ぼくのかんがえた(ry でアイラたんに恨みをぶつける物語   作:ユルサナイネン

2 / 8

 一話目から評価があって草。







0-2

 

 

 

 

 

 

 ユウキ・タツヤにとってヒナタ・ミズキは同じ学年の他クラスの生徒としか印象がなかった。

 私立聖鳳学園の生徒会長でもあるユウキはミズキの噂は生徒会長の立場から境遇を知っていた。イジメられていること、不登校になって休学届けを出していること。そして、休学期間が明けて再び聖鳳学園に来る事も。

 人知れず、ユウキは学園に来れるようになったミズキを思い、安心する。生徒会長としての責務にはないが、正義感が強い一面もある彼はイジメは許さない性格だ。

 聞くところによればあのヒナタ・アゲハの弟というらしいではないか。以前にミズキの担任と副担任をした教師は理事長によって懲戒免職にされている。どこからかの圧力があったとの噂もあるが、世界大会出場経験のあるガンプラファイターの肉親がイジメに遭って対処もなしではガンプラバトルに力を入れている聖鳳学園としては黙っていられなかったようである。

 その部分はユウキとしては受け入れられない事だ。名声のある者を後ろ盾にする事は。無意識にヒナタ・ミズキをそう評価してしまったユウキは一言だけでも物申そうとした。

 

 だが、後にユウキはこう語る。もし自分にライバルがいるとすれば、イオリ君にレイジ君、そしてミズキである――と。

 

 彼のクラスに行けば既に彼はいなかった。そのクラスの生徒に聞けば、体育館にかつて彼をイジメていたグループが無理矢理連れて行ったと聞いた。

 物申す前にまだ懲りていないのかと憤怒をするユウキ。足早に体育館にあるバトルフィールドに向かえば想像と違う光景がそこにあった。

 ――それは芸術。かつてのイオリ・タケシのバトルを見た時以来の衝撃がユウキの体を駆け巡る。

 

 

「何だよこれ。何なんだよお前はァ!!」

 

 

 信じられないといった様子で叫ぶ一人の男子生徒。叫んではいないものの、それ以外に五人の生徒がそのバトルに参戦しており、皆が同じ焦った表情を浮かべている。

 静かに冷静に。微笑んでいる生徒が一人。六人を相手にして余裕を見せる者がいた。彼が操るガンプラはプロ顔負けとも言える卓越した技術で操られ、エースと呼べる働きをしているのがユウキにはわかる。

 生徒、ミズキが操るはユウキも知るガンダムエクシアに追加装備を加えたガンプラ。GN粒子を忠実に再現した粒子を撒き散らしながら敵のガンプラを翻弄し、装備を次々に破壊していく。

 エクシアでありながらも正当なエクシアの装備と見間違うカスタマイズ。ユウキを含めて学園生徒は知らないが、それはアヴァランチエクシアと呼ばれる外伝00Vに登場したガンダムの一種。アニメで見たエクシアよりも遥かに速い高速移動で戦闘する様はまさに『雪崩(アヴァランチ)』であった。

 

 更にミズキの戦闘はガンダムSEEDのキャラクター、キラ・ヤマトを思わせる戦い方をしていた。

 正確に武装だけを破壊し、戦闘能力だけを奪う戦い方。賛否両論、アンチが口論する議題の一つに数えられる戦闘をしているようにユウキは感じる。だが、その戦い方には凄まじいファイターとしての技術が垣間見える事も彼は見抜いた。

 

 ――間違いない。(ミズキ)は手を抜いている。

 

 エクシアであるなら切り札であるトランザムシステムがある。射撃武器にも格闘武器にもなる武器はソードしか使っていない。射撃の腕はまだわからないまま。

 敵の弾幕を縫い、懐に入ると心を折るようにビームライフルやシールドに武装だけを破壊してすぐに後退して高速でステージを駆け回る。粒子の残滓がエクシアの通り道であるのは見ればわかった。

 

 

「テメェ……! パシリのクセに生意気だぞ! 俺等に逆らってどうなるかわかってんのか!?」

 

 

 少なくない学園生徒が集まる中、リーダー格の生徒は叫ぶ。その言葉は何よりも彼がミズキ・ヒナタを妨げていた事の何よりの証明になる。

 脅せば動きが鈍るだろうと考えたが、返った反応は想像していたものではなかった。ただ平坦に、声色も変えずに子供が聞くように何をするの? と聞いた。何故だかユウキは背筋が凍る思いをする。

