Jumper -IN CHRONO TRIGGER-   作:明石明

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どうもおはようございます、活動報告にも書きましたが前回投稿した日の夜中に高熱を出し翌日医者からインフルエンザを診断された作者です。ちなみに寝込んでいる間にニコニコ動画でクロノマスターという動画を発見し自分の作品の薄さにorzな状態になってました。

さて、今回は原作で言うエンディングとなります。
夜中に書きあげたテンションで内容が怪しいのと後半に原作引用のセリフが多用されているので消されないかの二点が心配ですが、とりあえず投下します。
またエンディングということもあり、今まであとがきに掲載していたステータスや装備のコーナーが今回よりなくなります。

それでは本編第36話、どうぞご覧ください。


第36話「星の夢の終わりに」

「これで……くたばれえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 トリガーを引き切ると小さな銃口から出るとは思えない極太の青白いエネルギーが爆発的な勢いで射出され、センタービットを蒸発させる。『直撃』が付与されている上に威力が三倍に押し上げられたこの一撃は、そのまま背後にいたコアも飲み込む。

 青白い光の奔流が視界を埋め尽くしランチャーの咆哮が響く中――――世界を割るような絶叫が響いた。

 

 

「……終わった?」

 

「ああ……終わりだ」

 

 

 ついにやったんだと理解すると、途端に体がだるく感じられた。

 あとはこの空間から抜け出すだけなんだが、そこから先どうなるのかまでは知らないから流れに身を任せるしか――。

 

 

「フン、ラヴォス・ジハードがやられたか」

 

 

 突然響いたその声に身構えると、空間がゆがむと同時に俺たちは絶望の底に叩き込まれた。

 三体の色違いのセンタービットによく似た人型が、空を覆い尽くすほど膨大な数のビットを従えて現れたのだから。

 

 

「奴はラヴォス四天王の中でも最弱、仕方のないことよ」

 

「しかし、それでも倒したという事実に変わりはない。その武勇に敬意を表し、我ら三人――ラヴォス・オメガ、ラヴォス・ハーデス、ラヴォス・ラ・ギュアが相手になってやろう」

 

「「「さぁ、畏れ、ひれ伏し、崇め奉るがいい!!」」」

 

「――ふ、ふざけんなあああぁぁぁぁぁぁ…………!!」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

 

「ふぉおお!?」

 

 

 言いようのない悪寒を感じ、尊は弾けるようにベッドから跳ね起きた。

 何やらとてつもなく恐ろしい夢を見たような気がするが、それほど酷いものだったのか、内容がまったく思い出せない。

 

 

「ミコトさん、どうかしましたか?」

 

「……いや、ちょっと夢見が悪かっただけだ」

 

 

 隣のベッドでちょうど目を覚ましたサラが体を起こしながら訪ね、頭をかきながら尊はそう返すと顔を洗うべく洗面台へと移動した。

 あれから尊たちはラヴォスの作り出した空間からリーネ広場のゲートへと抜け、戦いの傷を癒すべくひとまず宿屋に泊ることとなった。

 ところが、リーネ広場の入り口にいたガルディア城の兵士からクロノへ裁判の執行猶予が明日までと通達され、クロノは一晩考えたいと自宅へ。マールは兵士に連れられそのまま城へ。ルッカはこっちの事情を知る人たちを呼んでくるといって再びゲートを開いていった。

 残った尊たちはトルース町にある宿屋で一夜を明かし、今に至るという状況だ。

 ちなみに三人部屋が一つしか用意できず、二人部屋を三つ借りることでまた魔王が癇癪を起こすかと思われたが、何もなかったことに尊は疑念を抱かずにはいられなかった。

 

 

「クロノは大丈夫でしょうか……」

 

「大丈夫だ、マールやルッカがうまくやってくれる。俺たちは、笑って三人を迎えればいい」

 

「……そうですね」

 

 

