Jumper -IN CHRONO TRIGGER- 作:明石明
初投稿以来初めてか?
尊は混乱していた。
先ほどまで自分は間違いなくクロノトリガーの世界で野営をしていた。
しかし今いる場所はまだ帰れないはずの元の世界であり、就職と共に離れることとなった地元の小学校の屋上だった。
「ど、どういうことだ? あの女神様の話じゃ、ラヴォスの影響でまだ帰れないはずじゃ……」
もしかして今までのことが夢かと思いステータス表示や亜空間倉庫からのアイテムの取り出しを試すが、全て問題なく実行できた。
この姿になるまで身に着けていたものも倉庫に保管されており、回復魔法や精神コマンドも正常に機能した。
だがそうなるとますますわからない。あのゲートはもう閉じてしまったので調べようもないが、サテライトゲートが独りでに起動し、反応したことも不明なままだ。
幸いサテライトエッジはちゃんとあるのでたぶん戻れないことはないだろうが……いや、戻るも何もここが俺が元いた世界なんだが。
「……とにかく、ここから離れるか。小学校の屋上に一人でいるとか、通報されても文句は言えない」
あの世界でいろいろ経験したせいか、たかが4階建ての小学校の屋上から飛び降りるなんて何の恐怖も感じなかった。
誰にも見つかることなく小学校の敷地から脱出し当てもなく街をぶらつくが、何処もかしこも懐かしすぎて思わず声を上げそうになる。
半年も離れていなかったはずだが、まるで何十年ぶりかに帰ってきたかのようにすべてが懐かしい。
自販機を見つけてポケットにあった財布でキンキンに冷えたコーラを買えば、久しぶりの味に涙までこみ上げる始末だ。
思わず手持ちで購入できるだけドリンクを買いまくっては片っ端から倉庫へ放り込み、あとになって誰かに見られてないか心配になるほど我を忘れた。
「――それにしても、どうして俺にもゲートが開いたんだ?」
昔よく遊んだ公園のベンチでコーラを飲みながら考えるが、一向に答えが見当たらない。
ルッカの前にゲートが現れたのは、彼女が過去に戻って母親を助けられたらと思っていたことが関係していたはずだ。
だがそれが俺に適用されるとは考えられない。ルッカの場合はあの星で起こった出来事だからだが、俺の星とはまったくの別物だし。
第一、記憶を掘り返しても俺には過去に戻ってまで変えたいという一瞬が思い当たらない。
少し前ならくだらないことで戻れたらとは思っていただろうが、あの世界でサラと出会い、彼女に惹かれてからは戻れたらなどとは一度も思っていない。というか、思ってしまえば出会えた奇跡を否定しそうな気がするから絶対に思いたくない。
それはさておいて。何故ここにこれたのかはわからないが、ここにこれたのはきっと何らかの意味があるはずだ。まずはそれを見つけて――――。
「おっ、バカ面があるぞ」
「あっ! お兄ちゃん!」
突然届いた聞き覚えのある声に心臓が跳ね上がり、俺は早鐘のように動く鼓動を落ち着けながらゆっくりと顔を動かす。
――――血を分けた家族が、そこにいた。
「――姉さん、悠」
「どうしたの!? なんでここにいるの!?」
「さては仕事をクビになって帰ってきたな?」
「……仕事はちゃんとやってるよ。今日は休みだったから、なんとなく帰ってきただけだ」
手ぶらの一つ年上の姉、月崎
そういえば長いこと出勤してないな……。マジでクビになってるかも……。
「そうなんだ。――あっ、今からお昼作るんだけど、食べてくよね?」
「お、悠の飯は久しぶりだからな。遠慮なくいただくよ」
「飯代置いてけよ、社会人」
「仕事探せよ、フリーター」
やかましいの言葉と共にチョップが飛んできた。
◇
実家に帰ってきてまず気づいたのが、玄関に設置された日めくりカレンダーの日付だった。
「……なあ、今日って何日だっけ?」
「おいおい、その歳でもうボケたの? ていうか、それ見たらわかるっしょ」
姉さんが呆れたように言いながらリビングへと向かっていく。
俺も悠に促されて向かうが、日付のことが頭にこびりついて離れなかった。
「……悠。確認するが、今日は2014年の9月4日で間違いないな?」
「そうだけど、お兄ちゃんどうしたの?」
