ぼくのかんがえた(ry でアイラたんに恨みをぶつける物語   作:ユルサナイネン

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 二枚作れたので満足です。月光蝶に備えてクエストキーを集めます。






0-4

 

 

 

 

 

 イオリ・セイにとってヒナタ・ミズキは見知らぬ学園の先輩であった。

 学園に流れる噂によって知ったセイは何となくヒナタ・ミズキという先輩に憧れに似た感情を抱いていた。学園のトップに立ついじめっ子、高校生の先輩の恐ろしさは彼のいる中等部まで届いている。その先輩の腰巾着は中等部にもおり、その影響をセイの友人が受けてセイ自身も少なからずそれを受けていた。

 そんないじめられっ子の希望の星となったのが復学したヒナタ・ミズキ。復学初日で学園でも上位に入るガンダムファイターを無傷で圧倒した事により、一時期中等部は彼を恐れてイジメをする事はなくなっていた。

 負けた事を信じずに挑んだ者は軒並みにガンプラを再起不能になるまで破壊してヒナタ・ミズキの恐怖を刻んでいる。私立聖鳳学園は彼によって束の間の平和を齎されたと言ってもしっくりくる。

 そして、ある偶然からセイはミズキとコンタクトを取れる機会を得る事ができるところから場面は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 

 自分の家、自宅の模型店「イオリ模型」の店のスペースにいるであろう母に帰宅の挨拶をするセイ。いつもなら人はいないのですぐに母のおかえりという声が返ってくるだろうと思っていたが、待っても母の声は聞こえない。

 あれ? と思う前にすぐに母からの返事がセイに届いた。しかし、返事の内容はセイが思っているものではない。

 

 

「おかえり。ちょうど良かったわセイ。ハイグレードのEW仕様のウィングガンダムってあったかしら?」

 

「もう少しで入荷する予定だよ」

 

「そう。えっと、聞いてる通りです。もう少しで来るみたいなんですがどうなさいますか?」

 

 

 迷惑でなければ待っても構いませんかとセイは店の中に客がいる事に気付いた。何時も通りに帰宅の挨拶をした事を恥ずかしく思えてくる。

 学校、学園の授業が終わってからの帰宅なので彼は制服のままだ。誰がこんな寂れた模型店にまで来るのだろうかと客の若い声を思い出しながら考える。自分の母を目当てに来るのは多いが若い声は何気に聞いた事はないな、と思う。

 

 

「よかったら奥の方で待つ? ウチの息子がいるので何か欲しい物でもあれば息子に言ってくれればスムーズに買物もできると思うわ」

 

 

 お構いなく、と続く若い声にセイは驚く。若い声、自分よりも年上の声の主は自分の母の魔性の魅力の犠牲にはならないのかと思う。自慢するわけではないが、このイオリ模型の客の殆どはガンプラ模型ではなく母のリン子を目当てにするのが多いほど美人である。特にあの爆乳が、と。

 ちょいちょいと手招きするリン子は妙に機嫌が良い。お客さんが上物とかか? と失礼な事を思うセイは母に招かれるまま近くに寄る。

 レジのあるカウンターに近付くにつれて客の容貌が見え始める。ガンプラにしか興味のないセイでもわかるお洒落な着こなし。顔も段々と見え……と考えた頃にセイの思考はストップする。

 

 

「セイ。この人は聖鳳の高等部の人なんですって。先輩なんだから挨拶くらいはしなさい」

 

 

 いえいえ、と謙遜する声の主。だが、セイはその人物が誰なのかを知っている。今、学園で話題を掻っ攫う超有名人の顔を学園の友人から見せられたものと同じだった。

 厭らしくない程度に髪を伸ばしている黒髪。新たな学園のアイドルの仲間入りも遠くない整っている顔立ち。その人物はヒナタ・ミズキであった。

 はじめまして、と挨拶をするミズキに対してセイは固まったまま。母のリン子が諌めるが聞こえていない様子である。

 

 

「あ、あの、もしかしてヒナタ先輩、ですか?」

 

