Jumper -IN CHRONO TRIGGER- 作:明石明
尊がやられてからというもの、クロノたちの戦況は思わしくないものへと推移していた。
ルッカがペイントをビットたちにぶちまけたことで狙うべき相手が定めやすくなったものの、色付きのビットを狙いに行けば『命活』で復活したビットが身代わりになるように立ちふさがる。
しかも立ちふさがった先のビットが本物かと思えばそうではなく、復活したビットは残り続けるビットであれば無条件で身代わりとなりに行っているため排除に余計な手間を取られる結果となった。
クロノの『回転切り』でそれなりに数を減らせるものの、開戦当初の『はやぶさぎり』による戦果と比べればあからさまに効率が落ちてる。
『はやぶさぎり』 に必要なエイラも人型であるセンタービットの相手で手いっぱいとなっており、呼び寄せる余裕もない。
「くそ、邪魔だ!」
復活したビットを切り捨て、勢いよく飛び込んで『回転切り』を放つ。色付きのビットを数体屠ることに成功するが、他のビットたちの動きに変化は見られない。
色付きのビットは残り15体ほどまで落ち込んでいるが、色付きが減るたびに守りに移行するビットが増えるため徐々に攻めの勢いが失われていく。
そして一番の脅威は何といっても――――
「でかい岩、来る!」
「またかよ! ロボ、マール!」
カエルのうんざりし たような声に反応し、呼ばれた二人は巨大すぎる岩が自分たちに直撃すると同時に連携技『ケアルガウィンド』を放つ。
一瞬にしてダメージは全快したものの、彼らの緊張は決して緩まない。
否、緩められないのだ。
「いい加減くたばれ、ラヴォス……!」
忌々しそうにその名を吐き捨て、魔王は猛威を振るうセンタービットを手にした『絶望の鎌』で切り裂く。腕を上げることでそれを防いだセンタービットは反撃とばかりに強力な雷の魔法『天泣』を落とす。
このメンバーの中でも非常に高い魔法防御力があるにもかかわらず、それだけで魔王の体力は半分以上削られることとなった。
後衛から回復魔法が唱 えられダメージはすぐに回復するものの、センタービットから放たれる一撃一撃が看過できない威力を誇っており、いくら攻撃しても何の変化も見られない状況がクロノたちの中で焦りとなり始めていた。
「あー! もー! どれが本物なの!?」
「何か法則性がわかればよいのデスガ……!」
色付きのビットを狙ってボウガンを連射するマールと、同じく色付きのビットに向けてマシンガンパンチを放つロボ。その攻撃のほとんどが復活したビットに防がれる結果になっているが、それでも運よく直撃して消滅させることに成功しているものもあった。
そんな芳しくない戦況の中、ルッカは色付きのビットの動きを追い ながら行動の法則性を見出そうとしていた。
――ビットが復活するときに特別な動作をする個体はない。何もしないで復活させるのは分かったけど、ミコトさんは復活した直後に本命が防御を解いているからダメージが通るって言っていた。つまり、本命が他のビットを復活させるには必ず防御を解かないといけないということに他ならない。これが正しければ、直後以外だと最低でも直前も防御を解いているはず。けど、復活前の動作をどうやって見つければ……。
この考えを尊が聞いていれば、その洞察力に賛辞を送っていただろう。確かに『命活』を使用する際、ラヴォスコアは他のビットを復活させるためにその防御を解除する。そして『命活 』使用後は反動のためかしばらく防御力が低下したままとなり、絶好の狙い目となるのだ。
しかし、そのチャンスを最大限に生かすためには本命のコアがどれで、どのタイミングで防御を解除するかを見極める必要がある。
ただでさえノーモーションでビットを復活させるため、手掛かりが無いに等しかった。
「パターンに変化がなければ、そろそろ他のビットが復活するはず…………ん?」
注意深く色付きのビットを観察していると、ふとその中に違和感を受けた。
ビットは常に不規則に動き回っているので、一度入り乱れてしまえば特定の個体を目で追うのが困難になる。
しかし、それは色が付けられる前の話だ。ペイントのおかげで特定のビットが追いやすくなったことで、ルッカはその色付きビットの動きに不自然さを感じた。
一つだけやたらと取り巻きによるガードが多く、位置も自分たちの場所から最も遠い位置にあった。
普通に考えて、何度でも復活するビットがそこまでガードを固める必要がない。では、それが普通のビットでないとしたら?
