テスト中の教室はしずけかえって音もない。
明久の鉛筆を転がす音のほかには。
バカテスト
英語
He has gone to America.
(彼はアメリカに行ったことがある。)
日本語訳にあうように、英語を直しなさい。
坂本雄二の答え
gone→been
教師のコメント
正解です。goneだと行ってしまった(今ここにいない)ということになってしまいますね。
吉井明久の答え
America→USA
教師のコメント
いってしまってますね。どこが、とはいいませんが。
土屋康太の答え
He→She
教師のコメント
女の子にした意味がわかりません。ですが、この間違い方がマシに思えるので不思議です。
「「「て、テストが終わったーー!!」」」
Fクラスのバカ共が大きな声をあげる。
今日は12月22日。
テスト最終日。
テストの日はいつも午前中には終わって、下校だから、今日も昼で終わりである。
Fクラスを除いては。
「お前らには恒例の補習だ!!」
そんなものしても、意味がないのに。
「先生。」補習を始めようとする鉄人を呼び止める。
「なんだ、吉井。」
「先生。よく聞いてください。僕は…すでに趣味は、勉強。尊敬する人は二宮銀二なんです。だから、補習なんて必要ありません!」
「惜しいな、明久。金次郎だ。」雄二が僕の間違えを訂正してくれる。
「先生!僕は銀仁朗を尊敬してます!」
「吉井。お前にだけ特別に…」
まさか!僕の熱意が鉄人に伝わったのだろうか。
「補習を3倍にしてやろう。」
「なんで⁉︎」
「バカが。それじゃあどこぞの正捕手だ。」
「吉井。1人は寂しいだろう。誰かを誘ってもいいぞ?」
「雄二と秀吉とムッツリーニと美波ぃ!!!」
僕たちの楽しい楽しい(洗脳済み)補習が決まった。
夕方6時。西日がさしこむ文月学園。閉じ込められた空間から解放され、
大きく息を吸うとすごく気持ちが良い。
僕たちは、地獄の補習を終え、
「明久。すごいな!」
「うん!さすがは金次郎だよ!」
「そうね。本当に、素敵。あーいう人と結婚したいわ。」
「そうじゃの。帰りはゴミ拾いでもしながら帰るかのう。」
「…慈善活動当たり前。」
洗脳されていた。
「明久。お前のせいで、ひでー目にあったじゃねぇか!」
「雄二が普段やってくることだろうが!」
「…明久。写真の値段倍。」
「ごめんね!ムッツリーニ!本当にごめんなさい!」
「全くじゃ!ワシまでとは、どういうことじゃ!」
「アキ…なんでウチまでこんな目に合わされるの!」
「男3人じゃ寂しいかな、と思ったんだ!姫路さんは体が弱いし…」
まぁそんな洗脳も補習室から10mも離れれば、解けるのだけど。
「明久よ。ワシは、男なのじゃが…」
「なにいってるのさ冗談きついよ?」
はぁ、と秀吉が大きなため息をつく。
「それは、そうとお主ら明後日の予定は決まっておるのかのう?」
2日後?なんかの日だったっけ。
「…天皇誕生日。」
「ムッツリーニ。それは明日だ。」
じゃあ明後日は…24日か。ということは…
「なんの日だっけ?」
「「「はぁ。」」」
なんでそんなにため息をつくの⁉︎
「…大量殺戮の日。」
「異端審問会については、この際置いておこうぜ。」
雄二が少し引き気味に言う。
「クリスマスイブよ。」
美波が、少し大きめの声で告げる。
考えてみれば、そんな日もあった、け。子供の頃からクリスマスプレゼントは、姉さんのキス以外でもらったことがないからすっかり忘れていた。(全て拒否。)
「雄二は、霧島とデートじゃろう?」
「はあ?俺にそんな予定は…」
「なくても、当日にはデートしてるんだよね。コロス」
心底羨ましい奴め。
「誘ってやりなさいよ?翔子が待ってるわよ?」
「うるせー…」
「意地っ張りじゃのう。雄二は。」
「ムッツリーニは、工藤か?」
「…微塵もそんな予定はない。」
「明日には工藤とどこか行くことになるだろ。」
「…死んでも自宅警備。」
ムッツリーニも素直じゃない。
とにかく羨ましすぎて、コロしたい。
「あんたもちょっとは、勇気出して誘ってみたら?」
「…あいつはそんな関係じゃない。」
「本当に雄二と同じく意地っ張りじゃな…。」
「明久はなにかあるのかのう?」
「なにもないけど…。もしかして、秀吉のお誘い⁉︎」
「違うのじゃ。姫路との予定はないのかのう?」
そんな約束はした記憶がない。
「ないけど…。」
雄二やムッツリーニのことを世間ではリア充というのだろう。羨ましい限りだ。
「だったら、あんたから瑞希をさそってみたら?」
「へ?」
「いいのか?島田。」雄二が不審そうな顔で言う。憎たらしさが倍増だ。
