはよろよろと降下し、不時着する。

乗員であるナジェンダともう一人はその前にエアマンタを離れ、木々をマット代わりにして着地した。

ドリューの落下点にはスサノオが、主を傷つけるやつは容赦しないといった面持で構えている。

だが、ドリューにとってこれは好機。目で追うとばれかねないので視線をそらすわけにはいかないが、おそらくこの間にスタイリッシュは逃げ果せれるだろう。

 

(なら奴の攻撃を防ぎ、そのまま地面に潜り込み姿を晦ます!)

 

そう目論んだドリューは、まるで頭突きでもするかのように半回転しスサノオの方へ落下していく。

先程のことで学んだスサノオは狼牙棒の刃を出さず、装甲ごと壊すほどの全身全霊の力を込めて横殴りせんとする。

打ち勝ったのはスサノオ。真正面から受けた一撃は自慢の籠手にも罅を入れ、地面を転がりながら瓦解していった。だがそれでも彼は逃げ切った。追撃を恐れ、動かない腕を無理やり動かし地面を掘り逃げ果せた。スサノオも狼牙棒を使えば彼を追うこともできたが、今は主の安否が心配なのでそちらを優先し、その場を後にした。

 

 

 

 

「ナジェンダ!無事か!?」

「ああ、スサノオか。この通り大丈夫だ」

 

スサノオが駆け寄るとタツミ、及び毒によって身動きを封じられていたナイトレイドもボスを中心に集う。一人一人の顔色を窺い、無事を確認したボスが疑問を投げかける。

 

「アイゼンはどうした?」

「奇襲の前に少し外に出てくるとかいってから帰ってこない」

「ふむ…あいつに限ってないだろうが、敵に捕まったかあるいは…いや、あいつなら大丈夫だろう。とりあえずここを離れよう」

 

そう切り出しナイトレイドはアジトを離れ、南東へと向かった。

 

 

 

 

アジト付近。2人の男が向かい合って話している。すぐ傍に膝をついて頭を垂らす異形の姿も見える。

 

「ごくろうさま。試作段階とはいえ健闘したね」

「…勿体なきお言葉」

「この調子で量産すれば国1つ潰せる軍隊もできちゃうわね~」

「潰れてもらっては困るんだけどね」

 

男はそういうと2人に背を向け呟く。

 

「さて、饗宴の膳立てといこうか」

 

 

 

 

後日、宮殿内にてエスデスがランの報告を聞いていた。

 

「ドクターの家宅捜索が終わりました。ですが行方不明を解決する決定的な手掛かりはありませんでした。ただ貴重な実験素材や道具は研究室に丸々残ってました」

「…逃亡ではないな…やはり殺されたか」

「強化兵達も全員いなくなっていたことから…交戦して全滅したと思われます」

「そうか…セリューはまた恩人を討たれたわけだな…」

 

憐憫の情を禁じ得ないエスデスは帽子を目深にかぶりため息をつく。

 

「それともう一つ、こちらは吉報です。ウェイブが目を覚ましました」

「!…わかった。すぐにウェイブの下へ行くぞ」

 

そう椅子から立ち上がると、ランとボルスを従え早足で向かった。

 

 

 

 

病室に駆け込むとすでにクロメが傍で看護しながら、相変わらず自前のお菓子を貪っていた。

 

「ウェイブ!調子はどうだ?」

「ああ、隊長…っ!」

「無理しなくていい。横になったまま話せ」

 

ベッドから起き上がろうとしたウェイブを優しく押し止め、クロメの横に座り足を組む。

 

「それで誰にやられた?」

「…インクルシオです」

「インクルシオとなると百人斬りのブラートか…たしかに奴はナイトレイドの中でも要注意人物だが、お前が圧倒されるほどの強さだったのか?」

「いえ、中身まではわかりませんが奴を満身創痍に追い込むまでは善戦してました。ですがそこから外見が竜の鱗を纏ったようになり、中身も攻撃的な性格に豹変しました」

「だとすると…奥の手か?コロの狂化みたいなやつだと納得できるが。それにブラートなら瀕死まで追い遣った敵をみすみす逃すとは思えんしな…」

 

顎に手をあて、あれでもないこれでもないと思考を巡らすエスデスだが、いくら考えてもきりがないと至って考えるのをやめた。

 

「とりあえず、ウェイブが回復しきるか次の任務が与えられるまで皆待機していろ」

 

そういうとエスデスは部屋を出てセリューを励ましにいった。

 

 

 

 

帝都近隣、採掘場。作業員として日夜汗まみれになりながら岩石などを掘りだし、生計を立てる男達がいる。

そんな彼らの前に作業場よりさらに奥へ進んだところから、異形が姿を現す。皮膚が剥がれた化け物たちに恐れをなし、採鉱も投げ出し一目散に出口へと逃げ出す。一人、また一人と頭を齧られ命を落とす同僚に尻込みして、そのまま食べられてしまう者もいる。

彼らを見ながら頬を吊り上げ歯を露出する男が影に隠れて立っている。

 

(こりゃあ…面白い玩具が手にはいったもんだ…久しぶりの帝都だ。楽しませてもらうぜ)

 

 

 


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