「――! まさか!」
確信に近い直感を感じ、狙いを定めて『ミラクルショット』のトリガーを引く。狙ったビットへ弾が飛来すると、取り巻きのビットが一瞬にして壁を作りそれを守る。
それが、ルッカへの回答となった。
「見つけた! みんな、本命のコアは――「ルッカ! 逃げろ!」――ッ!?」
コアの存在を教えようとしたところでエイラから警告が響くと、尊がやられたシチュエーションが脳裏に映り咄嗟に飛び込み前転を行う。
すると先ほどいた位置からブォン!と凄まじい力で風を切る音が上がり、空間からにじみ出るようにセンタービットが姿を現した。
「こいつ、まさか気づいたの!?」
本命のコアを発見したルッカを最も危険と認知したのか、センタービットはズンズンと歩み寄り再び『堕撃』を繰り出そうとしていた。
ルッカは後退しながら周りに目を向け、コアに最も近いクロノへ向けて声を張り上げる。
「クロノ! 一番離れた場所で守りが固いビットを狙って! それが本体のはずよ!」
「――アレか!」
言われた対象はすぐに見つかり、すぐさま排除しようとクロノは『虹』を握り直して駆け出す。
が、ほぼ同時にすべてのビットが先へ行かせまいとクロノへ体当たりを始めた。
さらに本命のコアは全方位をがっちりとガードされ、残りは攻撃のみならず行動を制限するように全員に対して体当たりを開始する。
「これは……まずいぞ!」
「ミナサン! 一度集まりまショウ! 分断されては各個撃破に持ち込まれてしまいマス!」
「くっ、仕方ない……! 『シャイニング』!」
「喰らえ、『ダークマター』!」
ついに本命がわかったことで勇んでいたクロノだが、ロボの言う通りこのままではやられるだけだと理解してせめてもの一撃として『シャイニング』を放ちつつ全員が集合するサラたちの元へと移動する。
また、魔王もそれに続いて『ダークマター』を放ち、コアに直撃したのを確認して後退を始めた。
「サラ様! 御館様は!?」
「傷は治りましたが、意識はまだ……」
サラはこの時ほど、自分がレイズの魔法をつかえないことを呪ったことはないだろう。
レイズの魔法は意識が戻らない人を目覚めさせる力がある。サラはクロノとマールがそれを使えることを知らず、クロノたちもレイズの効力を把握し切れていないうえに、傷が勝手に治るという現象を目の当たりにしたせいで同じ効力を持つアテナの水を使うことをためらっていた。
「クロノ、ラストエリクサーを使え! 体力もそうだが、そろそろMPも少ないはずだ!」
「わかった!」
群がるビットの攻撃を凌ぎつつ残り少ないラストエリクサーを使用し、HPとMPを万全にする。
もしかしてと思い尊に目をやるが、やはり目を覚ます様子はない。
「待つしかないようだな――来るぞ!」
魔王の言葉に反応して全員が構えた瞬間、全方位から迫っていたビットの攻撃が苛烈になり、やや離れた位置でセンタービットが両手に莫大な魔力を込めていた。
「いけません! 人型からとても強い攻撃が――!」
こめられた魔力の異常性に気付いたサラが声を上げるが、センタービットの攻撃のほうが早かった。
キィィィィィィン――――カッ!!
「ぐああああああっ!!」
「きゃあああああっ!!」
放たれた魔力がピラミッドを形成し縮退、臨界を迎えると同時にクロノたちの頭上で盛大に弾ける。
マジックバリアで魔法防御を上げていたとはいえ、最大魔法攻撃『夢無』の直撃はクロノたちの陣形を容易くズタズタにした。
同じ方向に吹き飛ばされたクロノと魔王が急いで体を起こすと、センタービットがゆっくりとした足取りで一点を目指していた。
「まずい……! 姉上!」
「ミコトさん! 起きてください!」
二人がそろって声を上げるが、視線の――尊を抱きしめたまま吹き飛ばされたサラは衝撃が抜けたばかりで、周りがどうなったか確認し切れていなかった。
「み、ミコトさんは……っ!?」
ようやく状況が呑み込めたが、そこはすでにセンタービットの攻撃範囲内だった。
「くっ、サラ様!」
別方向に吹き飛ばされたガイナーがどうにか体を上げるが、センタービットはその腕を大きく振りかぶり始める。
その一撃を防ぐために誰かが彼女の元へ駆けつけるには、圧倒的に時間が足りなかった。
「っ、ミコトさん!!」
反撃という手段も頭から抜け落ち、サラはぎゅっと目を瞑ってその名を叫ぶ。
センタービットの『堕撃』が、容赦なく振り下ろされた。
ガァン!!
