ISGジェネレーション   作:京勇樹

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それは、止められた悲劇と止められなかった悲劇


刻に抗う者達10

コンペイトウ攻略戦から時は経ち

直哉達とヴァン達は再び、サイド2に来ていた

以前はサイド2に接近してきていたティターンズに対する牽制だったが、今回はサイド2駐留部隊に攻撃してくる敵の撃破

もしくは、撃退だった

何故直哉達とヴァン達かと言うと、その敵

対象のガブスレイを有する部隊と交戦した経験があるからだ

ガブスレイを有する部隊

相手は、アーネスト達だった

アーネスト達がサイド2駐留部隊のレーダー範囲外から、超長距離精密狙撃戦法を敢行し、サイド2駐留部隊に少なくない被害が出ていた

被害をこれ以上出させない為に、エゥーゴ本部は交戦経験のある直哉達とヴァン達に撃破もしくは撃退を命じたのだ

なおヴァン達の戦力は変わり、まずMS隊にダニカが加わった

ダニカの搭乗機体は頭部とバックパックを換装し、Gディフェンサーを装備したネモ。通称ネモDだ

速度はケストレルの全速力よりは若干遅いものの、ロングライフルによる長距離支援が出来るようになった

これにより、単機での戦闘が多かったヴァンが孤立せずに済む

更に、彼らの艦も変わった

サラミス級巡洋艦から、新造されたアイリッシュ級戦艦のアレイオーンになった

というよりも、アレイオーンが本来の艦だった

しかし、先に就航していた一番艦アイリッシュと二番艦ラーディッシュの運用により露呈した機銃座の死角を解消するために、機銃の増設と位置変更に手間取り、予定から大幅に遅れてしまったのだ

そして、本来の乗艦たるアレイオーンに元デルフォイのクルーが全員乗り込み、デルフォイは新たな志願者達により運用されることになった

そして、慣熟訓練を兼ねてサイド2に来ていた

しかし問題は、こちらのレーダー範囲外から撃ってくる超長距離精密狙撃をどうやって防ぐかだった

以前の部隊とて、艦船型やMS型ダミーバルーンを展開し、被弾率の低下を狙った

しかし、アーネスト達はダミーバルーンは完全に無視して的確に狙い撃ちしている

これは恐らく、強化人間のロスヴァイセが判断しているのだろう

宇宙に上がり、直哉達は二回アーネスト達の部隊と交戦している

その二回目だが、ロスヴァイセの戦い方がまるで機械みたいに正確無比だったのだ

その戦いにより、ルシアンは搭乗機体だったホワイトコーラルを失ってしまった

そこから考えられたのは、ロスヴァイセに強度の強化処置を施し、機体の生体部品と化したのではないか?

