ヒカルの傍観者   作:dorodoro

10 / 35
第10話

ヒカルがインターネット碁をやめた。あの後、トウヤ君らしき人と打った後やめたみたいだ。

部員が二人も増えた。

友人の津田さんが帰宅部で暇そうなので前々から誘っていたのだけどようやく決心してくれた。

もう一人が夏目君、これで筒井さんが忙しくても大会に出られるねというところで、ヒカルがついにプロになると言い出した。

プロになると、アマチュアの大会には出られなくなるみたいで、部活をやめるのかという話になる。

「うん、前から、さんざん目指すって言っていたからいい機会なのかもね。」

私は心にもないことを言う。正直ヒカルがここにいてくれたほうが嬉しい。ヒカルが別の遠くへ行ってしまうようで悲しい。

三谷君も反対するかと思ったけど、

「まあ、そうだよな。頑張ってこい」とあっさり認めたのには少し驚いた。

無理やり入部させた関係、もう少し反対するかと思ったけど。

まあ、正直ヒカルが何を考えているのかまったく分からないけど。

なにやら棋院で見てもらうのに棋譜が必要とのことで、三面碁を打つ。

今回は全員と互い戦だ。

ひょっとして、ここで勝てばプロ試験受けるの諦める?なんて悪魔のささやきが聞こえる。

まあ、実力差考えれば無理だろうけど。そんな気持ちでは囲碁は強くなれない。今日は絶対に負けられない。

碁笥を持つ手が震える。何かヒカルが笑顔で何か言ってきた気がするけど聞こえない。

そして対局が始まる。

ヒカルがノータイムで打ち込んでくる。今日のヒカルは三面碁ということもあるけど、本当に容赦ない。

でも、なぜだか分からないけど考えが分かる気がする。今日の私は絶好調だ。

ヒカルが向き合う。まだ中盤に差し掛かったところだけど、おそらく筒井さんと三谷君は投了してしまったのだろう。

実際に打っている時は、そんなことを考えている余裕はない。とにかく負けるかと食らいつく。

食らいついて、食らいついて。いつもなら絶対打たないなという囲碁を打つ。

いつもなら学術派寄りの囲碁が好きなんだけれども、今日は勝負師寄りの囲碁を打つ。

それに対してヒカルは堅実なんだけど美しい囲碁を打ってくる。

あえなく終盤に差し掛かりヒカルの堅実な攻めに耐え切れなくなり投了。

「ありません。」

ああ、終わった。やっぱりヒカルは強い。

あまりの悔しさに、ヒカルの顔が見ることができない。心が抑えきれずに教室から出てしまう。

ああ、やっぱり悔しい。私は弱い。何より私じゃヒカルの力になれないことが辛い。

しばらくして、分かっていたことじゃないかと無理やり自分に言い聞かせていたら落ち着いてきた。

少し気分がすっきりしたので教室に戻る。

ヒカルはこっちの様子なんか気にならないかのように棋譜を付けている。すこし、気まずい。

「おお、アカリ戻ったか。」

戻ったかってなんだ。まずいなぁ、やっぱり感情的になりやすくなっている。

みんなが努めて、気にしないようにしているのかぎこちなく明るくしている。

いつもどおり、一緒に帰る。こういう時間ももう少なくなっちゃうのかと思うと少し、いや、とても悲しい。

「プロになったら、大会はでられなくなっちゃうけど部活は暇ができれば来るから気を落とすなよ。」

なんか、ヒカルに慰められるとむかつく。というか迷惑かけたくないとか気持ちとかいろいろな気持ちがぐちゃぐちゃになって私は話しかけられない。

私はそんな状態なのに、ヒカルは何も気にしないかのように陽気にいろいろ話してくる。

「俺が神の一手を極めるためにどうしてもアキラが必要なんだ。本当ならあと一人もいて欲しかったんだけど。」

まあ、良く分からないことを言い出すのはいつものことだ。

そうこう馬鹿話など話しているうちにやっぱりヒカルはヒカルなのだなと思うと気分が落ち着いてきた。

気が付けばいつも通りあっという間に家についてしまう。

最後のほうは気持ちも落ち着いて普通に話せたと思う。

「じゃあな、今日の対局すごいよかったぜ。必ず俺はプロになるからな。見てろよ。」

なんだか最後まで囲碁馬鹿なヒカルを見ていると馬鹿らしくなるなぁ。

うん、がんばれ。目指せ神の一手。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。