来ると思った衝撃が来ず、代わりに硬質なものが叩かれる音が耳に届き、サラは恐る恐る目を開ける。
目の前で掲げられた腕に備わった盾がセンタービットの攻撃を防ぎ、ぎりぎりと拮抗していた。
「――悪い、負担かけた」
顔のすぐ横からそんな声が上がり、同時に強い安堵感が込み上げてきた。
「『加速』!」
拮抗していた攻撃を受け流し、自分に抱き付いていたサラを抱き上げて安全圏まで後退する。
その光景に誰もが呆気にとられたが、状況を理解すると自然と口元が笑みに変わった。
「すまない、待たせた」
完全復活した尊は、どこか申し訳なさそうにそう謝罪するのだった。
◇
抱き上げていたサラをおろし、シールドとして展開していたサテライトエッジをハルバードに変形させる。
『堕撃』によるダメージが完全回復しているが、これはおそらく――久しく忘れていた――UG細胞改に備わった自己再生の恩恵だろう。ん? ということは、自然治癒強化はさしずめオートリジェネか?
あんな骨が砕けたり内臓がつぶれる音なんてもう二度と聞きたくないが、あれくらいの攻撃なら受けても死ぬことはないようだ。
意識を持ってかれたのは予想外だったが、全員無事なうちに復帰できてよかった。
しかし相当強い攻撃を食らったのか、陣形はめちゃくちゃで全員がボロボロだ……とりあえず、この陣形を立て直すか。
迷わず最後のラストエリクサーを開封し、放り上げながらそれぞれの位置を統合して声を上げる。
「陣形を戻すぞ! 中心となる魔王とクロノの場所に集合して円陣を形成、中心にサラとマールとルッカをおいて、残りは壁を組むぞ!」
敵味方が入り乱れている状況で最初みたいな陣形は不利と判断し、新しい形を指示しながらサラを連れて迫るビットを薙ぎ払いながら突き進み、目的地点へと到達する。
「ミコトさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、もう平気だ。 ところで、ここまでの状況を教えてくれないか?」
「はい、敵の本命の可能性があるビットを見つけました」
「……マジか?」
その報告に目を丸くして聞き返すと、ルッカはニッと笑って答える。
数瞬おいて俺の口にも笑みが浮かび、親指をぐっと立てる。
「グッドだ。で、目標はどれだ?」
「ペイントがついたビットの中で、私たちから一番遠くにいる個体です」
体当たりを敢行してきたビットを弾き飛ばしながらその個体を探す。しかしペイントか……それは盲点だったな。
そんなことを思っていると、センタービットの後ろに張り付きながらも他のビットに守られているものを見つける。なるほど、アレか。
しかもたった今『命活』を発動させたのか、多数のビットが空間より出現する。本体が分かっているうえにこれだけ好条件がそろっているのなら、もう有象無象のビットに目を向ける必要もない。
「全員、これから本命のコアに向けて突っ込むぞ! 行けるか!?」
『はい!』『おう!』『承知!』
俺の問いに反論の声はなく、むしろ一部からは待ってましたという気概さえ感じられる答えが返ってきた。
「よし! なら、突撃だ!」
ハルバードからザンバーに変形させて先陣を切る。群がるビットを薙ぎ、まずはコアを守るように立ちはだかるセンタービットへ集中砲火を浴びせる!
「人型もろとも叩きのめす! まずはエイラの三段蹴り! 次にガイナーたちの連携! それが終わったらサラと魔王は最強魔法! マールとルッカは二人に合わせて反作用ボム3で追撃して、その後にクロノ、カエル、ロボはトリプルアタック! 締めは俺が叩き込む!」
「わかった! ウゥゥゥララアアアァァァァァァ!!」
まずエイラが跳び蹴りを二発食らわし、最後の一撃をセンタービットの脳天に叩き込む。
体制を戻したセンタービットは両手に魔力を込めようとするが、それより疾い奴らが攻撃を開始する。
「やらせるものか!」
「ゆくぞ! これぞ我らの!」
「乾坤一擲の一撃なり!」
ガイナーたちが今まで放ってきた連携の中で最も速い攻撃を繰り出し、センタービットの両腕を切り飛ばす。
「合わせて、ジャキ!」
「まかせろ! 姉上!」
「ルッカ! 私たちも!」
「ええ! お見舞いしてやろうじゃない!」
「『コキュートス』!」「『ダークマター』!」「『アイスガ』!」「『フレア』!」
「うおおおおおおおお!!」
「はああああああああ!!」
「オオオオオオオオオ!!」
クロノとカエルがエックス切りで切り抜け、ロボが渾身のタックルを叩き込む。
そして俺はここぞとばかりに、精神コマンドやブーストアップとは別の最後の切り札を解放させる。
「サテライトゲートエネルギー転換! 全エネルギーをブラスターへ供給!」
前に女神様に教えてもらった、サテライトゲートの起動に使うエネルギーを攻撃に転用させることで火力を上昇させるとっておきの一撃。