「……いや、気にするな。最近忙しすぎてさ、たまに今日が何日だったかわからなくなるんだ」
「社会人って大変だね」
「お前だって俺がいない分、姉さんの相手が大変だろ」
「もう慣れちゃった」
たくましく育って……兄ちゃんうれしいぜ。
リビングに足を踏み入れると既に姉さんがソファーを独占しており、リモコン片手にテレビのチャンネルを選定していた。
妹は買ってきたものを冷蔵庫に片付けているというのに、この姉ときたら……。
「そういえば今日は平日だが、学校はどうした?」
「創立記念日ってすばらしいよね?」
「OK、把握した」
悠のすばらしい回答に納得し、俺はトイレに行くフリをしながら元自分の部屋にして現物置部屋に移動すると同時に状況を整理する。
今の日時は2014年9月4日。そして俺があの世界に移動したのも2014年9月4日。これが意味するのは、間違いなく俺は初めてあの日に移動したのと同じ日にきているということだ。
この日に仕事が休みだったのは本当なので、とりあえずクビは回避できたことに一安心。
しかしやはり戻ってこれたことについては未だに謎なので、まずは女神様とコンタクトを取ることを試みる――――が、ここに来て俺は重要なことに気づいた。
「……コンタクトの取り方がわからない」
あの時はラヴォスのゲートに呑まれたことで偶然会えたし、サテライトゲートに登録された座標を使えばそのときの場所に移動することも出来るだろう。
だが今使った場合、果たしてまたあっちの世界に行くことが出来るのかという問題が発生する。
間違いなくあの壁は健在だろうし、向こうからいけなかったけどこっちからならいけるという都合のいい事態は発生しないはずだ。というか、いけるならあの女神様が何かやってるはずだし。
疑問といえば、サテライトゲージのチャージが変動していないのも気になるな。
一度ゲートを開けばチャージが空になるはずだが、一度使ったというのにゲージがまったく減っていない。
まったく。謎だらけで本当に困るぞ。
そして進展しない考察をしている間に戻らない俺を不審に思った悠から声がかかり、俺は一度リビングへと戻る。
食卓には白米に味噌汁、そしてキャベツの千切りとピーマンの肉詰めが並んでいた。
「えらく早いな」
「昨日の晩御飯の残り物だからね。お姉ちゃん、お茶出して」
「あいよー」
姉さんが三人分のグラスを並べペットボトルの麦茶を注ぐ。
「今更だけど、父さんと母さんは?」
「二人とも用事で朝からいないよ。お兄ちゃんは今日いつまでいられるの?」
「……さて、な。特に考えてない」
正確には、わからないが正しいけどな。
姉さんの「いただきます」を皮切りに俺たちも続き、食事に手をつける。
「……あー、味噌汁うめー」
「よかった――って、お兄ちゃんどうしたの!?」
「……へ?」
「あんた、なんで泣いてんの? 泣くほど美味しかったの?」
姉さんに指摘され顔に触れると、知らないうちに涙が流れていた。
……本当に久しぶりの和食とはいえ、まさか涙が出てくるとは予想外だ。
「いや、美味いのは確かだけど、ちょっと目にゴミが入っただけだ」
我ながらベタなウソだと思いながら箸を進めるが、正直言ってどれもこれもが涙腺を破壊しそうな美味さで困った。
どうにか最初の味噌汁以外涙を流すことなく食事を終え、食器を下げて少し探し物を思い出したと言ってまた物置部屋へと移動する。
「……ヤバイ、いろいろとヤバイ」
ここにきてダムが決壊するように一気に涙が溢れてきた。
これは紛れもない現実であり、自分が望んでいた元の世界そのものだ。
ここに残れば危険な目に遭うこともなく、元の日常に戻ることが出来る。
原作通りならクロノたちはちゃんとラヴォスを倒せるし、俺がでしゃばる必要もなくなる。
――――もう、このまま残ろうかな……。
――私は、ミコトさんのことが好きです。自分の一生を捧げてもいいと思うほどに。
「っ!!」
脳裏に
「……そうだ、残ってなんていられない。俺は、行かなきゃいけないんだ」
俺はあの時なんと答えた?
彼女をどうすると答えた?
一生をかけてでも守ると誓った。
それは断じて偽りなどではない。
それをこんなところで反故にするのか?
