ぼくのかんがえた(ry でアイラたんに恨みをぶつける物語   作:ユルサナイネン

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 ハサウェイイベント、ΞガンダムのURできました。二枚目を作りながら投稿。





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 ヒナタ家の頼りない大黒柱、瑞樹にとっては亡き母であるヒナタ・アイは今日もミズキの面影がある瑞樹に脅える。

 娘であるアゲハはもう瑞樹を弟として可愛がっていた。以前は母以上にミズキを嫌い、母を守っていたのに、と裏切られた気分になる。

 

 

「母さん、ほら。ミズキがこれを作ったんだぞ」

 

 

 美味しそうな匂いを漂わせるカレーをアゲハは母に差し出す。確かに美味しそうだがアイの脳裏でフラッシュバックが起こり、思わず瑞樹が作ったカレーを払い除けるように弾き飛ばしてしまう。

 皿の割れる音。乗せられたカレーとライスがフローリングの床に溢れると、ヒナタ家のリビングは痛いほどの沈黙に包まれる。

 アゲハは唖然とし、作った瑞樹は驚いた顔をしている。アイがそんな行動をして後悔する間もなく、動き出したのは瑞樹。アゲハに怪我はないかと聞く。続いて母にも。

 怪我がない事を知ると、率先して瑞樹は床に広がるカレーの後始末を始める。皿の破片を集め、溢れたカレーはビニールにまとめる。手馴れた様子で片付ける彼にアイは自分のしてしまった事に心が痛んだ。

 

 

「み、ミズキ? 大丈夫か?」

 

 

 返事は大丈夫。慣れている。であった。

 手早く片付けると俺はいない方がいいね、とアゲハが止めようとする前に彼はリビングを出る。バタンと閉まる音が嫌に空間に響き、重い沈黙が辺りを包んだ。

 

 

「……母さん、何であんな事をしたんだ。ミズキが折角母さんの為に作ったのに」

 

「ごめんなさい。でも怖いの。あの子があのミズキじゃない事はわかってる。だけどどうしてもあのミズキが頭から離れないの」

 

 

 以前に、ミズキは母の為に母の日に食事を作ると言い出した。その時は稀に見る息子の親孝行かと思い、全ての料理を任せて息子のその行動に感動した。

 だが、全ての過ちはそこから。事もあろうか、ミズキはその料理に睡眠薬を混ぜて母に食べさせたのだ。次に見た彼女の景色は醜悪に顔を歪め、自分に乗っかる見た事もない息子の正体だった。

 実の息子に襲われた。その時から母は息子を恐れるようになった。自分の息子が息子ではない感覚に陥った。

 故にそのトラウマが消えぬ母はミズキが瑞樹であろうと、恐怖心は消えない。

 

 

「母さんの言うようにあのミズキは許されぬ事をした。だけど今いるミズキはあのミズキじゃないんだ。それはわかってくれ」

 

「ど、努力はしてるの。お弁当を作って、朝は見送って。だけど見ると体が勝手に震えてしまう。どうしようもなく怖く思えるの」

 

「……母さん。話は変わるがミズキをさっき気遣った時に何て言ったか覚えてるか? 大丈夫ならまだしも、“慣れている”と言ったんだぞ。私はどうしても今のような事が日常的に起きていてそれを後始末しているのがミズキであるように思えてならないんだ――ミズキはミズキと何もかもが正反対だと言った。つまり、今の恵まれた環境の正反対の事があったんじゃないかとも考えられないか?」

 

 

 ハッと気付いた母、アイ。今思えば息子のミズキのあの表情は諦めにも似た感情が込められていた。

 ヒナタ・アイ、母を亡くして母の愛を知らない日向瑞樹との真の親子を感じられるようになったきっかけの始まりはこの違いに気付いた時からだった。瑞樹をミズキとして受け入れた。母の愛を知らない子供に愛を与える事を知る始まりでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 関係を改めようとした時から息子と交わした会話の返事は無理しなくてもいいよ、だった。器用にフライパンを動かし、ホットケーキを空中で引っ繰り返しながら瑞樹こと受け入れられたミズキは会話をする。