「あらセイの知り合い? それなら遠慮なく奥の方に上がってもらいなさい。セイが先輩を連れて来るのも初めてだわー」

 

 

 違う、と言おうとする。自分と違って雲の上の存在に近いミズキも自分なんかと知り合いと言われても気分を悪くするだけだと言おうとした。それに、ミズキ自身もはじめましてと言ってるのに! と反論を心の中でする。

 ビクビクしながらミズキを見る。気分を悪くしていると思っていたが、気にしていないような顔をしているのでホッとする。

 

 

「ひ、ヒナタ先輩。何でここに?」

 

 

 学園の噂では申請なしのガンプラバトルを行ったせいで復学間もなく停学になっているはずなのに。

 休みだと余計に暇でね、と律儀に答える。その言葉から退屈を紛らわせる為にここに来たのだという事はセイも理解できた。けれど、暇を潰すのなら別の場所があるのではないだろうかとも考える。

 その思考を読んだのか、ミズキは自らの胸の内を明かす。ガンプラバトルをやるからには今までの受賞者を見ておきたいと。その過程で、イオリ・タケシの事を姉から聞いて訪れたのが経緯だ。

 

 

「で、でも父さん、父はここにはいませんよ」

 

 

 すると、やっぱりかーと残念そうに話す。ある程度、イオリ・タケシの事は聞いていたのであまり落胆はしなかった。もし会えるのなら相手を願おうと思ったのだが、とも付け加える。

 プロのガンプラファイターを目指そうとするミズキとしては世界選手権の受賞者の強さを経験する事で世界選手権の空気を味わおうと考えていた。

 確かにミズキはアゲハに勝てる実力はある。それで慢心しては上は目指せない。彼が目指す一攫千金のチャンスは受賞者の中でもトップのみ。つまり、優勝する以外の手段は存在しない。

 ついでに言えば影響ありそうなタケシの推薦をいただこうとの魂胆もあったりする。

 

 

「あ、よかったら話しませんか?」

 

 

 いいよ、と快くセイの誘いを受ける。欲しいガンプラが届くまでの間なら少しくらいは構わないかと緊張した様子で案内するセイの後を追う。

 途中、店のショーケースにあるガンプラが並ぶのを見てついつい褒めてしまったがセイは嬉しそうにウンチクを並べ始める。ガンダム好きなのがよくわかる知識の見せっぷりに姉のアゲハを思い出すミズキであった。

 

 語り尽くす直前、自分の悪い癖が出て自分の憧れの先輩に引かれてしまうのではないかとウンチク披露が止まる。

 すいません、と謝るセイにミズキは構わないよと返す。自分の姉も似たようなものなので慣れている。寧ろ自分が夢中になれる事をここまで極められている事を素直に感心している。

 

 

「ヒナタ先輩はどのガンダムが好きとかありますか?」

 

 

 好みは特にない。ガンプラバトルに使うガンプラは色々あるよ、と答える。実際にミズキはアゲハとガンプラバトルをする際は使うガンプラは固定せず、雑食な一面がある。

 ガンプラバトルはファイターの腕で原作の量産機が専用機を負かす事は珍しくない。故に好みよりも使いやすさから選ぶ傾向がある。ジムやザクもガンプラバトルを始めてから何度か使った経験がある。機体は改造しなくとも、別機体の武装を運用して戦う事もしばしばある。

 初めて作ったのはマスターグレードのウィングゼロEWだね、とセイに語る。

 

 

「ウィングゼロですか。結構目立ちますからね」

 

 

 中二病の塊とも言えるエンドレス・ワルツ仕様のウィングゼロ。白い翼のガンダムはガンダムの中でも目立つ外見でミズキも小学生の頃に父とモデル店でそれを見つけ、買ってもらった経緯がある。そこからが彼のガンプラ歴の始まりでもあった。

