ヒカルの傍観者   作:dorodoro

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第24話

長いトンネルの中にいる。

向こう側にはなぜかヒカルがいて、私からどんどん離れていく。

私も追いつこうと必死に走るが追いつかない。

やがてヒカルが見えなくなってしまい、地面が崩落した。

 

ぱちっと目を覚ます。

横にヒカル

やっと起きたか。と少し安心したような声で言うと

いきなり私の両肩に手を置いて聞いてくる。

ヒカルの顔が近くて、ドクンと胸が鳴る。

そして、まるで告白でもするかのような真剣な表情で聞いてくる。

「佐為。そこにいるんだろ佐為。」

真剣な表情から出てくる予想だにしない言葉に心が固まる。

「いきなり何?知らないよ。サイってだれ?」

だめだ、起きたばかりで頭が働かない。

「佐為だよ、藤原佐為、分かるだろ。」

両手で肩をガクガクさせながら聞いてくる。

あれ、サイって、どこかで聞いたような。だめだ、頭がぼーっとする。

「知らないよ。だれなの?」

「本当にしらないのか?そっか、ならいいんだ。」

思いっきりがっかりした様子でヒカルが肩を落とす。

よくないよ。人の寝起きにいきなり胸倉をつかんできておいてなに。

文句を言ってやりたかったけど余りの落胆した様子に言い及んでしまう。

「そうか、ならいいんだ。」

とヒカルは再度言って、お大事にと言って出て行ってしまう。

え、何だったの?ちょっと待ってよ。

 

 

あまりのヒカルのつれない態度に憤っていると、お医者さんが入ってくる。そこでようやく病院であることに気がつく。

どうやら、丸二日間も眠っていたらしい。

明日に精密検査するために入院だそうだ。

あれ、二日ってことは対局は?と聞くと

それどころじゃないでしょうと怒られた。

頭もぼーっとし続けてどうにもならないので渋々今回は諦めた。

今回も例によっておかしい所は検出できず、できれば後の対局はやめなさいと言われたけど聞く気はなかった。

 

 

家に帰ってあの対局の最中に聞こえた声について考えてみた。

やっぱりこの幽霊さんの声だったのかな。

意識し出すと急に頭の雑音が大きくなった気がする。

話しかけてみるも、分かっているような分かっていないような。

これだけの時間を共にすごしているのだから、ある程度は声がなくても意思疎通はできる。

 

例によっていつものごとく幽霊と対局する。

いつものように投了、やっぱり勝てる気がしない。

その後検討をする。

「ですから、ここではまずこっちから打たないと駄目なのですよ。」

「うーんでもこっちのほうを先に固めたほうが良いんじゃない?」

 

うん?あれ?今普通に会話が成り立った!?

「幽霊さん私の声が聞こえる?」

再度聞くと雑音が返ってくる。

聞き間違えではないと思うのだけど意識しだすと聞こえないのかな。

 

 

対局の日、

私が対局に行くことに両親は諦めの境地に至ったのか、検査前はあれだけ怒っていたのに、今回は特に何も言わなかった。

 

久しぶりの対局だ。といっても今までから考えれば対局間隔は短いのだけれど。

お願いしますと言って対局が始まる。

今日は対局が始まって持った石がやけに重たく感じる。

今まであった全能感もまったくなく、歯車が欠けたかのように思考が定まらない。どうしたのだろう。

ちぐはぐな手ばかり打ってしまって、まったく良い形ができない。

相手は今まで戦ってきた人たちと比較すると数段落ちるように感じるのに私の碁がまったくといって良いほど打てない。

あ、今の一手も一路左に打たなきゃいけなかったのに。

結局、その一手が最後の決めてとなり投了した。

「負けました。」

おかしい、いつも沸いてくる悔しいという思いがまるで沸いてこない。いったいどうしてしまったのだろう。

 

この後の対局も、先に連絡するべきところでなぜか他のところに打ってしまったり、簡単なヨセを間違えて逆転を許してしまったりまったく良いところがない。

一番の問題は私は、ヒカルと打ったあの対局でなにかが切れてしまったのか、まったく集中できず、今まで楽しかった対局が苦しく感じる。

例によって苦しいのに、負けても悔しさが沸いてこないという今まで味わったことがない最低の状態に陥ってしまった。

結局、ここからは勝ったり負けたりの繰り返しになってしまった。

ヒカルは、私が休んだ対局の日になんと負けたらしい。その後はずっと勝ち続けている。

25局目が終わり1敗でヒカルのプロ入りは確定した。私はというと、7敗目を喫し今年プロになる道は途絶えた。

他の方は越智君が3敗で伊角さんと門脇さんが並んで4敗、和谷君と本田さんが5敗でプロに上がれるか争っている。

 

その後、越智君と門脇さんが抜け出してプロにあがることになった。

 

 

 

 


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