 ブラシで髪を梳かしながら心配そうにつぶやくと、洗面台から水音に交じって元気づける声が上がりサラは微笑を浮かべる。

 今までとてつもない困難も仲間を信じて乗り越えて来たのに、この程度のことで心配してどうするのだと思い至ったのだ。

 顔を洗ってすっきりした尊はサラと入れ替わりで自分の寝台に戻り、手早く身なりを整えサテライトゲージのチャージ状況を確認する。

 

 

「一日で約17%……フルチャージまでざっと一週間ってところか。太陽石の時と同じ手段を使えば一発で済むが、消失の可能性を考慮したらやりたくないな……となると、チャージが終わるまで滞在するのが一番無難か」

 

 

 本来ならすぐにでも使えるような状態に持っていきたいが、最後の最後でヘマをしたくないので一番確実な手段を選択した尊は続いて隣の部屋へと移動する。

 一番奥の三人部屋にはガイナーたち。その隣の部屋にはエイラとロボ。そして尊たちの隣の部屋には――。

 

 

「む、どうしたミコト」

 

「カエル、魔王はいるか?」

 

「――呼んだか?」

 

 

 会話が聞こえたのか、奥にいた魔王が姿を現した。

 

 

「少し話がある。来てくれ」

 

 

 

 

 

 

 魔王を呼び出してやってきたのは宿屋の裏手にあるテラスだ。

 朝食の時間にしては少し早いが、それなりに人があふれる中でテーブルを確保して向かい合う。

 

 

「それで、話とは何だ?」

 

「いや、昨夜のお前の態度が気になってな。 どういう風の吹き回しだ?」

 

 

 今までサラが絡むとちょっとしたことでも騒いでいた魔王だが、戦闘が終了してからどうにも様子がおかしい。

 特にどこかに泊って寝る時も今まで頑なに引き離そうとしていたのに、昨日はそれが一切なく淡々としていたのだ。

 

 

「……さあな」

 

「……本気で言ってるのか? 今までサラが絡んだら問答無用で俺に食って掛かったお前が」

 

「俺にも、そんなときぐらいある」

 

 

 店員が持ってきたコーヒーを口にする魔王につられ、俺も自分の前に置かれたコーヒーに口を付ける。

 程よい苦みが口を抜け、コーヒーの熱さが喉を通って胃に落ちていくのを感じながらもう一つのことを伝える。

 

 

「一週間後、俺はサラを連れて元の世界に帰る」

 

 

 魔王の手がピクッと反応し、視線が俺に据えられる。

 

 

「……もう戻ってこない、ということか?」

 

「そこまではまだわからない。俺だって、サラがお前と離ればなれのままになるのを良しとしないからな。お前もつれていけば一番いいんだろうが、その耳はこっちの世界じゃ目立ちすぎる。だから女神様に頼んで、せめてこっちの世界をつなぐ専用のゲートを開く力くらいは残してもらうよう頼むつもりだ」

 

「お前がここに永住する、という考えはないのか?」

 

「……永住か」

 

 

 その考えがなかったわけではない。しかしサラに弟である魔王がいるように、俺にも姉さんや悠といった家族がいる。何も伝えずに永住というわけにはいかないし、俺はサラにこっちの世界を案内すると約束した。それを反故にはしたくない。

 

 

「あっちに未練がなくなったらそれもあり得たかもしれないが、今のところそんなつもりはないな」

 

「……そうか」

 

 

 コーヒーを飲み干し、ウェイターが食器を下げたのを見計らって魔王は再び口を開く。

 

 

「連れていけばいい」

 

「ん?」

 

「姉上が決めたことだ、もう俺が口出しできる状況でもない……。それに姉上が貴様を想っているように、貴様が姉上を想っているのは、もう憎たらしいほど理解している」

 

「……それはつまり」

 

「――――姉上を泣かせたら、その時は全力で殺しに行くからな。覚悟しておけ、義兄上(あにうえ)

 

 