ということだった

NT研究所に居る研究員達の殆どは、被験体たる少年少女達を単なるモルモット程度にしか考えていないので、有り得ることだった

そして、デルフォイからのMSパイロットの一人

エーヴィ・アルヴァの案が採用された

それは、ダミーバルーンの中にビーム攪乱のガスを充填しておき、それをアレイオーンとキャリーベースの近くに配置し、その近辺に敢えてMS隊を集中的に配置

それにより、ロスヴァイセの感覚を誤認させるというものだった

ダミーバルーンを撃ち抜けば、ダミーバルーンの中に充填していたビーム攪乱幕のガスが周囲に放出される

もし二発目を撃ってもビームは無効化され、意味を為さない

アーネスト達は撤退するだろうが、僅かな時間が有れば、ケストレルとネモDが近づける

そうして、アーネスト達の超長距離精密狙撃の要たるMS

ザクフリッパーを撃破することが出来る

ザクフリッパーは一年戦争時にジオン軍が開発した機体で、偵察を主任務とした機体だ

驚愕すべきはその索敵範囲だ

ザクフリッパーの索敵範囲は戦艦を遥かに越えており、相手のレーダー範囲外から一方的に相手を見つけられるのだ

その根幹を為しているのが、ミノフスキー粒子逆探知装置

そして、頭部に装着されている三眼式光学カメラだ

連邦軍でも研究・開発に着手してはいるが、ジオンが開発した物には遠く及ばなかった

故に、ジオンから接収した実機を運用しデータを収集

それを基に開発しようと試みた

しかし、開発が軌道に乗る前にグリプス戦役が勃発

結果、研究・開発費用を削減し、新しい機体の開発に回された

そうして、結局は旧式機体のザクフリッパーを運用するしかなかったのだ

しかも、今となってはザクフリッパーを運用しているティターンズの部隊は数少ない

機体を破壊すれば、同じ戦法は取れない筈と判断された

そして作戦は始まり、見事に成功した

狙撃はダミーバルーンに当たり、ビーム攪乱幕が展開された

それにより、連続して放たれていたビームはアレイオーンに当たる前にその威力を失った

その直後に、ヴァンとダニカ。直哉達が素早く接近

直哉達とヴァンでアーネストとロスヴァイセを抑え、ダニカがザクフリッパーに致命傷を与えた

その後は、アーネストとロスヴァイセの二機との乱戦だった

しかも、途中からバーザム一個小隊がアーネスト達の援護を開始

狭い宙域で、約10機が入り乱れていた

 

『兄さん! 投降して! もう分かったでしょ!? ティターンズは兄さんが思っていたような部隊じゃないって!』

 

『聞く耳持たないと、言ったぁ!!』

 

『グッ!?』

 

ダニカの泣き声混じりの嘆願を、アーネストは拒否

ダニカ機を蹴飛ばした

 

『アーネスト!』

 

『ヴァン!』

 

そのアーネストを撃とうとヴァンがビームライフルを構え、アーネストを庇おうとアーネスト機の前にロスヴァイセ機が割り込んだ

その時だった

 

『やめろ……』

 

と直哉が呟き、動きが止まった

 

『直哉!?』

 

『どうした!?』

 

一夏と弾が問い掛けた

だが、直哉はある方向を見ながら

 

『やめろおおおぉぉぉぉ!!』

 

と叫んだ

その直後

漆黒だった宇宙が、まるで太陽光が直接当たったかのように明るくなり、一筋の閃光が走った

 

『なっ!?』

 

『これは!?』

 

『なんだ!?』

 

『っ!?』

 

その閃光は直哉達の近くを通り抜け、そして

サイド2のコロニー郡の一基に直撃

直径200Mの穴を穿った

それは、悪魔の兵器

コロニーレーザーの、破壊の光だった

 

「なっ……!?」

 

「なんて、ことを……」

 

その光景を見て、メンバーは言葉を失った

 

『20バンチが!?』

 

『くっそ!!』

 

ヴァンの声の直後、直哉が悪態を吐きながらHUDを叩いた

すると、キャリーベースとアレイオーンから帰還を示す信号弾が上がった

気付けば、アーネスト達の姿も無くなっている

どうやら、戦域から離脱したようだ

直哉達とヴァン達は反転しコロニーの方に向かった

例え少しでも、助けられる命があるなら助けたかったからだ

その時、キャリーベースとアレイオーンから文章で作戦が通達された

なんと、アレイオーンとキャリーベースはコロニーの港からではなく、直接穴から中に突入

ありったけのダミーバルーンを全て射出し、穴を塞ぐ

そして直哉達が外から割れて穴を塞いだダミーバルーンを、コロニー公社の修理班が修理するまで押さえるという作戦だった

コロニーに開いた穴は、約200M

大きさ的には、何とか入れるだろう

しかし、コロニーから吐き出される空気の速度はもはや音速に近い

少しでもバランスを失えば、コロニーにぶつかり、アレイオーンもキャリーベースも沈む

だが、今は一刻を争う

彼らの行動が遅くなるほど、無実の民が真空の宇宙に放り出されて死んでしまう

そんなこと、決して許されない

MS隊がコロニー近辺に戻った時、既に作戦は始まっていた

アレイオーンとキャリーベースがそれぞれ反対側の穴から突入を開始

ゆっくりと、だが確実に中に入っていく

そして中に入ると、背中合わせになるように中心部の低重力域まで上昇した

その直後に、一斉にダミーバルーンの射出を開始した

最初は勢いでそのまま外に流出していった

だが、一つのダミーバルーンがコロニーの外壁に当たり破裂

それを皮切りに次々とダミーバルーンが破裂していき、ダミーバルーンによる膜が作られた

それを確認すると、直哉達は外側から抑え始めた

力加減を誤れば、ダミーバルーンは破裂する

そうなれば、再び空気の流出が起きる

直哉達は細心の注意を払い、ダミーバルーンを抑え続けていた

細かくスラスターを吹かし、ダミーバルーンが破裂しないようにし続けていた

あとどれくらいでコロニー公社の修理班が来るかは、分からない

だが、決して辞めることは出来なかった

その時、レーダーに反応が現れた

反応はそれぞれ違う方向からで、数も違った

片方は単機だが、どうやらケストレルが向かったらしい

そしてもう片方は、反応は複数だった

 

