ヒカルの傍観者   作:dorodoro

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第19話

門脇さんとの対局の後、検討も行なったが話した内容は余り覚えていない。

勝敗は、あの終盤の一手ですべて決したようなものだ。

呆然としながら家に帰ってきたけど何も考えられない。

今まで深く囲碁について考えたことがなかったけど、まさしく気持ちで負けるとはこういうことなのだろう。

きっと相手の気迫に飲まれてしまったのだろう。

気が付けば今でも手が震えている。

 

対局三日目。

対戦相手は初日でうるさかった男だった。相手は好調でここまで2勝できているらしい。

今までそこまで相手を意識したことがなかったけど、意識しだすと急に弱気になってしまう。

やはり、プロを本気で目指す人とそうでない人との差なのかもしれない。

調子が上がらず、相手は正直そこまで強くはないのだが、うまく試合が運べない。

内容はボロボロでぜんぜん自分の囲碁を打てず負けてしまった。

 

 

家に帰ると、枕に八つ当たりをする。

私は何でこんなに弱いのか。ちゃんと打てれば負けるはずがないでしょう。

ひと通りぬいぐるみなどに八つ当たりしていると、幽霊が寄ってきて打とうと言う感じを出す。

幽霊に見られているかと思うと少し恥ずかしくなって、ちょっと待ってねと言って今日の対局を並べだした。

途中で扇子をはさんできたり検討らしきこともやった。思いも付かない手をこの幽霊はポンポン出す。

真剣な顔とコミカルな動きで本当に気が楽になる。

ひと通り検討して満足したので、今日こそはこの幽霊に一泡拭かせてやると意気込んで対局を開始した。

 

 

対局四日目

相手は女性だった。対戦成績は2勝1敗だそうだ。

個人的目的を含むとはいえ私は負けてあげるわけにはいかない。

相手が女性ということも合ってか今日はきっちり打つことができた。

結果、中押し勝ち。

終わった後で、少し勝った事もあって気まずかったけどお話しすることができた。

相手は奈瀬さんというらしい。

院生だというのでヒカルについて聞いてみると、去年のアキラ君と同じ扱いらしい。

ただ、最近何か悩んでいるのか、調子を落としているみたい。それでもぜんぜん負けないみたいだけど。

ヒカルどうしたのかなぁ、やっぱり何かあったのかなぁ。

 

 

対局五日目

部屋から人が減ってどきどきしていると、くじを引く番がきた。

すこし緊張しながらえいっと引くと、

あれ、何も書いていない。入れ間違え?

 

なんと不戦勝らしい。正直体力的にもきつかったしありがたい。

良かった良かったと家に帰る。

あれ、今日って研究会だったかな?後で行かなきゃなぁ。

 

 

研究会では、みんなおめでとうと言ってくれたが、どうやらここまで私が苦戦するのは意外だったようだ。

「アカリちゃんもあれだけ打てるのだから、まさかここまでもつれるとはねぇ。」

「うん、少し、いやかなり意外だった。体調でも崩したの?」

私は実戦の怖さを知りましたというと、

「そりゃそっか、まだ始めて短いし、実戦不足だよね。」

「ああ、つい良い手を思いついたり対局しても力を持っていることが分かるからつい忘れがちだけどなぁ。」

まあ、良い手の三分の一くらいは幽霊ですが。

うん、本当に良い経験しました。本戦もがんばります。

 

 

 

 


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