 その発言に思わず言葉を失い、しばらくして急に笑いがこみあげてきた。

 

 

義弟(おとうと)義兄(あにき)を脅すなよ」

 

「姉上の幸せが俺の願いだ。それを踏みにじる輩は誰であれ魂の欠片も残さん」

 

 

 真剣な表情でそう述べる魔王――いや、ジャキが面白く、クツクツと笑いを漏らす。

 

 

「約束しよう。俺は必ずサラを幸せにし、一生愛し続けると。もしこれを果たせなかったら、その時は遠慮なくこの首を取りに来るといい」

 

「……言質は取ったからな」

 

「待て、最後に一つ聞きたいことがある」

 

 

 席を立ってテラスを後にしようとするジャキに待ったをかけ、言葉をかける。

 

 

「お前は、これからどうするつもりだ?」

 

「……どういうことだ?」

 

「ラヴォスは死に、同時にお前の復讐も終わった。今までそれだけを目的として生きてきたお前は、これからどういう人生を歩んでいくつもりだ?」

 

 

 その質問にジャキはしばらく沈黙を保っていたが、やがて顎に手を当て難しい顔をし始めた。

 

 

「……その様子じゃ何も思い浮かんでないみたいだな」

 

「余計な御世話だ。 それに今思い浮かばないのであれば、時間をかけて見出せばいいだけだ」

 

「――なるほど、それも一理あるな」

 

「いずれにせよ、義兄上(あにうえ)の手は借りん――ではな」

 

 

 今度こそその場を後にしたジャキを見送り、大きく安堵の息をつく。

 サラを連れていくと公言した時、てっきり「姉上を連れていくなら力づくで俺を納得させてみろ!」とか言うと思ったが、穏便に話が進んでよかった。

 今の俺とあいつがガチでぶつかり合えば、非常に高い確率でトルース周辺が更地になりかねなかったからな。

 ともあれ、これで大事な話が一つ片付いたな。あとはサラに説明して、帰るまでに必要なものをまとめておくか。

 俺は手元に残ったコーヒーを一気に流し込み、代金を残して部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……義兄上(あにうえ)、か。まさか、あいつをこう呼ぶ時が来るとはな」

 

 

 トルース町のはずれにある森の木の上で、魔王は先ほどの尊との会話を思い返していた。

 最愛の姉が選んだ男。当初こそ敵対関係にあって殺し合いをし、古代では利害の一致から協力関係を築いた。

 ラヴォスの出現で姉ともども音信不通となったが、五体満足で姿を現しその正体とサラとの関係を激白。前半はともかく後半は遺伝子レベルで受け入れがたい事実であったが、姉が彼を思う気持ちは本物で、逆もまた然りだった。

 しばらくはそれを認めたくない一心であったが、ラヴォスコアとの戦いで心底尊を心配するサラを目の当たりにし、彼女が幸せになるには尊がいなければならないと思い知らされた。

 真にサラの幸せを願うならば、自分の子供のような理屈を振りかざすべきではない。背反する心にそう言い聞かせ、これからの関係にふさわしい呼び方へとシフトした。

 ただし、内心では尊を義兄と呼び始めたものの今後この呼称で呼び慣れる気が全くしないなとひとりごちていた。

 

 

「これからどうすべき、か」

 

 

 尊に言われた通り、宿敵であるラヴォスが死んだことで自身が掲げた復讐の旅路も終わった。

 サラがあのまま行方不明になっていたら彼女を探す旅をしていただろうが、そんな事態にもなっていない。

 思考に沈んだ結果、魔王が選べる選択肢は二つに絞られる。生まれ育った古代に戻るか、ビネガーたちがいる中世に戻るかだ。

 前者の場合はダルトンや地の民の長老によってジールの正統な後継者として祀り上げられる可能性が高く、後者の場合は魔族の代表として返り咲く可能性が非常に高い。

 どちらもめんどくさいことに変わりないが、誰にも干渉されず静かに暮らすなら中世の方がまだマシだ。

 