手にしたブラスターが莫大なエネルギーを受け、それを扱うに適した形態へと変化する。
銃身が長くなり、それを支えるための持ち手が増えトリガーが握るタイプに変わりながら横に移動し、まるで携行ランチャーのようになった。
「『勇気』! おおおおおお!!」
『勇気』に付与された『加速』を使って一気に接近し、センタービットの腹に銃口を突き刺す。その真後ろには、ラヴォスコアがへばりついている。
「これで……くたばれえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
トリガーを引き切ると小さな銃口から出るとは思えない極太の青白いエネルギーが爆発的な勢いで射出され、センタービットを蒸発させる。『直撃』が付与されている上に威力が三倍に押し上げられたこの一撃は、そのまま背後にいたコアも飲み込む。
青白い光の奔流が視界を埋め尽くしランチャーの咆哮が響く中――――世界を割るような絶叫が響いた。
どうもこんにちは、腸炎による腹痛に一週間以上悩まされている作者です。
ひとまず今回でラヴォスコア戦は終了となります。
無理矢理な上にあっさり終わらせた感が非常に否めませんが、本体がわかれば尊たちの戦力上これくらいできるだろうというのが作者の見解です。
ちなみに最後のランチャーについては型月のカレー先輩が使うセブンの銃身を長くしてビームを出すようにしたものだと考えてください。
あと、前回の終わりで魔王が尊のことを義兄と呼んだ件については次回に説明させていただきます。
さて、今回はこのあたりで。
本作もエンディングとエピローグを残すのみとなりましたが、どうか最後までお付き合いください。
それでは、また次回の更新でお会いしましょう。
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共通ステータス
名前:月崎 尊(24)
属性:天・水
魔法・精神コマンド・技
努力 MP2
サンダー ★ MP2
アイス ★ MP2
集中 MP4
加速 MP4
ケアル ★ MP4
熱血 MP6
レイズ ★ MP10
勇気 MP20
アイスガ ★ MP8
ケアルガ ★ MP5
サンダガ ★ MP8
覚醒 MP50
SFCA MP35
※勇気について
「熱血」「必中」「不屈」「加速」「直撃」「気合」が同時にかかる
「必中」……次の攻撃・技・魔法が必ず当たる
「不屈」……最終ダメージを10%に軽減
「直撃」……バリア、防御系魔法、上昇した防御力を無力化
「気合」……ダメージ1.5倍
「熱血」と「気合」の効果で最終ダメージが3倍となる
ブーストアップと併用不可
※覚醒について
ダメージ4倍攻撃を2回実行する
ただし、攻撃魔法はMPを使用しMPが足りなければ不発となる
また、ブーストアップとの併用で攻撃力をさらに倍加させることも可能
熱血、気合と併用不可
※SFCAについて
正式名称「Satellite edge Full Combination Attack」
サテライトエッジのモードをすべて使用して攻撃を行う。
ツインソードの乱舞から始まりハルバードで切り上げザンバーを突き刺し、シールドで引き寄せてからブラスターの零距離射撃をお見舞いした後ボウで射ぬく。
特殊スキル
UG細胞改
亜空間倉庫
ブーストアップ
次元跳躍
底力(Lv9)
エネルギー転換
オートリジェネ
次元跳躍について
└神の気まぐれによって付与された特典能力の一つ。
特定条件(サテライトエッジに月の光を吸収させ続けると第7の形態として無作為に別の世界へ転移する扉<サテライトゲート>に変形する)を満たすか自分のすぐ近くで転移が起こるとそれに誘発されて別の世界へ飛ばされてしまう。また、クロノ世界ではゲートをくぐる際にゲートホルダーを必要としない。
本来なら大量の魔力を消費するだけで転移の際に行きたい世界へ移動できるはずだったが、最初の転移で起こったエネルギーの暴走と謎の力の干渉で狙った世界へとうまく移動できなくなってしまった。
底力
└体力が一定数以下になると攻撃力と防御力が上昇する。スパロボのアレである。
クロノ世界でのステータス
Lv :65
HP :982
MP :99
力 :★★(99)
命中 :24
すばやさ:14
魔力 :★★(99)
回避 :22
体力 :★★(99)
魔法防御:★★(99)
装備(E/は装備中のもの)
武器
E/サテライトエッジ(180~210/形状によって変動)
防具
E/疾風の鉢巻(10/オートヘイスト)
E/プリズムベスト(81/オートバリア)
アクセサリー
E/プロテクター(体力+2)
E/スピードベルト(素早さ+2)
E/シルバーピアス(消費MP50%)
E/虹のリング(魔法攻撃1.5倍/ST異常全耐性)
フル・フロンタルのマスク(尊が装備すると名前がシドに変更される)