 違う世界の息子は料理が得意なのはアゲハから聞いている。ガンプラバトルの休憩の合間につまめる物を作ってくれると自慢気に話しているのは何度も聞いていた。簡単にさっと作ってその上味は美味い。

 

 

「え、えっとあ、あのね」

 

 

 努力はしているが、やはりまだ慣れない。話し掛ける声が吃り、不審感を抱かせるような対応をしてしまった、とアイは思う。

 料理の手を止めないミズキは母の声を聞きながらホットケーキを心待ちにしている現金な姉に質問をする。ホットケーキにはちみつかマーガリン、どちらがいいかと。

 

 

「それならマーガリンで頼むぞ。お姉ちゃんをあんまり待たせるんじゃない」

 

 

 ウキウキと心待ちしている子供のような姉に楽しそうに返事をする。置いていかれる戸惑う母を巻き込むように視線を寄越し、アイコンタクトをする。

 マーガリンはある? と言いたげな視線を。その視線に応えるようにアイは冷蔵庫の中にあるマーガリンを取り出す。すぐに用意ができるようにミズキはホットケーキを皿に盛って待ち望んでいる姉の前に置いた。

 おー、と目を輝かせるアゲハにアイがマーガリンを置く。新しいホットケーキを焼き始めるミズキ。

 

 

「うむ! 美味しいぞ!」

 

 

 満足そうに感想を述べるアゲハ。上品にナイフとフォークで食べる様は見事であり、惚れ惚れするものだったが、いかんせん、口をマーガリンで汚すのだけはいただけない。

 

 

「りょ、お料理は得意なの?」

 

 

 それなりに、とミズキは返事をする。

 

 

「お掃除も?」

 

 

 人並みには、と。

 

 

「母さんさ。曲がりなりにも息子なんだからもう少し砕けた喋り方でもいいと思うぞ。ミズキも母親に敬語を使われると妙な気分だろ?」

 

 

 寧ろ新鮮かな、と答える。フライパンから回転するホットケーキが放たれ、綺麗に新しく用意された皿に美味しそうなホットケーキが乗る。どうぞ、と母のアイに渡すがトラウマが彼女を躊躇わせる。

 そんな様子に気付いたミズキは小さく切り取ったホットケーキの一欠片を今から母が食べるであろうはちみつソースを振り掛け、母の目の前で食べてみせる。安全だと証明しようとするがまだ怖い様子は崩れない。

 そこに空気を読まないアゲハがくれ、と困った顔をするミズキに声を掛ける。空気の読めなさに引き攣りそうになる表情を何とか押さえ付けながらも、彼女に感謝をした。良い意味でも悪い意味でも空気を変える事は今は救いになった。

 食べたくないなら姉さんに、とホットケーキをテーブルに置くとリビングから出ようとするが読んでいたアゲハが無理矢理彼を捕まえてテーブルの椅子に座らせる。

 

 

「逃がさんぞ。母さんもいい加減にミズキがミズキじゃないと理解しろよ」

 

「で、でも」

 

 

 無理強いするのはよくないよとミズキは言う。だがアゲハはその言葉に耳を傾けない。寧ろその無理強いをさせようとしている魂胆が見え見えであった。

 

 

「というわけでこれから鑑賞会をするぞ。ミズキが買ってきてくれたDVDが山程あるから見ながらアホみたいなわだかまりを消すんだ」

 

 

 わだかまり……? と首を傾げて疑問を感じる。どこにわだかまりなどあったのだろうかと感じずにはいられない。

 ミズキも気付いているが敢えて言わない。何もかもの原因はミズキでもなく、アゲハでもない。そしてアイでもない。アゲハとアイの心に染み付いているヒナタ・ミズキの影、日向瑞樹ではないヒナタ家の長男だ。

 アゲハだけは彼女の記憶の中にいるミズキを殺し、なかった事にして今のミズキを自分の弟として受け入れる事で彼を受け入れた。

 

 

「無駄な世間話をすれば気が紛れる。何でもいいから会話をしろ母さん。そうすればこのミズキが優しい性格をしているのがすぐにわかるぞ」

 