 

「……ふむ、中世か」

 

 

 あの時代での出来事を思い返して何か思いついたのか、吟味するように顎に手を当てる。その表情は尊に問われた時と違い、明確な目的が見出せそうな顔だった。

 

 

 

 

 

 

 ルッカがガルディア王家の面々を連れて弁護したことによりクロノが無罪で釈放され、クロノ、マール、ルッカの三人はリーネ広場へと足を運んでいた。

 時刻は既に夕方。千年祭最後のイベントであるパレードに向けての準備が進められる中でも屋台やイベントは無数に展開されており、祭りを楽しむには十分な賑わいがあった。

 そんな中、リーネの鐘広場から通じる飲食コーナーへ移動すると、既に祭りを楽しんでいる面々を発見する。そちらもクロノたちがやってきたことに気づくと、席を立って迎える。

 

 

「お待たせしました」

 

「気にするな、こっちはこっちで楽しんでるからな。それより、無罪放免おめでとう」

 

 

 尊がそう言いながら拳を突き出し、意図を察したクロノはコツンと軽く拳を当てる。

 飲食コーナーの一角を独占して設けられた宴席を見渡すとサラと魔王、カエルとガイナーたちがのんびりと飲み物を。エイラは肉をひたすら食べ続け、ロボは近寄ってきた子供たちの相手をしていた。

 それを見渡し、ルッカが小さくうなづく。

 

 

「それじゃ、全員揃ったところで無事に帰ってこれたことを記念して……写真、とりましょうか」

 

 

 ポーチからカメラを取り出し、近くにいたピエロにシャッターを頼み全員でステージへと登る。

 一番の巨体であるロボが最後尾に並び、ロボの肩にルッカが乗りその隣にカエルが立つ。その足元でエイラがあぐらをかき、ロボの隣に立ったクロノの腕にマールが抱きつく。

 そして尊がサラをお姫様だっこで持ち上げ、そのやや後方で魔王が腕を組み、その前でガイナーたちがそれぞれポーズをとるといった構図だ。

 尊に対して魔王が何も言わなかったことに周りが若干驚きながらもつつがなく撮影が終了し、ルッカは人数分の写真を現像してくると言って一度その場を離れた。

 

 

「さて、パレードが始まるまでまだ少し時間があるな。――せっかくの祭りだし、ぎりぎりまで遊ぶか!」

 

 

 クロノの提案に反対する者はおらず、各々が残りの時間を好きなように楽しむ。

 クロノと尊がマールとサラの応援を受けて飲み比べ対決をし、カエルがガイナーと剣の技量を競い、ロボとエイラはステージでゴンザレスと一緒に歌ったり踊ったりした。

 やがて現像を終えたルッカも合流し、宴もたけなわとなったところでメインイベントである『ムーンライトパレード』が始まろうとしていた。

 

 

「さあ! 未来を救ったクロノと無事お城に帰ってきたマールディア王女、そしてガルディアのますますの発展を願って……」

 

『『『It's a moon light parade!!』』』

 

 

 会場の進行役を務めているジャリーの言葉に合わせ、出演者たちが一斉に声を上げる。

 このパレードにはもともと行進予定に入っていた踊り子たちに加え、飛び入りで参加が決定したマールとクロノも参加することになった。

 未来を救った英雄と国を代表する王女が参加するということもあり、会場のボルテージは上昇の一途をたどる。

 その様子を見ながらある者はパレードを肴に酒を飲み、ある者は恋人に愛を語らい、またある者はこれからの時代に胸を躍らせた。

 そんなパレードもいよいよ佳境へと移り、行進の列から抜け出したマールたちはルッカたちと合流し静かに最後の時を迎えようとしていた。

 テレポッドのある広場にはすでに全員がそろっていたが、その空気はどこか重い。

 

 

「もうみんな……お別れなのよ」

 

 