『ちいっ! ティターンズめ!』

 

『狙ってきやがったな!?』

 

一夏と弾は悪態を吐くが、二機が離れたら破裂する可能性が高い

そう判断した直哉は

 

『俺が行く。お前ら、頼めるか?』

 

と二人に問い掛けた

すると、二人は無言で親指を立てた

それを見て、直哉はゆっくりと機体をダミーバルーンから離した

直哉が離れた分を一夏と弾がカバーし、それを確認した直哉はコロニーから離れた

ヴァンが向かった先に居たのは、アーネストだったようだ

そちらはヴァンに任せ、直哉は別の方向から来たMS隊に近づいた

見えたのは、マラサイ・ハイザック・ジムⅡという部隊だった

しかも、ジムⅡとハイザックは被弾している

直哉がビームライフルを向けると、ベースジャバーに乗って二機を支えていたマラサイのカメラアイが不規則に光だした

直哉はそれが、光信号だと気付いた

意味は、戦闘の意志は無し。通信回線を開きたし

だった

直哉は警戒しながらも、通信回線を開いた

見えたのは、男女四名だった

一人はベースジャバーに乗っているのだろう

 

『こちらは、フリーMS隊スピリッツ所属。トライアド隊隊長の神崎直哉。そちらの官姓名は?』

 

『俺は……元ティターンズのカムナ・タチバナ大尉……こちらに戦闘の意志は無い。エゥーゴに投降したい』

 

この時の直哉は、男性の名前を聞いて驚いた

カムナ・タチバナ

ティターンズに於いては、鉄の貴公子として有名なパイロットだ

 

『貴方が、かの有名な鉄の貴公子殿ですか……しかし、何があって投降を?』

 

直哉が問い掛けると、カムナ・タチバナは20バンチを見て、俯いた

それに直哉が眉をひそめていると、気の強そうな女性が

 

『20バンチには……カムナ君の……婚約者が居たの』

 

と告げた

よく聞けば、カムナは繰り返し

 

『ナギサ………ナギサ……ナギサっ……』

 

と嗚咽混じりで、一人の女性の名前を呼んでいた

それを聞いて、直哉は目を一旦閉じると

 

『そうでしたか……こちらは只今、20バンチの救助作戦を実施中です。申し訳ありませんが、貴官らを拘束、連行していく余裕はありません』

 

と告げた

すると、カムナは涙を流しながら

 

『自分等も協力したい……これで許されるとは思っていない……だが……っ』

 

と言ってきた

それを聞いて、僅かに黙考すると

 

『わかりました。ただし、武装の解除をしていただきます』

 

と言った

するとカムナ達は素直に応じて、ビームライフルやマシンガン。ビームサーベル、盾を全てパージした

直哉はそれを確認すると、彼等に速度を合わせて先導した

直哉達が戻ると、一夏と弾は僅かにカムナ達に視線を向けたが、ダミーバルーンを抑えるのに意識を戻した

コロニー公社の修理班が来たのは、救助作戦を開始してから数十分後だった

コロニー公社のボールがワイヤーでダミーバルーンを固定したのを確認すると、次に直哉達はコロニー内部に入った

幸いにも、低酸素症で動けなくなった人は少なかった

しかし、居ない訳ではない

それを直哉達は、MSで救助し母艦へと運んだ

全てが終ったのは、救助作戦が始まって二時間が経ってからだった

死者は約六百名

その中に、カムナ・タチバナの婚約者

ナギサ・フローレンスの名前があった

死者を弔い、直哉達は機体の整備を始めようとした

だがその時、悲劇は再び起きていた

すぐ近くの22バンチ

そのコロニーに、ティターンズがG3ガスを投入したのである

直哉達がそれに気付き駆け付けた時には、全てが終わっていた

直哉達が見たのは、地獄だった

22バンチコロニーは、壊滅したのだった

 


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