 父の持つ趣味はプラモデルの作成。戦艦や城といった模型を作る事があり、父の影響で瑞樹もプラモデルを作る事に興味を持ち始めた。

 ガンプラから興味の対象はガンダムの作品へ。父を楽にしようと少しでも良い学校を目指そうとした時からその趣味は無くなったが、ガンプラで戦う事で稼げる仕事を見つけてしまったので趣味が再燃した。

 何故だか私立聖鳳学園にはガンダム歴なる科目があったので呆れると同時に勉強へ向いた情熱をガンダムとガンプラに向けた。

 

 

「……え。いいんですか?」

 

 

 本当は君のお父さんに見てもらおうと思ったのだがと心の中で思う。ミズキが持ってきたであろう鞄の中に入れてあったガンプラをイオリ模型のガンプラバトルルームのテーブルに置いた。

 目を輝かせるセイ。噂の新星、ヒナタ・ミズキの作ったガンプラだ。細かい部分にどのような細工、技術が詰まっているのだろうかと期待が膨らむ。

 

 

「こ、これはエクシア!? こっちはキュリオス!? でも違和感のない改造で余計に美しく見える! 凄い! え、アヴァランチエクシアとキュリオスガストですか!? ネーミングセンスも抜群ですね!」

 

 

 あー、うんと言葉を濁すミズキ。目がキラキラしているセイに若干引きながら保護ケースの中にあるガンプラを他にも取り出して見せる。

 これは指紋だらけになりそうだなーとベタベタと小さなショーケースを持って様々な角度から眺めるセイは暴走していた。見るだけでわかる匠の技。凄いと連呼しながらひたすらミズキを褒めちぎっていた。

 段々と暴走するセイに顔の引き攣り具合が増すミズキ。まだ二つガンプラがあるのだが出さない方が良さそうだとそっと鞄から取り出そうとした二つの傑作を戻した。

 

 

『それ、タケシさんに見せたらどうだ? ガンプラに詳しいからもしかしたらビルダーの知恵があの問題を解決できるかもしれんぞ。会えたら私の名前を出せば会話はできるはずだ』

 

 

 と言われた姉のありがたき言葉。解決策はあるのだが、それを手に入れる手段がかなり困難なのが現状。

 色々画策しているものの、良い方に向かない。何せ、それはあまり知られていないとある企業の最高機密なのだ。アニメでの知識はあれど、それを実行すると異世界の存在を知られてしまう。しかもこの世界よりもガンプラの数が進んで公開数も進んでいる。特に問題はなさそうに思えるが、嫌な予感がする上に移動手段が自分のみなので人質にされるのはごめんである、という事だ。

 ガンプラバトルのフィールドの展開されていない台をコツコツと指で叩く。プラフスキー粒子の発生源、生み出す技術はマシタ会長のPPSE社のみが独占している。故にその正体を知るのもPPSE社以下、マシタ会長のみになる。

 もしそうなると、どこでその知識を得たのかと聞かれる。臆病なマシタ会長を脅せばゴリ押しもできそうだが、最終回のアリスタ結晶に反応して暴走した事を考えると迂闊な行動はできない。

 プラフスキー粒子の発生源であるアリスタ。ガンプラバトルの機材のどこかにあるのかと調べてもみたがアリスタらしき結晶体は見当たらなかった。調べ尽くしてはいないが、アリスタは見つけられなかった。

 家にあるのは小さな方なのでアリスタのクズカスでも大丈夫なのだろうかとあれこれ考えてみるが考える時間が長引くだけで思考がループしてしまう。

 

 

「セイー? ヒナタ君の注文来たわよー?」

 

「ッハ!? す、すいませんヒナタ先輩! つい夢中になって……と、取ってきます!」

 

 

 母、リン子の声に我に返るセイ。逃げるようにミズキの欲するガンプラを取りに行く事で誤魔化す。

 苦笑するしかない。だがセイが姿を消したこの瞬間はある意味チャンスであるとミズキは悪巧みをする。監視の目がない事を確認するとイオリ模型のガンプラバトルのテーブルの下を慣れた手付きで開いた。

 様々なコードを引っ張り出しては弄る彼に犯罪という概念はないのだろう。寧ろ他人の物だからグイグイとできる事が彼を更に加速させる。

 

