Jumper -IN CHRONO TRIGGER- 作:明石明
さて、今回は外伝の第2話となります。
そこまで深い話でもないので展開が非常にあっさりしていますが、楽しんでいただけたら幸いです。
それでは外伝第2話、どうぞご覧ください。
ビネガーの館は相変わらず魔王城のあった大陸のすぐ側の島にあるが、現在この島と魔王城跡の島との間に橋がかけられて交通の便が非常によくなっていた。
橋が架けられた理由としては、ガイナーたちが会いに行くとき航路よりも陸路のほうが圧倒的に速いからというのと、今後のことを考えれば船でないと行けない場所より、歩いてでも行ける場所のほうが交流が捗るだろうという考えからだ。
魔王のしもべたちの襲撃から半日。最短距離を馬が駆けるより早く移動し、ガイナーたちはビネガーの館にたどり着くと真っ直ぐにビネガーの部屋へと向かう。
「ビネガー殿。少しよろしいか?」
扉を開いた先では目的だったビネガーの他にも幹部であるソイソーとマヨネーがおり、何やら会議のような雰囲気を醸し出していた。
「ん? おお、お前たちか。なんのようだ?」
三人に気付くなりビネガーが尋ねると、三人はすぐさま本題に入る。
「実は本日、緑化作業中に魔岩窟より共存を反対する魔族の集団から襲撃を受けました」
「ついては、それについて何かご存じではないかとお伺いに参った次第です」
もたらされた情報にビネガーたちが驚いた表情を、すぐさま首を振る。
「残念だが、我らの方でもそれは初耳だ」
「うむ。ワシもこのあたりの連中には毎日のように声をかけて居るが、ガルディア王と和平を結んでからは食糧事情が圧倒的にマシになっとるから誰も共存について文句を言ったりしておらん」
「アタイもたま~に部下を連れてパレポリに遊びに行ったりするけど、人間に危害を加えないよう徹底させてるから問題ないはずなのヨネ~」
「つまり、今回のことは一部の魔族による暴走という可能性が高いというわけですか」
「恥ずかしい話だが、魔族全員が納得しとるわけじゃないからな。特に魔王城跡に今もいる人間嫌いな魔族やワシの影響力が及びにくいチョラス方面の魔族、あとは明らかに知性の低い魔物などだな」
どこか申し訳なさそうにしながら頭をかくビネガーだが、それについてガイナーたちも強く言わない。
共存宣言をした当時にこのあたりの魔族からも強い反発があったが、ビネガーの説得と賢明な政策のおかげですっかり友好的になったことを考えればむしろ称えられるべきことだ。
「我らの方でも魔王城跡の魔族たちに話をしてみるが、効果についてはそこまで見込めんな」
「それより問題はチョラス方面ヨネ~……。アタイたちも未だに不安定な足元固めるので手いっぱいだから、最近は様子を見に行けてないし」
チョラスを思い浮かべ、ガイナーたちは自分たちの永遠の主である尊と出会ったころを思い出す。
彼と刃を交えてその強さに感服し、チョラスへ渡るための船を造った。
尊に付いてチョラスへ渡った後は廃墟で修業を積み、魔王城で一度別れたもののデナドロ山で再開。そこからは再び力をつけるためチョラスを経由して巨人のツメへ渡り、遂には星の未来を救うため共に行動し、時間を超えた先では今まで戦ったことがないような強大な敵と刃を交えて勝利を勝ち得た。
魔物の話にしてはまるでおとぎ話のような話だが、その一年にも満たない過程で得られた力は間違いなく本物で、彼らにとってかけがえのない誇りでもあった。
閑話休題。
思い出深い旅の中でよく訪れたチョラスで何が起こっているか把握できていないと聞き、ガイナーたちは顔を合わせて頷きあう。
「ビネガー殿。チョラスの調査については、我々に任せていただけないだろうか?」
「ワシらとしてはありがたいが、砂漠のほうが大丈夫か?」
「むっ、確かに……。ロボ殿もいるので大丈夫だと思いますが、長期に渡ってしまうと絶対とは……」
「じゃあアタイが行くわ。数で攻められても魔法でどうとでもなるし。 ……あとロボちゃんは電撃使えたはずだし」
最後に誰にも聞こえないような声でつぶやいたマヨネーは未来の自分を幻視して少し熱っぽい声を上げる。この時、機械であるはずのロボがどういうわけか悪寒を感じたそうな。
そんなマヨネーを余所に他の5人は砂漠をマヨネーに任せる方向で話をまとめ、チョラス方面をガイナーたちが。ビネガーの館から魔岩窟にかけてをビネガーとソイソーが調査する方向で話が進み、各々は迅速に行動を開始した。
◇
チョラスまではさすがに船を使わざるを得ず、ガイナーたちは顔をすっぽりと覆うローブをまとってパレポリから出る定期便に乗ってチョラスへと渡った。