 まさにプレッシャー。言い様のない重圧がミズキから発せられ、呼応するように遊んでいたアヴァランチエクシアが二体のガンプラをあっという間に両断する。

 ただ、言葉を吐くように感情を込めずに彼はつらつらと言葉を並べる。今まで自分にした事が家族に大きな迷惑を掛けてしまった。八つ当たりもしてしまった自分が許せないと静かに語る。何よりの原因は支配者気取りをするお前達が悪いんだ、と。

 

 ――そこからは圧巻の一言。

 赤く輝き始めたアヴァランチエクシアは更に高速戦闘を高めた移動で残滓すら残さぬ速さでフィールドの隅から隅まで動き回り始めた。

 トランザムだ、と誰かが呟く。バトルフィールドを縦横無尽に飛び回るアヴァランチエクシアはすれ違うとすれ違ったガンプラを斬る。一撃だけでは終わらぬとUターンして二撃、三撃と斬る感覚を短くしながら滅多斬りにする。それはエクシアが初めてトランザムを見せた時の乱舞に似ているものがあった。

 細かく切り刻むとガンプラは爆発のエフェクトを発しながらフィールドから弾き出される。まだ足りないと赤いエクシアは次のターゲットに向かってソードを振るい、次々に撃破する。

 最後に残るのはリーダー格の改造された形跡のあるウィングガンダムゼロのみ。苦し紛れにバスターライフルを撃つも、容易く最小限の動きで躱されてバスターライフルを破壊される。そこから動いた部分から斬り刻まれ、修復不能になるほど徹底的に破壊されるのであった。

 

 後に残るのは沈黙。バトルフィールドのアナウンスが虚しく響くと、ミズキはGPベースとアヴァランチエクシアのガンプラを回収して静かになった体育館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にユウキが見た瑞樹は後悔したようにベンチで顔を覆って項垂れる姿だった。先ほどまでの様子を考えると毒気を抜かれる様子だった。

 目当ての彼を見つけたユウキは近くにある自動販売機で缶を買うと項垂れる彼の側にそっと置いて注意を向かせた。ユウキに気付いた彼はベンチの傍らに置いてあったアヴァランチエクシアを邪魔にならない、ユウキに見えない場所に置き直した。

 目聡くアヴァランチエクシアを見つけたユウキは仕舞われる前に彼に問うた。

 

 

「それはガンダムエクシアかな? だがかなりのカスタマイズがされているようだ。君が作ったのかい?」

 

 

 あー、と悩んだような声を漏らす。どう説明すればいいのかと迷ったが優秀なファイターである姉を思い出し、姉と一緒に作りましたと嘘を吐いた。

 

 

「ほう。素晴らしい。エクシアの持ち味を殺さぬまま高速戦闘を可能にするように飛行ユニットを追加している」

 

 

 触っても? と許可をもらってからユウキはアヴァランチエクシアを手に取って細部を確かめるように回転させながら全体を見る。

 見れば見るほど完成された芸術品だ、とユウキは感想を抱く。エクシアの装備プランが実際に公式にあるのではないかと感じるほどの完成度。ファイターとしての腕も確かだが、ビルダーとしても腕は良いようだと瑞樹に対する好感度がグングンと上がる。

 ところで何の用ですか、と瑞樹から質問がユウキにぶつけられる。アヴァランチエクシアを堪能したユウキは爽やかな笑顔でありがとうと礼を言うと、彼に向き合う。

 

 

「すまないと思うが、先程のバトルを見せてもらった。素晴らしい腕だった」

 

 

 どうも、と素っ気なく返事をする瑞樹。知らない人間に褒められても何も嬉しくない上にあのガンプラバトルだけは自分の八つ当たりでもあった遊びとも試合とも言えない展開だったからだ。

 それを知らないユウキは純粋にファイターとしての腕を褒めちぎる。エクシアを操るあの動き、弱いファイターが相手だったとはいえ綺麗に攻撃を躱して完封した。これだけでは実力を測りかねるが、流石はヒナタの弟であると考えていた。

 

 ヒナタ・アゲハ。第五回ガンプラバトル世界選手権入賞者。順位で言えば五位であるが女性ガンダムファイターとしての名声は高く、クールな女性のイメージがあるためその筋の人間には堪らない選手。