 空気に耐え切れなかったのか、ルッカが口を開きカエルが喉を鳴らしてつなげる。

 

 

「みな、それぞれの時代へ戻る時が来た。それだけだ」

 

「……みんな、行っちゃうんだね」

 

「ラヴォスが死んだことでゲートの力が弱くなっている。俺とサラは別の手段で帰れるから大丈夫だが、他のみんなはこれを逃せばもう……」

 

「……寂しくなるな」

 

 

 クロノがつぶやくと、まず原始に戻るエイラとキーノがゲートの前までやってくる。

 

 

「クロ、強かった! マールも強かった! エイラ楽しかった!!」

 

「ああ、俺たちも楽しかった。エイラ、ありがとう」

 

 

 肘と肘をぶつけることで互いに感謝を伝えるクロノとエイラ。その横で、マールは先祖に当たるキーノに話しかけていた。

 

 

「遠い遠いおじいちゃま、元気な子供を生んでね。じゃないと私が困っちゃうから」

 

「大丈夫! エイラ、元気!!」

 

「そうね!! ……って、何それ? どういう事?」

 

 

 キーノの力強い言葉に思わず同意したが、言葉の意味を測りかねてマールの頭にハテナがともる。それを完全に把握する前に顔を赤くしたエイラが割って入り、キーノを担ぎ上げる。

 

 

「キーノ、バカ!! さ、エイラたち行く!」

 

 

 ゲートにキーノを放り込み、エイラは最後に投げキッスを残してゲートへと飛び込んだ。

 

 

「にぎやかな連中だな。自分の先祖かもしれないと思うとほっといてもいられないが……」

 

 

 穏やかに笑ったカエルがどこか呆れた風につぶやき、ガルディア21世とともにゲートの前にやってくる。

 

 

「さあ王様、リーネ様がお待ちです。私たちも帰りましょう」

 

「うむ」

 

 

 まずガルディア21世がゲートへと進み、それを見届けたカエルが全員へと向き直る。

 そこへ魔王が歩み寄り、カエルと相対する。

 

 

「なんだ? 魔王」

 

「……決まったのか?」

 

 

 怪訝そうに尋ねるカエルを余所に尊が尋ねると、魔王は「ああ」と言って振り返る。

 

 

「俺は中世で、こいつにかけた呪いを解く研究をする。まあ、たまにビネガーに協力して共存政策に加担してもいいがな」

 

「なんだって!?」

 

「……どういう風の吹きまわしだ?」

 

 

 クロノから驚愕の声が上がり、不審そうにカエルが質問すると魔王の口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「ただの暇つぶしだ。ラヴォスが死んだ今、特にやることがないからな」

 

「……そうか。なら、期待しないで待っておいてやる」

 

 

 嘘か真かはわからないが、今まで行動を共にしてきて以前ほど魔王から邪悪さを感じなくなったことを加味したカエルは同じように口元に笑みを浮かべる。

 

 

「カエルさん……」

 

「……別れに多くの言葉はいらないさ」

 

「……そうね、言葉とはかぎらないわ」

 

 

 カエルの側に歩み寄ったマールは小さくかがむと、その頬に軽くキスをした。

 それを見て尊がヒューッと口笛を吹き、ルッカがくすくすと笑う。

 

 

「良かったわね。王女様のキッスで姿が元に戻るっていうのが、ハッピーエンドの定番よ」

 

「……フッ、それなら魔王に頼る必要もなくなるな。 ――達者でな」

 

 

 喉を鳴らしながら皮肉り、最後にそう残してカエルがゲートをくぐる。

 

 

「ジャキ……」

 

「姉上……俺は姉上の幸せだけを願っている。例えそれが違う時代、違う世界であろうと」

 

「……私もです。ジャキ、あなたはあなたの幸せを見つけてください」

 

 

 サラと魔王が強く抱き合い、その光景を目じりに尊はガイナーたちへと体を向けていた。

 

 

「お前たち、よく最後まで俺に仕えて戦ってくれた」

 