まだ砂漠での出来事は伝わってなかったらしく、職員の反応は珍しく魔物が利用しに来た程度の物だのは幸運と思うべきか。しかし渡航中も情報収集に励んだものの、これといって目立った情報は上がっていなかった。
チョラス村を出て以前もシェルターで野営をした辺りに来ると、三人はローブを取ってこれまで得られた情報をまとめ直す。
「幸いにして、こちら側はまだ平穏のようだな」
「うむ。しかし、作業現場の話が知れ渡るのは時間の問題だろう」
「悪い噂は千里を走るとも言われるからな。なるべく早く情報を集め、速やかに帰還すべきだ」
後手に回ればそれだけ対応を取るのに手間となる。特に今回のように黒幕がいる可能性が高い場合、遅れた分だけ手遅れになるかのせいも高くなる。
ここから先は時間との戦いだと三人が思い始めると、不意に森の奥から無数の気配が迫っていることに気付く。
得物を構えて警戒すると、森の奥からオウガンやジャグラー、わるまじろにガーゴイルといった魔物たちが姿を現した。
「んあ? オメーら、こんなとこで何やってんだ? もうすぐ約束の時間だぞ」
先頭を歩いていたハンマー持ちのオウガンがガイナーたちに尋ねるのを見て、三人はもしやと思い一瞬顔を合わせて口を開く。
「すまぬ。約束とは何の話だったか?」
「おいおい、忘れたのか? 俺たちゃ今から人間の村を襲うんだよ」
「これが成功したら、俺たちはもう生活に困らなくなるらしいぜ」
「生活に困らない? どういうことだ?」
「オメーら何にも知らねえんだな。なんでもネクラ……ありゃ、オクラだったか? なんかそんな名前の奴がガルディア城の乗っ取りを考えてるらしいんだがよ、それが成功したらもう不自由な生活はしないって話だぜ。で、今回村を襲うのはその前祝らしい」
重要であろうことをぺらぺら喋るオウガンとわるまじろに少し呆れながらも、ガイナーたちは口元を緩める。
予想通り、この魔物たちも指示を受けて村を襲おうとしていたようだ。
しかも黒幕の標的がガルディア城という情報まで手に入り、十分すぎる収穫を得ることができた。
「そうか……そういうことか」
「そういうこった。オメーらも俺たちの仲間なんだろ? だったらさっさと人間を――――」
斬ッ!!
話していたオウガンの声が、そんな音とともに遮られる。
突然の音に誰もが辺りを見回すと、空からやたらと柄の短い槌が落下してきた。
見覚えのあるそれを見て全員がその一点を見ると、理の賢者の傑作である燕を振り抜いてオウガンのハンマーを切り飛ばしたオルティーがそこにいた。
「――な、なにしやがふぉ!?」
自分の武器をダメにされたことに気付いたオウガンが激昂して問い詰めるが、そこへマシューが鬼丸の峰を無防備な腹へ叩き込む。強烈な一撃を受けたオウガンは胃の中を吐き出しながら呻き、そのままうずくまった。
一瞬の出来事にほとんどの魔物が呆然としているところへ、朱雀を鞘から抜いたガイナーが宣言する。
「我らを仲間と勘違いしていたようだが……残念ながら、我らは人魔共存を望む魔物だ。人間に刃を向けるというならば、少々痛い目を見てもらうことになるぞ?」
「な、なめやがって! おまえら、やっちまえ!」
ジャグラーの指示で残りの魔物たちがガイナーたちに向かって一斉に飛びかかり、攻撃を開始した。
……が、
ガン! ゴッ! ボゴォ! ズシャアッ!
「――鎮圧、完了」
戦闘開始からおよそ一分。チンッと朱雀を鞘に納めたガイナーの背後には、先ほど襲い掛かってきた魔物たちが目を回して山のように積み上げられていた。
緑化現場で襲ってきた魔王のしもべたちと違い、この魔物たちは明日の食糧を餌に利用されただけで話し合えばきっとわかってくれるだろうと判断してガイナーたちは峰打ちだけで全員を沈めた。
ちなみに最初にやられてオウガンは体調が回復するなりその光景を見て、顎が外れたようにあんぐりと口を開けることしかできないでいた。
自分たちより弱いはずのフリーランサーが数の暴力をものともせず鎧袖一触する様子は、さながらタチの悪い夢の様だろう。
「お、オメーら何モンだ……?」
震え気味なオウガンの問いに三人は一瞬顔を合わせると、小さく笑って答える。
「通りすがりのフリーランサーだ」
◇
「――つまりだ、俺たちはその砂漠の緑化に協力すれば飯に困らず生活できるってんだな?」
「うむ。これはガルディア国王公認の計画だからな」
あれから人間を襲うリスクを冒さないで生活が保障される働き口があると説得すると、鎮圧された魔物たちは興味深そうに耳を傾けてくれた。
ガイナーたちの説明を聞き、オウガンはこれ幸いと嬉しそうに笑みを浮かべる。
「だったら俺たちはあんたらに着くぜ。こっちは元々今の生活をどうにかしたくてあいつに従ったが、あんたらに着いてったほうがまだ安全に暮らせそうだ」
