ヒカルの傍観者   作:dorodoro

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第32話

それから、案の定ヒカルのsaiと思われる相手から、申し込みがあった。

メッセージが飛んできて、次の休みに打つことになった。

 

久しぶりに開かれた研究会でも、saiの話一色だ。

この間の塔矢先生との対局はもちろんのこと、他のsaiが打った棋譜も検討することになった。

しかし、ヒカルに佐為が憑いている訳がないしどうなっているのだろう。

気にしてもしょうがないのだけれど気になってしまう。

佐為もヒカルのような打ち手には会ったことがないと言っているし、

今の佐為を昔の本因坊の棋譜から見つけるのも難しいだろうしどうなっているのだろう。

 

あっという間に約束の日が来てしまう。

ちなみに、ヒカルと思われるsaiから申し込まれてから、ログインしていない。

佐為も、今までヒカルと打ってもらった碁や対局した碁を並べて一緒に検討してきたので抜かりはない。

今日はたまたま家には私以外いないし、誰にも邪魔されなくてすむ。

幸運は続くのか他の人に申し込まれることなく、saiとsaiの対局が持ち時間3時間で始まった。

 

佐為が黒となる。

序盤から考え付かない攻防が続く。

流石に私に打ってきた2手天元は打ってこなかったけど、どちらも成熟した隙のない碁を展開する。

その中でも、わずかな隙とも言えない隙を見逃さず白が攻め込んでくる。

この打ち方はやはりヒカルだなと思いながら、佐為の指示通りに打つ。

インターネット越しなのに、ヒカルの一手一手から今までに感じたことがないほど気迫を感じる。

佐為もその気迫に答えるように、すばらしい一手を返す。

目まぐるしく碁盤全体で攻防が繰り広げられる。

どちらも、押せど引けども一歩も譲らない。

お互いが、何年もかけてこの対局を待っていたかのように一手一手が生き生きとしている。

石が踊るように、美しい盤面が形成されていく。

まるで、腹心の友である二人の芸術家が息を合わせて画板に描いていくかのごとく、二人の心が通じ合っているかのごとく模様が描かれていく。

そして、秀作が残した芸術的な棋譜にも勝るとも劣らない美しい模様を描き出していった。

恐らく、インターネットで見ている他の人も開いた口がふさがらないだろう。

塔矢先生との対局は、まさしくすばらしい対局と言えたが、これは囲碁の原点を映し出す芸術であろう。

後から見た人は、いったいどう打ったらこのような形になるのか、皆目見当もつかないだろう。

それでいて、無駄な一手がひとつも見つけることができない。

そんな永遠に続くかと思えるすばらしい時間も終わりが近づいてきてしまう。

対局は、最後のヨセに入った。

 

 

 


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