雲は遠くて   作:いっぺい

36 / 289
12章 ザ・グレイス・ガールズ (2) 

12章 ザ・グレイス・ガールズ (2) 

 

「まったく、最近の若い(やつ)奴は、女の子ばかりが、

目的なんだから、どうしようもないっていうか、

これじゃ、経済も、国政も、なにもかも、

堕落(だらく)して当たり前だよな!」

 

そんなふうに、矢野拓海(やのたくみ)が、憤(いきどお)る。

 

「まったくっすよ。おれだって、女の子は好きですけど。

ギターくらいの楽器くらいは、できますよ。ヘタですけど。

ひとつも楽器ができないで、コーラスやりたいですよ。

あと、ダンスやりたいとか。女の子じゃ、

それも、許(ゆる)せますけどね。

女の子なら、かわいいだけで、アートや絵になりますから。

男じゃ、それじゃあ、ダメというか、腹立(はらた)ってきますよね」

 

そういう、1年生の岡昇(おかのぼる)の話には、

3人で、大爆笑(だいばくしょう)となった。

 

「まあ、おれたちも、女の子にもてたいから、音楽やっているって、

いってもいいんだけどね。楽器が何もできないじゃね!

しかし、なんとかしないと。風紀(ふうき)も乱(みだ)れていけないな。」

 

そんなふうに、自省も忘(わす)れない矢野拓海(やのたくみ)ではあった。

 

「風紀も乱れるけど。いい年をした男が、女の子ばかりを追いかけるという、

なんというのかな、欲(よく)ボケの、慣習(かんしゅう)とでもいうのかな、

お前(まえ)、もっと、真剣に、向き合うものが、あるはずだろうが!って、

つい、いいたくなるつーか、おれも、偉(えら)そうにはいえないけど、

人生への目的意識とでもいうのかな、大きなビジョンや夢とでもいうのかな、

そんな、何か、本当な大切なものが、忘れ去られているようで、

生きてゆくうえでの、倫理とでもいうのか、何かを感じる力や感覚のようなものが、

麻痺(まひ)しているというか、欠如(けつじょ)しているよね!

最近の男たちは。女の子にもいえるかな?

まあ、たぶん、男女をふくめて、大人(おとな)たちは!

ろくに、なにも、考えていないものだから、結局、

自分だけの、目先の、ちっぽけな、欲望ばかりに、

追われっぱなしでいるような人ばかりな、気もする!

ちょっと、見てると、そんなオトナばかりな気がするよ・・・」

 

そういって、声の大きな、2年生の谷村将也(たにむらしょうや)が、机(つくえ)を、

思わず、どんと、ひとつ、たたいた。

 

「まったくだ。将(しょう)ちゃん、岡(おか)ちゃんの、いうとおりだよ!

おれはね、芸術の、アートの、音楽の、ミュージックの、

最後の牙城(がじょう)くらいに考えているんだよ。

牙城って、わかるだろう。 城中で主将のいる所というか、本丸というか、

本拠地(ほんきょち)や本陣(ほんじん)のことだよね。

これを守らないことには、国も、地球も、滅びると考えているんだよ!

そんな気持ちで、おれは、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の、

幹事長も引き受けているのさ」

 

「さすが、拓海(たくみ)さんだ」と、谷村。

 

「おれ、矢野さんの言葉に、感動して、泣きたくなりますよ」と、岡。

 

そんな、雑談をしながら、最低限、パーカッションのシンバル、くらいはできないと、

入部でいないという規則を、そこで、決めた。

そのようにして、女の子だけが、目当ての男子学生は、

「はい、残念ですが、失格です」とかいって、

いまも、ふるい落とすことに、成功している。

女子学生で、シンバルのテストで、落とされた女の子は、1人もいない。

 

≪つづく≫ 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。