「礼を言うのはこちらのほうです」

 

「然様、御館様に出会わなければ、我らは未だにただの魔物で収まっていたことでしょう」

 

「砂漠の緑化と人魔共存についてはお任せください。我ら三人、この魂にかけて必ずや成し遂げて見せましょう」

 

「ああ、頼む。 大した礼もできないが、今まで本当にありがとう」

 

「「「では、御免!!」」」

 

 

 ガイナーたちが同時にゲートをくぐり、最後に魔王が笑みを残してゲートを抜けた。

 中世組が全員帰還して未来組の番になるとドンが前に出て、大きく礼をしてゲートをくぐる。

 

 

「ルッカ、ワタシも未来で元気にやっていきマス」

 

 

 最後に残ったロボがルッカの前にやってきて明るく話しかける。だがルッカの表情は曇り、視線は地面に向いていた。

 

 

「どうしたの。 ルッカ? ロボにお別れは……」

 

「……ヤハリ気づいていたのデスネ」

 

 

 聡明な彼女なら気づいてもおかしくないと思っていたのだろう、ロボの声のトーンがわずかに落ちる。

 

 

「何のこと?」

 

「……ロボはラヴォスによって滅ぼされた未来で生まれた。だが俺たちが奴を倒したことで未来が変えられ、『ラヴォスによって滅ぶ未来』がなかったことになった。ここで『ラヴォスが未来を滅ぼしたからロボが生まれた』という可能性を考えたとき、『未来が滅びなかったからロボも生まれない』という結果に至る可能性もあるんだ」

 

「! それじゃあロボは……!」

 

 

 尊の説明を理解したクロノがロボへ振り返ると、彼は明るく笑って否定する。

 

 

「ハハ、そんなことないデス。きっと新しい未来でもワタシは――「ロボのバカ、バカ!」」

 

 

 そこから先は続かなかった。弾けるようにロボへとびかかったルッカが、泣きながら鋼鉄の体を殴る。

 

 

「悲しい時は素直に悲しむのよ! じゃないと……こっちが余計悲しくなっちゃうじゃない……!」

 

「……そんな思いやりの気持ちを教えてくれたのもルッカデス。とても感謝してイマス」

 

 

 赤く腫れた手を優しく包み、あやすように語り掛ける。これ以上泣かないよう精一杯の我慢をするルッカをマールが後ろから抱きしめる。

 

 

「涙は似合わないわ、ルッカ。新しい未来でも、ロボはきっと生まれて来るわ」

 

「そうですね。未来が滅びなかったからロボさんが生まれないなんて誰もわからないですし、ロボさんを誰よりも想っているルッカが信じなければ、それこそロボさんは生まれないかもしれませんよ」

 

「……サラさん」

 

 

 その言葉が胸中へ響いたのか、ルッカは目に溜まった涙を乱暴に拭いてロボを見上げる。

 

 

「さよならは言わないわ。ロボ、未来で待ってて。私が必ず、あなたを生ませてみせるわ」

 

「……ハイ!」

 

 

 その言葉にロボは新しい未来でも自分は生まれることができると信じ、残ったみんなへ深々と礼をするとゲートへと振り返る。

 

 ガンッ!

 

 ――が、勢いよく振り向きすぎて側にあったテレポッドに激突し大きくよろけた。

 

 

「おっと、オイルでアイセンサーがかすんで……」

 

「――プッ、アハハハハ!」

 

 

 最後の最後で起こった何とも締まらない事態にルッカから笑いが漏れ、その場にいた全員がつられて笑った。

 どこか恥ずかしそうに頭を押さえたロボは今度こそとばかりにピースサインを残し、しっかりとゲートを潜り抜けた。

 

 

「……いつかした話、覚えているか?」

 

「死ぬ時に見る思い出の話、ですよね?」

 

「もうその人は助かったみたいですね」

 

「あの時は分からなかったけど、今ならはっきりわかるわ」

 

