藍染が立つ!   作:うんこまん

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第13話

呼称の通り、周囲に耳を傾け戦況を随時報告する“耳”が焦燥を感じながらも報告を続ける。

 

「…カクサンがやられました、歩兵もごっそり数が減っています」

「あらいやだ…誤算だわぁ…」

 

スタイリッシュは自らを王将、兵達をそれぞれ飛車、角行、金将、銀将、桂馬、香車、歩兵と分け駒のように扱い編成している。それがチーム・スタイリッシュ。角行の役割を成すカクサンがやられ角落ちとなってしまった今、やむを得ず別の案を実行しようと口を開いたところで“耳”が何かを感じ取る。

 

「…空だ!何かが近づいてくる!」

「え?それはどういう…」

 

スタイリッシュが問おうとした瞬間、背後から暴風に近い追い風が吹く。誰よりも早くそれを感知していた“耳”が目にしたものは空を飛ぶ巨大なエイのような生物。それに気づいたスタイリッシュが呟く。

 

「特級危険種のエアマンタ…!?」

「人が乗っています!あ…アレは元将軍のナジェンダです!!他にも2名ほど乗ってる模様です!」

「なーんてスタイリッシュ!特級危険種を飼い慣らして乗り物にするなんて」

 

上空でナジェンダはエアマンタに乗り、向かい風にも微動だにせず直立のまま戦況を把握する。

 

「アジトの方角で凶、さすがは占いの帝具。的中だな。不味い状況だ、新しい戦力…さっそくお披露目だな」

 

彼女の後ろに乗るフードをかぶる2人が頷く。

 

 

 

 

一方、アジトから少し離れた森でカクサンを倒したタツミとマインは援軍と見定め、エアマンタに燥ぐタツミにマインが呆れ、若干引いていた。

2人は気づく様子もなく、マインの背後にトローネが忍び寄る。

(けひっけひひ、可愛い可愛い御嬢さん。後ろががら空きなんだよぉー!)

茂みから飛び出し、マインの背後目掛けてナイフを刺突する。

 

「よくもやったなこの野郎おおおおおお!」

 

が、真横からトローネの顔面目掛けてレオーネの跳び蹴りが入る。

 

「私はなぁ…奇襲するのは好きだけどされるのはだいっっっ嫌いなんだよ!丈夫に強化されてるっぽいがその分楽に死ねると思うなよ」

 

のど元を強く締め上げ、体を浮かす。あまりにも利己的で自己中心な発言にタツミとマインは絶句している。

けひっ、と首を絞められているにもかかわらず余裕があるように笑い、つま先から刃先を曝け出しレオーネの顔へと蹴り上げる。

レオーネは動揺する様子もなく、帝具『ライオネル』の力によって補強された歯で挟む。周囲に金属音が鳴り響き、直後、トローネの刃が折れる。最後の奇襲も破られ怒りを買ってしまい、そのまま地面に叩きつけられ縊死する。

 

「ふーっ、奇襲でもらった一発が効いた効いた。あ、やべ一撃で倒しちゃった」

「姐さん今の大丈夫?」

「変身した私は治癒力も高まってるからこれぐらいならな」

 

余裕そうに告げるレオーネに関心を持つタツミに声がかかる。それぞれ別所から姿を現すナイトレイドの面子にホッとするが、一人足りないことに気付きラバックに問う。

 

「あれ?アイゼンは?」

「わかんね、あいつなら早々死ぬことないしまだ敵と戦ってるんじゃね?」

「アイゼンが苦戦するのは想像できないけどなー」

 

イエヤスが豪快に笑い、それにラバックもつられ笑みを溢す。それもそうか、と納得したところで木々や繁みから強化兵が顕現する。

(…多分今ここに追いかけてきてるのはDr.スタイリッシュだけなんだな…それならいける!)

イェーガーズの面子がいないことから推測したタツミが最後の敵戦力である周りの強化兵を倒すために皆に声をかけようとし、振り向くと自分以外のナイトレイドがスタンガンを当てられたように軽く痙攣して平伏せていた。全身が麻痺して身動き取れないアカメが事態を理解し呟く。

 

「毒…か」

 

やるかやられるかの瀬戸際でまともに動けず戦えない仲間を尻目に、敵に隙を与えないように注視するが、少しずつだが匍匐前進するように近寄り強化兵の描く円は狭まっていく。

ふと、空から何かが落ちてきて地響きと共に敵を吹き飛ばす。砂埃が晴れた中心に顔が罅割れ血を流す強化兵の上に、群青色の髪に角を生やし棒状の武器を振り回す男が毅然と立っていた。

 

「さあっ、目の前の敵を駆逐しろ!“スサノオ”!」

「分かった」

 

ボスの指示に対して無表情に返事をすると、そのまま一方的な蹂躙が始まった。毒に堪えることなく何一つ不自由なしに強化兵達を散り散りにし、彼を中心に死体の山が出来上がる。

これはスタイリッシュにとっても予想外だったが、まだ策はある。手に握るスイッチを押すと強化兵が見る見るうちに膨らんでいき、爆発する。その爆破は連鎖するように他の強化兵も巻き込み、爆風が晴れる頃には並の人間では木端微塵になって欠片ひとつ残さないだろう。

だが、そこに立つのは片腕がなくなりながらも相変わらず無表情で立っているスサノオだけだった。その片腕も欠片がどんどん集まって形を成し、服までもが再生されていく。

 

「あの助っ人…生物型の帝具!帝具人間です!」

 

予想外のことに“目”が思わず頓狂な声を上げる。

そんなことに気付く様子もなく、周囲を見渡しマインを見つけある衝動に駆られる。一歩一歩近づく未知の相手にマインも唾を呑み込む。彼はそっと彼女の髪を整え…

 

「…よし!」

「何が?」

 

彼の行動が呑み込めていないマインは怪訝な顔を向ける。

スサノオの活躍に満足したようにナジェンダは指揮をとる者を探し、推察通り双眼鏡に映る。

「スサノオ!南西の森に敵が潜んでるぞ!逃がさず潰せ!」

「分かった」

 

 

 

 

「…!ここがばれました!」

「仕方ないわね、ここは無理をせず一旦逃げるわよ!」

 

従える3人に告げ、躊躇うことなく走りだし3人もそれに続く。突如、ものすごい勢いで風が吹き体勢を崩される。

 

「アイツ、意地でも逃がさないってわけね。」

 

エアマンタを急降下させ地上付近で急上昇させることでスタイリッシュ達に突風を浴びせたのだろう。その隙にスサノオがスタイリッシュの前に立つ。

 

「ご安心くださいスタイリッシュ様!我等は将棋で言えば金や銀、必ずお守りします。」

(いやいや無理でしょ!この状況…偵察用のあんた等が勝てる相手じゃないわ。何より相手がアタシの得意な毒系が全然聞かない帝具人間ってのがBAD…もうずるいわよそういうの!)

 

「こうなったら仕方ないわね…かもーん!ドリューちゃーん!」

 

空に向かって叫ぶと、地面から影が1つ現れスサノオの前に立つ。

 

その眼は赤く、ねずみ色の短髪に頭部から生えるクワガタのような土色の角。髪と同じ色の尖った籠手のようなもの。まさしくその男は―――――

 

 

 

 

一級危険種土竜の姿を模していた。

 


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