藍染が立つ!   作:うんこまん

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第12話

日が落ちても帰ってこないタツミとウェイブを探しにフェイクマウンテンへと向かったエスデスとクロメは傷だらけのウェイブを発見し、すぐさま宮殿へと戻ることにした。

 

「ウェイブの容体はどうだ?」

「まだ目を覚ましませんね…この傷だと数ヶ月は激しい動きは避けたほうがいいかと。」

 

包帯でぐるぐる巻きになった同僚を介抱し、不安げにウェイブを見るランにエスデスが問う。

 

「やはりそうなるか…しかしウェイブにこれほどの傷を負わせるとなると相手はナイトレイドか…?少し侮っていたが厄介だな。」

 

エスデスがそう呟き、悔しそうに歯を食いしばり組んでいる腕にも自然と力が入る。すると、廊下をばたばた走る音が近づいて来てドアが力強く開けられる。

 

「申し訳ありません!フェイクマウンテンを山狩りしてもタツミも賊も見つからず、コロでも追跡は不可能でした!」

「ここは病室だセリュー、もう少し静かにしろ。スタイリッシュの方はどうだったんだ?」

「す、すいません。ドクターは独自に動かれてるようですがまだ連絡は入りませんね…。」

「まあ、望みは薄いか。」

 

はあ、とため息をついて項垂れるエスデスにランが尋ねる。

 

「隊長…タツミ君のことなんですが彼がウェイブを襲ったというのは…?」

「ないとは言い切れないが可能性は低いだろうな、タツミはたしかに磨けば光る逸材ではあるが今の実力ではウェイブには劣る。無論、数時間の修行で急激に成長するなど不可能だ。襲ったのがタツミだとすると何かしらの帝具を持っていたのかもしれんな。」

「我々ができることはナイトレイドの探索とウェイブの目覚めを待つことくらいでしょうか。」

「そうだな、タツミのことは今でも好きだが反乱軍にはいるようなら生け捕りが望ましいがいざとなれば生死は問わん。」

 

エスデスにとって不本意ではあるが彼女も将軍。部下に誤った指令を下すわけにはいかない。タツミが無事に生きていることを願い、今すべきナイトレイド狩りを始めようとしていた。

 

 

 

 

「以上がイェーガーズの戦力だ。」

 

無事に五体満足に帰還したタツミが直接目で見た光景を鮮明に思い出し一同に告げ、さらに続ける。

 

「イェーガーズのメンバーは俺達1人1人と互角ぐらいだと思う。だから今のままじゃ人数的にこちらが完全に不利だ、それに…エスデス。あの人は別格だった、剣の腕だけでもアイゼンくらいはあるんじゃないか?帝具については見てないからなんともいえないけど。」

 

そこでタツミの視線がエスデスを監視していた藍染へと向けられ、周りも同様に彼の方に目を遣る。

 

「私は運よく丁度彼女が帝具を使っているところを目にしてね、多数を相手にしても問題なく氷漬けにされていた。敵の頭上に氷柱を作るなども造作もなく少なくとも近距離、中距離ではこちらに勝ち目はないといってもいい。」

 

私を除けば、という言葉を呑み込んで反応を窺う。案の定、俯き気味に眉を顰める者、溜息をつき気怠そうにする者、前途多難に一座は辟易しているようだ。

ふと藍染が何かを感じ取り席を立ち、少し出かけてくる、といい部屋をでていった。それを拍子にイエヤスが空気を変えようと口を開く。

 

「とりあえずタツミが無事に帰ってこれたんだしパーティーでもしようぜ!な?」

「そうと決まったらラバ、お前なんか作れ。」

「えぇ!?何でおれ!?」

「あ、あたしは別にタツミなんて帰ってこなくてもよかったんだけど。」

「あ!?どういう意味だよそれ!」

「まあまあ。」

 

あっという間にいつも通りのナイトレイドに戻り、その賑やかさにアカメは思わず笑みを溢す。

 

 

 

 

アジトから少し離れた山路を1人のオカマと、その従者達が歩いていた。オカマの名はDr.スタイリッシュ。イェーガーズの一員であり科学者でもある。

 

「ふふ、匂いや足音を消した努力の痕跡…それは認めるわ。でも匂いってものは限りなく消しても完全には消しきれない、それをアタシの手術で強化したものが追えば…。」

「スタイリッシュ様。匂いはこちらに続いています。」

 

従者の一人“鼻”。身を屈め4本足で歩き、大きな嘴のような鼻を頼りに少しずつだがナイトレイドのアジトへと先導する。

 

「前方に糸結界のようです。私と同じ動きで避けてください。」

 

そしてもう一人“目”。筋肉質な体に革ジャンに革の半ズボンといった大胆な恰好の大男、ハンチングから覗かせる見開かれた目は暗闇だろうと常人よりはるかによく見える。

 

「前方からかすかに人の声が聞こえます。」

 

最後の一人“耳”。華奢な体躯で中性的な顔立ちをしている、その巨大な耳ははるか遠くの羽音だろうと逃すことはない。

 