 時間が迫る中、ミズキはニヤリと笑う。この場所か、と目的の物を見つける事ができて満足そうな笑みを浮かべる。姉に契約を付き添ってもらった瑞樹の世界よりも技術が進んだ携帯を取り出してその場所を撮影する。

 保存し、自分のパソコンに別途送信して保存する徹底ぶり。携帯を仕舞ってから元通りになるように記憶を掘り返しながら弄る。

 

 

「お待たせしまし……あの、何をしてるんですか?」

 

 

 サラッと携帯を落としてね、と嘘を吐く。元通りにしたタイミングで帰ってきたセイを出迎えるとその手には目的のガンプラの箱が抱えられていた。

 ありがとうと白々しく言いながらセイからガンプラを受け取る。パッケージにある完成品を見て望み通りのパーツがある事に姉も満足するだろうと尻のポケットに入れている財布を取り出す。値段は? とセイに聞いた。

 

 

「えっと……これ位になりますけど。あの、何か作るんですか?」

 

 

 ネタばらしをしても大丈夫か、とミズキは考え、興味津々のセイにウィングガンダムの使い道を教える。

 

 

「バスターライフルを改造? 翼を改造?」

 

 

 まあね、と組み立てプランを話す。別の機体の胸パーツをベースに購入するウィングガンダムVer.Kaの幾つかのパーツを流用してオリジナルを姉の大会出場用に作るのだと明かす。

 プランを聞いているとどんな完成形のガンプラが生まれるのだろうかとセイは再び悪い癖が出てワクワクし始める。

 今度のスペシャルマッチで姉さんがそのガンプラを使うから、と釘を差す。これ以上詳しく話してしまうとセイが暴走して面倒くさい事になるになるのは火を見るよりも明らかなので強制的に話を終わらせる事にした。

 

 

「……え? モデルガン、ですか。在庫はあんまりないですけど何か欲しいのがあるんですか?」

 

 

 リボルバーがいいかな、と呟く。聞いたセイといえば戸惑う反応しかできない。モデルガンなんてものを何に使うのだろうかと疑問を感じた。

 対して注文したミズキはリボルバーのモデルガン自体が欲しいわけではない。そのリボルバーの“シリンダー”の部分の細部がどうなっているかを知りたいだけだ。

 少しでも姉の勝率を上げようと努力をする弟の鑑と聞けば聞こえはいいが姉も承知の上のガンプラのカスタマイズと改造はどこまで有効で、公式戦で戦えるのかを調査する悪い言い方をすれば姉は当て馬に近い。

 

 

「すいません。ここにはガンプラくらいしかないのでモデルガンは流石にありません」

 

 

 ならいいよ、と気を悪くしていないように見えるミズキ。心の中では若干ガッカリしている節があるので根に持ちそうではある。

 ウィングガンダム以外にも何かないのかと考えたところでリン子が二人の会話に割り込んできた。金を払おうとする矢先に出鼻をくじかれたのだから何だかな、とペースをとことん崩しに来るイオリ家のマイペースぶりというか空気に圧倒される。

 必要なガンプラのパーツは粗方集まっている。とはいうものの、瑞樹の世界で先取りしたガンプラを必要な分だけ購入しているのでイオリ模型で無理に買う必要はない。売っていなかったガンプラがあるなら買うといった気分である。

 

 このまま帰ってガンプラの組み立てをするべきかと腕時計を確認する。姉のプロの公式戦まで期日は短い。できる事なら姉の操縦に合わせて微調整も兼ねる事で万全を期したいのだが、と考える。

 見ればまだ会話したそうなセイ。リン子ももう少しいたら? というありがた迷惑な提案もあるので無碍に断れない。

 そういえば、このイオリ・セイは学園で結構なビルダーとしての腕前がある事を思い出す。他のビルダーからの技術を盗むのもいいかもしれない、とよかったらガンプラを一緒に作らないかと提案した。

 

 ――その日、帰りが遅くなって姉に叱られる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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