「散々引っ掻き回しといてふざけんじゃねえぞ、月崎尊……。帰ってくるなら全部やり遂げてからのほうが最高にカッコいいに決まってるだろ。中途半端に妥協した挙句、愛する女を置いていくなんて最低にして最高にカッコ悪いだろ!」
どうしてここにこれたかなんて、もはやどうでもいい。俺がやることは一つだ。
自分には偶然得られたとはいえ力があり、旅の中で出会った愛しい女性や心強い仲間がいる。
みんながいれば負けるなどあり得なく、出来ないことだってない。
そう決心するとあのときのように突然ゲートが出現し、サテライトゲートが起動してゲートに重なる。
ふと、視界の端にメモ用紙とボールペンが転がっているのを発見し、俺はわずかに逡巡して一言だけ書置きを用意する。
「……姉さん、悠――行ってくる」
最後にその言葉だけを残し、俺はゲートをくぐった。
◇
「お兄ちゃーん。どこー? お父さんたち帰ってくるよー」
「おーい、尊ー。どこいったー?」
悠が両親からの連絡を受けた直後、彼女はそのことを知らせるため姉と共に兄の姿を探していた。
しかしどこを探しても一向に姿は見えず、とうとう物置部屋だけが残る。
二人して中に入るがやはりここにも誰もおらず、姉妹は同時にある可能性に至る。
「もしかして黙って帰ったか?」
「えぇー!? お兄ちゃんはそんなことしないよ!」
「あたしには平気でするよ、あいつは。ふーむ……じゃあ一体どこに――――ん?」
物置に足を踏み入れ部屋を見渡すと、晶はメモ帳に何かが書かれているのを発見する。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「悠。あいつはもう家を出たみたいだぞ」
どこか呆れた風に――しかし楽しそうに口元を緩ませながら――メモを見せると、悠は内容を見て一瞬驚いたように目を剥いたがすぐに首をかしげる。
「何これ? ゲームの話?」
「さあな。とりあえず、父さんたちに連絡入れるよ。ちょっと晩飯を豪華にしようってな」
妹の頭をなでながら晶はそんなこと言いつつメモを元の場所に戻す。
――ちょっと彼女や仲間と一緒に世界救ってくる。
残されたメモには、尊の字でそう書かれていた。
◇
ゲートを抜けた先は真夜中の森の中で、そこがすぐに少し前まで自分がいた場所であると理解する。
服装は現代服からまたこの世界の服に戻っており、倉庫を確認すれば自販機で買ったドリンクがそのまま残っていた。
「ミコトさん」
名前を呼ばれ顔を向けると、どこか安心した顔のサラがいた。
「急にいなくなったので、びっくりしましたよ」
「……すまない。目が覚めたから、ちょっと散歩に行ってた」
彼女に歩み寄り、自分がやるべきことを再認識する。
「――サラ」
「はい」
「全部が終わった後、君に俺の世界を見せたい。来てくれるか?」
「――是非」
笑顔で答えてくれた彼女をそのまま抱きしめ、俺たちはゆったりとした足取りでみんながいる焚き火の元へ戻る。
俺がやるべきこと――――
それが叶うまで再びあの世界の土を踏まないと、俺はこの星に強く誓った。
第24話から続いたオリジナル展開、いかがでしたでしょうか。
今回は「星が元の世界に戻りたいという尊の願いを叶えたら」という展開で話を進めてみました。
元の世界に戻れたのは星の力とエネルギー前回のサテライトエッジが反応して偶然にというご都合主義的展開となっています。
適当すぎると思われるかもしれませんが、どうかご容赦を。
さて、次回は今度こそサラの杖について触れます。
もしかしたらそのまま黒の夢に突入して最終章までいくかもしれません。
終わりが近づいてきましたが、どうか最後までお付き合いください。
それでは今回はこの辺りで。また次回にお会いしましょう。
------------------------
共通ステータス
名前:月崎 尊(24)
属性:天・水
魔法・精神コマンド
努力 MP2
サンダー ★ MP2
アイス ★ MP2
集中 MP4
加速 MP4
ケアル ★ MP4
熱血 MP6
レイズ ★ MP10
勇気 MP20
アイスガ ★ MP8
ケアルガ ★ MP5
サンダガ ★ MP8
???
???
※勇気について
「熱血」「必中」「不屈」「加速」「直撃」「気合」が同時にかかる
「必中」……次の攻撃・技・魔法が必ず当たる
「不屈」……最終ダメージを10%に軽減
「直撃」……バリア、防御系魔法、上昇した防御力を無力化
「気合」……ダメージ1.5倍
「熱血」と「気合」の効果で最終ダメージが3倍となる
ブーストアップと併用不可
特殊スキル
UG細胞改
亜空間倉庫
ブーストアップ
次元跳躍
底力(Lv8)
???
???
次元跳躍について
└神の気まぐれによって付与された特典能力の一つ。
特定条件(サテライトエッジに月の光を吸収させ続けると第7の形態として無作為に別の世界へ転移する扉<サテライトゲート>に変形する)を満たすか自分のすぐ近くで転移が起こるとそれに誘発されて別の世界へ飛ばされてしまう。また、クロノ世界ではゲートをくぐる際にゲートホルダーを必要としない。
本来なら大量の魔力を消費するだけで転移の際に行きたい世界へ移動できるはずだったが、最初の転移で起こったエネルギーの暴走と謎の力の干渉で狙った世界へとうまく移動できなくなってしまった。
底力
└体力が一定数以下になると攻撃力と防御力が上昇する。スパロボのアレである。
クロノ世界でのステータス
Lv :59
HP :874
MP :99
力 :92
命中 :24
すばやさ:14
魔力 :87
回避 :22
体力 :★★(99)
魔法防御:93
装備(E/は装備中のもの)
武器
E/サテライトエッジ(180~210/形状によって変動)
防具
E/疾風の鉢巻(10/オートヘイスト)
E/プリズムベスト(81/オートバリア)
アクセサリー
E/プロテクター(体力+2)
E/スピードベルト(素早さ+2)
E/シルバーピアス(消費MP50%)
E/虹のリング(魔法攻撃1.5倍/ST異常全耐性)
フル・フロンタルのマスク(尊が装備すると名前がシドに変更される)