「全員ばっちしね。あの子はどうも怪しいと思ってたのよね、ただの鍛冶屋にしては環境適応力ありすぎだもの。」

「スタイリッシュ様の鋭さには鼻高々です。」「目から鱗です。」「耳に念仏です。」

「いらないわよそんなヨイショ。さっさと行くわよ。」

 

前を向き直し歩みを進めようとした突如、上空から何者かがストン、と落ちてきた。自らの鼻、目、耳でも反応しきれずに驚愕して硬直する3人だが、スタイリッシュは別の意味で驚いていた。

 

「まさかこんなところで合うことになるなんて思わなかったわ…アイゼン。」

「私も驚いているよ、だが君がいま属する機関くらいはタツミ君から聞いたよ。」

「ってことはあなたもナイトレイドの一味ってことかしら?」

「そう思ってくれて構わない、それで?こちらのアジトに夜襲でもかける気かい?」

「そのつもりだったんだけど…あなたがいるなら話は別ね、大人しく引き上げることにするわぁ。」

「まあ待ちたまえ、そこでひとつ提案があるんだが…」

 

人差し指を上に向け藍染が妖しく微笑む。

 

 

 

 

数時間後、タツミの帰還パーティーを終え乱雑とした居間には、好きなだけ飲み食いして気持ちよさそうに寝るレオーネ、それに無理やり付き添わされたであろうタツミ、イエヤス、ラバが気を失い魘されている。ぱちりと目が覚めてしまったレオーネが顔を洗うために外へ出て、蹌蹌踉踉としており襲ってくる眠気を必死に抑えながら水を掬うと、自分とは異なる顔が水面に現れそこからナイフが一丁彼女の顔面を狙う。避けきれずにそのまま体ごと池に落ちてしまう。

 

「けひっ、やりましたスタイリッシュ様。このトローマが一人仕留めましたぜぇ!引き続き任務を続行します!」

 

自らをトローマと名乗る黒装束の男が水面から上がり、誰かに言うように声を張る。

 

「―――とのことですスタイリッシュ様。」

「上出来よ。さすが桂馬の役割敵地へ飛び込んだわね。」

 

 

「さあ、チームスタイリッシュ。熱く激しく攻撃開始よ!」

 

 

高台に乗り、命令を下すスタイリッシュに反応するように軽装に仮面をつけたような男達が一斉に森から姿を現し、アジトへと駆ける。

 

 

 

 

「チッ、敵襲か!」

 

ラバックに起こされ、廊下を走りながら索敵するイエヤス。突如、窓がパリンと割れ身を守るように手をクロスさせ足を折りながら入り込む強化兵が現れ着地する。

 

「さて、俺の帝具の実験体になってもらうぜおっさん!」

 

こちらに気付いたばかりの敵に上から全体重を乗せ、斧を振り下ろす。捨身を覚悟で受けきろうとするが、帝具の切れ味に強化されたとはいえ並の人間が腕2本で無事に済むはずがなく、腕が牛蒡の如くするりと斬れ、胸元から股間まで綺麗に分かれる。強化兵故に、まだ意識があるのを察し頭も半分にする。

 

「…実際にやってみてわかるけど、あんまり気持ちのいいもんじゃねぇなこれは…。」

 

ほんの少し、憐憫の情を抱くイエヤスの来た道から先程のよりも少し大柄の強化兵がこちらに駆け寄る。嘆く暇も許されない戦場に嫌気がさし舌打ちするが、すぐ男の方を向きベルヴァークを2つに割り片方を投擲する。遠心力により威力を増し敵と激突せんとするが、男は跳躍して回避、着地すると同時に走り出す。至近距離まで来ても棒立ちのイエヤスに襲いかかろうとするが、背後から衝撃を受け、胴と足が分かれいつの間にか元の形に戻っていた斧を下から上に、力いっぱい切り上げられ男の体は4等分にされた。

 

「ふぅ…他の皆は大丈夫かな?」

 

無残にもばらばらになった死体をよそにイエヤスは呟いた。

 

 

 

 

一方、サヨは訓練所で2体の強化兵と対峙していた。

 

「ったくか弱い女の子に男2人って度胸ないのかしら?」

 

そう溜息をつくが、屋根と屋根を飛び移り多数の敵に対しても優勢なアカメが目に映る。

 

「…そうも行ってらんないか。」

 

剣を構え、片方の強化兵が間合い入ると同時に袈裟切りし血が噴出する。サヨにもかかり一瞬たじろぎ、その隙に背後へと回り込んだもう一人が回し蹴りするがしゃがんで避けられる。するとサヨの前で噴出していた血が形を成し、針のように鋭くなり回し蹴りをしてきた男の両目に突き刺さる。改造されたせいで痛みはないが、目の前が真っ暗になり右往左往しているところに一閃。大量出血で朦朧としながらも立ち上がるにも血の針が突き刺さる。

 

「こんなもんかな?水がなかったら不便だけど補佐には丁度いいかもね、これ。」

 

そう月にかざすサヨの手には黒く輝く指輪がはめられていた。


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