「うん、私も感じる。その人の息吹きを……」

 

 

 五人はおもむろに天を仰ぎ、その鼓動を全身で感じる。

 長い夢から覚め、まだ見ぬ明日へ目覚めようとする大きな命が、確かに存在していた。

 

 

「……時間を旅するなんて、荷が重すぎるね」

 

「時間旅行なんて元々過ぎた力さ。今という時間さえ必死になって生きている俺たち人間からしたら、特にな」

 

「そうね……シルバードも壊した方が良さそうね。もう、みんなと会えなくなるけど……」

 

 

 元の時代へと戻った仲間に唯一会いに行ける力だが、今を生きる自分たちにはもう必要ないものだということで話が纏まろうとした。

 その時――

 

 

「「「ニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャー」」」

 

 

 突如、優に20は超えるであろう猫の大群がテレポッド広場に現れた。

 

「きゃっ!? 猫!?」

 

「こ、これはうちの猫!? なんでここに!?」

 

「うちの猫って、俺が知ってる数より多いぞ!?」

 

 

 クロノのうちの猫発言に尊が思わず突っ込むが、猫の大合唱がそれを掻き消す。

 さらにその猫を追うように階段から一人の女性が息を切って現れ、声を張り上げる。

 

 

「クロノ! あなたがエサをきらしたもんだからみんな逃げ出しちゃったわよ!」

 

「そ、そう言われても!」

 

 

 クロノとその母親ジナの会話を聞き、先ほどまでのお別れムードで忘れていたことを尊は唐突に思い出した。

 この後起こるであろう面倒な流れを。

 

 

「クロノ! 急いで猫を捕まえろ! でないと――」

 

「あ! これ!」

 

 

 一番近い猫から捕まえようと動いた尊だが、獣の感か空腹による暴走か、猫たちは逃れるように尊が知る通りの流れで動き出した。そしてクロノの母親であるジナも。

 

 

「!? 母さんダメだ! そっちは!!」

 

 

 言い切る前に猫とジナが飛び込んだ先はあろうことかゲートの向こう側。そしてゲートはタイミングを計ていたかのようにその入り口を閉じ、その空間から完全に消滅した。

 

 

「た、大変! クロノ! もうゲートは一生開かないよ! どうするの!?」

 

「――どうするもなにも決まってる! 追いかけるんだよ!」

 

 

 反射的にそんな言葉が口から出たが、マールの言った通りゲートはもう開かない。しかしクロノの提案を援護するようにルッカから声が上がる。

 

 

「……そうね、それしかないわね!」

 

「追いかけるってゲートはもう……!」

 

 

 マールが言いかけたところで、サラがその手段に気付く。

 

 

「……まさか、ルッカ」

 

「まあ、それしかないわな」

 

 

 展開を知っていた尊がそういうとルッカは自信満々に手を掲げ、口元まで持ってくる。

 

 

「ターイムマッシーンがあるじゃない! オーッホッホッホ!」

 

 

 その宣言にクロノとマールは笑みを浮かべ、尊とサラは苦笑いを浮かべた。

 非常時とはいえ、ついさっきまでもったいないけど壊そうかと相談したものをいきなり使うんだ。少し前のシリアスな空気はどこへやら。

 三人がシルバードの元へ駆け出したのを見届け、尊とサラも後を追うようにゆっくりと歩き出した。

 それから間もなく夜空へ向かて打ち上げられた花火が大輪の花を咲かせ、同じ空を時渡りの船が眩い光を放って駆け抜けるのだった。

 




本編第36話、いかがでしたでしょうか?

冒頭のラヴォス四天王は元々没シーンとして誕生した内容でしたが、さすがに前回のラストにねじ込むわけにもいかず今回夢オチという形で出しました。
次回のエピローグでこの作品もひとまず完結となりますが、どうか最後までお付き合いください。

それでは、今回はこのあたりで。また次回の投稿でお会いしましょう。

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