「優しいのはわかってるのよ。でも目を閉じればあの子の見た事もない顔が見えるの。どうしても忘れられない」

 

「ぐ、グヌ。我が母ながら何とも女々しい事か。ならいっそミズキを母さんから襲ってみればどうだ。襲われたなら襲い返して自分が優位に立っているのだと自己暗示を掛けたら万事解決になる気もするが」

 

 

 え゛と今までのミズキなら出さないような声を出す。あまりのインパクトに言葉が詰まっているようだ。

 子が子なら親も親。アイも絶句した様子で自分の娘の発言に信じられない様子だ。

 姉さんって肉食系なの、と聞きたい。思っていても思わず口に出してしまった。にんまりと笑う姉の顔に嫌な予感を感じる。

 

 

「ふむ? まあ、どちらかと言えばお前が草食過ぎる気もするぞ。女ってのはイイ男を見れば我慢できなくなるもんなのさ」

 

 

 貞操概念を持とう、とツッコミが入る。新たな姉の一面に戦慄するしかない弟であった。

 対して彼よりも戦慄しているのは母である。アイ、日向の姓では日向あい。彼女は自分の娘の過激発言にミズキよりもショックを受けていた。

 

 

「お母さんの教育が間違ってたの? ミズキにも襲われて……私はやっぱり母親の才能はないのよ。もう死ぬしかないじゃない」

 

 

 やめるんだ――と魂の叫びを放つミズキから混沌とした場の雰囲気が始まる。果物ナイフを取り出し、自分の手首に当てようとする母の姿に必死になる子供二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分よりも年下、微妙な年の差がある弟に本気の説教をされる駄目お姉ちゃん。

 自殺騒ぎを食い止めた後はミズキによる説教がアゲハだけでなくアイにもする事になり、特にアゲハは静かに怒るミズキに言葉の刃を心に突き立てられまくっていた。的確に深く抉るように。姉さん嫌いと言えばたちまち俯く角度が深くなる。泣きそうになるのはご愛嬌。

 自分の息子から割と本気で怒られた母といえば、説教の締めに受けたデコピンで赤くなった額を摩りながら正座するアゲハを叱るミズキを見る。

 

 ――そういえば、誰かに怒られたのに心地良いと感じたのは何時以来だろう。

 

 アイはそう思う。誰かに怒鳴られる、怒られる、叱られる。それは数え切れない回数がある。だけどミズキに叱られると嫌な気持ちよりも反対の気持ちが湧き上がっていたのだ。

 舌が回り、言葉が次々と飛び出す我が子。違う世界の我が子といえど、自分の育てた子よりも真っ直ぐに育ってくれた事が何よりも嬉しいと感じていた。

 過失事故による夫の死。それからは失意のどん底にいたが、生きている夫が育てた子は命の尊さを説ける優しい人間に育ってくれた。そう思うと感極まって泣きそうになるが、泣けばまた息子に迷惑が掛かると堪える。

 

 ――ここで、彼女の思考にノイズが走る。

 同じミズキに怒られる事を考えてみる。早く飯を作れクソババア、股を開くんだよあくするんだよ。思い出せば暴言だらけ。

 何か手伝おうか、夕飯を作るから希望があるなら言って。優しい言葉で綴られる。

 ……鞭と飴? そんな言葉が彼女の頭を支配する。それを踏まえて先程の息子の説教を思い出してみる。罵られた感があり、だけど罵られても不思議と嫌な気分にはならない。

 

 

「……もしかして私ってマゾ?」

 

「え?」

 

 

 え? と姉と反応が重なる。思っていた事が口から出てきてしまい、自分の母のありえない発言に固まる娘と息子。

 そんな二人に気付かないのか、悩んだ様子で唸るアイ。マゾなのか否なのかは知らないが確かめるにはこれが一番だろうと短絡的な思考で新たな言葉を発する。

 

 

「ミズキ。ちょっとお母さんをもう一度怒ってくれないかな?」

 

 

 返答は意味わからん。的確な返事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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