雲は遠くて   作:いっぺい

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144章 モーツァルトのエピソードに感動する信也

144章 モーツァルトのエピソードに感動する信也

 

 8月12日、日曜の朝の10時ころ。

 

 信也は、8月3日の金曜日に録画しておいた、NHKの『ららら♪クラシック』を見ていた。

『モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジーク』というタイトルだ。

 

 ロックンロール大好きの信也も、モーツァルトは特に敬愛している。

 

 モーツァルトが31歳のときに作曲した『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』は、

植物の学者で、ウィーン大学の教授で、貴族の、

ニコラウス・フォン・ジャカンに贈られたという説が有力だ。

 

 モーツァルトは、ジャカン家と、家族ぐるみの親しい交流をしていた。

 

 ジャカンには二人の息子がいた。長男は父と同じ植物学者。

次男は、アマチュアの歌手でピアノも弾き作曲も手がけた。

 

 ジャカン家にたびたび遊びに来ていたモーツァルト。

なかでも弟のゴットフリートとは無二の親友だ。

この二人が一緒に作曲したとされる作品も少なくない。

ゴットフリートは、ちょっと不良で、気まぐれに女性を追いまわす遊び人でもあった。

それを見かねたモーツァルトが説教をしたこともあったとか。

そんな面倒見のいいモーツァルトであった。

 

 モーツァルトはこの兄弟と≪友情記念帳≫を交換していた。

 

 モーツァルトが書いた直筆(じきひつ)のメッセージが残っている。

 

「僕が君の、本当に誠実な、友だちだということを忘れないで。」(モーツァルトより)

 

 そして、ゴットフリートからモーツァルトへは、こんな言葉がおくられた。

 

「心を欠(か)いた天才に価値がない。

愛!愛!愛!それこそが、天才の真髄(しんずい)なのだ。」(ゴットフリートより)

 

「ゴットフリートは、モーツァルトの中に、愛情にあふれた真の芸術家というものを、

おそらく見出だしたんでしょうね!そのことを示す言葉だと思うんですね。

メロディのもとは愛だな。あの友だちは本質を見抜いていたのかな?」

 

 番組の中で、このように、吟味(ぎんみ)するように語るのは、

ピアニストで作曲家の宮川彬良(あきら)さんだ。

 

 ・・・モーツァルトって、やっぱり、愛にあふれた人だったんだろうな!

それは、愛イコール詩であって、詩情にあふれた人だということで・・・。

愛や詩情が豊かでなければ、想像力も創造力も豊かでないわけで。

愛も詩情も、芸術家にも普通の人にも大切なことさ。

そういえば、瀬戸内寂聴(じゃくちょう)さんの書いた子供向けの絵本にも、

『やさしいということが、人間には1番すばらしいことです。

他人を思いやるということは、想像力があるということ。それが愛です。』ってあったしなぁ!

いまの世の中、やっぱり、そんな大切な愛が希薄なんっだろうなぁ・・・

 

 信也は、自分で入れたコーヒーを飲みながら、そんなことを思いめぐらした。

 

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☆参考文献☆

 

1.NHK ららら♪クラシック・選『モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジーク』

   初回放送・2017年9月22日

2.未来はあなたの中に  瀬戸内寂聴 朝日出版社

 

≪つづく≫ --- 144章 おわり ---

 


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