たしかにいつもなら理不尽に殴られるような行為だろうし、
美波は僕のこと…
やっぱり最近の美波は少しおかしい。
「気にしないわよ。そんなこと。」
これは、なにか企んでいるのかもしれない。
「ところで、美波と秀吉はなにか予定あるの?」
美波の予定を、聞いておけば一安心だ。
「ウチと木下はちょっと行くところがあるのよ。」
「美波と秀吉が⁉︎女の子2人じゃ危ないんじゃ…」
「じゃからワシは男じゃと…」
「ほーう。」雄二がなにか面白いことでもあったようにニヤつく。
美波と秀吉がそこまで仲がいいとは思わなかったから意外なことだ。
「まさか…デート⁉︎」
「そうとも、言うかもしれない…わね。」
予想外すぎて、あたまがついてこない。
「…百合」ぷしゃあああ。
ムッツリーニの頭にもついていけない。
「美波、まさか今度こそ同性愛に…」
「ワシは男じゃ!!…もう否定するのも疲れたぞい。」
そんなことをいいつつ、
件の3年生との試召戦争を思い出す。
美波は、僕のことが好きと言ってくれた。
でも、今、秀吉と同性愛に走ろう、としている。
つまり、これは…
「美波。もしかして秀吉のことが…」
「!」秀吉がぴくんと反応を見せる。
「…そう思うならそうなんじゃないかしら?」
「…。」
「なによ。」
「…いや、なんでもない。」
「じゃったら、姫路を誘ってみぬか?」
「そうだね!そうする。メールでいいかな?」
難しく考える必要はない。姫路さんを誘うだけ。ただそれだけ。
緊張することに変わりはないんだけど。
「いいんじゃねーか。とりあえず書いてみろよ。お前のメールはいつもおかしいからな。」
「そんなことないよ!雄二の返信がおかしいから…」
「お前から送られてくるメールのせいで、何回翔子に殺されかけたと思ってる。」
そういえば、そんなこともあったっけ?
言われたとおり、メールを打ち出す。少し時間がかかったが、完成した。
「できたよー!」
「ちょっと見せてみなさいよ。」
「うん。今回のは自信あるよ!」
From 明久 To 姫路さん
背景 姫路みずきさま
なんかみんながあさって、姫路さんといっしょにすごすことを進めてくるんだ。
だからいっしょにすごしませんか?
吉井明久より
後略
「…ひどい。」
「小学生の作文だな。」
「バカじゃのう。」
「ウチ以下かもしれないわね。」
「なにが、だめだっていうのさ!!」
「「「「全部!」」」」
僕のプライドはボロボロだ。
「ほぼひらがなしかないし、たまに書く漢字はことごとく違う。」
「拝啓ではじめる文章は必ず敬具で終えねばならぬしのう。」
「…読みにくい。」
「もう、生きててごめんなさい!」
生きてて…ごめんなさい。
それから美波たちがメールを考えてくれて、ようやく完成した。
姫路さんへ。
明後日、よかったら、 学校のゴミステーションで、待ってまーす☆
「貴様らぁぁ!!」
ふざけるのも大概にしていただきたい。人のメールをなんだと思っているのだろうか。
「なんだ、明久。完璧じゃないか。ゴミステーションなら人気がないぞ。」
「雄二は、僕がなにをすると、思ってるの⁉︎」
ぷしゃああああ!
ムッツリーニのわかりやすい反応がなにを思ったかを示している。
「それに、この☆はなんだ!!」
「ちょっとお茶目じゃないかしら?」
美波考案だったのか!
「女の子がやるから可愛いんだよ?僕がやったら変態じゃないか!」
「…アキちゃん。」
「それだけは、言わないで!!」
こいつらは真剣に考えるつもりがないらしい。
「ま、おふざけはここらでやめて、ちゃんと考えてやるか。」
「そうね。」
「やっぱりふざけてたの⁉︎」
すると、しばらくして、雄二たちがメールを作成して、見せてくる。
これなら、きっと大丈夫だろう。
「じゃあ、ここで解散ね。」気づけば、もう帰り道も、そんなところまで来ていたみたいだ。
「じゃあ、先に失礼するぞい。」
「…俺も。」
「俺もだ。」
「ちょっと!あんたら…」
そうやって、3人が去って行く。美波に言いたいことがあったから、ちょうどいい。
「美波!その…」言葉が出てこない。
ありがとう、それと、頑張れ。
そんなことを言うのが照れくさいのと、
少しの言いたくなさ、と。
「アキ!頑張りなさいよ。瑞希は待ってると思うわよ?」
なにを待っているか、さすがにピンとくる。
「えーっと……うん…分かったよ。分かった!」
2日後のクリスマスイブ。姫路さんは来てくれるだろうか。
その上で、言えるだろうか。姫路さんが待っている言葉を。
姫路さんへ
明後日、一緒に過ごしませんか?駅前の時計台の下で、3時に待ってます。
明久
なんだ。僕が最初に書いた文とほぼ同じじゃないか。