雲は遠くて   作:いっぺい

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123章 ≪Memory 青春の光≫を語りあう信也と裕子

123章 ≪Memory 青春の光≫を語りあう信也と裕子

 

 4月14日、金曜日。気温も21度ほどで、よく晴れた一日だった。

 

 日も暮(く)れた6時半ころ、川口信也と落合裕子のふたりは、

渋谷駅のハチ公改札口の近くの忠犬ハチ公像で待ち合わせをしていた。

 

 ふたりは、そこから歩いて3分くらいの、道玄坂をちょっと裏に入った

レストラン・バーのBEE8 (ビーエイト)に向かった。

 

 ふたりは、予約していたカウンター席で寛(くつろ)ぐと、

熟(じゅく)したレンガ色の赤ワインの入ったグラスを合わせて乾杯した。

 

 笑顔が素敵な女性のスタッフには、牛リブロースステーキや、

トマトとバジルチーズのマルゲリータや、小海老のアヒージョや、

いちご・ブルーベリー・ラズベリー・ぶどうなどが盛り沢山(たくさん)の

ベリーモヒートを注文した。

 

「この店に来るのも、1年ぶりくらいになるよね」と信也は言った。

 

「そうよね。ちょうど1年くらいになるわね。

このお店で、去年の3月4日に、しんちゃんと純ちゃんと、

美結ちゃんに、わたしの誕生日のお祝いをしていただいたのよ。

ちゃんと覚えているわ。

1年間くらい参加させていただいた、

クラッシュビートのキーボードの休止もこのお店でお話させていただいたんだわ。

しんちゃんは、わたしの誕生日を覚えていてくれて、花束を届(とど)くんですもん。

とても、うれしかったわ!」

 

「あっははは。また裕子ちゃんが、クラッシュビートのキーボードに戻(もど)ってきてくれるかな?

っていう期待もこめて、おれは贈らせていただいたんですよ」

 

「しんちゃんは、≪モーニング娘。≫の≪Memory 青春の光≫は知っているでしょう。

あの歌が発売されたのが、1999年2月だったんですよ。

わたしは、小学校に入学したばかりの1年生だったんですけど、ませていたのかしらね。

≪Memory 青春の光≫をピアノで弾きたい!って心の底から思って、

それからピアノ教室にまじめに真剣に通い始めたんです。

なんとなく、おませで、おかしな子どもだと思うでしょう!

しんちゃんも。うっふふふ」

 

「そうなんですか。あの≪Memory 青春の光≫は、≪モーニング娘。≫の歌の中でも、

ぼくも好きですよ。あの曲は、♭が6個の、E♭マイナーで、

16分音符は、はねて弾く感じだし、難しいですよね。

まあ、あの歌の哀愁やリズム&ブルース的なノリのよさは、

たとえば、ビートルズのポール・マッカートニーの『イエスタディ』のような名曲の水準ですよね。

あれを作った、つんくさんは、天才的な人ですよ、おれも尊敬しちゃいます!」

 

「よかったわ。しんちゃんに、わたしのこと、理解してもらえたみたいで!

わたし、最近も、≪Memory 青春の光≫をピアノで弾きながら、

心に想うのは、正直に告白すると、尊敬している、しんちゃんのことなんだから!うっふふ」

 

「あっははは。ぼくも、裕子ちゃんのことは、尊敬していますし、いつも気になってますよ。

お互いに、かなり、音楽的な価値観とか似ていますしね・・・」

 

「しんちゃんに、そう言ってもらえると、本当にうれしいわ!

でも、わたしって、しんちゃんみたいに、心が、まっすぐじゃないし、強くないんです!」

どうしたらいいんでしょうね?しんちゃん」

 

「あっははは。おれも、強がっているだけで、本当はかなり弱いんですよ、裕子ちゃん。あっははは」

 

 二人は、目を合わせて、明るく笑う。

 

≪つづく≫ --- 123章 おわり ---

 


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