「理解してくれて助かる。パレポリを経由して緑化現場に着いたら鉄の体を持つロボ殿か、三魔騎士の一人である空魔士マヨネー殿に会ってくれ。朱雀を持ったフリーランサーに説得されたといえば、それで通じるはずだ」
「それともう一つ。お主たちに村を襲うように指示した者の居場所は分からぬか?」
「いや、それについては知らねえな。向こうからやってきて、いい話があるって聞いただけだからよ」
「……そうか。情報提供、感謝する」
「いいってことよ。 ――よし、おまえら! 新しい働き口求めて海を渡るぞ!」
オウガンの掛け声に魔物たちから声が上がり、ぞろぞろと海岸に向かって歩き出す。
村を通り過ぎるその進行方向に、残された三人は思わずもしやと声を漏らす。
「あの者たちは、まさか泳いで現場に向かうつもりなのか?」
「チョラスを通り過ぎようとしているのを見る限り、おそらくそうなのだろう」
「……定期便を使わないのであれば、せめてイカダを作るよう助言しておこう。その後、我々は得られた情報を分かれて伝えに行くぞ」
いくら頑丈な魔物とはいえ泳いで渡るのはさすがに危険だろうと判断し、かつて自分たちが作ったようなイカダの作り方を伝授して三人は分かれてガルディア21世、ビネガー、フィオナに情報を伝えるべく再び定期便へと乗り込んだ。
◇
ガイナーたちが分かれて行動しだした頃、魔岩窟の魔族、魔物たちは意図的に掘り繋げられた洞窟を進みある島の森へと姿を現せる。
そこは巨人のツメと呼ばれる太古の生物が住む洞窟がある島で、かつて星を救ったメンバーが修業を積んだ場所でもある。
そんな島の森の中でも一際開けた場所に集まった千人以上の魔族、魔物の集団は木箱の壇上に立つ一体の魔物に視線を集中させていた。
ずんぐりした胴体に生えた手足のような爪。捻じれた角の下に体と不釣り合いな小さい目に大きな口。
妙な見た目をしてはいるが、ここに集まった連中の中では最も強い力を持ったそれは口を下品に歪め、声を上げる。
「みんな! よくこのヤクラ2世が計画した決起集会に参加してくれた!」
ヤクラとはかつてこの中世でリーネ王妃を誘拐してガルディア王家転覆を計り、未来ではその子孫が虹の貝殻を利用してガルディア王家乗っ取りを企てた魔物の一族だ。
ここにいるヤクラは父をクロノたちに倒された個体の息子で、親の意思を継いでガルディア王家の乗っ取りを計画していた。
そのために最近では共存に否定的な魔族たちを煽って人間たちを襲わせ、ある時は知性が低く共存の話を知らない魔物たちを嗾けたりもしていた。
「人間との共存に力を入れだしたビネガーのやり方では、もはや我々に真の平和が訪れることはあり得ない! 我々魔族の輝かしい未来は我々の手でつかみ取るほかないのだ!」
「能書きはいい! 俺たちはどうすりゃいいんだ!?」
「人間を血祭りにするならどこを襲えばいいのかさっさと言え!」
殺気立った声にヤクラは満足そうに頷き、次の計画を発表する。
「俺様が立てた計画はまず二手に分かれてトルースとサンドリノの村を襲撃するのだ! そうすればガルディアの騎士どもは対応するしかないため、結果として城の警備は手薄となる! 俺様は信頼できるメンバーを連れてそこを突き、国王と王妃を人質にして権力を掌握する! そうすれば騎士どもはこちらに従うしかなくなり、あとは人間を根絶やしにすれば我々の時代が幕を開ける! 好きなだけ暴れて、好きなだけ食えて、好きなだけ殺せる! そんな時代がそこまで来ている!」
「おお! わかりやすいじゃねえか!」
「俺ぁ腹が膨れりゃそれでいいや」
「ゲヘヘヘ! 男とガキはそのまま殺して、女は犯してから殺す! これぞ魔物の醍醐味!」
「そうだ! 我々の時代はもうすぐそこだ!」
ボルテージの上昇はとどまるところを知らず、辺りからは打倒人間だの暗黒の時代万歳だのと声が上がっていた。
「さあ往こう! 全ては我々の未来のために!!」
『『『おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』』』
大気をビリビリと震わせ、魔の軍勢はその牙を剥くのだった。
外伝第2話、いかがでしたでしょうか?
黒幕はヤクラの息子だったんだよ!
ナ ナンダッテー!!
Ω ΩΩ
というわけで黒幕はヤクラ2世というオリキャラ(?)でした。
次回で外伝が終了の予定となっていますが、こちらも終わりは非常にあっさりした展開になりそうです。
まあ、この時代の敵のレベルとガイナーたちのレベルを加味すれば仕方のないことだと思いますが。
次回の投稿は未定となっていますが、どうかごゆるりとお待ちください。
それでは、こんかいはこのあたりで。
また次の投稿でお会いしましょう。