 扱うガンプラは多種多様。中でもストライクフリーダムやνガンダムを好んで使う事があり、珍しい機体のカスタマイズをしないファイターでもある。機体自体にはカスタマイズしなくとも、武装は他機体の装備を使う事で知られるガンダムファイターというのが世間での知名度だ。

 どこかの企業のお抱えファイターになったと噂はあるが、ユウキはそれを知らない。腕が良いファイターというイメージしか。

 しかし、第六回ガンプラバトル世界選手権出場経験者としては優勝候補の一人に数えられるアゲハは注目すべきファイターでもあった。

 

 そんなアゲハの弟。直接会ってみれば普通の男子高校生のイメージが強い。静かに怒るタイプでイジメられっ子。それが抱いたユウキのイメージ。

 ファイターとしての腕はピカイチ。出場するとなれば、アゲハの弟、ファイターとしての才能を開花させたとなれば。最大の障害と表現してもいい敵となる。

 

 

「謝らせて欲しい。生徒会長という立場にありながらイジメに気付く事ができないで。不登校になった気持ちもわかる」

 

 

 そこで反論する。それは何のアピールですか、生徒会長としての仕事をしているとフリをしたいだけですか、と。

 ユウキは心配している風に聞いているが、今のミズキにとってそれは愚策であった。人間の汚い部分は捕まった母親を通して感じ取っている。同情して語る感じがどうも受け入れられずに冷たい態度を取ってしまう。

 イジメに気付かなかった? イジメを無くす為に相談する? それならば全校生徒にイジメをするなと言えばいいのにと瑞樹は言いたい。

 

 

「すまない。だがこれは本当に思っている事だ。以前に君のクラスを担当していた教師は懲戒免職にされている。卑怯な言い方だが、後は彼等を処分すれば君を妨げる者は誰もいなくなると思う」

 

 

 正直、だから? という気持ちが強い。八つ当たりをしてしまったとはいえ、自分を怒らせるとどうなるかを思い知らせた。

 ビルドファイターズの世界は良くも悪くもガンプラファイターの強さで人生が決まると言っても過言ではない。ユウキからすれば先程の生徒は雑魚に入るが、学園の中では強者の内に入る実力がある。

 それをコテンパンに叩きのめしてしまったのでスクールカーストに似た順位は一気に上へ繰り上がるだろう。そして、イジメは消える。

 高校を卒業した身でやり直すのもだが、年下に何をムキになっているのだろうかと静かに溜め息を吐く瑞樹だった。

 話すのも億劫だと考えると、アヴァランチエクシアを仕舞ってGPベースをポケットに入れた瑞樹は飲み物ありがとうございますとお礼だけはきっちりと言い、ベンチから立ち上がった。

 その場から逃げようとすればその手を誰かに掴まれる。誰かといえば一人しかいないが。

 

 

「僕でよければ力になる。僕の名前はユウキ・タツヤ、聖鳳学園の生徒会長と模型部の部長をしている。隣のクラスにいるから何かあれば話し相手になるよ」

 

 

 気が向いたら行きますと社交辞令を告げると、今度こそ瑞樹はその場から立ち去る。伸ばされたユウキの手だけが虚しく伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この反応は予想できんかった、と瑞樹は思う。

 

 ヒナタ・ミズキが所属するクラスに帰ればお通夜の雰囲気が流れているかと思えば逆の歓迎しますムードであった。

 

 

「格好良かったよ」「あのエクシアはどうやって作ったの?」「アイツ等、縮こまってるぜ」

 

 

 纏めればこうだ。あのロクデナシいじめっ子は他の生徒にも迷惑を掛けていたらしく、しかも強いから誰も口に出せなかったらしい。

 口々に話し掛けるクラスメイトを余所に、冷めた思考で彼は思う。別に金持ちのドラ息子じゃないなら集団で無視をするなり相手をしないなりで対処すればいいのに、と。

 教室の隅っこの席で小さくなっている六人は悔しそうにしている。何でも自分の思い通りになるなんてそこまで世の中は甘くないのだ。これで懲りたら普通に大人しくしているのが賢明だ、と心の中で助言した。

 

 よかったらガンプラについて教えて、と口々に言うクラスメイト。声が重なり合って喧しく思いながら瑞樹は母がぎこちなく作ってくれた昼食の弁当を食らう。

 食べながら喋るクラスメイト。口に入るのは食べ物、出てくるのは僅かな食べ物と言葉。高校生活はこんなだったなーと懐かしく思う瑞樹さん十九歳であった。

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。